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検証作業 16

 皆の注目が集まるなか、右手で魔導書、左手でぬいぐるみを抱えて部屋の中央で精神を集中する。

 抱えているぬいぐるみは、もちろんマールを模した擬人化猫ぬいぐるみ。


 正面には、メモとペンを持ったレンヴィーゴ様。その隣には興味津々って感じのエルミーユ様。エルミーユ様の陰に隠れるようにポリーちゃんが立っている。

 シャルロット様とレジーナさんは、すでに退室済みだ。

 レジーナさんはぬいぐるみ作りをする為に後回しにしてしまった仕事を片付ける為。

 シャルロット様は、領主であるスタンリー様のお手伝いをするらしい。


 普段、スタンリー様の仕事は次期領主候補であるレンヴィーゴ様が手伝ってるんだけど、今は特異魔法の検証と究明に夢中だから、代わりにシャルロット様が駆り出される事になってしまったっぽい。


 わたしの所為じゃないよね?


「では、はじめてください」


 シャルロット様は、普段、領地のお仕事とかしてなかった気がするけど、大丈夫なのかなぁなんて考えているとレンヴィーゴ様から合図があった。

 わたしは頭を切り替えてからコクリと頷き、魔導書に魔力を流していく。


 特異魔法に関する最初の検証。とりあえず、マールの時と全く同じ条件にする前に、いろいろ試してみようという物だ。

 ホントだったら、まずは、全く同じ条件にして再現できるかどうかを確かめなくちゃいけないんだろうけど、もし全く同じ条件で再現できた場合、どこまで条件を変えても大丈夫なのかを確認する必要が出てきてしまう。


 なのでマールの毛を入れたり抜き出したりする手間を考えると、そういう加工を施す前にやってしまおうという事だ。


 最初に選ばれたのが、何も手を加えていないぬいぐるみに小細工なしで魔法をかけてみるという物だった。

 これなら、わたしが血を流す必要が無いので気が楽だ。


 それでも検証なので慎重に魔導書に描かれた魔法陣に魔力を流すと、指輪が淡い光を放ち始めて、そのまま何も起こる事無く収束していく。

 光が収まった所で、ぬいぐるみを確認してみる。相変わらず、ぬいぐるみはぬいぐるみのままだ。


 ……やっぱり何も起こらなかったよ。


「当初の予想通りですね。次は、姉上のつくったぬいぐるみとポリーの作ったぬいぐるみもお願いします」


 ゲームなんかでたまに見かける一人一回制限の可能性を考えての実験だ。

 もしこれでエルミーユ様やポリーちゃんの作ったぬいぐるみに命が宿るような事があれば、一人一回制限という縛りがある可能性が高くなる。


 エルミーユ様のぬいぐるみはドラゴンで、ポリーちゃんのぬいぐるみは擬人化角ウサギなので、もしかしたらマールを模したぬいぐるみだからダメって可能性も考えられるけど、それはそれでまた別に検証すれば良いよね。


「じゃぁ、次は私のドラゴンね」

「はい。お預かりします」


 エルミーユ様からドラゴンぬいぐるみを受け取って、同じ様に魔導書に魔力を流す。

 結果はマールの時と変わらず。

 ドラゴンぬいぐるみはやっぱりぬいぐるみのままで、瞬き一つする事は無かった。


「……残念。この子がマール君みたいに動き出すのを期待してたのに」

「まだ検証は終わってないので、可能性が消えたわけでは無いですよ」


 エルミーユ様にドラゴンぬいぐるみを返しながらそう答えておく。

 でも、よく考えるとぬいぐるみサイズの幼体形態になってるとはいえドラゴンはドラゴン。

 もし命が宿ったとしたら、暴れ出したりしちゃわないかな? このままドラゴンのぬいぐるみで検証実験してて大丈夫なの?

 炎のブレスでヤケドとか嫌なんですけど……。


 エルミーユ様の抱きかかえるドラゴンぬいぐるみにちょっとビビリながら、次はポリーちゃんの擬人化角ウサギについても同じように魔法を試みる。


 結果は同じく失敗。


 続けざまにレジーナさん、シャルロット様の残していった擬人化猫も繰り返すけど、どれも瞬き一つする事は無かった。


 これで、指を切るのが確定かぁ。血は必要無いって結果が欲しかったんだけどな。


 いや、どっちにしてもレンヴィーゴ様の事だから無理だったかも。

 もしこれで魔法が発動して、ぬいぐるみに命が宿り動き出すような事があったとしても、わたしの血を付着させた場合と比べて違いがあるかどうかって確かめるために、結局ナイフで指を切らなくちゃならないような気がする。


 余計な事に気が付いてしまったせいで、ちょっと凹んでいるわたしとは対照的に、レンヴィーゴ様は澄ました顔でメモを取り続けてる。

 最初から上手く行くはずが無いって考えていたような素振りだ。


「これ、ルミの魔法が効果を発揮してたら、わたし達の作ったぬいぐるみがマール君みたいに動き出してたはずなのよね?」

「今の時点で最も有力な仮説ってだけですけどね。もしかしたらマール君が動き出したのは全く別の要因で、ルミさんの特異魔法は全く関係ないという可能性も無い訳じゃありません」

「その特異魔法とやらの発動条件とか効果がどんな物かは分からないのに、ルミが特異魔法を持ってるのは間違いないの?」

「それは間違いないです。最初から魔導書に魔法陣が浮かび上がるというのは特異魔法だけに見られる特徴ですから」


 そう答えながらレンヴィーゴ様が取り出したのは、小さなナイフとポーション瓶。

 次は、いよいよ指先をナイフで切って、血をぬいぐるみに付着させてから魔法を発動させる検証実験に移るっぽい。


 結論から言えば、ぬいぐるみにわたしの血を付着させてから魔法を行使しても効果が出る事は無かったんだけどね。

 ナイフで指を切って痛い思いをして、おまけに不味ーいポーション飲んだのに。


 ダブルで涙目だよ……。

 

「魔力の方は大丈夫ですか?」


 レンヴィーゴ様に言われて、自分の身体の中にある魔力の残量を確認してみる。

 確認するって言っても、ゲームみたいにステータス画面が出てマジックポイントの最大値とか現在値とかが分かるわけじゃ無い。

 お腹が減ってるのをなんとなく感じるのと同じように、魔力が減ってるのが何となく分かるらしいんだよね。


 だけど、わたしの場合、魔力が減った感覚を味わったことが無い。

 最大MP的な物が多いのもあるんだけど、減った魔力が回復するスピードが無茶苦茶早いらしいんだよね。

 普通の人の魔力が体の中にあるコップに入ってるとしたら、わたしはビールのジョッキくらいらしい。

 そんで、普通の人がコップから減った魔力を小さなティースプーンでちょっとずつ補充する感じなのに対して、わたしは魔力の減ったジョッキに、同じ大きさのジョッキで補充しちゃう感じ。

 そんなわたしのチート魔力なので、どれだけ魔法を使っても魔力が減っていく感覚なんて無かったりする。


 それでも一応、魔力が減ってる感覚というのを探して、無駄に体を触ってみたり、手をグーパーさせたりしてみる。

 やっぱり魔力が減ってる感覚とかは全く分かんない。


「魔力は大丈夫みたいです。魔法が発動してないからでしょうか?」

「いえ、魔法陣に魔力を流している訳ですから、普通ならば魔力は減ってるはずなんですが……。流石はルミさんという所ですね。それでは魔力に余裕があるという事なので次の実験に移りましょうか」


 ワクワク顔のレンヴィーゴ様。……楽しそうでなによりです。

 

今日は8月31日で野菜(8や 3さ 1い)の日なんだそうな。

なろう小説だと、野菜関係ってどういう設定が多いのかな?

史実のヨーロッパでは中世ごろにはジャガイモはまだ入って来てなかったなんて話も聞くけど・・・

個人的には、史実がどうだろうと有ったって良いじゃないって思うんですけどね~美味しいんだから。

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