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訓練 3

 翌日。

 太陽が出る前の薄暗い時間帯に、ギーンゲン中に鐘の音が鳴り響いた。カーンカーンカーンカーンカーンと続けて5回。それが1セットで少しの間を空けて何回も。

 事前に知らされていた通り、今回の訓練の為に決められた鳴らし方だ。


 これで、この日の訓練に参加する人だけが集まる事になってるらしい。もし本当に緊急事態が起こってしまった場合に備えて、鳴らす回数が変えてあるんだって。


「ルミしゃま! 合図の鐘が鳴ってるにゃ。早く訓練に行くにゃ~!」


 声のした方を見ると、ワクワク顔でお目々パッチリのマール。

 いままで、わたしより先に起きた事なんて無くて、朝になって起こそうとするとムニャムニャ言いながら深く布団を被っちゃうくらいだったのに。


 まだ少しボーっとしたままの頭でそんな事を考えていると、部屋の外で廊下を走る音が聞こえてきた。

 足音はわたしの部屋の前で止まったかと思うと、その瞬間には勢いよく扉が開かれる。


「おはよう! ルミ! マール! 合図の鐘は鳴ったわ! 早く訓練に行くわよ!」


 実は、マールとエルミーユ様って同レベルなんだろうか。


「って、ルミってば、まだ着替えてないの!? 今回は訓練だけど、ホントの緊急事態の鐘だったら、その恰好のままで外に出る事になるのよ!?」


 そういうエルミーユ様はすでに着替え終わっている。着替え終わっていると言っても、普段寝る時に着ているネグリジェにズボンというスタイル。左手には細身の剣の様なものを持っているだけだ。


 さすが、お転婆姫。無茶苦茶似合ってるよ。


 訓練初日に行われるわたし達の訓練というのは、避難がメインだ。いつも通りの生活をしている時に緊急事態が起こってしまったらという設定で行われる。

 なので、まずは逃げる事だけを考えて、それでいて動きやすい服装という事でのネグリジェにズボンっていうスタイルだ。

 女性や子供、お年寄りなどは、戦う事ではなく、まずは安全な場所まで逃げるという事を優先しているらしい。


「ルミしゃまも早くズボンはくにゃ~」


 そういってマールがわたし用のズボンを押し付けてくる。

 わたしだって、やる気が無い訳じゃない。ちょっと朝が苦手で寝ぼけちゃってただけだよ。


 みんなを待たせないように、慌ててベッドから降りてズボンを穿く。


 わたしが着替え終えると同時に三人で部屋を出て廊下を進み階段を降りると、玄関ではわたしと同じような恰好をしたポリーちゃんと、いつも通りのノエル君が待っていた。


「おはようございます」

「おはよ」


 そういって頭を下げるポリーちゃんとノエル君。

 それを遮るのはエルミーユ様。


「挨拶は良いわ。それより早く行きましょう。ルミとマール君は場所は分かるわよね?」

「えっと、たぶん?」

「わからないにゃー」


 昨日、ちらっと聞いた限りだと、以前にレンヴィーゴ様に連れて行ってもらって、魔法の練習をした場所の事だった。

 正直、一度連れて行ってもらった事があるだけの場所なので、自信はないかな。

 マールは、覚える気があったのかどうかさえ怪しい。そもそも、あの時起きてたっけ?


「うん。それじゃ、今回でしっかり覚えてね。本番だと、ある程度の人数で固まって周囲を警戒しながら、あと取り残されてる人が居ないかを確認しながら進む事になるわ。今回は訓練だから避難場所も訓練場だし、誰が参加者か分からないから取り残されてる人の確認は省くけどね」


 エルミーユ様が言うように、今回はあくまでも訓練なので、避難場所は訓練場に設定されている。

 だけど実際には、ギーンゲン唯一の石造りの建物である神殿に逃げ込む事になるそうだ。


「それじゃ、出発するわよ!」


 エルミーユ様が自分で玄関の扉を大きく開け広げると一度周囲を観察するように見回してから飛び出す。

 その後にわたしとマール、最期にポリーちゃんとノエル君が扉を抜ける。


 二歩、三歩と進んでからもう一度周囲を見回すエルミーユ様。それに従って、わたし達も周囲を見回してみる。

 遠くで、何人かの子供たちが、はしゃぎながら走っているのが見えた。


「みんな、ちゃんと避難場所に向かってるみたいね。私達もいくわよっ」


 エルミーユ様を先頭にして駆け出すわたし達。


 訓練に参加している他の子供達に混ざって走る。

 だけど、もともと運動が得意じゃないわたし。

 履きなれた靴じゃないし、地面もアスファルト舗装でもなければ石畳でさえないので走りづらい。


 ほんの短い距離を走っただけで、どんどん置いて行かれる。


 先頭を走るマールとノエル君は、さすが猫とうさぎ。

 他の子供たちが走ってる方向について行ってるだけなので、マールが先頭でも大丈夫みたいだ。なんだか楽しそうに走ってる。


 その後ろをエルミーユ様。さすがお転婆姫。運動は得意そうだもんね。


 エルミーユ様のほんの少し後ろをポリーちゃん。見た目は内気でおしとやかな感じの小動物系美少女なのに、それでもやっぱりこの世界の住人。ふつうに基礎体力はあるっぽい。


 そしてポリーちゃんからだいぶ離れてわたし。


 最初は何とかついていこうって頑張った。でも、頑張っただけじゃどうにもならない事もあるんだよ。


 走ってるのに歩いてるみたいなペース。

 後ろから走ってきたわたしより幼い子供達に、並ぶ間もなく抜かれていく。


「にゃ~。ルミしゃまー。遅れてるにゃ~」

「ルミ? 大丈夫?」

「少し、休んだ方が良いのでは……」


 少し先を走っていた皆が、それぞれに心配そうな顔で振り返る。

 わたしはゼーハーと荒れた呼吸を整えるのが精いっぱいで、ろくに返事を返す事も出来ない。

 森の中でコボルトに追われた時に比べたら、まだ少しは余裕があるはず。だけど、こんなんじゃ、もし本番だったら逃げ遅れるのは確定だね。


「ほら、頑張ってルミ! もうちょっとで避難場所につくわよ」


 エルミーユ様なんて息一つ乱してない。この世界の貴族令嬢ってこれが普通なの?


 心配して戻って来てくれたみんなに手を引かれ、引きずられるように走った先に、訓練場があった。


 そこは以前、レンヴィーゴ様に魔法の訓練を受けた場所だ。

 学校の校庭くらいの場所で、子供たちがワイワイガヤガヤと集まっている。

 見える限りだと、今回参加しているのはポリーちゃんと同じかチョット年下くらいの世代の子供が多いかな。その子供達の周りを少数の大人の参加者が取り囲んでいる感じだ。


 ギーンゲンは小さな村で、人口もそれほど多くないって話だったけど、その割には子供の数が多い気がする。しかも、村の子供が全員集まってるってわけじゃ無くて、二回に分かれて参加という事になってるらしい。

 つまり、ここにいるのはギーンゲンの子供世代の半分だけ。


 少子高齢化なんて言葉は縁が無さそうだね。


「あー! 変な猫がいる! 角うさぎも!」


 訓練場に足を踏み入れると、わたし達の存在に気が付いた子供の一人が大声で叫んだ。その声をきっかけにして、他の子供達の視線がわたし達に集中する。


「ホントだ~。かわいい~~」

「ポリーのところのノエルだ!」

「あの猫ってケットシーってやつか!? スゲー! 初めて見た!」


 子供たちは興奮したような声を上げて走って近づいて来る。まるで、羊の群れの大移動。

 そんな興奮した子供たちをせき止めるように、エルミーユ様が両手を大きく広げる。


「ハイハイ、みんな止まって~! 訓練は終わって無いわよ!」


 エルミーユ様! その背中が頼もしいよ!


「わー! エルねーちゃんが怒った~~」

「逃げろー! エルねーちゃんに捕まったらお尻叩かれちゃうぞ~」


 子供達は蜘蛛の子を散らすように、キャッキャと笑いながら元気いっぱいに逃げていく。


 合図の鐘が鳴っても寝ぼけてたわたしがいうのもなんだけど……子供達の緊張感、限りなくゼロに近いね。

予約投稿しようと思ってましたが・・・

色々やってるうちに火曜日になってしまったので、思い切ってこのまま投稿です。

早く寝なくちゃならないのに! (*>ω<)=3


20211123 サブタイトル変更しました <(_ _)>

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