検証作業 17
特異魔法の検証が次の段階に移る。
具体的には、ぬいぐるみの中にマールの身体の一部━━被毛とか━━を入れて魔法をかけるという物だ。
正直、わたしはこれがポイントだと思ってるんだよ。なぜかと言えば今のマールの身体の特徴から。
実は、割と最初の頃からずっと考えてたんだけど、実はマールってわたしの血からいろんな情報を得てるんじゃないかと思うんだよね。
例えば味覚。実は猫って甘い物を感じることが出来ないんだよ。舌自体にそういう機能が備わってないから。
もし、今のマールが形を変えただけで以前のマールの身体と同質のものであるなら、甘い物を食べても甘いって感じる事は無い筈なのだ。
でも実際には、今のマールは甘い物を甘くて美味しいって言いながらバクバク食べる。
他にもまだある。
本来、猫が食べちゃいけない物の代表としてあげられる事の多いタマネギ。
それをわたしが気が付かない内に口に入れちゃった事があるんだけど、美味しそうにモグモグゴックンってして、その後もケロッとしてたんだよね。
これって、見た目だけじゃなく、舌とか内臓まで変わっちゃってるって事になる。
そういう事があれば、舌とか内臓機能がまるで人間の様に変わったのは何でって話になるじゃない?
答えは、人間の遺伝子とかDNAとかの良く分からない物をどこかから引っ張ってきたからじゃないかって思うんだ。
だから、人間と同じように甘さも感じられるようになったし、人間が食べられる物は食べられるようになったんじゃないかって思ってる。
でもでも! マールは完全な人間って訳じゃない。
その証拠に、口の中には牙が生えてるし、手の先の爪も猫のそれで出したり引っ込めたりできる。
これは完全に猫の特徴で、間違っても人間の特徴じゃない。そしてぬいぐるみもそんな細かい部分は表現しきれていなかった。
口は閉じてて牙なんて見えなかったし、爪は刺繍で表現したから、出たら出っ放しになるはずなのだ。
そういう部分の情報はどこから持ってきているのかとなれば、それはぬいぐるみの中に仕込んだマールの尻尾の毛としか考えられない。
そう考えていくと、わたしの血を付着させただけだと魔法が発動しないのではないかっていう仮説にたどり着く。
わたしは、この仮説に結構自信があった。
この仮説については、レンヴィーゴ様にも話をしてあるし、レンヴィーゴ様も「十分に考えられますね」と納得してくれてた。
そういうわけで、わたし達は当初の予定通りにマールを捕まえて、被毛をちょっと分けて貰って、それをぬいぐるみに仕込む作業に取り掛かる。
まずは、マールの捜索からだ。
最近のマールは、角ウサギのノエル君と仲良しで、いつも一緒に遊んでるみたいなんだけど、どこで遊んでるのか良く分からない。
お屋敷の外には出ていないみたいだし、ご飯の時間とか寝る時間にはちゃんと戻ってくるから、モンスターに襲われたりするんじゃないかって心配はしてないんだけど、逆にどこかでイタズラしてるんじゃないかって心配はあるんだよね。
「マール~~? 出ておいで~~」
お屋敷の中をウロウロと歩きながら、そう大声で呼びかける。
スペンサー家のお屋敷は木造建築の二階建てだ。領地のちょっと先には広大な森が広がってるんだから、家を建てるのに木材を利用するのは当たり前なんだろうけど、日本に居た頃のラノベとか漫画とかゲームの印象からすると、石造りじゃないのはちょっと不思議な感じもする。
そんなスペンサー家のお屋敷は、実はそれほど大きいわけじゃない。
スペンサー領は開拓がはじまってまだ10年くらいの辺境の弱小領地という話なので、大きくて豪華な領主邸よりも、他に必要な施設を建設することを重視した結果、手ごろな大きさで質素な造りの建物にしたという話だった。
もちろん、スペンサー領が順調に大きくなって、人を集めることが出来て、経済とかインフラとかが十分に整った時には大きな領主邸に建て替える予定なんだそうな。
……今のところ、全く目途は立って無いみたいだけど。
とりあえず、今はまだそれほど大きくないスペンサー邸をウロウロしてマール達を探してみるけど、これがなかなか見つからない。
二人とも身体が小さいからなのか見つからないだけなのか、それともかくれんぼでもしているのか。まさか、お屋敷の中に勝手に秘密基地とか作っているとかじゃないよね?
キッチンとか貯蔵庫とか、わたしの部屋とか見て回ったけど見つからない。
「まったく……どこで遊んでるのやら」
二回目の自室捜索を終えて廊下に出たところでそう呟く。
「ルミさん、見つかりましたか?」
わたしが他にマールの行きそうな場所が無いかを考えているところにレンヴィーゴ様が声を掛けてきた。
レンヴィーゴ様はレンヴィーゴ様で、自分の部屋とかお風呂場とか探していたらしい。
わたしはレンヴィーゴ様の質問に首を横に振って答えると苦笑する。
「どこに行ってしまったんでしょうね」
「お屋敷の外には出て行ってないとは思うんですけど……」
日本に居た頃のマールは、いつでも元気いっぱいでヤンチャだったけど、むやみに家の外に出たがるような子じゃなかったからね。
わたし達が他にマール達の行きそうな場所はどこかと考えていると、廊下の向こうからエルミーユ様とポリーちゃんが近づいて来るのが見えた。
「こっちには居なかったわよ」
「私も見つけられませんでした」
エルミーユ様はお風呂場とかを探して、ポリーちゃんは屋根裏部屋まで探してくれたらしい。
「あと探してない場所と言えば……」
四人で顔を見合わせる。たぶん四人とも同じ部屋を頭に思い浮かべていると思う。
小さな領主邸。それほど部屋数が多いわけでも無い。
わたし達がまだ探していない場所は、あと一つしか残っていなかった。
それは領主執務室。スタンリー様のお仕事部屋だった。
ごめんなさい。体調不良の為、ぜんぜん筆が進みませんでした。
お仕事も休んで病院にも行ったのですが、「あー、こりゃちょっと様子見て○○が××してからじゃないとどうしようもないねーでも、○○が××したら多分他の症状も無くなると思うよ」という、おじいちゃん先生のありがたーいお言葉を頂いてしまい・・・
私、周囲の人からは「丈夫なだけが取り柄なんでしょ?」って言われるタイプなんですけど
実際には、季節の変わり目とかには必ず体調崩すし、冬の寒さにも夏の暑さにも弱いし。
でも、大きな病気はしたことが無くて(一番は虫垂炎)、なので、周りからは丈夫な子だと思われてるみたいなんですけど・・・身体、弱い子なんです ( 一一)




