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検証作業 13

「さて。では特異魔法の検証とドレスの作成、どちらを優先すべきか決を採りたいと思います」


 偉い人の意見が絶対と思っていたこの世界で、まさか多数決が行われるとは。

 でも、もし一番偉い人の意見が通るとしたら、領主夫人のシャルロット様と次期領主候補のレンヴィーゴ様のどっちの意見が通ってたんだろうね?


 そんな事を考えながら事の成り行きを見守っていると、レンヴィーゴ様が紙を一枚取って、懐から出した小さなナイフで切り刻んで、その後、だいたい同じくらいのサイズに切られた紙に、サラサラと何かを書いていく。


 首を傾げながら眺めていると、全部の紙片それぞれに、二つの文字を書いているみたいだ。

 片方は、シャルロット様の名前の頭文字に当たる文字、もう片方はレンヴィーゴ様の名前の頭文字に当たる文字。


「さて、準備が出来ました。姉上とレジーナ、ポリー、ルミさんはそれぞれ一枚ずつ受け取って、僕と母上の意見のどちらを優先すべきか選んで、丸で囲んでください」


 レンヴィーゴ様が一人一人に紙片を配りながら説明していく。


「今回、ルミさんは初めてなので一応説明しておきます。皆さんに配った紙はすべて同じものです。その紙には僕の名前の頭文字と母上の名前の頭文字が書かれています。皆さんは、僕の意見と母上の意見のどちらかを選んで、どちらかの頭文字を丸で囲んで投票していただきます。これで、文字が書けない人にも投票できるだけでなく、文字のクセで誰が何方に票を入れたかが分からなくなるようになっています。ただ丸で囲むだけですから書き文字のクセなんて出ないですからね」


 おぉ。ちゃんと配慮がされているよ!

 立場が低い人からすると、どちらかを選んで角が立っちゃったりしたら困る事になるかもしれないから、自分の意見なんて言えないもんね。


「みんな、自分の好きな方に丸を付けてね。まぁぬいぐるみも良いけど、やっぱり女の子としては綺麗なドレスの方が良いとは思うのよねぇ」

「いやいや。領地の事を考えれば、特異魔法の検証の方を選んでくださると信じていますよ」


 この場に居るのは、男性のレンヴィーゴ様と女性が5人で合計6人。

 レンヴィーゴ様とシャルロット様は、当然自分に票を入れるだろうから、浮動票となるのはエルミーユ様とレジーナさん、ポリーちゃん、そしてわたし。


 ぬいぐるみ作りにあんまり積極的じゃなかったレジーナさんはドレスを選びそうな気がする。

 ドレスの話を最初に出したエルミーユ様も、ドレス寄りだよね~。

 そうなると、ドレス3票。ドレスの負けは無いって事になる。

 

 一方の特異魔法側は、レンヴィーゴ様とわたしで2票。


 残るのはポリーちゃんだ。

 改まって聞いたわけじゃ無いけど、ポリーちゃんの年齢は10歳前後だと思う。特異魔法の検証で作るぬいぐるみを選ぶか、それともメイドという立場では着る事が無いドレスを選ぶかは微妙な年齢だ。


 エルミーユ様とレジーナさんが投票を済ませ、わたしも投票をするべくレンヴィーゴ様の頭文字を丸で囲みながら横目でポリーちゃんの様子をうかがう。

 ポリーちゃん、やっぱりちょっと悩んでるみたい。


「……そういえば、ポリーはこれからどんどん背が伸びて、今着ている服は丈が合わなくなっちゃうわよね? ドレスの後にポリーの服を作るのも良いかもしれないわね」


 うわぁ……、卑怯だよシャルロット様! あからさまに買収しようとしてるよ!

 女の子であるポリーちゃんは、やっぱりオシャレにだって興味があるはず。そういうお年頃だもん。

 片手にペン、もう片方に紙片をもったまま、ポリーちゃんの心と体がフラフラとシャルロット様の方に引き寄せられていくのが見えるようだ。


 だけど、そんなのレンヴィーゴ様だって黙って許すはずが無い。


「特異魔法の検証結果から他の魔法の理論まで確立することが出来れば、現在、スペンサー領が置かれている立場は格段に向上し、それに伴い様々な恩恵があるでしょうね。もちろん、食事や文化などにも恩恵があり……つまりは今より多くの食材や香辛料が持ち込まれ、それらをふんだんに使った美味しい料理が食べられるようになるはずです」


 レンヴィーゴ様の反撃。

 胃袋を掴みに来たよ! ストマッククローだよ!


 これはポリーちゃんに効果抜群。さっきと同じように、今度は美味しい料理という言葉にふらふらと引き寄せられていく。


 衣食住の衣と食では、やっぱり食の方が優先順位が高いのかもしれない。


 わたしも食の方を優先したい気持ちは分かる。

 レジーナさんの作ってくれる料理って、決して不味いわけじゃ無い。味は安定してるから、むしろ料理上手な部類だと思う。だけど基本的に何でも塩味なんだよ。しかも食材だって日本みたいに豊富な種類が揃ってるわけじゃ無いので、いつも同じような食卓になっちゃってるんだよ。


 これはいくらなんでも飽きる。

 味噌とか醤油なんてワガママ言わないから、せめて胡椒やハーブなんていう他の味も欲しくなるのもしょうがないと思う。


 ポリーちゃんは、確かめるようにレンヴィーゴ様をじっと見つめると、レンヴィーゴ様はニッコリと笑って大きく頷いて見せた。

 それを見たポリーちゃんは、紙片に丸を書き込んで、わたし達と同じようにどちらに丸を付けたか分からないように裏返しにしてテーブルの上に提出した。


 これでテーブルの上に4枚の投票用紙が揃った。シャルロット様とレンヴィーゴ様は、お互い自分に投票するのが分かり切っているので、わざわざ投票しないみたいだ。


 ポリーちゃんが投票を済ませると様子を見ていたエルミーユ様が一度全員を見回してからテーブルに歩み寄って紙片を回収していく。


「それじゃみんな投票が終わったのでわたしが開票するわね?」

「はい。お願いします、姉上」

「まぁ、結果は分かっているけどね」


 自信ありげなシャルロット様が不敵に笑う。


 それってフラグじゃ……。


「お互い、どっちが勝っても素直に認めてよね? 家の中でギスギスするのは嫌よ? そういうわけで、まず一枚目、母様に一票」


 そう言いながら皆に見えるように紙片を向ける。確かにシャルロット様の頭文字の方に丸が付いている。


「次……次はレンね」


 同じように紙片を皆に見せる。

 これでお互い1票ずつ獲得。


「次、3枚目。……レンね」


 これでシャルロット様が1票、レンヴィーゴ様が2票。

 わたしの予想だと次はシャルロット様に入るはずだ。そうなったら、ここには居ないスタンリー様に決めてもらう事になるのかな?


 全員が見守る中、最期の一枚を確認してから皆に見せるエルミーユ様。


「最後の1枚もレンって事で、特異魔法の検証を優先させることに決定ね」


 あれー?

 2対2になるはずだったのに、どうなってるの?

今日は世界的に有名な創作ワンコである でつ さんの誕生日。

猫派の私も彼の魅力には抗えません・・・


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