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検証作業 7

 エルミーユ様の髪を詰め込んだぬいぐるみ。

 検証の結果、当然のように失敗。


 マールの時との違いはと言えば、色々ある。

 例えば、場所、時間、モチーフ。ぬいぐるみに入れた身体の一部が本人の物かどうかって点も違うね。


 だけど、どれも決定的な要因じゃないような気がするんだよ。なんとなくだけど。


「……一度、マールの時と全く同じ状態というのを試してみたいですね」

「それは僕も思いますね。ルミさん、もし今からぬいぐるみを作るとして、どのくらいの時間がかかりますか?」

「そうですね……材料が揃ってて、ぬいぐるみ作りだけに集中できるなら、明後日にはできると思うんですけど……。でも、マールのぬいぐるみと全く同じ物は作れません」

「それは何故です?」

「素材の問題ですね。こちらの世界には存在しない素材も使っているんです」


 こっちの世界でも頑張れば用意できるかもしれない素材もあるけど、どうやっても無理って物もある。その代表がヒゲを表現するために使ったナイロン糸だ。

 ナイロンって確か石油を原料にしてるんだよね? この世界に石油があるのかどうかは不明だけど、仮に石油が存在していたとしてもナイロンなんてものが作られているとは思えない。もちろん、わたしに作れるはずもない。


 なので、この世界でマールのぬいぐるみを完全再現することは不可能なのだ。


「ああ、そういう事ですか。こちらの世界に存在しないというのは間違いありませんか?」

「おそらくですけど。お屋敷の中で、そういう物を見たことが無いですね」

「王都などの人が多い場所にならある物かもしれませんよ?」

「えっと、それじゃ念のために確認しますけど……。地面から湧き出てくる黒くて燃える水ってご存じですか?」

「燃える水というのは、動物などから取れる油の事ですか? それが地面から湧き出してくる? ……残念ながら聞いた事がありませんね」


 わたしが確認したのは、もちろん原油の事だ。原油が無ければ石油も無いし、石油が無ければナイロンも無い。

 やっぱり、この世界では原油はまだ発見されてないっぽい。なにしろ、何でも知ってるレンヴィーゴ様が聞いた事が無いって言うんだから、それは存在しないってのと同義。もしこの世界に原油が存在していたとしても、少なくともスペンサー領で手に入れる事は出来ないって事だ。


「レンヴィーゴ様が知らないという事は、そう簡単には手に入らない物だと思います。しかも、その燃える水が手に入ったとしても、それに色々手を加えなければならないんですけど、わたしはそのやり方が全く分かりません」


 わたしがそう言うと、ムッチャ残念そうな表情を浮かべるレンヴィーゴ様。そんなレンヴィーゴ様を見て、首を傾げたのはエルミーユ様だ。


「ねえ、それってそんなに重要な事なの?」

「正直に言ってしまえば、重要かどうかも分からないですね。もしかしたら、ルミさんの居た世界の素材で作られたぬいぐるみだからこそ、魔法が発動したのかもしれません」

「それなら、他に検証しなくちゃならない部分を全部試してみて、思いつく限りのことをやり尽くしてもダメだったら、ルミが居た世界の素材じゃなきゃダメって考えれば良いじゃない」

「それはそうなんですが……」


 それって悪魔の証明に近い物を感じるよ。


「無いものねだりをしてもしょうがないでしょう? それに、もしかしたらぬいぐるみの素材は全く関係なかったなんて話になるかもしれないんだし。……とにかく、まずは色々やってみるべきだと思うわ」


 そんな話し合いという名のエルミーユ様のごり押しを受けて、わたし達は検証作業を続けていくことになった。

 具体的には、材料を集めてぬいぐるみを作る作業だ。

 わたしが必要な素材である布とか糸とか綿とかを書き出して、それを基にレンヴィーゴ様が手配。

 わたしとポリーちゃん、エルミーユ様の三人でぬいぐるみを作るという流れだ。


 わたしがぬいぐるみを作るのは当然なんだけど、ポリーちゃんとエルミーユ様に作ってもらう事にも意味があったりする。

 わたしが作ったぬいぐるみ以外でも魔法が発動するのかを確かめる為だ。

 まずは、本当にわたしの特異魔法がぬいぐるみに命を吹き込む効果を持ったものなのかを確認するべきっていうのは分かっている。

 だけど、他にこれと言って思いつくものが無いのが現状だ。なので、ぬいぐるみに命を吹き込む魔法であると仮定して、その条件を明確にしておくべきというのが、わたしとレンヴィーゴ様の共通した考えだった。


 他の人が作ったぬいぐるみでも発動するのか。モチーフが猫以外だったらどうなのか。生き物ですらないモチーフではどうか。そして、ぬいぐるみ以外の土人形や藁人形の様なものでも発動するのか、


 試しておかなくちゃならない事は山ほどある。ほとんどレンヴィーゴ様が思いついたものだけど。


 それらを一つずつクリアしていくのでは時間ばっかり掛かってしまうので、並行して作成していこうという考えだ。


 レンヴィーゴ様が材料の手配を進めてくれている間に、わたしとポリーちゃん、エルミーユ様はぬいぐるみ作りの為のアイディア出しをする事にした。もちろん、これも検証の一つ。

 わたし以外の人がどんなぬいぐるみを作るかから考えたぬいぐるみで、魔法が発動するかを確かめるための検証だ。


 ポリーちゃんは、すでに『ジャッカロープであるノエル君の彼女』というモチーフで作り始めてたけど、その時にはぬいぐるみ作りに参加出来てなかったエルミーユ様の為に、また一からぬいぐるみ作り教室を開催する事になる。


「ルミとポリーがぬいぐるみを作ってたのは知ってたのよ。だけど、私は勉強させられてたじゃない? 今回、ルミの特異魔法の検証の為って大義名分が出来たから堂々と参加できるのよね」


 そう嬉しそうな笑顔を浮かべるエルミーユ様だけど、特別ぬいぐるみが好きって訳じゃなかったりする。嫌いって訳では無いんだろうけど、それほど興味があるわけでも無いというか。

 そんなエルミーユ様が何故そんなに喜んでいるのかと言えば、勉強をサボれるからだと思う。エルミーユ様って地頭は良さそうなんだけど、勉強は好きじゃ無いってタイプみたいなんだよね。

 まぁ、わたしだって勉強大好きってタイプじゃないから、気持ちは分かるけども。


「それで、最初は何をやれば良いの? 私、ぬいぐるみなんて作った事ないから全く分からないんだけど?」

「あ、はい。それじゃ最初は、どんなぬいぐるみを作りたいかを考える所からです。好きな動物とか人物とか、まったくの空想上の生き物でも良いので、どんなぬいぐるみにしたいかを考えて、絵に描いてみてください」


 ポリーちゃんに教えた時と同じように、まずはどんなぬいぐるみにするかというアイディア出しから始めて、絵を描いて、図面にしてという手順を教えていく。

 エルミーユ様はウンウンって感じに聞いてて、すぐに作業に取り掛かったんだけど、なんか予めどんなぬいぐるみにしたいかっていうのは決めてあったみたいで、サラサラとペンを走らせている。


 エルミーユ様にはそのままぬいぐるみのアイディアを出してもらっておいて、わたしとポリーちゃんの二人は自分達の作業を進める事にする。

 わたしは『火種売りの少女』を模したぬいぐるみ、ポリーちゃんは角ウサギことジャッカロープを擬人化したぬいぐるみの作成を進めるのだ。


 ここ何日か魔法に関する事に時間を取られて、手付かず状態で放り出してあった小麦粉粘土をポリーちゃんにお願いして引っ張り出してきてもらう。


 正直、嫌な予感はしてる。もう、ヒシヒシと。


 どんな予感かって、小麦粉粘土の状態だ。小麦粉に少量の水とお塩と油を入れて捏ねただけの物。それを何の対策もせずに放置しておけばどうなるか。

 水分が飛んでポロポロ状態に固まってしまうのなら、まだ良い。表面の硬くなってる所を削り取って、水分を与える事で復活するから。


 最悪なのは、それとは別の状態だ。

 恐ろしい事に、放置した小麦粉粘土はカビが繁殖してしまう事があるのだ。


 この世界に日本の様な季節の移り変わりがあるのかはまだ分からないけど、体感的には日本の四月下旬から五月中旬くらいに感じる。梅雨時程の湿度は感じないけど、それでもカビが発生しててもおかしくない気候条件でもある。

 おまけに粘土として使っていたので、素手で捏ね繰り回してるのだ。

 手には雑菌がいっぱいって話もあるくらいだから、そこから小麦粉粘土に雑菌が付着して、その菌が繁殖する事だって容易に想像できる。


 ……こわいよぅ~。


 小麦粉粘土は両手で持てるくらいのミカン箱サイズくらいの木箱に入れて、その上から布巾みたいなのを掛けて、冷暗所に保管して貰っておいた。


 ポリーちゃんが持ってきてくれた木箱の中で、粘土の状態は分からないけど、なんだか異臭がするような……。


 正直、見たくないけど、見ない訳にはいかない。


 覚悟を決めて、布巾の端っこの方を持って少しだけ捲ってみる。


「ひぃ!?」


 小麦粉粘土だったものは、着色料とか入れてないのに何故かカラフルになってた。

私の中で、エルミーユがどんなぬいぐるみを作ろうとするのかが、なかなか決まりません。

なので仕事中に考えたいと思います。

候補はいろいろ浮かぶんですけど、

それによって話にどう絡ませるかも変わってきちゃいそうで悩んじゃってるんですよね。

プロットしっかり組めてれば、こんなに悩まずに済んだはずなのに……

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