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検証作業 14

 投票が終わって、特異魔法の検証を優先させるという事になった。

 だけど、わたしの頭の中ではハテナマークが飛び交っている。

 ポリーちゃん、レジーナさん、エルミーユ様。この三人の中で誰と誰が特異魔法の検証の方に投票したんだろう?


 レンヴィーゴ様からは、誰がどちらに投票したのかは詮索しないようにって言われてるので、一人ひとりに聞いて回るわけにはいかないんだけど、やっぱりちょっと気になってしまう。


 特異魔法とドレスで、どっちが選ばれたのかが気になるわけじゃ無い。

 わたしの事前の予想がハズレたのがちょっと悔しかったのだ。


 絶対、2対2になると思ってたのに!


 そんな感じでわたしはモヤモヤを抱えてるんだけど、他の人は気にしてるようには見えないし、投票で選ばれなかったシャルロット様も残念そうな表情は浮かべてるけど、それほど深刻じゃない感じだったりする。


「それでは僕は色々手配をかけて、その後は、また父上の所で執務を手伝ってきます。皆はルミさんに教わりながらぬいぐるみ作りをよろしくお願いしますね」


 レンヴィーゴ様がそう言いながら退室してしまう。

 その後ろ姿を見送っていると、シャルロット様が話しかけてきた。


「……なんだか納得いってないみたいね?」

「あ~、えっと……、ちょっとだけ」

「どこが納得いかなかったか聞かせてくれる? もしかしてルミさんはドレスの方を優先したかった?」

「そういうわけでは無いんですが……。シャルロット様の言う事も一理あるなとは感じてました」

「あら、そう? ルミさんにそう言われるとちょっと嬉しいわね」


 そういってクスクスと笑うシャルロット様。


「さっきの投票はね、茶番なのよ」

「茶番ですか?」

「そう、私としてはどっちが優先でも良かったのよ。ただ、レンが特異魔法の検証に比重を置き過ぎないように釘を刺したかっただけね」


 はぁと間抜けな返事をしてしまう。


「あの子、頭は良いけど一つの事に夢中になると、そればっかりになっちゃう所があるのよね。だから、他にもやらなくちゃならない事とか、やっておいた方が良い事があるって思い出して貰えれば、それで良かったのよ」

「レンって魔法の事となると夢中になりすぎちゃう魔法バカだもんね」


 シャルロット様に続いてエルミーユ様が面白そうに笑っている。


「あの子、記憶力もずば抜けて良いでしょう? でも何も無ければ、ドレス作りの事なんてしばらく思い出さなかったはずよ。だから、思い出させる為にあんな風に話を出したって訳。今頃、領内でも腕が良いとされるお針子さんを手配するために出かける準備をしているはずよ」


 そこまで聞いてようやく分かった。

 特異魔法の検証やら解析を進めることが出来れば、それは国内での発言力やら影響力やらが大きくなることは間違いない。

 だけど、さっきも話に出ていたように、それが達成できるかどうかなんて分からないんだから、特異魔法とは別に、新しいドレスで社交界で注目を集める事で発言力やら影響力やらを得る方法もあるって事を思い出させるのが目的だったって事だ。


 だから、特異魔法とドレスのどちらが優先でも良くて、茶番って事なんだと思う。


「でも、さすがに私の方に票を入れてくれたのが一人だけになるとは思わなかったわ。4人ともドレス作りの方に票を入れてくれると思ってたのに」


 そう言ってチョット拗ねた様な顔をするシャルロット様。こんな事をいうのは失礼かもしれないけど、なんだか可愛い。美人はこんな表情でもプラス評価になるんだなぁって羨ましくなっちゃうよ。


 そんなわけで、当初の予定通りぬいぐるみ作りを進める事になったわたし達。


 先に作り始めていた人と後から作り始めた人がいるので足並みは揃ってないけど、そんなのは去年の高校の文化祭で経験済み。


 去年の文化祭でわたし達のクラスは演劇をやったんだけど、当然一人で役者全員の衣装を縫い上げるなんて無理だから、わたしを含めた五人が衣装係になった。

 その五人の中で裁縫が得意なわたしともう一人が、不慣れな三人にアドバイスしたり難しい所は手を貸したりしながら衣装を作った経験があったからね。


 あの時に比べれば、全員が裁縫の基本くらいは出来るから軽いものだ。

 ちょっとやり方を教えたりお手本を見せるだけで理解してくれてガシガシと手を動かしていってくれるのは有難い。


 イメージイラストから設計図を起こして、その設計図を基に小麦粉粘土で型を造ったり、その上に紙を糊を付けた何枚も重ねて貼ったり、乾いた紙を小刀で切り裂いて展開したり、その展開した紙を別の紙に描き写したり。


 まぁ、言葉にすれば簡単だけど、実際にはちょっとめんどくさい工程を経て型紙を作っていく。

 もちろん、今回は小麦粉粘土にカビが生えちゃうってミスはきっちり回避できたよ。なにしろ魔法の勉強の時間を潰してまでぬいぐるみ作りに注力したからね。


 型紙さえ出来ちゃえば、その後は針仕事に慣れてる人にとってはそれほど難しい作業は無い。

 型紙を切り分けて、生地が無駄にならないように綺麗に並べて、チャコペンの様なもので型紙の外周に合わせてなぞる。この時、縫い代分をつけ足しておくのを忘れないように。

 そんで、縫い代線に沿って裁断したら、あとはそれぞれのパーツを縫い合わせて、返し口の部分からひっくり返す。

 その返し口の部分を利用して綿をダマにならないようにギュウギュウに詰めて、詰め終わったら返し口の部分をマツリ縫いで閉じれば一つのパーツが完成だ。


 もちろん、目とか鼻とか口とか指とかの細かい部分もちゃんと作り込んであるよ。特に顔はとっても大事。腕とか足とかだと少しくらいは誤魔化しが効くんだけどね。


 頭とか腕とか足とか胴体とかのパーツが全て揃ったら、バランスを見ながら合体させれば、それで立派なぬいぐるみになる。


 そんな感じで、ぬいぐるみ作りを進めること三日。

 最初のぬいぐるみが無事に完成する事になった。もちろん最初に完成したのはわたしの作ったマールと同タイプの擬人化猫。こちらの世界では手に入らない素材については、代用品をあてがう事になったけど、パッと見だけならマールのぬいぐるみと同じに見える筈。


 次いで、皆で作るようになってから、やけに楽しそうに針を動かしていたポリーちゃんが完成。やっぱり母親であるレジーナさんが一緒だからかな?

 食事の準備とかお屋敷の掃除とかでも、レジーナさんと一緒だと楽しそうだもんね。


 そんなポリーちゃんが作ったのは、擬人化されたノエル君の彼女ことジャッカロープ。色は薄いピンク。リボン付き。


 その後はレジーナさん、シャルロット様がマールとは違うタイプの擬人化猫ぬいぐるみ。

 やっぱり裁縫そのものに慣れてるからか、二人とも初めてぬいぐるみを作ったとは思えない出来栄えだ。


 一番めんどくさそうな題材を選んだエルミーユ様が一番最後。真っ白なドラゴンだ。

 角とか牙とか翼とか爪とか、設計図の段階でめんどくさそうだなぁって思ってたけど、実際作っても面倒だったらしい。

 残念ながら、このメンバーで一番針仕事に慣れていないエルミーユ様だったから、余計に時間が掛かっちゃったのかも。


 既に作り終えている全員が見守るなか、エルミーユ様が最後の返し縫いを終えて、余計な縫い糸をプチンと切った。

 同時にエルミーユ様自身の緊張の糸も切れてしまったのか、両手を広げて身体を大きく仰け反らせる。


「やっとでぎだあぁぁ~」


 エルミーユ様……。美少女の出していい声じゃないよ、それ。


 でも、わたしも夏休みの宿題を全部終わらせた時とかには同じような感じだったかもしれないので、何も言わないでおく。


「もし、またぬいぐるみを作る事があったら、次は絶対もっと簡単なやつにする!」


 仰け反らせた体を起こした勢いで、そのまま机に突っ伏してしまうエルミーユ様。せっかくの美少女が台無し。


 そんな感じで、どうにかこうにか五つのぬいぐるみが揃った。

 五つのぬいぐるみを机の上に座るように並べて、皆で観賞会だ。


「こうして並べて比べると、やっぱりルミさんのぬいぐるみが一番綺麗に出来てるわね」

「いえいえ、皆さんのも十分綺麗に出来てますよ。これだけ出来てればお金を出してでも欲しいって人も居ると思います」


 海外で大量生産されたような物だと、縫い目が曲がってたりほつれてたり、腕とか足の取り付け方が左右でズレてたりなんてのも有るからね。

 それに比べれば、十分に綺麗な仕上がりだ。


 それに比べれば、みんなの作ったぬいぐるみは十分な品質だ。

 実際、ネット上のフリーマーケット的なサイトに並んでいてもおかしくないレベル。値段設定とタイミングでポチって貰えると思う。


 自分達の衣服は自分達で仕立てるのが当たり前な世界なだけあって、日本の一般人よりも裁縫技術は上かもしれない。

 専門のお針子さんだと、もっとレベルが高いのかな。


 異世界、恐るべし……。

主人公のルミには高校の文化祭を経験させておきたかったので、7月生まれの16歳(高1の3月とか)という設定になってます。


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