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検証作業 10

「姉上の場合、勉強している振りをして落書きをしている事が多かったですからね」


 レンヴィーゴ様がにこやかに暴露すると、エルミーユ様が慌てて立ち上がった。


「レン! 余計な事は言わなくて良いの!」

「ああ、また僕は余計な事を口にしてしまったようですね。姉上、申し訳ありません」


 爽やかな笑顔で言葉を返すレンヴィーゴ様。絶対悪いって思ってないよね、その表情。


 エルミーユ様が昭和時代のツッパリみたいなドレスを着ているわけじゃ無いようなので、ちょっと安心した。スタイル抜群の美人さんだから、どんな服でもそれなりに着こなしちゃう様な気がするけどね。


 姉が大きな声で騒いで、弟がそれを軽くいなすような姉弟喧嘩を眺めながら、エルミーユ様のツッパリコスプレ姿を妄想していると、シャルロット様が額を抑えて盛大な溜息をついた。


「二人とも、いい加減にしなさいな。話が全然進まないじゃないの。早いところ検証作業とやらをやるんじゃないの? 検証が終わらなければスタンが書類の山に埋もれて倒れちゃうかもしれないじゃないの」

「っと、そうでした。失礼しました。問題になっているのは母上とレジーナには絵が描けないという事でしたね」

「そうよ。まさか絵の練習から始める訳にもいかないでしょう?」

「それでは、母上とレジーナには別方向からの検証をしてもらいましょう」


 レンヴィーゴ様はそう言うと私の方に向き直る。


「ルミさん。ルミさんがマール君のぬいぐるみに可能な限り近いものの絵を描き、それを基に母上とレジーナに作って貰いたいと思うのですが、可能でしょうか?」

「えっと、以前にシャルロット様とレジーナさんの針仕事の様子は見させてもらいましたが、あれだけの腕があれば十分に可能だと思います」


 以前、マールの服を仕立てるために手伝ってもらった事がある。その時に見た二人の技術水準はそこそこ高かった。少なくとも、ウチの母さんよりは。


「では、ルミさん。マール君のぬいぐるみと同じものを母上とレジーナに作ってもらい、それがルミさんの作ったマール君と同じように命を得て動き出すようになるのかを検証して、同時にルミさん自身ももう一度マール君と同じぬいぐるみを作って試してもらうという事で、お願いしても良いですか?」


 レンヴィーゴ様の考えでは、まずはわたしがマールと同じぬいぐるみを作る事で、同じ現象が再現されるかというのを確かめたいらしい。


 これにはわたしも賛成だ。

 わたしの特異魔法というのが、わたしが考えている通りの効果なのかどうか、そして、どんな条件なら発生するのかを知る為には絶対に必要な検証だと思うから。


 もう一度特異魔法を発動させることが出来ないと、その後の検証もままならないからね。


「わかりました。それでやってみます。……それで今作っている『火種売りの少女』のぬいぐるみはどうしましょう?」

「そちらは、後日に回すことは可能ですか?」

「それはもちろん可能です」


 正直、『火種売りの少女』というモチーフは思い入れも何もない。

 モデルとなった初代王妃であるフラーマ様の事はよく知らない人だし、お話自体も知らないから。

 後回しになったとしても、それほど気にならないかなぁ。いつか完成させることが出来れば良いって感じ。


「それじゃルミさんが私達の分の型紙まで作ってくれるって事で良いのね?」


 話を聞いていたシャルロット様が、そう言いながらちょっと安心したような表情を浮かべる。


「はい。さっそく型紙起こしちゃいますね」


 わたしは最近ようやく慣れてきたこちらの世界のちょっと低品質な紙をテーブルの上に広げた。


「え? ルミさん? 型紙を用意するのよね?」

「はい? そのつもりですけど?」


 答えながら、インクの蓋を開けて、ペンを握る。


「それでどうやって型紙を用意するの? まさか型紙も魔法で用意するのかしら?」


 えっ。そんな魔法あるの? もしそんな魔法があるならぜひ覚えたいんだけど!

 もしそんな魔法があるとして、それを教えてくれそうなのはやっぱりレンヴィーゴ様だ。

 わたしが期待に胸を膨らませてレンヴィーゴ様に視線を向けると、レンヴィーゴ様は苦笑しながら首を左右に振った。


「残念ながら、そんな便利な魔法は有りませんよ。これから、そんな魔法を作り出す人が現れるかもしれませんけどね」


 そう言って、意味ありげな笑みを浮かべるレンヴィーゴ様。

 やっぱり無いのかぁ~~。まぁ、それほど期待してたわけじゃ無いけどさ……。


「やっぱり、そんな便利な魔法は無いんですね。それじゃやっぱり自力でやります」


 魔法を作り出す人が現れるかもしれないうんぬんっていうのは、誰の事を指しているのか気が付かなかったことにして紙に向き直ると瞼を閉じて、頭の中の書類ラックに保存されている型紙を引っ張り出す。

 

 実はこれ、わたしの数少ない特技。自分で作ったぬいぐるみの型紙は全部記憶しているのだ。頭の中にある型紙をアウトプットするだけなので、何度でも全く同じ型紙を作ることが出来るよ。


 当然、マールのぬいぐるみを作るときに使った型紙だって覚えてる。一番最近に作ったぬいぐるみだし、正直、作り慣れたタイプでもあるからね。


 わたしは記憶の中にある型紙をそのまま目の前の紙に書き出していく。


 部屋に居る皆が、わたしの作業の様子を覗き込んでいるのは分かってたけど、それはあえて気が付かない振りをして目の前の紙に集中すれば、数分で型紙を書き出す事が出来た。

 一応、『頭』『胴体(お腹側)』『胴体(背中側)』って感じで、部位毎に名前を書いておくのも忘れない。

 わたし自身は型紙を切り出した後でも分かるけど、他の人だと覚え切れないかもしれないからね。


「これはスゴイわね……。この型紙をそのまま作ればマール君のぬいぐるみになるの?」


 最初にそう言ったのはエルミーユ様。


「はい。針子さんの針の運び方のクセみたいなモノで多少のブレはあるかもしれないですけど……ほぼ同じものになるはずです」

「これは技術とか習練とかそういうのじゃないわね。生まれ持った才能なんじゃないかしら?」

「イエイエッ! そんなスゴイ事じゃありませんから!」


 シャルロット様も驚いた顔をしているけど、それは大げさじゃないかなぁ? 多分、他にも出来る人は居ると思うよ?

 子供が電車や駅の名前を暗記しちゃうみたいな感じで、その事が本当に好きなら覚えちゃうと思うんだよね。わたしの場合は、それがぬいぐるみの型紙ってだけの話で。


「ルミさんがスゴイというのは同意ですが、今はそれは置いておいてですね……。これで母上とレジーナもぬいぐるみを作る事が出来るって事で良いですか? 小麦粉や塩なんかはもう必要無いんでしょうか?」

「小麦粉とかは必要です。エルミーユ様とポリーちゃんに作ってもらうぬいぐるみは、型紙作りからやらないとならないので」


 ポリーちゃんの角ウサギぬいぐるみとわたしの『火種売りの少女』ぬいぐるみは、カビに侵食されてしまったのだ。普通の油粘土とかだったら、そんな事にはならなかった筈なんだけど。……ガッカリだよ。


「わかりました。では、また小麦粉や塩は手配しておきますね」


 小麦粉やお塩の手配もお願いできた事で、内心で胸を撫でおろす。レンヴィーゴ様のことだから、明日には用意してくれるはずだ。

 わたしの方は手元に届くまでに他の作業を進められる。具体的には、シャルロット様たちのぬいぐるみ作りのサポートと、エルミーユ様の設計図づくりだ。


 そんな事を考えていると、視界の隅で眉間にしわを寄せているエルミーユ様の姿に気が付いた。

 エルミーユ様の視線は、わたしがつい先ほど描き上げた|擬人化猫≪マール≫ぬいぐるみの型紙に向かっているのが分かる。


「あの、エルミーユ様、どうかしましたか?」

「うん、ルミの描いた型紙見てて思ったんだけどさ。私が描いたドラゴンって、もしかして、ひょっとして、まさかとは思うけど……ぬいぐるみにするの無茶苦茶難しくない?」


 気が付いちゃいましたか……。

「いい加減にしなさいな。話が全然進まないじゃないの。」


本文中にあるシャルロット様のセリフが、私の精神をえぐりにきているような気がします・・・ぎゃふん。

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