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検証作業 18

 レンヴィーゴ様が先を歩いて、私がその後を追いかけるような形で廊下を進む。

 わたし達が向かっているのは領地で一番偉い人がお仕事をしている場所、執務室だ。

 わたしがこの世界に来てしまった最初の日にレンヴィーゴ様に連れられて通された部屋だけど、実はそれ以来、足を運ぶことが無かった部屋でもある。


 レンヴィーゴ様以外の家族やメイドであるレジーナさんやポリーちゃんは、スタンリー様かレンヴィーゴ様に呼ばれたときにしか部屋に入る事は無いんだって。


 理由としては、もちろん秘密保持の為。

 領地運営なんて具体的には何をやってるのかさっぱり分からないけど、一度だけ部屋に通された時に見た限りだと、スタンリー様はたくさんの書類の山に囲まれていた。

 お相撲さんかプロレスラーかと見まがう程の巨体で書類仕事をしている姿はなかなかのインパクトがあったのでよく覚えてるよ。


 スタンリー様は今も書類の山に埋もれてるのかな?


 そんな事を考えているうちに、レンヴィーゴ様と二人で執務室の前まで到着。

 レンヴィーゴ様が無造作に扉をノック。

 だけど返事がない。


 不審に思ってお互いに顔を見合わせてから、レンヴィーゴ様がもう一度ノック。

 だけど、やっぱり返事がない。


「人の気配がありませんね」

「え? 気配とか分かるんですか?」

「何となくですが……わかりませんか?」


 いや、普通分からないよね? そんなの分かるとしたらエスパーだよ。

 それともこの世界だと、魔力がどうのこうのって感じで人が居るかどうか分かったりしちゃうのかな?


 一応、聞き耳を立ててみるけど、確かに物音とかは聞こえない気がする。

 だけど、執務室は他の部屋に比べて扉が大きくて頑丈そうなので音が漏れてきていないだけの様な気もするんだよね。


「分からないです……」

「僕も明確な言葉にする事は出来ませんが、なんとなく誰も居ない様に感じるんです」


 そう言いながら、レンヴィーゴ様は念を押すようにもう一度ノック。返事が無い事を確認してからドアノブに手をかけた瞬間。


 どこかの扉が開いた音が聞こえた気がした。

 音の方向としては一階の廊下から中庭に出るドアの様な気がする。中庭といえば、魔導書を作るときにお世話になった人面樹のフェデリーニお爺ちゃんが居る場所だ。


 ちょっと気になったので廊下の窓から中庭を見下ろしてみると、そこに目的の人物、スタンリー様、マール、ノエル君の三人が歩いているのが見えた。


「あっ! マール!」


 思わず声を出してしまう。その声に引き寄せられるようにレンヴィーゴ様も同じ窓から中庭を覗き込んだ。


 近いっ! 近いよ! レンヴィーゴ様!

 そんなに大きな窓じゃないから、同じ窓から外を見ようとしたら、ピッタリくっつくことになるのは分かるけど、それにしたって吐息が掛かる様な距離は緊張する。


「父上!」


 レンヴィーゴ様が、中庭を歩いているスタンリー様に向かってそう声を掛けた。

 声に反応したスタンリー様がこちらを振り返り、ムッとしたような表情を浮かべている。


「なんだ、まだ始めてもいないのに見つかっちまったのか……」

「父上! 執務もせずに何をしているんです!?」

「マールが強くなりたいっていうから、ちょっと稽古を付けてやろうとしただけだ」


 そういうスタンリー様の手にはナイフ。果物ナイフみたいな小さいのじゃなくて、映画とかアニメとかでしか見ないような、明らかに戦闘用と分かる両刃のナイフだ。

 あれってダガーとか言うんだっけ? 正直、マールには大きすぎの様な気がする程ゴツい。


「僕が行くまで待っていてください! 良いですね?」


 レンヴィーゴ様がそう大きな声で告げると、スタンリー様は大きなため息をついて、ひょいと右手を挙げて了解の意志を示す。

 そんな二人のやり取りを見ていたマールとノエル君は、オロオロビクビクした感じでスタンリー様に縋っている。


 わたしがレンヴィーゴ様を追いかけて慌てて中庭に降りていくと、待ちきれなかったのかスタンリー様はすでにマールにダガーの持ち方とか教え始めていた。全然了解じゃないじゃん。


「待っていてくださいと言ったはずです! 何をやってるんですか!?」

「何って、マールに武器の使い方をだな……」


 レンヴィーゴ様に問い詰められて、ちょっと拗ねたような領主様。


「確かに、マール君が戦えるようになりたいという話は聞いています」

「本人が強くなりたいって言ってるんだから、どうせなら早い方が良いだろう?」

「それはそうかもしれませんが……」


 頭を抱えてしまうレンヴィーゴ様。


「本当のところは、マール君を出しにして父上が執務から逃げようとしただけではありませんか?」

「いや、そんな事は無いぞ!? レンが全然手伝いに来ないから、ちっとも仕事が進まなくて嫌になってたなんて事はこれっぽっちも無いからな!?」


 うわぁ……。それって自白してるようなものだよ、スタンリー様。

 レンヴィーゴ様も呆れて溜息ついちゃってるよ。


「はぁ……。僕が居なくても領主としての仕事が回るように誰か信用できる人を雇うべきです。これから更に仕事は増える事になる予定なのですから」


 そう言いながら、チラリと私に視線を投げてくるレンヴィーゴ様。


 あれ? それってわたしのせい? っていうか、わたしが領主様の仕事が増えるように頑張らなくちゃいけないって事?

 期待されてるのは分かってたけど、そんな大げさな話なの?


「信用できる奴なら領内にたんまり居るんだが、やつらに書類仕事が出来ると思うか?」

「外から呼べば良いではないですか」

「領外に信用できる奴が居るならな。……そんな事より、そっちはどうなんだ? 特異魔法の検証ってのは進んでるのか? いつ頃終わりそうだ?」


 特異魔法の検証が一段落しないと、レンヴィーゴ様も執務のお手伝いに戻りそうにないからね。スタンリー様が気にするのは仕方ないよね。


「正直、見通しは立ってませんね。今は、検証を進めるためにマール君に手を貸してもらいたくて探していたところです」

「にゃ?」

「マール君に手伝って欲しい事があるんです。それほど手間も時間もかからないのでお願いできますか?」

「にゃー。もちろんですにゃ~」


 ちょっと引きつった様な笑顔で答えるマール。

 多分、本能で察したんだと思う。レンヴィーゴ様が逆らっちゃダメな人だという事を。


「そういうわけなので、マール君は連れて行きますね。父上は執務に戻ってくださって大丈夫ですよ」


 マールが握っていたダガーを受け取り、スタンリー様に返すレンヴィーゴ様。その表情は笑顔だけど、傍から見てても有無を言わさぬ迫力がある。


 ちょっと前まで、このお屋敷で一番怖いのはメイドのレジーナさんだと思ってたけど、実はレジーナさんの単独トップじゃなくて、レンヴィーゴ様とトップタイだったみたいだ。


 あの迫力満点の笑顔が、わたしに向けられる事がありませんようにっ!

あらすじの所に「のんびり展開」って書いておいてこんな事をいうのもなんなんですが・・・

最近、自分でも「こんなのんびり展開でいいのん?」って自問自答してたり、していなかったり。

まぁ、慌ててもしょうがないし、のんびり完結めざします (*‘ω‘ *)

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