検証作業 1
そこからの話し合いは、割とスムーズに進んだ。
わたしが、手に職を付けることを希望して、だけど自分に何が出来るのか分かっていない事も正直に打ち明けたからだ。
そして、わたしとマールが知っているこの世界が、ほぼほぼお屋敷の中だけという事も。
その為、わたし達が最初にする事はすぐに決まったのだ。それは、この領地の最大にして唯一の村、ギーンゲンの中を見て回る事だった。
村の中を見て回って、何が出来るか、出来そうかを見極めるつもりだ。
とにかく手に職を付けたい。しかもある程度の自由時間を確保できて、それなりに稼げる仕事を。それが簡単な事じゃないのは分かっているけど、仕事に拘束され過ぎる訳にはいかないのだ。
まぁ、ある程度はしょうがないって覚悟はしてるけどね。
あれこれと話し合いを続けて、領民の誰と会うかとか順番はどうするか、秘密をどこまで開示するかなんて事を決めてから、軽い昼食を済ませた午後。わたしたちはギーンゲン村の巡回ツアーをする事になった。
参加者は、わたしとマール。案内役のレンヴィーゴ様。
レンヴィーゴ様は領内の案内はさっさと終わらせて、わたしの特異魔法について調べたかったみたいだけどね。魔法についてはスタンリー様から夕飯の後にするように釘を刺されていた。
「とりあえず、村の中を一通り案内します。さすがに一人一人紹介するつもりは無いですけどね。全員に会うとなると一日じゃ済まないですから」
ギーンゲンは、建前的には領都って事になってるけど、領主のスタンリー様から言葉をしゃべり始めたばかりの小さな子供まで、ほぼ全員が村としか思ってないらしく、領都というのは、王宮へ提出される書類の上だけの事らしい。
それでも、やっぱり全ての住民とあいさつを交わすような時間は取れるはずが無いよね。
1人と5分の会話をするとしても、1時間で12人。移動時間を考えると半分の6人だって無理そうだもの。
なので、村の中心人物というかまとめ役というか顔役というか、そういう人を中心に紹介してくれるらしい。
レンヴィーゴ様の説明を聞きながら、お屋敷の庭から外へ。
村の様子を正直な第一印象を言わせてもらうなら、のどかな田舎だ。
家と家の間隔が日本では考えられないほど広くて、だからと言って建物自体は大きいわけじゃ無く、一軒一軒がまるで童話に出てくるような小さな家。
「レンさまー、おでかけですか~?」
「その人だれー? レンさまのかのじょー?」
「うわ、ネコだー! かわいいー!!」
「コラ! レン様の迷惑になるから、邪魔しちゃダメよ!」
お屋敷を出てすぐ。
早速、何人もの小さな子供たちに囲まれた。全部で6人。5歳くらいの子が男の子二人の女の子3人。10歳くらいの女の子が一人だ。
付き添いの大人とか居ないから、もしかしたら年長の子供が自分より幼い子供の面倒を見てるのかも。
子供たちに囲まれたレンヴィーゴ様は、嫌な顔一つしないでその場に片膝をついた。
目線を合わせる為かな? こういう事が普通にできるってかっこいいね。
「こちらのルミフィーナさんが村に住む事になったので、これから村の中を案内するんです。残念ながら僕の彼女ではありませんけどね」
「えー! かのじょじゃないのー? じゃぁネコさんはー?」
「猫みたいですけど、猫じゃありませんよ。マール君です。マール君も一緒に住む事になるので、仲良くしてあげてくださいね」
なんていうか、優しい笑顔。レンヴィーゴ様って子供が好きなのかな。
紹介された側のマールはといえば、子供達の事が気になるのか、なんだかビクビクしてるような?
「マ、マールはマールにゃ」
ちょっとよそよそしいというか、おびえた感じで言うマール。
「うおー! スゲー!! しゃべるネコだ~!」
「かわいいー! ねえねえ! さわっていい?」
「あ、わたしもさわりたいー!」
「にゃー!?」
お子ちゃまたちは大興奮って感じでもっと近くでマールを見ようと集まって来て、小さい子たちなんかは返事も待たずに手を伸ばしてくる。この勢いはヤバい。マールが怪我をするとかは流石に無いと思うんだけど、毛や尻尾を引っ張られるくらいはありそうだ。
わたしは抱っこしてたマールの脇に両手を入れて、頭の上まで押し上げておく。同年代の中では背が低い方のわたしだって、こうすれば小さな子供の手が届かない高さになるからね。……ちょっと重いけど。
「はいはい、みんな落ち着いて~。ネコさん嫌がっちゃうよ~」
「やー! とどかないー」
「さわらせてー!」
マールって、わたし以外の人に抱っこされたがらない理由って、実はこれなんだよ。
マールがまだ子猫だった頃、遊びに来ていた親戚の子供から痛い目に合わされて、それからわたし以外の人に警戒心を持つようになっちゃったのだ。
子供って、悪気があるわけじゃ無く、躾がどうとかの問題でも無くて、チカラ加減とかが良く分からないから、強く抱きしめたり、尻尾を引っ張ったりしちゃう子も居るんだよね。動物とのふれあいを経験した事が無い子だと特に。
元の世界にいた頃は、最期までわたしが面倒みるって覚悟があったから、マールが他の人の事を拒絶するなら、それで良いと思ってた。
……だけど。この世界だと、それじゃダメだと思うんだよね。
今のマールは猫だけど猫じゃない。
人の言葉だって理解できて、喋る事だって出来る。二本の足で立って、両手でカトラリーを使ってご飯を食べる事だって出来る。ただの猫じゃないのだ。
そんなふうに変わってしまったマールだけど、それでもわたしと一緒に居てくれるとは思うし、ずっと一緒に居たいとも思う。
でも、コボルトみたいな魔物がウロウロしている世界では、何があるか分からない。
もしかしたら、わたしがマールを残して死んじゃう事だってあるかもしれない。
そうなった時に、マールはどうなってしまうのか。
もちろん、スペンサー家の皆さんは、わたしが居なくなってもマールの事を大事にしてくれるとは思う。
ご飯だって寝る所だって用意してくれるだろうし、きっと護ってくれるとも思う。
でも、マールの方は?
わたし以外の人に抱っこされる事が無いっていうのは、結局は相手を信用してないって事だ。
わたしが一緒に居る状態なら、少しは他の人に対する警戒心も薄れてるような気がする。以前、ポリーちゃんには触らせてあげてたのも、わたしが一緒に居ることで、飼い主であるわたしが護ってくれると安心していたからなんだと思う。
でも、やっぱりそれじゃダメだ。
マールが一人でも……わたしが居なくなっても他の人と仲良くなれるようにならないと。
「ネコさんは痛いと泣いちゃうからねー。みんなも痛いのは嫌でしょー?」
「えー、わたし、やさしくさわるから~」
「わたしもー」
「ぼくもー」
「いたくなんかしないよー」
子供達の泣きそうな顔。なんか、わたしが意地悪してるみたいで、心に突き刺さる。
「じゃぁ、抓ったり叩いたり引っ張ったりしないって約束できる~?」
わたしが聞くと、子供たちはそれぞれ元気いっぱいに約束してくれた。元気いっぱい過ぎて、ちょっと不安なくらいだ。
「じゃぁ、マール? ちょっとだけ大丈夫?」
「にゃぁ……。ちょっとだけなら……」
うわぁ……。了解はしてくれたけど、やっぱり嫌そう。
でも、これもマールの為。
わたし以外の人だって、安心して付き合える人は居るって事を知ってもらわないと。
わたしはマールを抱っこの態勢に戻して、子供達の手が届く様に屈む。マールの身体が強張ってるのが伝わってくるけど、ちょっとだけ我慢してね。
子供達がマールの頭とか背中とかを撫でる。その小さな手は全くチカラが入っていない様子で、触れるか触れないかってくらいの優しい手つき。
小さな子たちが順番にちょっとずつ優しく触って、たぶん、子守り役のちょっと大きな女の子も、おっかなびっくりって感じでマールの頭を撫でる。
ふあぁ~~。みんな目をキラキラさせてるぅ~~。可愛いよぅ~~。
わたしは、ちょっとだけ子供達にサービスしてあげようと、マールの手を取ると、子供達の方に差し向けた。
触られるばっかりじゃなくマールの方から触る事で、一方通行な状態を解消したいって考えもある。
「ハイ、ターッチ!」
マールの手を使って、子供たち一人ひとりとハイタッチをさせてから、そのまま頭を撫でてあげた。
子供達、みんなキャッキャと喜んでる。うん、やっぱり子供は笑ってる方が可愛い。
「そろそろ、よろしいですか?」
少し離れた場所から、そう声をかけてくるレンヴィーゴ様は苦笑を浮かべていた。
「えー? もう~~?」
「もっとネコさんとあそびたい~」
「もうちょっとだけー!」
「おねがいレンさま~」
村内巡回ツアーは、まだまだ先に進めそうにないね。
なぜか忙しくて、仕事中にネタとか考えてる暇がありませんでした。仕事量自体は少なかった気がするのに。
当然、村の中の事とか考えてなかったので、子供と遭遇させて時間稼ぎの術!(*‘ω‘ *)
子供達の名前とかも、もちろん考えてません。今後、出番があるのかどうかも不明です・・・。
多分、中の人の性格的に一度サボっちゃうと、ズルズルと何回もサボってしまうので、
なんとか週1更新をキープしたいです。
連休中に書き溜め? そんなの無理に決まってるじゃないですかぁw
……自分の意志の弱さが憎いデス。
20210601 サブタイトル変更しました




