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10 深夜

 それ以来、私は西の砦で暮らすようになった。

 竜騎士団と神殿は、私の存在を秘匿し、砦に軟禁した。アスキス王を殺した罪人を野放しにするわけにはいかないし、キャシーをおとなしくさせてもらわないと困るからだ。

 私自身も、罪人として人々の視線に晒されるのは恐ろしかったので、砦の中だけで暮らすことを承諾した。もしイズナス様に知れたら、また理由もわからないまま糾弾されるのではないかと思うと、それも恐ろしかった。

 暮らし自体は、使われていない使用人の離れで寝起きできたし、西支部の四匹の竜たちの世話をして過ごせるので、文句はない。


 西の砦は広く、畑や家畜のいる区画もあり、そこから私が自分の分だけ野菜や卵を持って行くことは許可された。パンは厨房に行けばもらえるし(裏口からひっそりと、だけれど)、肉が欲しければ注文できる。

 そして魚は――


 ぼとぼとっ、と、キャシーの口から立派な川魚が二匹、落ちた。

「美味しそう、ありがと!」

 私がお礼を言うと、彼女は中庭でバサバサと翼を広げ、得意げである。


 すっかり落ち着いたキャシーは、再び空を飛ぶようになり、ニューバルと一緒に哨戒任務に当たるようになった。砦に戻ってくると、私がいるかどうか必ず確かめに来る。

 そういう時、たまにおみやげを持って帰ってくれるのだ。 


「よーし、じゃあ頑張るかー」

 キャシーを見送ってから、離れに魚を持って帰った。

 私はイトさんに教わった料理を作る。

 魚は三枚におろし、切り身は塩と香草をまぶして焼いた。アラを煮てとった出汁で、肉を少しと芋類を煮る。汁気が少なくなったら、バターを少し落として完成。バター味の、肉と芋の炒め煮だ。

 イトさんは甘辛い味付けにしていたけど、調味料が揃わないので仕方ない。

 

「イタダキマス」

 私は両手を合わせてから、食べ始めた。

「うん、なかなか美味しいぞ」

 でもやっぱり、イトさんの料理の方が美味しい。イトさんの料理が食べたい。

 少し悲しくなってしまいながらも、私は黙々と食事を続けた。



「元気にやってるか」

 ニューバルは時々、私の様子を見に来る。

 砦の裏、竜たちの暮らす谷の上でキャシーの身体を拭きながら、私は答えた。

「おかげさまでね。私のこと、世間にバレてない?」

「大丈夫だ。こっちだってバレたら困るんだから、俺たちが漏らすことなどない。神殿もな」

 彼はキャシーの首を叩いて挨拶する。

「アディリルが戻れたのは、俺とキャシーのおかげなんだぞ?」

「はい?」

「俺がキャシーに言い聞かせたんだよ。いつか、もしかしてアディリルが無罪だったとなった時、キャシーが偉くなっていたら助けになるかもしれないぞ? ってな」

「ええ? まさかそれで、キャシーは“名乗り”を上げたっていうの?」

「絶対そうだ。なぁ?」

 ニューバルはキャシーに同意を求めたけれど、彼女は後ろ足で首の後ろをかくだけだった。



 ある夜、私はふと、目を覚ました。

 しとみ戸の降りた部屋の中は真っ暗だ。闇の中、横向きに眠っていた私は、ぼーっと宙に視線を遊ばせる。

(どうして目が覚めたんだろう……)

 それに思い至った時、私は身体をこわばらせた。


 誰か、いる。部屋の中に。

 部屋の中央――私の背中の方だ。


 呼吸のペースを変えないようにしながら、気配を探る。殺気はない。そこにいる誰かは、ただ静かに私を見ているようだ。

(ああもう、私、こんなに鈍ってたか。すぐに気づかないなんて。でも、私を殺しもせず、襲いもしない……誰? 何のためにここに来た?)

 おそらく、魔法神官だろう。魔法で壁をすり抜ける彼らに、鍵は用をなさないのだ。

 まだ、その誰かは動かない。


(……あ)

 私は、気づいた。


 騎士としての腕が鈍ったから、気づかなかったのではない。

 夜にその気配がそばにあるのが、かつては当たり前だった人だからだ。


 気配が、近づいた。ベッドのそばで止まる。

 空気が動いた。何かしているようだけれど、よくわからない。神経を研ぎ澄ませていると、ようやくその動きがわかった。

 枕に散らばった私の赤毛に、触れているのだ。ゆっくり、何度も、撫でている。


 やがて、気配は遠ざかり、消えた。


 がばっ、と起き上がる。手を伸ばしてしとみ戸を少し上げると、月明かりが差し込んだ。

 ベッドには、私一人。部屋には他に、誰もいない。


 一つの寝台で肌を寄せ合っている時、彼は私の赤い髪が好きだと言って、いつも撫でていた。

 そして私も、撫でられながら眠りに落ちるのが好きだったのだ。


「……ルード」

 吐息混じりの声は重く、空気に溶けずに落ちて、地中に染み込んでいくように感じられた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今のところルードさんには嫌悪感しかわきませんが、彼には彼なりの何か理由と思いがあるのでしょうか。続き楽しみにしています。
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