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検証作業 3

「それでは。これよりルミさんの持つ特異魔法の検証を始めましょう」


 ウキウキ顔のレンヴィーゴ様。新しいゲームを買ってもらった従兄弟がこんな顔してたなぁ。従兄弟には申し訳ないことに顔面偏差値は圧倒的にレンヴィーゴ様の方が上だけど。


 ここは相変わらずのレンヴィーゴ様の私室で、この部屋に居るのはわたしとマール、そしてレンヴィーゴ様の三人だ。


「にゃー。マールも参加しなくちゃダメなのにゃ?」

「出来れば参加していただきたいですね。マール君の存在が何らかの手がかりになる事があるかもしれませんし」


 わたしとしては、レンヴィーゴ様の言った理由とは別の理由でマールにも同席して欲しかったりする。

 レンヴィーゴ様ってイケメンすぎて、二人っきりだとわたしの心臓に悪いから。


 そもそも、特異魔法の検証なんかより、これから生活していく上で自分に何が出来るのかを考えたい所なんだけど、レンヴィーゴ様はわたしの特異魔法に興味津々なんだよね。

 スペンサー家にお世話になってる身としては、当然、無碍に出来るはずもなく。


「さて。とりあえずですが、正体不明の魔法陣を見せて戴けますか?」

「見て分かる物なんですか?」


 正直、わたしも何回か見たけれど、魔力矢とか魔力盾と全く違う魔法陣だった為、理解することを諦めた。なんか、脳みそが理解することを拒絶してるんじゃないかって位だったよ。

 魔力矢とか魔力盾の魔法陣と比べて、とにかく複雑なんだよね。


 魔力矢と魔力盾の魔法陣は隣にお手本を置いて描き写したけど、特異魔法と思われる魔法陣は、とてもじゃないけど描き写す気にはなれない。複写するならコピー機が必須って感じの複雑さだ。


「率直に言ってしまえば、魔法陣を見ただけでは全く分からないとは思います。先日、ちらっと見せて戴いた時に流石の僕も諦めました」


 そう言って苦笑するレンヴィーゴ様。

 まぁ、わたしとしては、とりあえず検証作業のとっかかり位にはなるかと思うので、魔導書を出すくらいはするけど。


 魔導書を身体の中からニュイっと引っ張り出してテーブルの上に広げると、レンヴィーゴ様は早速とばかりに喰い気味に覗き込む。


「やはり、かなり複雑な魔法陣ですね……この魔法陣から解析していくのは難しそうです」


 半分独り言のように言うレンヴィーゴ様につられて、わたしも、もう一度魔法陣を見てみるけど、レンヴィーゴ様に分からない物がわたしに分かるはずもない。

 分からないものを眺めてても全く面白くないんだけど、レンヴィーゴ様が夢中になってしまっているので声を掛けるのも躊躇われる。


 仕方がないので、隣の椅子に座るマールを抱き寄せて膝の上にのせて、モフモフを堪能しながら待つことにしよう、そうしよう。


 わたしとマールがじゃれている間、レンヴィーゴ様はどうやら魔法陣を描き写しておくことにしたようで、用意してあった紙にペンを走らせ始めている。


 これは、すごく時間かかりそう……。少なくとも10分や20分で出来る仕事じゃないよ。


 魔導書はレンヴィーゴ様に預けて、わたし、自分の部屋で他の事やってて良いかな?


 わたしがそんな事を考え始めた頃、扉のドアノブが動く音がした。振り返ってみると、ほんのちょっとだけ扉が開いている。不思議に思ってじっと見つめてると、空いた扉の隙間からひょっこりとノエル君が顔を出した。


 ノエル君スゴイ。角が生えてるとはいえ、その他の部分はまるっきりウサギそのものなのに、自分でドアノブを捻って扉を開けたって事だよね?

 マールだったら分かるよ?

 身長は低いけど、手足は人に似た構造になってるからドアノブを握る事だって出来るし、フォークとかナイフとかのカトラリーも使いこなせる。持ち手の無いコップだって持てるのだ。

 だけど、ノエル君の場合は手というより前足。もちろん身長だって足りてない。

 それなのに、ドアノブに飛びついて、しがみ付いて捻って、一人で扉を開けちゃったって事だ。


 恐るべし、異世界のウサギ。……気合入りすぎだ。


「マール、いる?」

「ありゃ……」

「ノエルにゃ?」


 魔法陣に集中していたレンヴィーゴ様も、さすがに気が付いたらしい。


「おや? ノエル? どうしました?」

「マールとあそぶ」


 最近、ノエル君とマールはよく一緒に遊んでる事が多い。

 マールは日本で過ごした期間を含めると、実はもう10歳位で、猫としてはオジサンってくらいの年齢なんだけど、いつまでも少年のようというか、子供心が残っているという感じなので、3歳くらいでしかないノエル君とも普通に遊んだりしているんだよね。

 まぁ、ノエル君の3歳というのも、普通のウサギと同じと考えれば人間の30代くらいになるはずなんだけど。


 そんなわけで時間が空くといつも一緒にいた二人だから、ノエル君は今回もマールを誘いに来たんだと思う。

 マールの方も、ここでわたし達に付き合って退屈な時間を過ごすよりもノエル君と遊びたいみたい。それでもレンヴィーゴ様に居て欲しいと言われた事を覚えていたのか、困ったような表情をわたし達に向けている。


 そんな表情を見せられたら、普段だったら「仲良く遊ぶんだよ~」って感じで送り出してあげるんだけど、さすがのわたしもレンヴィーゴ様の意向を無視してそんな事は言えないよ。

 なので、わたしも困った表情を作ってレンヴィーゴ様に視線を向ける事にする。

 当然、わたしとマールの視線に気が付いたノエル君も、この場で決定権があるのは誰なのかが分かっているみたいで、ウルウルとした瞳でレンヴィーゴ様を見上げる事になる。


 六つの目にジーっと見つめられたレンヴィーゴ様は、ほんの少しだけ渋い表情をしてから大きくため息を吐いた。


「はぁ。わかりました。今日の所はマール君はノエルと遊んで来てください。……ただしっ! 屋敷からは出ない事、他の人の勉強や仕事の邪魔はしない事、それともう夜なので、あまり大きな声や物音を出して騒がない事の三つが条件です。約束できますか?」

「分かったにゃ~、マールは良い子だから約束は守るにゃ~」

「ノエルもやくそく、する」

「じゃぁ、早速行くにゃ! ルミしゃま、部屋のボール持っていくにゃ~」


 そう言って部屋を飛び出していくマールとそれを追いかけるノエル君。

 ボールを持っていくって事は、またサッカーごっこするのかな? 興奮してドタバタと大騒ぎしなければ良いんだけど……。


 部屋から出て行った二人を見送ったレンヴィーゴ様は、再び魔法陣を描き写す作業に戻った。

 カリカリというペン先の音だけが響かせ、真剣な眼差しで魔法陣を描き写す作業に戻るレンヴィーゴ様。

 レンヴィーゴ様に捧げられた生贄状態で、じゃれる相手さえも失ってしまったわたしには、その様子を眺めている事しかできない。

 まぁ、わたしの周りには居なかったレベルのイケメンだから、目の保養にはなるけどさ。


 でもね……キツイ。キツイよっ!

 なんかレンヴィーゴ様、無茶苦茶集中しちゃってるから声を掛けて邪魔しちゃうのは悪いし、なんか下手に動いて物音を立てるのも気が引けるから身動き取れないし!

 人物画のモデルさんだって、もうちょっと体動かしてるよ! なんて思ってしまうくらいにわたしは動けずにいた。


 そうして、そろそろ深夜と呼ばれる時間になる頃。

 ようやく魔法陣を描き写す作業が終わったレンヴィーゴ様は、大きく伸びをしてから満足そうな笑顔を見せた。


「ようやく終わりました。ルミさんも確認してみてくださいますか?」


 差し出された紙片を受け取ると、自分の魔導書に描かれた魔法陣と軽く見比べてみる。


 間違い探し? しかも超上級?

 たまに雑誌とか新聞、冊子とかに間違い探しクイズみたいなのが載ってたから、わたしも少しやった事がある。

 けど、在るかどうか不明な間違いを探すなんて、ただの苦行でしかないじゃん!


 それでも、ここで断るわけにもいかないので、両方を交互に見比べながら違う部分が無いかを確かめていく。

 自動車部品工場で働いている父さんによれば、実際に作業した人とは別の人の目によるダブルチェックでミスが発見される事って意外と多いって話だからね。


 そんなわけで、端っこからジーっと見比べてみるんだけど……やっぱりレンヴィーゴ様の描く魔法陣ってムッチャキレイだ。


 わたしの魔導書に浮き出た魔法陣は、わたしが書いたものじゃ無く勝手に浮き出てきたもので、円は真円だし直線は直線、直角は直角って感じで手書きではありえない精度で描かれてるんだけど、レンヴィーゴ様の描いた魔法陣もほぼほぼ遜色ない仕上がりなんだよ。

 なんていうか、こんなところにも几帳面さが滲み出てるよね。


 そんなレンヴィーゴ様があれだけ集中して描き上げた魔法陣が間違ってる部分なんて、もしあったとしても、わたしなんかに見つかるはずが無い。

 一応、一通り探してはみたけれど、やっぱり間違ってる部分なんて見つからないので、笑顔で紙片を返す。


「間違ってる部分は見つからないですね」


 無いとは言ってない。見つからないだよ!


「ルミさんに確認して貰えたのだから、きっと大丈夫ですね。それじゃ、さっそくこの転写した方の魔法陣に魔力を流してみましょうか」

「え!? い、今からですか?」


 わたしが聞き返すと、きょとんとした顔で首を傾げるレンヴィーゴ様。

 くそぅ~~イケメンはズルイな。こんな仕草まで似合ってしまうとは……。


「……あ、あぁ。そういえばだいぶ夜も更けましたね。それじゃ、今日の所はこれでお終いにして、また明日の朝からという事にしましょう」


 うぅ……。

 明日もこれに付き合わなくちゃならないのか。明日は朝からって話だし、もし一日中こんな状態だったら心も身体も壊れちゃいそうだ。


 何もしてないのにちょっとグッタリしつつ、それでもおやすみの挨拶をしてから自分の部屋に戻ってみると、マールがベッドの上でスピスピと寝息を立てながら爆睡していた。

 うんうん。ノエル君とたくさん遊んで疲れちゃったのかな~。疲れたって言っても、なんか幸せそうな寝顔だね~。うらやましいぞ~~。


 ……はぁ~~。

 明日も頑張ろ。

サブタイ詐欺が続いてます。

いやぁ~最初はすぐにサクッと光の速さで村に出る予定だったのですが・・・

「いやいや、レン様の性格設定的にそう簡単にルミ&マールを村に出す(逃がす)はずが無いじゃろ!」と考えてしまい・・・

次の次くらいには、ちゃんと村に行けると良いなぁ~


もしダメだったら、サブタイ変更するかもしれません orz


20210601 サブタイトル変更しました

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