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訓練 2

 村の若手猟師であるブルーノさんの治療が一段落した事で、部屋の中には安堵の空気が漂っていた。


 わたしからしたら、ブルーノさんは全く面識のない人だ。

 だけど、エルミーユ様やポリーちゃんにとっては、良く知った存在だったはずで、そんな人が生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだから、わたしなんかより、よっぽど不安で心配だったはずだ。


「えっと、お茶を淹れ直しますね」


 ほっとしたような表情のポリーちゃんが、そう言って部屋の隅に用意されているティーセットへ向かう。


「ポリー。私の分は用意しなくても良いわ。これから父様の所に行くから」


 安心しきったようなポリーちゃんとは対照的に、いつもと違う真剣な表情のエルミーユ様が言った。


「スタンリー様の所、ですか?」

「ええ。ちょっと偵察してくるわ」


 そう言ってニカって感じに笑って、ワクワク顔で部屋を出ていくエルミーユ様。

 やっぱりエルミーユ様はエルミーユ様だったよ……。


 残されたわたし達は、執務室で行われている報告とエルミーユ様の偵察の様子を気にしつつも何もできない状態だ。


 なので、わたしの膝の上にはマール、ポリーちゃんは膝の上にノエル君を乗せて、

ゆっくりお茶を飲んで過ごす事にする。


 わたし達までエルミーユ様みたいに偵察に行くわけにはいかないし、かといって、わたし達だけで特異魔法の検証を進める訳にも行かない。

 結局、何もしないで誰かが戻ってくるのを待つしかないような状況なのだ。


「エルミーユ様が言ってた討伐隊を組むって、頻繁にある事なの?」


 ただ待ってるだけというのも退屈なので、先ほどのエルミーユ様の話で気になった所を質問してみる。


「昔、開拓が始まったばかりの頃には良くあったそうです。でも、その頃は私はまだ小さかったので、正直、覚えてないです」

「じゃぁ、一番最近の討伐隊っていうのは何時か覚えてる?」

「えっと、多分ここ1年くらいは無かったと思うんですけど、一番最近って言われるとちょっと分からないです。もしかしたら、私の知らない間に討伐隊が組織された事もあったかもしれないですし」


 ポリーちゃんは、10歳くらいだ。

 もし、領地の近くに危険なモンスターとかが出没したとして、そのモンスターを戦いの特異な大人が集まって討伐するなんて話をわざわざするかどうか微妙な年齢だ。

 なので、もし危険なモンスターが出たとしても、知らない間に全部終わってても不思議じゃ無い様な気もする。

 

「ん~分からないかぁ……あ、でも魔物を討伐したら、魔物のお肉とかが食卓に並んだりしないの?」

「えっ?」

「えっ?」

「……ルミ様、魔物のお肉なんて、美味しくないですよ?」

「……え~~~!!??」


 かなりショック。

 元の世界に帰る前に、ドラゴンステーキとか食べてみたかったのに!


 ……あれ? でも待って? 角ウサギは食べるって話をしてたよね? 確か、やわらかくて匂いやクセが無くて、普通のウサギより美味しいって聞いた覚えがあるよ?


 でも、魔物は美味しくない?? つまり、おいしく食べられる角ウサギは、魔物じゃないって事?


「ちょっと待って……。角ウサギは食べると美味しいんだよね?」

「ええ。美味しいですね。先日、ルミ様も角ウサギ肉のシチューを食べましたよね?」

「あぁ、確かおととい位に。って、あれが角ウサギだったの!?」

「そうですよ? あの角ウサギはさっきのブルーノさんが届けてくれたものです。早く体調を戻して、また獲ってきてくれると良いんですけど」


 訳が分からない……。


 魔物である角ウサギは美味しいのに、討伐隊を組んで退治しなきゃならないような魔物は美味しくない?

 どういう事なの?


 わたしが悩んでいる間にも時間は流れ、カップの底が見えそうになってきた頃。エルミーユ様が偵察任務から戻ってきた。


 バタンと勢いよく扉が開かれて、嬉しそうな表情を浮かべたエルミーユ様が高らかに宣言する。


「ルミ! ポリー! 二人とも、明日の訓練に参加するように!」


 わたしとポリーちゃん、ポカーン。


「え? えっと? 訓練、ですか?」

「そう、訓練よ。具体的には避難訓練と戦闘訓練ね」

「ルミ様だけじゃなく、私もですか?」

「当然、ポリーもよ。さっき父様とレンが話し合って決めたの。全員が参加できるように、明日から数日に分けて訓練するのよ」


 それって、学校の避難訓練みたいな感じの物なのかな?


「それはさっきのブルーノさんの怪我に関連してですか?」

「そういう事。ブルーノは魔物に襲われたらしいんだけど、今まで見た事も聞いた事も無い魔物だったらしいわ」


 怖っ! 傭兵団上がりの人ばかりなこの領地の住人が見た事も聞いた事も無いモンスターってどんな存在なんだろう。


「見た事も聞いた事も無い魔物って事は、当然、相手がどれだけ強いのかも分からないわけでしょ? だから、何が起こっても良いように、避難と戦闘訓練って訳ね」


 避難はともかく、戦闘訓練かぁ……。

 わたしが少しくらい戦闘訓練したからって、モノになるとは思えないんだけどなぁ。


「そういうわけで明日は朝から訓練だから、今日のうちに準備しておいてね」

「あの、具体的に何を準備すれば良いんでしょう?」


 学校で経験した避難訓練だと、普通に授業を受けてる最中に突然警報ベルが鳴ったら、みんなで教室から出て校庭に並んで、そこで校長先生とか消防署の職員さんとかのお話を聞くだけだった。

 なので、事前準備なんて全く必要無かった。


 でも今回は、戦闘訓練とかもあるらしい。

 戦闘訓練なんて経験が無いから、何を準備したら良いのかも分からないよ。


「あ~、そういえばそうね。ルミもポリーもまともな武器とか防具は持って無いものね。ゴメン、今のは忘れて。とりあえず今日は早めに寝ておくくらいで良いわ」


 そう言いながら照れたように苦笑するエルミーユ様は、ふと思い出したようにマールとノエル君を見た。

 マールもノエル君も今はすやすやと気持ちよさそうにお昼寝中だ。


「マールとノエルも明日は参加させてね」


 マールはいつも気が付くと寝てるから、改まって早めに寝させる必要は無いかな。

 普段お昼寝たっぷりでも、夜になるとわたしより先に寝ちゃうくらいだし。


「それじゃ、今日はもうレンはこっちには戻ってこれないみたいだから、魔法の検証はまた今度って事でお開きにしましょう」

「レンヴィーゴ様は何を?」

「未知の魔物への防衛対策についての話し合いとか、明日からの訓練の計画づくりとか、あとは領民への公布ね。正直、今日の明日だからあんまり時間が無いのよ。後回しにする訳にもいかない事だしね」


 確かに、防衛対策や訓練が1日遅れる事で、助けられたはずの命が失われてしまう事もあるかもしれない。


 相手が未知のモンスターである以上、どういう行動をとるのか読めるはずが無い。

 もしかしたら、もう二度と現れないかもしれないし、今夜にでも領地の人間を襲うかもしれない。


 万が一の場合に備えて多少の心構えがあるだけでも、結果が変わるかもしれないんだから、施政者としては1日でも早く防衛対策や避難・戦闘訓練を行っておきたい筈だ。


 そう考えると、わたしの特異魔法の検証なんてやってる暇があるはず無いよね。


「あとは何か伝えなきゃいけな事があったかしら……」


 エルミーユ様はそう考え込むような仕草。


「あの、質問いいでしょうか?」


 そこで小さく手を挙げて、小さな声で訊いたのはポリーちゃん。


「なに? 分かる事なら答えるわよ」

「えっと、領民が交代で訓練に参加するとしたら、うちのお母さんも参加するって事でしょうか?」

「レジーナの事? レジーナならもちろん参加してもらうわよ。だけど、明日じゃ無くて別の日ね。みんなが一斉に訓練に参加すると、家の事とかが出来なくなっちゃうし、例えばレジーナとポリーが同じ訓練をするとなると効率悪いでしょう? だから、レジーナが訓練に参加するときには、家の事は私と母さまとポリーで頑張らないとならないの。頼りにしてるわよ」


 ……解せぬ。

 何故そこにわたしの名前が含まれていない?

 もしかして、わたしって家事能力低いと思われてるのかな? ちょっとショックだ。これでも家事の手伝いくらいはしてたんだけどなぁ。


ブルーノという名前は、最初はレンやエルミーユの弟に付ける予定でした。

最初は女男男の3人姉弟という設定にしようとしてたんです。

でも、途中でブルーノ君は居ない方が良いかなって思いなおして、存在が抹消されてしまいました。


なので、名前だけ村人Aに再利用です (*‘ω‘ *) 名前考えるの苦手なんだもん。どんどん再利用していかないとね


20211123 サブタイトル変更しました <(_ _)>

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