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ノエルとポリー 3

 小さな小瓶を両手に持って、じっと動かないポリーちゃん。


 小瓶の中身は言わずと知れたポーションだ。

 エルミーユ様を引き離すほどの快足を見せたマールに持って来てもらって、早速ポリーちゃんに渡したんだけど……。


「ヴッ……。これ、本当に飲まなくちゃダメですか?」


 ポリーちゃんは、そんな事を言いながら口に運ぶことが出来ずにいる。涙目になっているけど、その涙の理由は傷の痛みなのか、ポーションを飲まなくてはならないからなのか。


「ポーション飲まないと、傷跡が残っちゃうかもしれないわよ」


 ポリーちゃんが飲むのを躊躇っている内に戻りついたエルミーユ様が苦笑する。


「それは分かっているんですが……」


 本当に小さな擦り傷とかなら、自然に治るのを待つのも有りだとは思う。だけど、残念ながらポリーちゃんの頬に付いた傷はそこそこに大きい。

 もし傷跡が残っちゃったら、かなり目立ってしまうと思う。


「それが最後のポーションらしいから、不味いからって吐き出しちゃダメだからね?」


 エルミーユ様の言葉にふと疑問が浮かぶ。


 つい先日、村の中を案内してもらった日にポーションについての話をした記憶がうっすらとある。

 たしか、薬師の人がポーションを定期的に届けてくれるとか何とか。

 定期的にポーションが届けられるのに、最後って言うのはどういう事なんだろう?


「あの、エルミーユ様? 最後のポーションって言うのはどういう事ですか?」

「どういうって……言葉通りの意味よ。今、ポリーの持ってるのが最後の一本で、次はまたアリシア……じゃ分かんないか、んっと、薬師が作って持って来るまでは在庫が無いって事ね」


 衝撃の事実にビックリだ。

 ゲームとかだとポーションなんて手ごろなお値段で買える消費アイテムという印象しかない。


 それに、わたしの特異魔法の検証作業の時には、血液を使うために指先をほんのちょっと切っただけの、放置しておけば、そのうち傷跡も残らずに治りそうな傷にさえポーションを貰っていた。


 正直、そんなに貴重な物だとは思ってなかった。


「一人の薬師が作れるポーションの量なんて、たかが知れてるのよ。ひと月で5本も作れれば良い方ね」

「それは、時間的にですか? それとも素材の量とか、体力とか魔力的なもので?」

「素材と魔力的な物じゃない? 私は詳しくは知らないけど、素材になる薬草を集めるのも大変だし、その薬草からポーションを作るときに魔力が必要らしいんだけど、その魔力量的にも結構な負担があるらしいわよ?」


 わたしの考えるポーションよりもずいぶんと希少な物だった。


「普通の怪我に使うポーションだけじゃなくて、毒とか病気の為のポーションなんかもあるわけでしょ? だから、今の、領に一人しか薬師が居ない状態っていうのは、父様としては何とかしたかったみたいなのよね。いずれ年だって取るわけだし」

「魔力が無い人には無理なんですよね?」

「ええ。ポーションを作る幾つかの工程で魔力が必要らしいわ」

「魔力が有れば誰でも出来るんですか?」

「そんなワケないじゃない。薬草の知識とか必要なはずよ。どこにどんな薬草が生えてるのかとか、怪我用のポーションにはどの薬草が必要かとか」

「覚える事が多そうですね……」

「まぁ、薬草やポーションの事については、アリシアだけじゃなくてレンも分かってるから、何とかなるんじゃない? あの子も一通り作れるらしいから」


 流石レンヴィーゴ様。呆れるほどの有能っぷりだ。弱点とか不得手な物とかあるのかな? 今の所、レンヴィーゴ様に出来ない事ってこの村の誰にも出来ない事って感じがするんだけど。


「えっと、そんな貴重な物を私が飲むのはマズイのでは……?」


 黙って話を聞いていたポリーちゃんが、わたし達の方を上目遣いで見ながら聞いてくる。

あいかわらず小瓶の中身はそのままだ。


「そんな事は気にしなくて良いから、さっさと飲みなさい。早く飲まないと傷跡が残る事になるかもしれないわよ!」


 エルミーユ様に強く言われて、ちょっと身体を震わせたポリーちゃん。


 ようやくポーションを飲まずに回避する事は出来ないって悟ったのか、諦めた様に大きく息を吐き出した。

 小瓶の飲み口の所から中を覗き込んで、エルミーユ様を見て、もう一度小瓶を覗き込む。

 そして覚悟を決めたのか、大きく息を吐き出してから、目を瞑って一気に小瓶を煽った。


 ポーションをゴクゴクと飲み下すと、目尻から涙が零れ落ちる。


「ウゥ……ゥ、ヴゥ」


 ポリーちゃん涙目で呻いてる。本気で不味そう。

 むしろ毒とかの方が美味しいんじゃなかろうか? とある植物の花の蜜は毒があるけど甘くて美味しいって聞いた事があるし。


 わたし達が見守る中、ポリーちゃんはせっかくのポーションを吐き出さない様にするためか口元を抑えて蹲ってしまっている。


 あれ? わたしの時と違う……。


 わたしがポーションを飲んだ時にも、確かにポーションはムチャクチャ不味かったけど、、それほど時間をおかずに口の中の不味さがスーッて感じで消えたんだよね。


 なのにポリーちゃんの場合は、まるで本物の毒物を飲んでしまったかのようにずっと口元を抑えて呻き続けている。

 見ているこっちが不安になってくるよ。


「あの、エルミーユ様? ポリーちゃんは大丈夫なんですか? わたしの時よりだいぶ辛そうなんですけど……」

「ポリーは合わない、みたいね。だけど大丈夫よ。ちょっと辛いかもしれないけど、その内、傷も痛みも綺麗に無くなるわ」


 ポーションが合わない?

 ポーションに合うとか合わないとかあるんだろうか?


 ゲームとかだと、誰が飲んでも一瞬で傷が消えて副反応とか無いのが普通だと思うんだけど、この世界だと違うのかな?


 そういえば、現実世界のインフルエンザのワクチンとかでは人によって副反応があるって聞いた事がある。

 それに悪性腫瘍、いわゆる癌に対する抗がん剤なんかも酷い副反応が出る場合がある。


 そう考えると、この世界のポーションにも何らかの副反応があっても不思議じゃ無いのかもしれない。

 むしろ、向こうの世界のワクチンとか治療薬よりも劇的な効果があるんだから、副反応も劇的になってもおかしくないよね。


 そんな事を考えて、納得しようとしたんだけど……。

 それにしてもポリーちゃんは酷い苦しみようだ。このまま見守ってるだけで本当に大丈夫なのかな? 背中とか擦ってあげた方が良い?


 これだけ辛そうなんだもん、ポリーちゃんとしてはポーションを飲みたくないって気持ちになっちゃうのも無理は無いのかもしれない。

 まぁ、飲んだ方が良いと頭では分かってるんだろうけど。


「ポリーは大丈夫か?」


 苦しむポリーちゃんの背中を擦っていると、背後からスタンリー様が心配そうに声を掛けてきた。

 さっきまで、他の大人の人たちと色々話し合いをしてたけど、それが終わって様子を見に来たみたいだ。


「ポリーは合わないみたいね」

「やっぱりか。ポリーの場合、父親もひどく苦しんでたからなぁ。ヤツは酒を飲んで誤魔化してたが……ポリーに酒を飲ませる訳にもいかんしな」


 スタンリー様は、そういって苦笑する。

 その後、聞いたところによると、ポーションで苦しむ人というのは結構な割合で居るらしい。

 わたしがポーションを飲んでも、すぐに苦しみから解放されたのは、たまたまらしい。


 ポリーちゃんの頬の傷はすっかり消えて、だけど、苦しみから解放される事が無いまま十分位経った頃、マールが「にゃ?」と小さく声を上げた。


「マール、どうかしたの?」

「馬の足音が聞こえるにゃ」


 わたしには聞こえない。

 マールの方を見てみると、耳をクルクルさせながらお屋敷の方角に視線を向けていた。


「レンじゃない?」

「レンだろうな」


 エルミーユ様とスタンリー様が、同時に反応する。流石親子、息ピッタリだ。


「レンだけじゃなく、他にも何人か来る手筈になってるからな。そいつらが着き次第、ノエルの捜索を始める」

「じゃぁ、私は子供達を連れ帰れば良いのね?」


 エルミーユ様が真剣な表情でスタンリー様に問いかけると、スタンリー様は大きく頷いた。


「ああ。俺が森に入るから、村はレンに任せる事にする。エルミーユは子供達を連れて戻ってくれ。今日はそのまま解散で良いからな」

「わかったわ。もし問題があったら、こっちで何とかしとくわね」

「頼む」


 二人の会話を聞いてて、ちょっとビックリしてしまう。

 わたしってば、エルミーユ様もノエル君探索隊に参加したいって言うと思ってた。


「……なによ?」


 表情から思考が読まれた!?

 エルミーユ様が訝し気な目でわたしを見る。


「あ、えっと~~」

「エルミーユしゃまは、ノエルの捜索隊に加わりたいってワガママ言うと思ってたにゃ」


 マールも同じことを思ってたみたい。

 だけど、そういう事は言わなくていいんだよっ! 相手は、お転婆姫なんて呼ばれてるけど、それでも一応貴族の御令嬢で偉い人なんだから!

 余計な事を言って怒らせちゃいけない人なんだよ!?


 これ以上、余計な事は言わないように、両手でマールの口をふさぐ。

 笑って誤魔化そうとしたけど、自分で分かるほど笑顔が引きつっている。


「まったく……私を何だと思ってるのよ? こういう時は、外に出るのは男の役目で、女の私は留守を預かるのが役目でしょ。それに……魔の森では私じゃ足手まといになるだけなのは分かってるんだから、捜索隊に加わりたいなんて我が儘言わないわよ」


 エルミーユ様の言葉に、わたしとマールはポカンとしてしまう。


 話を聞く限りでは、エルミーユ様は、自分の立場とか実力とかを冷静に判断してた。


 ごめんなさい。

 エルミーユ様ってわたしが思ってる以上に大人な考え方が出来る人だったんだね。

私がやっていたゲームでは、回復ポーションの相場は一番安い飲み物の3倍くらいでした。

無茶を承知で無理矢理日本円に換算すると、

一番安い飲み物が自動販売機で売ってるジュースで100円として、その3倍なので300円くらい?

そんで育成していないキャラクターのHPを50~60%くらい回復できたりします。


たった300円で、初期値とはいえHPの5割以上も回復って・・・・・・

やっぱり、日本円換算すると可笑しな事になりますね。300円でこれだけ回復したら、お医者様が泣きます。

アロエ以上に医者いらずです。


なので、この世界では、ポーションはお高い設定になっております (*‘ω‘ *)

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