検証作業 12
わたし。『火種売りの少女』ぬいぐるみを作成途中で、マールと同じタイプの擬人化猫に変更。『火種売りの少女』はまた後日に気が向いたら。
ポリーちゃん。角ウサギことジャッカロープを擬人化してぬいぐるみ化。ノエル君の彼女っぽい。
エルミーユ様。ヘビに決まりそうだったけど、エルミーユ様の当初の希望どおりドラゴンに落ち着いた。
こんな感じで子供世代の作るぬいぐるみは決まった。決まっていないのは、大人世代なシャルロット様とレジーナさんだ。
「シャルロット様とレジーナさんはどんなぬいぐるみを作りますか?」
わたしがそう質問すると、二人はお互いに顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
「私は蛇とか虫とかじゃなければ何でも良いわよ? 検証とやらに必要そうな題材を選んでちょうだいな」
「私も何でも構いません。同じく蛇や虫は嫌ですけど」
出たっ! 「何でも良い」! これって困るんだよね~。
ウチのメイン料理担当のメグ姉が父さんに「夕飯何が良い?」って質問して、「何でも良い」って答えが返って来る事が多くて困ってたなぁ。
ちなみにわたしは、「夕飯何が良い?」って聞かれたら「ハンバーグ!」って即答してたけどね。おかげで、メグ姉がわたしに「何が良い?」って聞いてくる事は無くなっちゃったんだけど。
ひさしぶりにメグ姉のハンバーグが食べたいなぁ。
だけど「何でも良い」って答える気持ちも分かる。
料理なんかだと、いつも好きな料理ばかりって訳にはいかないし、冷蔵庫にどんな食材が有るのか分からないし、作ってくれる人の手間とか時間とかも気になるしで、なかなか自分が食べたいものってリクエストしづらいんだよね。
まぁ、シャルロット様もレジーナさんも大人だから、検証のためのぬいぐるみ作りって事を割り切って、納得済みで来ているはずだ。
なので、こちらも検証と割り切らせてもらおう。
と、言っても最初はどうすれば良いのかな?
具体的な案が咄嗟に思い浮かばなかったわたしは、レンヴィーゴ様に向けてニッコリと笑う。
それだけでレンヴィーゴ様は何かを察してくれた。
「それでは母上とレジーナには、マール君同様の猫のぬいぐるみをちょっとだけ条件を変えて作っていただきましょう」
「条件を変えるっていうのは?」
「例えばですが、猫って色々いるじゃないですか? 毛が長かったり短かったり、顔が三角だったり丸だったり、ほっそりした体型だったりふくよかな体型だったり。そういう細かい部分を変えてみましょう」
この世界だと猫の品種ってどういう扱いなんだろ?
元の世界では、猫って一杯品種があるんだよね。アメショーとかペルシャとかアビシニアンとかメインクーンとか。
ちなみにマールはミックス。いわゆる雑種だ。もともと、捨て猫だったから仮に純血種だったとしても血統書とかは無いんだよ。
こっちの世界は、レンヴィーゴ様の話ぶりだと品種って概念が無いのか、あっても希薄そうに聞こえるね。
まぁ人が行き来する範囲が狭いと、他の地域の猫を見る事自体が少ないから、違う品種の猫を見かけることが少ないのかも。
「それじゃ、私は変わった色の猫にしようかしら? 紫色なんてどう?」
「それなら私は大きな猫にしてみます。色は茶色ですね」
「あら? それって昔飼ってた子?」
「ええ。よくネズミを捕って来る良い子でした」
紫色の猫かぁ……さすが異世界って事なのか、それとも空想の産物なのかな? ぬいぐるみとしてなら紫色の猫ってのもたまに見かけるから、不自然じゃないね。
「母上は紫色の猫、レジーナは大きな茶色の猫という事ですが、ルミさん、大丈夫そうですか?」
「はい。基本的な作り方は変わりませんから、大丈夫だと思います」
魔法の検証に使うだけなので、検証の後には手元に残しておけるように、できるだけ自分の気に入った物を作ってもらいたい。
「それでは材料等は僕の方で手配しますので、出来る所から作り始めて下さい。おそらくですが、検証作業は少しずつ条件を変えて何度も行う事になると思います。最初にルミさんから作り方を習って、その後は各自で手の空いた時に作業を進めるようお願いします」
レンヴィーゴ様がすました顔で言った。
一体どれだけ検証させるつもりなんだろう? まさか三桁とか言わないよね? わたしは半人前とはいえぬいぐるみ作家の端くれ。ぬいぐるみ作りは大歓迎のドンと来い状態だ。
だけど、他の人にとってはどうだろ?
他にやらなくちゃならない仕事だってあるだろうから、ぬいぐるみ作りにばかりかまけてる訳にはいかないはず。
わたしがそんな事を考えていると、シャルロット様が怪しい笑みを浮かべた。
「レン? ぬいぐるみも良いんだけど、私達のドレスの方はどうなってるのかしら? レンがルミさんを捕まえたまま離さないもんだから、最初に絵を描いてもらってから何も進んで無いのよ?」
シャルロット様、ムッチャ上品で綺麗な笑みなのに、すごい迫力だ。
わたしがレンヴィーゴ様の立場だったら、涙目の直立不動で口をパクパクさせちゃうかもしれない。
だけどレンヴィーゴ様の方はシャルロット様の笑顔の下に隠れた迫力にも気圧される事が無い。
「母上、そうは言いますが特異魔法の検証によって今以上に魔法について解明されるような事があれば、領として国内で大きな影響力を持つ事になります。領としてはルミさんの特異魔法の検証を優先すべきです」
「今までだって特異魔法は幾つか報告されてて、多くの魔法使いが検証をしていたのに大した成果は出て無かった筈よ? そんな出来るかどうか分からない特異魔法の解明なんかより、新しい仕立てのドレスで貴族の夫人や令嬢に多少なりとも影響力を持つ方が有意義だし確実性が高いと思うわ」
可能かどうかは分からないけど当たれば大きい特異魔法の解明か、より確実に当てられるけど限定的な影響力しかもたらさない新作ドレスかって話だ。
「女性が着飾る事に強い執着があることは認めますし、男性側がそれを望む事があるのも事実としてありますが、ドレスなどは一度表に出れば、すぐに他の領地でも真似をする者が現れ、優位な立場は長くは続きませんよ」
「そんな事ないわよ? 一度、スペンサー領で作られるドレスは良い物だっていう評判が立てば、他から似たようなドレスが出てきたとしても、そっちはニセモノ、まがい物扱いされるものよ」
「それは素材そのものや仕立ての丁寧さなどが抜きんでていればの話でしょう?」
美人母とイケメン息子の穏やかな口調なのに火花散る舌戦。どちらの言う事も一理あるように聞こえるね。
でも、これってどうやって決着するのかな? どっちも引く気はないみたいなんだけど。
美男美女親子が繰り広げるバトルを横目に見ながら、なぜか呆れ顔をしているエルミーユ様の隣にツツツと横移動する。
「エルミーユ様? これって、わたしはどうすれば良いんですか?」
「待ってれば良いわよ、いつもの事なんだから。……それに、そろそろ終わるわよ」
いつもの事ってどういう事? しかも、そろそろ終わる?
エルミーユ様の言葉が信じられなくて、頭の上に?マークを浮かべながら再び領主婦人と次期領主候補の二人を見る。
「……やっぱりレンが相手だと言いくるめられないわね」
「それはこっちのセリフです。父上を相手にしているときの方が優位な気さえします」
二人は言い終わると一息入れて、同時にわたし達の方に顔を向けてきた。
「このままでは決着が付きそうも無いので、皆さんの意見を伺いたいと思います」
「そうね。みんなの意見も聞いてみたいわ。特異魔法の検証とドレスの作成、どっちを優先するべきだと思う? 人数が多い方を優先させるって事で良いわね?」
あれ? ここって中世ヨーロッパ風のファンタジー世界で、身分が高い人の意見が絶対なんじゃなかったの?
なんで多数決なんてしようとしてるの?
1週間お休みしちゃいました。
あと、ちょっと熱中症気味・・・ちょっと動くだけで身体中が攣りそうです (T_T) 顎の筋肉までイタイのは、どういう事なんですかね?




