表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げられると、追いたくなる  作者: 蒼凰
1幕目 幼馴染と歪な愛
9/13

拾われた元令嬢と拾った暗殺者 Ⅳ

「シェファーヌ様、というのはどなたの事でしょうか。よく存じませんが、私はメークに拾われた平民です。あなた方の思っている人ではないでしょう」


狼狽えてしまったが、すぐに幼い頃に教わった、令嬢の武器『鉄の仮面』を貼りつけて笑う。


「しかし! その美しさはシェファーヌ様と同じ物!」


魔導師は食い下がり、さっきまでの強気な調子はどこかに消え去っていた。


「いえ! それにそのペンダントはメルクス様がシェファーヌ様に贈られたと言われるものではありませんか」


「闇市でたまたま購入した物です。格安で売っていたので思わず買ってしまいまして」


「しかし、これで行方不明のシェファーヌ様本人であった場合、殺してしまっては大変なことになります。出来ましたらーー」


私は暗器を手に持ちちらつかせた。


「私は平民のファーです。人違いで連れて行かれ、不敬罪などで死にたくありませんし、お断りいたします」


魔導師は誰の命を受けてメークを殺そうとしているのか分からない。どこに連れて行かれるのかも分からない以上、ついて行きたくない。

その時、落ち葉を踏む音が聞こえ、メークが相手をしていたであろう魔導師がやって来た。


「死の執行者が死にました」


死の、執行者が、死んだ?

魔導師がどこか嬉しそうな色を滲ませた声で報告していた。私を追いかけていた二人の魔導師はホッと息をつき、私を見やる。


「保護者は死にました、令嬢である貴女にはこの世界は生きづらいでしょう」


メークが死ぬなんて、有り得ない。


「でも、先鋭の魔導師八人を一気に相手し、七人を道連れにするなど、とんでもない人でした」


メークが、死んだなんて。


「で、こちらはまだ片付いていなかったのですか。刑の番人も死にましたし、保護なんて生温いことはせずにここで始末してしまいましょう」


メークは、死なない。ありえない。

私は魔導師三人の不意をついてメーク手作りの家があった方へ駆けた。燃え盛る炎の中に魔導師の服、そしてメークの愛用していた暗器があった。

メークの服も、メークの、燃えている体も。

言葉にならない慟哭が喉から発せられる。私に追いついた三人の魔導師はそんな私を憐んだ目で見ていた。


「お可哀想に。でも、貴女の居るべき場所はここではないのでしょう?」


後から来た魔導師が猫なで声で言う。私がシェファーヌかもしれない、と言われたのだろう。


ふざけるな。


「さあ、居るべき場所へお戻りになる時間です。羽は、もう十分に伸ばされたのでは」


シュ、と暗器を投げつけて魔導師を黙らせた。


「ふざけるな。私の唯一の家族を奪っておきながら、何を!」


ふつふつと怒りが沸いてくる。メークが死んだのはなぜ。こんな、不意打ちで殺そうとしたのはなぜ。


「死して、償え!」


気付けば、三人の魔導師を殺していた。感情の赴くままに暗器を振り回し、投げていて。

夜の冷気に正気を戻して、左足に力が入らないのを思い出し、その場に座り込む。

私は遂に、人を殺めてしまった。

もう、後戻りはできない。血に濡れたこの私の手は、か弱い令嬢のものではない。


魔導師達はきっと、雇い主に言われて動いていただけ。個人的に恨みなんてない。きっと。それに、家族だって居るだろう。命まで奪わずとも良かったのだ。意識を失わせる程度で良かったのだ。


私は最後に殺めた魔導師の短剣を拾い上げる。闇の様に昏い眼が空をぼんやりと眺めている。手でまぶたを下ろし、短剣の鞘に描かれた家紋を見つめる。そして、他の魔導師も同じものを持っているのを確認した。

この魔導師達の雇い主は、この家紋を持つものなのだろう。

先程、怒りを向ける先を間違えてしまった。きっと、私はこの家紋を持つものにこの怒りをぶつけるべきなのだ。


ふ、と家のあった方を見やる。

メーク、ごめんなさい。すぐに動けなくて。あの時、すぐに反応してメークと連携していたらメークは死なずに済んだ?


がらがら、と音を立てて崩れる家をただ見つめ、火が完全に消えるまで立っていた。火が消え、メークの亡骸をその場に埋めて私は森の中へ歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ