訓練 7
戦闘訓練を始める前に、今現在の実力やら身体能力やら気質やらを確認するために模擬戦が行われる事になった。
スタンリー様が自ら練習用の木製の剣を持って、戦闘訓練に参加する子供たちと手合わせをするというのだ。
もちろんわたしとポリーちゃんは付き添いの見学組。訓練場の端っこの方からマールやノエル君、子供達に声援を送る係だ。
今日の訓練に参加しているのはポリーちゃんと同じくらいの10歳前後の男の子が五人、その五人にプラスしてマールとノエル君。
子供達はスタンリー様が持っている木剣よりもかなり短い木剣で戦うみたい。
この世界では、10歳くらいになると仕事を始めるのが普通だ。当然、子供達の中には兵士になる事を目指す子も居る。
そういう子供達が、最初から大人用の大きなサイズの剣なんて振れる訳が無いから、新人の子供用として用意されてる剣なんだと思う。成長するにつれて大人用の武器に変えていくんだろうね。
子供達がそれぞれ剣を片手に、順番にスタンリー様に向かって行って、軽くあしらわれて、それでもガムシャラに木製の剣を振り回しながら突撃を繰り返している。
なにしろスタンリー様は傭兵団で団長を務めたような人らしいからね。
10歳くらいのまだ体も出来上がって無い子供を相手に模擬戦なんて、きっと遊んであげてる様なものなんだろう。
その証拠に、子供達は必死の形相で剣を振っているけど、スタンリー様の方は余裕の顔つきで、一切攻撃してないんだよ。
それでも子供達は一人、二人と撃沈されていく。撃沈っていうより燃料切れって感じかな。
五人目の子供が息も絶え絶えに木剣を構える事も出来なくなったところで、いよいよマールの番が回ってきた。
「次はマールの番にゃ!」
皆が見守る中、中央に進むマール。その手には他の子供たちが持っていたのと同じ練習用の木剣がある。
だけど、どう見てもサイズが合ってない。
この世界の子供たちは、10歳前後で既にわたしとほぼ同じくらいの身長だったりする。
わたしと同じくらいの身長という事は、身長が50センチくらいしかないマールの約三倍という事だ。
そんな子供達が練習用として使っている木剣。その長さはマールの背丈より長い。
そんなの、マールの身体には大きすぎるよ!
マールの小さな手でも辛うじて持ち上げる事は出来るみたいだけど、片手だと無理みたいで、両手で持ってるし。
進み出てきたマールを頭のてっぺんから足の先まで見て、スタンリー様がつぶやく様に一言。
「……武器がデカすぎて身体に合ってないな」
いや、それって改めて見るまでも無く分かってた事ですよね!?
「だ、だいじょうぶ、にゃ~」
両手で引きずるようにしていた木剣を剣道でいう中段に構えようとするマール。
歯を食いしばって、全身がプルプル震えてて、まるで校旗を掲げる応援団の旗手のようだ。
「いや、全然大丈夫じゃないだろ。何か別の武器にした方が良いな。マールの体格に合うような武器となると……ナイフ位なら使えるか?」
「にゃー! ナイフなんて小っちゃ過ぎて戦えないし、だいいちカッコ悪いにゃ!」
「だが、その体格で普通の武器じゃ戦う事以前に振り回すことも出来んだろう? 本物の武器は木剣よりももっと重いんだぞ?」
まぁ、木製と金属製だったら普通に考えれば金属製の方が重いよね。
武器としては重さは重要な要素の一つなんだろうね。アニメとかだと100トン位ありそうなハンマーとかも見た事あるし。
でも、重い方が良いからって自分で思うように振り回せないくらい重いっていうのは、武器として本末転倒の様な気がする。
わたしなんかは合理主義的な所があるから、敵を倒せるなら何でも良いじゃんって思っちゃうんだけど、マールは大きな剣を振り回して、バッタバッタと敵を切り倒していくのがカッコ良いって思っちゃってるんだよね。
日本に居た頃、やけに静かにしてるなぁって思ってたら、真剣な表情でアニメを見てたりしたマール。
アニメの中の登場人物は、自分の身長よりも大きな剣を振り回してたりもしたから、そういうのがカッコイイって刷り込まれちゃってるのかも……。
時代劇とか見てたら、カタナとかがカッコイイって思うようになってたのかな。
残念ながら、時代劇なんてほとんど放送されて無かったから視聴する機会なんてほとんど無かっただろうけど。
わたしは、木剣を構えようと奮闘しているマールを横目に見ながら、スタンリー様に近づいた。
「あの、スタンリー様?」
「む? なんだ?」
「とりあえず本人が納得するまでは、あのままやらせてあげて欲しいんですけど……ダメですか?」
「あまりお勧めは出来んな。身の丈に合わん武器ってのは、それだけで身体を壊す事もある。あれだけ身体に合ってない剣で無理矢理に稽古したら、肩だの肘だの手首だのを痛めるぞ」
言われてみれば、その通りだ。
持ち上げるのさえ苦労しているような武器で稽古なんてしたら、体のあちこちが大きな負担を受けて、ちょっとずつダメージを蓄積してしまう気がする。
そして、そういう怪我はパッと見では分からないので、少しくらいの痛みなら我慢しちゃって、いずれ取り返しのつかない事に繋がる事もあるって聞いた事がある。
マールの身体の事を考えれば諦めさせたほうが良いとは思う。
だけど、マールの気持ちを考えると、自分で納得いくまでやらせてあげたいとも思っちゃうんだよね。
わたし達がそんな話をしている間にも、マールは一生懸命に木剣を構えようと奮闘している。
「魔法で何とかなったりしませんか?」
「魔法、か。もちろん魔法で筋力を上げるなんて事も出来ると言えば出来るんだが……」
スタンリー様は、あんまりお気に召さない様子。
話を聞いてみると、体内魔法という魔法の括りに身体能力を向上させる魔法があるらしい。
視力や聴力を上げて遠く離れた物を見たり聞いたり、俊敏性を上げたり、皮膚の防刃性を上げたり。
そういうのが体内魔法って言われる魔法で、その中に、筋力を上げる魔法もあるっぽい。
「ただなぁ……、魔法で筋力を上げる事を前提にしちまうと、いざ魔力が尽きた時に何にも出来なくなっちまうって事になるだろう? マールは普通の奴らよりは魔力があるようだが、だからと言って無尽蔵って訳でもあるまい?」
魔力が無尽蔵なのは、わたしだね。
宝の持ち腐れというか何というか、魔力量だけは人並み外れてるっぽいんだよね。
他の人が魔法を使ってるのなんて、レンヴィーゴ様がお手本に魔法を発動してくれた時しか見たことが無いから、実感わかないけど。
「だいたい、デカい武器なんて持ち運びは不便だし、狭い所じゃ振り回すのも難しいし、金は掛かるし……俺もこんなデカい図体してて戦争にでも行くならデカい武器を使うが、普段は手ごろな武器しか使わんぞ?」
スタンリー様は大きいからね。
身長190は確実にある。おまけに横にも大きい。お相撲さんかプロレスラーかって感じだ。スタンリー様の二の腕はわたしの太ももくらいの太さがあるんじゃない?
そんなスタンリー様くらい大きければ、大きい武器も似合うんだろうね。
わたしから見てもかなり大きなスタンリー様は、マールから見たら、巨人の様に見えるんじゃなかろうか。
そこで、ふと思いつく。
「ねえ、マール?」
「な、……んです、にゃ??」
「マールって小さいじゃない?」
「ふにゃぁ……」
寂しそうな顔のマール。まぁ、事実だからしょうがない。
「小さいマールと大きなスタンリー様でさ、もしコボルトと戦うとするじゃない?」
「コボルトごとき、俺なら楽勝だな」
スタンリー様、余計な事は言わないで欲しい……。
「スタンリー様は体が大きいから、コボルトに勝っても当たり前って思わない?」
スタンリー様をジト目で牽制しつつ、話を続ける。
「マールだってスタンリー様くらいに大きかったらラクショーにゃ!」
「うんうん、そうだね。だけどさ、小さいマールがマールより大きなコボルトに勝ったら凄くない?」
「にゃ~?」
「なんだあの猫は! 小さいのに強いぞ! って周りの人に言われるような気がしない?」
わたしの言葉を聞いて、何かを妄想しはじめるマール。
きっと頭の中で、何人もの人に囲まれてチヤホヤされてる自分を想像してるんじゃないかって顔をしている。ちょっとだらしないよ……。
「それでさ、小さな体のマールが強くて大きい武器を持ってるより、小さくて弱そうな武器の方が……あんな小さな武器で敵を倒したぞ! 凄いぞ! ってならないかな?」
「……」
効いてる効いてる。
マールってば、ムッチャニヨニヨしながら何かを妄想してる。
「あー。言われてみれば確かになぁ。デカい武器だと、良い武器を使ってるんだから強くて当たり前だなんて言うやつも居るだろうなぁ~」
おぉ! スタンリー様、ナイスアシスト!
スタンリー様の言葉を聞いたマールは、さっきまで一生懸命振り回そうとしていた木剣をジッと見つめて何かを考えこんでいる。
マールの気持ちが切り替わるまで、残り3秒。
……チョロい。
マールの精神年齢は幼稚園の年長さんとか小学一年生とか二年生とか
その辺を狙ってるつもりなんですが……
私自身が小学1年生だったのってもうウン十年も前の事なので
どんな感じだったか全く覚えて無かったりします。
……たしか、末は博士か大臣かって言われてたような? ウッ 頭が……(>_<)
あ、あと週末の時間のある時に、サブタイトル変更しちゃうかもしれません (*‘ω‘ *)
20211123 サブタイトル変更しました <(_ _)>




