検証作業 5
「もし……、もしもの話よ? その憶測が当たってたとしたらさ……、それって創世神話で神々が人間を生み出したのと同じって事じゃない?」
エルミーユ様の突飛な発言で、呆然としてしまうわたし。
神話とか昔話とかおとぎ話とかって、いくつか類型があったはずだ。他の調べ物をしている時にチラッと読んだだけなので、よく覚えてないけど。
たしか、神様が世界を作ったとか、無茶苦茶大きな巨人の遺骸が世界になったとか、夫婦神が世界を産み落としたなんていうのがあったはず。たぶん。
それとわたしの魔法が同じっていうのはどういう事だろう? そもそも、この世界の創世神話ってどうなってるのかな?
「なるほど。確かに、ルミさんがマール君を生み出したという事実だけを見ると、神々の御業のようにも聞こえますね。姉上、珍しく冴えてますね」
「なによ! 私だってちゃんと勉強してるのよ! たまにサボる事はあるけど!」
「いつもサボってて、たまに勉強してるだけじゃないですか……」
ヒートアップしたエルミーユ様を、冷静沈着なレンヴィーゴ様がヒラリと躱すような会話。仲が良さそうで何よりだけど、二人の会話の気になった事を聞いてみる。
「あの、この世界の創世神話ってどんな感じなんですか?」
「あ~~、えっと……。レン、ルミに説明してあげて」
「勉強してるはずなのに僕に丸投げですか?」
「私が説明するより、レンが説明する方がルミさんだって分かりやすいでしょ。レンは教え魔なんだから」
「教え魔とはずいぶんな評価ですね」
そう言って苦笑するレンヴィーゴ様。
確かにレンヴィーゴ様って色んな事を知ってて、それを他の人に説明したり教えたりなんて事も好きなんじゃないかなって感じる事はある。
「では、教え魔である僕が簡単に説明すると、この世界は一柱の男神を取り合う二柱の女神の喧嘩の為に生みだされたとされていますね」
「? えっと、どういう事でしょう?」
「そのままの意味なんですが……。とある一柱の男神を我が物にしようとする二柱の女神が居まして、その二柱の女神が天界にて大きな争いを起こし、そのせいで天界が荒れてしまったため、それ以上、天界に被害を広げない様にと考えた神々の女王が争いの場として作り出したのがこの世界とされています」
……訳が分からないよ。
「争いの場として作られたこの世界ですが、他の世界を模して作ったもので、大地や海等は有っても、動物や植物、人間などは存在しておらず、まさに神々が戦うためだけの場所だったらしいです。そして長いあいだ争いは収まる事無く、より過激になっていきますがなかなか決着が付かず……。少しでも相手を上回ろうと考えた女神たちは、何方からともなく自らの軍勢を作り始めたそうです」
「軍勢ですか?」
「ええ。自らの軍勢をより多く、より強くしようとした女神たちは配下としてドラゴンやグリフォンなどの魔獣を生み出したとされています」
ドラゴンにグリフォン!
ファンタジー世界のビッグネーム! 一度くらいは遠くから見てみたいよ! あくまでも遠くから。絶対に近寄りたくはない。
「神々の手により作られた魔獣たちですが、戦いの場では神々を凌ぐほどではないにしろ、それなりに活躍はしたようです。そのため、女神たちは続々と魔獣たちを生み出していきます。そうして生み出された魔獣たちですが、魔獣と言えども生きていくため何かを食べなければなりません。当初は神々がその都度食料を作っていたようなのですが、長引く争いの中、それも難しくなっていきます。そこで作られたのが動物や植物たちです」
「つまり動物とか植物は魔獣の餌として作られたって事ですか? ……まさか人間も?」
「いえ、人間、つまりエルフやドワーフ、メディロイドなどはちょっと事情が違います。……神々は長い時を戦い続け、お互いに疲弊していきます。ですが、お互いに争いを止める事は出来ず、魔獣を生み出す事も止められませんでした。そうなると餌の管理も大変です。なので動物や植物には自ら子孫を残すチカラを与える事にしました」
ん? それって逆に言えば、神々に生み出された魔獣たちは、子供を生み出す力が無いって事?
「そうして、神々と魔獣たちが争い、動物や植物たちが数を増やしていく中、子供を作ることが出来ない魔獣たちは、その数を減らしていくことになります。その頃には疲弊しきった女神たちには、新たに魔獣を生み出す余裕が残っていなかったようなのです」
「えっと、そうなると魔獣の為に生み出された動物や植物は……」
「気が付きましたか。魔獣の餌として作り出された動物や植物は、捕食者である魔獣が数を減らした事で、次第にその数を増やしていく事になります。そしてこのままでは世界を埋め尽くしてしまうとなった頃に、女神たちは自らの軍勢としてだけでなく、動物や植物の数を減らす事も目的にして、それらを食べて数を減らすための種族を生み出しました。それが現在、人間と亜人と呼ばれる種族になります」
レンヴィーゴ様の解説によると、最初に作られたのはエルフだったらしい。だけど、増え続ける動物や植物を生み出してしまった事に反省して、生殖能力が低く、そう簡単には増えない、その代わりに長命な種族として作られたそうな。
同じ様にもう一方の女神も同じ目的で一つの種族を作ったらしい。それが豚頭の亜人オーク。こちらは寿命はそれなりで知能は低めだけど、暴飲暴食の種族として生み出されたらしい。
エルフやオークは魔獣と呼ばれる存在に比べると、矮小な存在で、かわりに生み出すためのコストが低いという存在だった。
なので、力を失いつつあった女神たちは、魔獣の代わりにエルフとオークを生み出し続けたそうな。
二柱の女神にそれぞれ作られたエルフとオークは、自らの創造主と同じようにお互いを敵視しあい、争いを始める事になっていくんだけど、どちらかが優勢になるともう片方の女神が新しい種族を作り出し世界に送り出すという形で、ドワーフやコボルト、ゴブリンやプチロイド、メディロイドやオーガが生み出されたというのがこの世界の創世神話になるらしい。
「女神たちは新しい種族を生み出すときには、土を捏ねて人型を作り、それに魔法をかけて生命を与えたとされています。これは、ルミさんが予想している特異魔法の効果、布と糸と綿とで人形を作り、魔法をかけて命を与えるという物と酷似しています」
この世界では、人間は直接的に神様が生み出したものと信じられているみたいだ。当然、進化論とか無いんだろうなぁ……。
「もしルミの特異魔法が本当に女神様と同じものだったとしたら……、えっと、どうなるの?」
エルミーユ様の質問がレンヴィーゴ様へ飛ぶ。
「そうですね……。とりあえず、神殿関係者にバレたら取り込もうと動き出すんじゃないでしょうか? なにしろ信奉している神々と同じ力を持つ存在という事になるのですから、女神の生まれ変わりとして自分達の所で祀り上げたくなるんじゃないですかね?」
うわ……。それは怖いね。
わたしが日本人だからなのか、どうも宗教というモノには馴染みがなくて、あんまり良い印象も無い。どうしても、怪しい壺とか数珠とかを高額で売りつけるようなカルト宗教的な物を想像しちゃうんだよね。
あとは、ラノベとかで出てくる悪役キャラ。たいていは悪徳貴族と繋がってて、私腹を肥やしているようなイメージが強い。
そういうわけで、出来る事なら宗教関係にはあんまり近づきたくないってのが本音だ。
もちろん、聖女様とか巫女様みたいな清廉な人も居るんだろうけどさ。
「それは、あまりお近づきにはなりたくないですね」
「そうですか? 神殿にも何人か知り合いが居ますが、悪い人たちではありませんよ?」
「私も何人か知ってるけど、悪い印象って無いわね」
レンヴィーゴ様とエルミーユ様、ふたりの反応が予想外な物だった。
もしかして、魔法があるこの世界だと神様も本当に居て、神様が実在するからこそ宗教関係者の人たちも清廉潔白な人ばかりだったりするのかな?
いや、もしかしたらわたしが元居た世界だって神様は居るのかもしれないけどさ。残念ながら、わたしは神様って存在には会った事もなければ見た事も無いんだよね~。
「まぁ、ルミさんにしてみれば、あまり近づきたくないという気持ちがあるのも仕方がないとは思いますけどね。実際、神殿に取り込まれてしまったら、自由に動くのは難しくなるかもしれませんし」
「あ~。それは言えてるわね。神殿に居る人たちって悪い人ではないけど、頑固な人は多いもの。女神の化身たる聖女は神殿に居るべきだ~とか言いそうだわ」
そう言って苦笑を浮かべている美男美女姉弟。
わたしとしては、神殿とか教会とかで元の世界に帰る方法が分かるのなら、一度や二度なら足を運ぶくらいはしたいと思うんだけどね。
元の世界の中世ヨーロッパとかだと、宗教関係は知識の集まる場所だったという話は聞いた事がある。
この世界でも、一般の人よりは知識がある人が集まっている場所ではあるかもしれない。そうなると一度くらいは行かなくちゃならないと思う。
「他の貴族連中がどう動くかは分かり切ってますね。ルミさんの持つ異世界人の知識という餌だけでも十分美味しい事が予想されますが、女神の化身の様な魔法を使える聖女としてのルミさんを自分の懐に取り込めれば、それは神殿にも強い影響力を持てるという事を意味します。つまりは周辺国家にまで及ぶ影響力を得ることが出来るという事になりますね。野心ある貴族なら放っておくはずがありません」
わたしを軟禁して表に出さずに、神殿に対して聖女様がこう仰っていると自分の要求を突き付ければ、全てが叶う事は無いにしても、かなりの部分で融通を利かせられるようになるって事らしい。
うへぇ。そんなのに利用されるなんて真っ平御免だ。
でも、そう考えるとスペンサー領の領主一家の皆さんは、今の所はそんな素振りを見せないけど、やっぱり少しは期待されてるのかな。
一応、生活とか身の安全なんかと引き換えに、わたしが出来る限りの知識を提供するっていう契約ではあるんだから、なにかしらのリターンは期待してるんだと思う。
だけど、なんというか、全くせっついて来ないんだよね。
エルミーユ様とシャルロット様は新しい様式のドレスのデザイン案を求めてきたけど、それだけだ。
領主であるスタンリー様と次期領主候補であるレンヴィーゴ様は、役に立ちそうな知識を要求してくるような事も無ければ、何かをするように強要してくることも無い。
レンヴィーゴ様はわたしとマールに魔法の勉強をするようにって言ってくるけど、それだって半分はわたし達自身の為だ。
つまりは、食事の準備から掃除洗濯にいたるまで、ほぼほぼ全てを賄ってもらっているお客様状態。
んー。こんな何から何まで甘えたような状態で良いのかな?
もっと、色々考えて、知識やアイディアを出していかないと、最悪の場合、愛想を尽かして他の悪徳貴族とかに売り飛ばされちゃうんじゃ……。
怖い想像が頭をよぎって、胸を締め付けられるような不安を覚える。
そんなわたしを見たレンヴィーゴ様が心配そうな表情を浮かべる。
「ルミさんの特異魔法が、予想通りものと決まった訳ではありませんから、今から心配しててもしょうがないでしょう。もしかしたら、もっと別の、全く役に立たない魔法っていう可能性だってあるんですから」
「そうね。まずは特異魔法の正体を見極める所からよね。ルミ! ちゃっちゃと検証始めましょう!」
ふたりとも、わたしが別の事で不安になっている事には気が付いていないみたい。
わざと明るく振舞ってくれているようにも見える。……なんだか申し訳ない。
だけど、せっかくのチートが全く役立たずっていうのも、それはそれでちょっと寂しいなぁ。
ストーリーが迷子! (・∀・)
創世神話の所は、最初の頃から考えていた設定ではあったりします。
神々の女王という存在が、『他の世界を模して作った世界』で、その参考にした世界がたまたまルミ達が住む世界。
なので、大気の成分も同じだし、1日は24時間だし、1年は365日だし、4年に一回うるう年だってあるし、重力も同じという裏設定デス。
でも、参考にしてるだけなので、全部が全部同じでは無いデス。星の配置とか違うし大陸や島の形とかも違います。
お話にはあんまり関係ないです。でも、こういうの考えるの楽しかったりします (*‘ω‘ *)




