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ノエルとポリー 1

 ジャッカロープ。通称、角ウサギ。

 この世界の森や草原に生息する魔物の一種で、普通のウサギのような姿をしているが、その長い耳と耳の間に鹿のような枝角が生えている。


 その枝角はカタカナの「イ」のような形をしていて、先端も鋭く尖っているわけじゃ無い。

 それでも、ガムシャラに身を捩ったことで、幼い女の子の肌に傷を付けるくらいの事は出来てしまった。


 ノエル君を抱きしめていたポリーちゃんの真っ白な頬から真っ赤な鮮血が迸る。


 痛みと驚きで抱きしめていた力が解かれたのか、小さな叫び声と共にノエル君の身体が解放された。


 突然の出来事に、その場の空気が固まってしまったような錯覚。


 鮮血が流れ落ちる頬に手を当てて蹲ってしまうポリーちゃんと、その様子を驚きの表情で見つめるノエル君。


 わたしも、何が起こってしまったのか把握できずに立ち尽くす事しか出来なかった。


「ポリー! 大丈夫か!?」


 最初に動いたのは、スタンリー様だった。

 すぐさまポリーちゃんに駆け寄ろうと走ってくる。


 スタンリー様は、さすがは大人で傭兵だった事もある。怪我なんかにも慣れていて再起動が早いのかもしれない。

 スタンリー様の声で、わたしも慌ててポリーちゃんの身体を抱え起こす。反応はスタンリー様の方が早かったけど、距離的にはわたしの方が近い場所に居たからね。


「ポリーちゃん! しっかり! 大丈夫!?」


 そう声を掛けると、涙を浮かべたポリーちゃんがチカラのない笑みを浮かべた。


「大丈夫です、ちょっとビックリしちゃっただけで……」


 ポリーちゃんはそう答えるけど、小さな手で覆っている傷は、頬から下あごにかけてパックリと開いてて、元の世界だったら手術で縫わなくちゃならないレベルの傷に見えた。


「父様! ポーションは!?」

「屋敷だ! すぐに取りに行ってくれ!」

「もう! なんで持ってきてないのよ!」


 そう文句を言いつつも、お屋敷に向かって走り出すのはエルミーユ様。ポーションを取りに行くつもりみたいだ。

 この状態のポリーちゃんを運ぶよりも、自分が走ってポーションを持ってきた方が早いって判断したのかもしれない。


「マール! エルミーユ様と一緒に走って! マールが本気で走れば、エルミーユ様よりも早く戻ってこれるはず!」

「わ、わかったにゃ!」


 マールだけだと、レンヴィーゴ様やシャルロット様に事情を説明するのに時間が掛かっちゃうかもしれない。

 なので、エルミーユ様と一緒に走って、事情を説明して貰って、ポーションを受け取ったらマールが全力で走って戻ってくる方が早い筈だ。


 わたしの意図を汲み取ってくれたエルミーユ様が、マールに「急ぐわよ!」と声を掛け、マールが「はいにゃっ」と答えて付いて行く。


 正直、ポリーちゃんの怪我は、今すぐに命にかかわるような怪我では無い事は分かっている。

 頭を打った様子は無かったし、眼球や首筋なんかは傷ついてるように見えない。


 だけど、不慮の事故なので後々どうなるかは分からない。もしかしたら、傷跡が残っちゃうなんて事があるかもしれない。

 そう考えれば、出来るだけ早くポーションによる治療をした方が良いに決まっている。少なくとも、遅くなるよりは早い方が良いはずだ。


「ルミフィーナ様……。ノエルは大丈夫ですか? 怪我してないですか……?」


 猛烈な勢いで走っていくエルミーユ様とマールの背中を見送っていると、ポリーちゃんがわたしの腕の中で絞り出すように問いかけてきた。

 命に関わらないとはいえ、痛みが無いはずがない。

 自分だって額に汗を浮かべて痛みを我慢している状態だろうに、ノエル君の事を気にするんだね。


 言われて周りを見回すと、ノエル君は少し離れたところで小さく体を震わせながら涙目でこちらを見つめていた。

 パッと見た感じでは、どこかから血が出ているとかも無いし、痛がっている様子も無いね。


「ノエル君なら、そこに居るよ。大丈夫、怪我はしてないみたい」

「そうですか……。ノエルが怪我してないなら良かったです」


 そういって、安心したように笑みを浮かべるポリーちゃんだけど、やっぱり痛みを堪えているのか見てるこっちが痛々しさを感じてしまう。


 そんなわたし達をスタンリー様が上から覗き込む。


「ほら、あまり喋るな。傷口が余計に開くぞ。すぐにポーションが届くだろうから、それまでもうちょっと我慢するんだ」

「はい。スタンリー様。もうしわけありませっ……ん」


 ポリーちゃん、反射的に返事をしようとして頬の切れた部分に負荷が掛ったのか、言葉が途切れた。


 せっかく喋らない方が良いって言われてるのに。こういう所が素直なポリーちゃんっぽいね。

 そんな事を考えて思わず苦笑してしまう。


「あ……あぅ、ご、ごめ……ごめんなさ……」


 ふとそんな小さな声が聞こえて振り返ると、二つの瞳に一杯の涙を浮かべたノエル君が

ガクガクと震えながら、少しずつ後退っていく姿があった。


 自分の枝角で飼い主であるポリーちゃんを傷つけてしまった事にショックを受けちゃってるっぽい。


 ヤバイかも……。

 そう思った時には、もう遅かった。


 ノエル君は、そのまま後退り続け途中で反転すると、その場から逃げるように走り出す。

 否。逃げるようにじゃない。そのものズバリ、逃げ出したんだと思う。


「ノエル君!」


 慌てて声を掛ける。

 耳が良い筈のノエル君に届いていないはずが無い。

 だけど、ノエル君は立ち止まる事も、振り返る事も無く訓練場から姿を消した。


今回、今まで以上に短いです。


ジャッカロープというのは米国のUMAですが、欧州にもレプス・コルヌトゥスという枝角の生えたウサギ型UMAが居たりします。

中世ヨーロッパ”風”の異世界なのに、なんで米国のUMAから名前を取ったかと言えば・・・

レプス・コルヌトゥスって名前が憶えづらいし、タイピングしづらいから。

ここでレプス・コルヌトゥスって名前を書いてますが、多分、一晩寝たら忘れちゃいます (*‘ω‘ *)

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