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訓練 5

 軽やかな足取りで先頭を走るエルミーユ様。ポニーテールに結ばれた栗色の長い髪が、背中のあたりで左右に揺れている。


 時折、後ろを走る子供達の様子を確認しながら、更に、物陰からの襲撃に備えて、警戒している素振りまでしながら走る姿は、現役トップアスリートが軽いジョグでもしているかのようだ。


 そのエルミーユ様のすぐ後ろを走っているのがマールとノエル君、そしてポリーちゃん。

 マールは純粋に身体を動かすのが好きみたいだし、ノエル君はお屋敷の外ってだけで楽しいみたい。

 そんな二人と一緒に走れるポリーちゃんも楽しそうで何よりだ。


 一方、わたし。

 最後尾をゼーハー言いながら、なんとかついて行ってるという状態だ。

 あまりの脆弱っぷりに、最初はマールやノエル君の事を見てキャッキャと騒いでいた子供達も、今では心配そうな顔でチラチラとわたしの動きを確認してたりする。


 そんなに心配そうな顔で見ないで!

 体の調子が悪いとかじゃないから! これが、いつものわたしだから!


 そんな事を考えながら、それでもゼーハー言いながら走っていると、前の方を走っていたはずのマールが、速度を緩めてバック走をしながら下がってきた。


「ルミしゃま~、頑張るにゃ~」


 猫だった頃のマールはバック走どころか、二足歩行だってまともにした事が無いのに。

 たった二、三週間くらいでわたしより速く走れるっておかしくない?


 でも実は、それは分かってた事なんだけど。

 なにしろ、レンヴィーゴ様からの許可を貰ってからというもの、いつもノエル君と一緒にスペンサー家のお屋敷の中を走り回っていた。

 その動きは街中を走ったり飛んだり昇ったりするパルクールの|実践者≪トレイサー≫みたいだったからね。

 身長が3倍近く高いとはいえ、運動が苦手なわたしが彼らに勝てるわけが無いのだ。


「もう、ダメ、かも……」

「にゃー……」


 わたしの返事に困ったような顔をするマール。

 そんなわたし達の会話に割り込んできたのは、何故か一緒に走っているスタンリー様だ。

 最後尾を走って、子供が怪我や病気になった時の為に備えているつもりらしい。最後尾ってわたしの事なんだけど。


「オイオイ……。いくら何でも体力無さすぎじゃないか? 流石に心配になってくるぞ? 大丈夫か?」

「だ、だいじょ……うぶ、です……」


 そんな、今にも死にそうな返事しかできないわたし。

 酸素! 酸素が足りない!


「ちっとも大丈夫そうに見えんが。まぁ、もう少しで避難場所だ。あとちょっと頑張れ」


 そう言ってガハハと笑うスタンリー様は余裕たっぷりだ。走るのが得意なタイプには見えないのに。


 スタンリー様のいう「もう少し」、わたしの感覚では文明の利器である自転車を使いたくなるような距離を走ると神殿はあった。


 神殿とはいっても、荘厳な雰囲気の巨大施設って訳じゃない。

 石造りではあるけど簡素な造りで、知らなかったら神殿とは思わないような建物だ。当然、装飾の類はほとんど無くて、目立つところに神様を表すシンボルが掲げられている程度。

 ギリシャの観光名所になっているパルテノン神殿とかをイメージしてるとガッカリしちゃうくらい何の変哲もない、むしろ倉庫か何かに見えちゃて目の前を通っても素通りしちゃいそうなレベルだ。


 そんなゴール地点である神殿の前庭には、数人の女性が立っていた。

 たぶん、今回参加した子供たちのお母さん達だ。避難訓練で無事に走りおえた子供達を笑顔で迎えて、それぞれに飲み物の入ったコップを手渡していた。


 当然の様にビリで到着したわたしや、伴走状態だったスタンリー様にも笑顔で飲み物の入ったコップを渡してくれる。


「あらあら。あんた見ない顔だね? 大丈夫かい?」

「この子はルミよ。ウチで預かってる子なの。……ずっと家の中に籠ってるから体力が全然ないのよ」


 主婦さんの問いに、ちょっと呆れたような表情で答えるのはエルミーユ様。

 わたしがゴールしたのを見て、マールやポリーちゃん、ノエル君と一緒に出迎えてくれたっぽい。


「ずっと家の中に? どこのお嬢様だい? あたいの知ってるどこかのお転婆令嬢よりよっぽどお貴族様みたいじゃないかい?」

「そのお転婆令嬢って誰の事よ?」


 たぶん、貴女の事だと思いますよ。

 エルミーユ様はちょっと怒ったような振りをして見せるけど、表情は全く怒っているようには見えないね。

 相手の主婦さんともども笑っているよ。


「それにしても、ホントだらしないわね~。マール君は余裕で走り切ったのに」


 そうなのだ。マールは余裕で走り切っていたのだ。

 もともと猫であるマールは、瞬発力的なモノには優れていても、持久力的なモノはわたしと同レベルだと思っていたのに。

 これも、何でも食べられる内臓と同じように、ヒトの持久力的な物が備わった結果なのか。そしてノエル君とお屋敷の中を走り回っていたので鍛えられたって事だろうか。


 後でもうちょっと詳しく調べて、レンヴィーゴ様と考察してみるのも良いかもしれない。


「さて。参加した子供たちは全員揃っているな?」


 わたしと違い、うっすらと汗をかいてるだけのスタンリー様が、飲み干したコップを主婦さんに返しながら話しかける。


「ええ、ええ。子供達はみんな到着しましたよ。あたい達が数えたんで間違いありません。このお嬢ちゃんと猫の子と角ウサギの分も足して確かめてあるので大丈夫です」

「うむ。それではこの後の戦闘訓練に参加する子供以外は解散だ」


 それって、マールは参加したいみたいだけど……。

 わたしは参加しなくても問題ないよね?

 マールだけを置いていくわけにはいかないから、付き添いで見学くらいはするけどさ。

私も走るのは苦手です。

子供の頃は運動会のリレー選手に選ばれるくらいには速かったんですけどね~ (´・ω・`)


20211123 サブタイトル変更しました <(_ _)>

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