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訓練 6

 何故か訓練場に向かってテクテクと歩いているわたし達。

 先頭をスタンリー様とエルミーユ様、そしてマールとノエル君が歩き、その後ろに10歳前後くらいの男の子が5人。

 最後尾をわたしとポリーちゃんという形だ。




 わたし達がなぜ訓練場に戻っているのかと言えば、もちろん戦闘訓練を行うためだ。

 今回の避難訓練に参加した子供達は、有事の際には神殿に避難する事になる。そのため、一度は神殿まで走らせることで、子供達に慣れさせるというのが狙いだったんだそうな。


「ポリーちゃんは戦闘訓練に参加するの?」


 隣を歩くポリーちゃんに聞いてみる。

 正直、ポリーちゃんが剣とか槍とかを振り回してる姿はイメージできないんだよね。

 わたしよりは体力があるみたいだけど、それでもポリーちゃんは部屋の中で静かに本を読んでたり刺繍をしてたりするのが似合いそうなタイプだ。


「えっと、マール君が戦闘訓練に参加するって話を聞いたノエルが、自分も参加したいって言ってまして……」

「あ~。わたしと同じで付き添いって感じ?」

「そうですね。私は戦闘訓練なんて参加するつもりは無いです」


 ノエル君は、マールが参加するから自分も参加したいって感じなのかな。


 でもノエル君ってどうやって戦うんだろうね?

 魔物の一種、角ウサギことジャッカロープであるノエル君。

 角があって人の言葉を理解して喋ることが出来るとは言え、基本的な体の作りはウサギそのものだ。

 頭に生えてる角だって、別に鋭く尖ってるわけじゃ無い。


 当然、人間用の武器とか防具とかは装備できないから、結局は肉弾戦って事になるのかな?


 そんな話をしているわたし達の前方では、子供達がマールとノエルに興味津々って感じでソワソワしている。

 でも、彼らがちょっかいをかける事は無い。なぜなら、スタンリー様からキツく言い渡されてるから。

 もしマールやノエル君、それにわたしとかに悪戯したり余計な手だしをしたりすれば、領主様がかなり重い処罰を科すって宣言しちゃったからね。

 あと、領外の人間に口外する事も禁じられてるらしい。


 わたしはエルミーユ様とお喋りしてたから聞いてなかったけど……。


 人の話はちゃんと聞いてなきゃダメだねって一人反省していると、一人だけマールにもノエル君にも興味を示さず、後ろばかり気にしている男の子が居る事に気が付いた。


 様子を見ていると、チラチラとポリーちゃんの事を見ては他の男の子達とは違うソワソワっぷり。

 マールやノエル君よりも、ポリーちゃんに興味津々とは……。ムフフ。オマセさんだねぇ。

 残念ながら、ポリーちゃんは全く気が付いてないみたいだけど。


 まぁ、彼にとっての初恋の相手は間違いなくポリーちゃんって事になるんだろう。

 実るかどうかは分かんないけど、お姉さんは応援……は出来ないかな。

 うん。ポリーちゃんはわたしの嫁だし。


 そんなくだらない事を考えながら、ゆっくりテクテクと歩く。


 行ったり来たりでもう疲れたよ。でも、他の子たちは、大人しそうなポリーちゃんや運動不足だったはずのノエル君を含め、あんまり疲れた様子が無い。

 わたしからすれば、「異世界人の体力ハンパないな!」って言いたいところだけど、冷静に思い返してみると、日本に居た頃のクラスメートたちでも運動部だった子たちはわたしの倍くらいの体力があるんじゃないかと感じてたなぁ。


 つまりは、わたしの体力が極端に低いだけっぽい。

 わたし、この世界で生活していけるのかしら……。


 このままじゃマズイ気がする。だけど、だからと言って体を鍛えようとも思えないんだよね。体力付けるために運動する時間があるなら、ぬいぐるみ作りの時間にしたいくらいだし。

 

 なので、時間を無駄にしない為にも、なんとか魔法で体力の無さを補えないかな?

 空を飛ぶ魔法とか、体力強化魔法とか、なんなら一瞬で遠く離れた場所へ瞬間移動できるような魔法を編み出すなんてのも良いかもしれない。

 もしそれが出来れば、そこからの派生技術でいつか日本に戻れるかもしれないし!


 そんな感じで現実逃避をしながら、みんなからの心配そうな視線を受けつつ歩き続けるとようやく訓練場に戻る事が出来た。


 もちろん、訓練場の敷地に入った途端に地面に座り込む。


「ルミ様、大丈夫ですか?」

「あー。うん、今度は走ったわけじゃ無いからね。何とか大丈夫だよ」


 ポリーちゃんとそんな話をしていると、スタンリー様とエルミーユ様、マールやノエル君がわたしの方に歩いて来るのが見えた。


「あー、大丈夫……なのか?」

「ルミの場合は戦闘訓練より先に、体力作りから始めないとダメね」

「え? 戦闘訓練って、わたしは戦闘訓練には参加するつもりは……」

「何言ってるのよ? ルミは魔法が使えるんだから、それだけで何かあったら戦いの場に出る事が期待されるのよ?」


 何それ聞いてないよ!


 エルミーユ様の話によると、どうやらある程度以上に魔力を持っていると、魔物の襲来やら他国との戦争の時には駆り出される事があるらしい。

 魔力があり魔法を使えるっていう事は、それだけ強力なんだそうな。


 確かに、わたしが知っている数少ない魔法である『魔力矢』だけを見ても、イメージとしてはピストルみたいな感じだった。

 鎧に剣と盾っていうスタイルで戦う人と、ピストルを持ってる人でどっちが有利か聞かれれば、わたしでもピストルを持ってる人って答える。

 その有利なはずのピストルを持っているわたしが戦闘に参加しないのは、周りから白い目で見られる事になるそうだ。


 そこに男とか女とかは関係ないっぽい。年齢は考慮されるっぽいけど。


「えっと、それって後方支援とかじゃダメなんですか?」

「後方支援って、魔力を使って何をするのよ?」

「えっと、例えばですけど戦場で怪我をした人の為の医療班とか?」

「そんなの、魔力なんて無くたってできるじゃない」


「え?」

「え?」


 なんだか話が噛みあって無い様な気がする。


 魔力が無くても医療班ができる?

 それって、裏を返せば治療に魔力は必要ないって事だ。

 つまり、この世界にはゲームやらアニメやらでお馴染みの回復魔法とか治癒魔法とか呼ばれるものが存在して無いって事?


「……えっと、それじゃ戦場とかで誰かが負傷したらどうするんですか?」

「そんなのポーション飲ませれば良いじゃない」

「あ、なるほど……」


 確かにポーションを飲ませるだけなら、魔力が有ろうが無かろうが関係ない。

 怪我を治せるのだから、あの不味いポーションを飲むのだって我慢できるだろう。それに治癒魔法の使い手には無いポーションならではのメリットだってある。


「じゃぁ、わたしポーションを作る人になるって事でどうでしょう?」


 わたしは、つい思い付いた事を口に出してしまった。

 それに喰いついてきたのは、黙って話を聞いていたスタンリー様だ。


「それは良いな。今、ウチの領でポーション作りを一手に引き受けてもらっている薬師の後継者が居なくて、どうしようかと前々から考えていたんだ」


 お? スタンリー様には好感触で受け入れて貰えそう。

 ……そう思っていたら。


「でも、ポーション作ってる薬師だって何かあったら戦場に出るし、ポーション作りにだって体力は必要よ?」


 エルミーユ様に一刀両断された。ぎゃふん。


 その後も話は続き、結局、戦闘訓練はわたしがある程度以上の体力を付けるまでは見送られる事にはなった。

 そして後日、薬師のアリシアさんという人の所に紹介してくれるらしい。


 だけど、これからエルミーユ様と体力づくりのトレーニングをする事にもなっちゃったよ。トホホ。


「話は終わったにゃ? マールは早く戦闘訓練したいにゃ!」


 話が終わるのを見計らっていた|空気を読める猫≪マール≫がワクワクした目で言った。会話が途切れるまで我慢してたらしい。


「そうだな。それじゃ最初は難しい事は抜きにして、今のマールがどれくらい出来るのか確かめてみるか」


 同じようにワクワクした目で答えるスタンリー様。

 わたしには期待できないから、マールに期待しているのかもしれないけど……。

 マールだって、日本に居た頃から今までの間、まともに喧嘩した事さえ無いよ?



10歳くらいだと小学校4年生くらいですかね?

作中でルミは10歳前後と思っていますが、実際には9歳の設定です。

ちなみにポリーちゃんも9歳の設定。

あと2年か3年で、ルミは身長が抜かれる運命だったりします。


20211123 サブタイトル変更しました <(_ _)>

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