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今日から魔法使い! 12

 エルミーユ様の爆弾発言から約10分。お昼ちょっと前くらいの時間。

 わたし達はお屋敷のリビングに集まっていた。


「それにしても驚きました。まさか姉上にバレてしまっていたとは。参考までに、何処で気が付いたか教えてもらえますか?」

「色々あるわよ? まず、国の端っことしか言えないような、魔の森に隣接してて他に何にもない田舎領地に、魔法も使えないような若くてかわいい女の子が来るなんて変じゃない? 親同士の約束があったとしてもね」


 その嘘設定を考えたのは、貴方のお父様と弟さんです。気まずそうに横を向いてしまうスタンリー様。


「マール君の事だって、二本の足で立って言葉が分かる猫なんて今まで見た事も聞いた事も無いもの。そんな珍しい種族の子が、たまたまうちに来る事になっていた女の子と出会って従者になってそのまま領地にまで付いてくるなんて、偶然にしては出来過ぎでしょ? もちろん絶対に無いとは言わないけどね」


 いくらファンタジー世界でも、マールの事については誤魔化し切れなかったみたいだ。

 この世界にはこの世界なりの常識があって、何でもありって訳じゃないからね。


「それにルミさんとマール君が最初に着ていた服だって、今まで見た事も聞いた事もない物だったし。いくら領地同士が離れてるって言っても、王都とかでさえ見かけたことが無い服なんて有り得ないでしょう?」


 あー。言われてみれば確かに。

 貴族階級が着る服だとしたら、貴族同士の噂話くらいで聞く事くらいありそうだし、平民の富裕層が着る服なら大店の店主さんとか、その周りの人とかが着て無きゃおかしい。そして庶民が着る服としては、質が良過ぎるらしい。

 つまり、この世界のどういう層の住人にしても、おかしな服装だったっぽい。


「そして決定的だったのは、貴方よ、レン!」

「僕ですか? 僕のどこがおかしかったでしょう?」

「貴方が魔法も使えない普通の女の子に興味持つなんて有り得ないもの!」


 えぇぇ~~。

 それって、向こうの世界出身のわたしからすると、違う意味に聞こえちゃうんですけど。

 二次元にしか興味がないとか、”女の子には”興味がないとか。

 方向性は兎も角、健全な意味には聞こえないよ!


「ふむ。確かにそれはあるかもしれませんね」


 しかも、レンヴィーゴ様、あっさり認めちゃったよ。


「これだけ不審な事が重なっていれば、ルミとマール君が普通じゃないって気が付くでしょ。そして、この国には普通じゃない人の前例が居るんだもの。誰だって迷い人だって分かるわよ」


 わたしが美男美女姉弟のやりとりを呆然と眺めていると、ふいに袖を引っ張られた。振り向いてみると、マールが困惑した表情を浮かべている。


「ルミしゃま、おかしいにゃ。エルミーユしゃまが賢そうに見えるにゃ。きっと偽者にゃ」


 マールの声が届いたのか、エルミーユ様はピシッと動きを止めた後、壊れかけのブリキ人形みたいな動きで首だけ捻ってわたし達の方を見た。

 その表情は笑顔。なのに怖い。


「ヒィ!?」

「ニャニャニャ!?」


 エルミーユ様は笑顔の仮面を張り付けたまま、素早くわたし達の方に近寄ると、両こぶしでマールのこめかみをグリグリしはじめた。スゴイ痛そう。


「マァールゥくぅーんんん? 何か言ったかしらぁ~~??」

「イダダダダ!? にゃ、にゃにも言ってないにゃ! エルミーユしゃまは聡明な方だって感心してたにゃ!」


 おおぅ……スゴイ痛そうだ。わたし、何も言わなくて良かった。

 わたしがほっと胸を撫でおろしていると、レンヴィーゴ様が苦笑している。


「まぁ、姉上もその辺にしてください。これからはマール君に勘違いされない様に勉強もしっかりやってみては? やれば出来るのですから」

「勉強……、勉強ねぇ。好きじゃないのよね、貴族向けの勉強なんて。ここで生活する分には役に立たない事ばっかりだし」

「それでも、いつまでもこの領地に居るとは限らないでしょう? 姉上はいずれ他領の貴族に嫁ぐかもしれないのですから」

「それだって他領の貴族に嫁ぐって決まった事じゃないでしょう? 私はこの領地で領民の誰かと結婚でも良いんだけどな~」

「おや? 誰か気になる相手でも居るんですか?」


 レンヴィーゴ様の問いかけにキョトンとした顔をしたエルミーユ様。


「……居ない、わね。領地の同年代の男なんてみんな兄弟みたいに育ったから、今更、恋愛的な気持ちなんてなるわけないし」


 あー。なんだか目に浮かぶ。

 エルミーユ様って見た目は無茶苦茶美少女で可憐なお嬢様って感じなのに、中身は小学生男子なんだよね。

 多分、幼いころからママゴトとかお人形遊びよりも、身体を動かす遊びの方が好きだったんだろうね。それで、男の子たちに混ざって走り回ってたんだろうな。


 だけど、これだけ美少女だったら、周りは放って置かないだろうに。


「そんな事だろうと思いました。それじゃ、この話は置いておいて……、ルミさんの事について話をしていきたいと思います。父上、よろしいですか?」

「あぁ。もとはといえばレンが連れてきた訳だし、ルミフィーナに付き添って色々話をしてきたのもレンだ。俺が話すより、話が通りやすいだろうからな」


 そう言ってから、レンヴィーゴ様は一度部屋に集まっている全員を見回す。

 それにつられたわたしも皆に視線を配ってしまう。

 領主のスタンリー様と領主婦人のシャルロット様はすまし顔。エルミーユ様は興味津々って感じ。メイドのレジーナさんとポリーちゃんは何が起こっているのか分かっていないといった表情だ。


 わたしはといえば、これから迷い人であることを打ち明ける事で、それが受け入れてもらえるのか不安で一杯一杯。マールはわたしの腕の中で涙目になりながらグリグリされた頭を擦っている。よっぽど痛かったのかな?


「さて。では結論から先に言ってしまいますが、こちらのルミフィーナさんとマール君は、ドロシー・オズボーンと同じ世界から来た”迷い人”です」


 驚いた様子を見せているのは、レジーナさんとポリーちゃんの二人だけだ。

 領主婦人のシャルロット様は表情を変えずに紅茶を口に運んでるだけ。エルミーユ様は秘密が明かされる前に気が付いていたのが嬉しいのか、ややドヤ顔だ。


「これまでは、お二人の安全を確保する為に秘密にしていました。これは迷い人の知識を欲する輩から、お二人を守るためという意味です」

「今、この時点で明かすという事は、二人の安全を確保できる目途が付いたという事で良いのかしら? ルミさんもマール君もこれまで付けていなかった装飾品を身に付けてるようだけど」

「はい。無事に魔法の習得をしていただけました。これからも魔法の指導は続けていくつもりですが、とりあえず魔力矢と魔力盾の魔法は使えるようになったので、これを区切りと秘密を明かすことにしました。これ以上、屋敷の中に閉じ込めておくのは、また別の問題が起きそうですし」


 シャルロット様の合いの手のような質問に、淀みなく答えを返すレンヴィーゴ様。

 なんだか予定調和の様なものを感じる。シャルロット様って、実は分かってて質問したんじゃなかろうか?

 そしてレンヴィーゴ様の方も、シャルロット様が分かってて質問をしてきたのが分かってるんでは? そんな印象を受けるやり取りだ。


「話を続けますね。ルミさんとマール君はこの世界に来てしまいましたが、元の世界に戻る事を望んでいます。ですが、身寄りも無いお二人なので生きていくだけでも、それなり以上の苦労があるはずです。それに元の世界に戻る為の手段を探さなくてはなりません。そのあたりの事をスペンサー領で補佐し、代わりにお二人から異世界の知識や技術を提供していただくという約束を取り付けました」

「ちょ、ちょっと待って。元の世界に戻る事なんて出来るの? ドロシー・オズボーンって元の世界に戻ったんだっけ?」

「その辺は、はっきりとは分かっていないませんね。ドロシー・オズボーンは、ある時期を境に歴史の表舞台から姿を消してしまったのは確かですが、それが元の世界に戻ったからなのか、それとも、この世界のどこかで静かに余生を過ごそうとしただけなのか……」

「少なくとも、元の世界に戻ろうと帰る手段を探していたっていう痕跡は無いわ」


 エルミーユ様の質問にレンヴィーゴ様が答えて、レンヴィーゴ様の答えに捕捉を入れるシャルロット様。


「じゃぁ、戻れるかどうかなんて分かんないじゃない!」

「そうですね。そんな手段があるかどうかも分かりませんし、あったとしても今日明日ですぐに見つかるって事は無いと思います」

「それって……もしずっと見つからなかったらどうするの?」


 心配そうな表情を浮かべるエルミーユ様。この表情はどういう意味なんだろう?


「もし帰る手段が見つからなければ……」


 それは、この世界に来てしまった時から頭の片隅で考えていた事の一つだ。


 もちろん帰れないんだから、この世界で生きていくしかない。絶望して、自ら命を絶つなんて選択肢だけは絶対に無い。それだけは言い切れる。

 だけど、エルミーユ様が聞きたいのはそういう事じゃないよね、きっと。


 この世界で生きていくしかないとなった時、それでも一生帰る手段を探し続けるのか、それとも、どこかの時点で諦めるのか。

 いずれにしても、この世界で生きていく以上、この世界での生活していくためにお金を稼がなくちゃならない。ずっと、スペンサー家の皆さんに甘え続けるわけにはいかないのだから。


 自分でお金を稼ぐっていうのは、実は日本に居る時から少しはやってたんだよね。

 まだまだ半人前だっていう自覚はあったけど、ぬいぐるみ作家として活動してたから。もちろん学業の合間にチョコチョコ作業を進める事しかできくて稼げるお金なんて普通にアルバイトをするのと同じ程度しかなかったけど、それでもそれなりの利益は出ていた。

 なので働くって事に対して抵抗は無い。


 問題は、この世界でどうやってお金を稼ぐかって事だ。わたしに出来るお金稼ぎって何だろう?


 日本に居た時の様にぬいぐるみ作りをしてお金を稼ぐ?

 以前に、エルミーユ様が持っているぬいぐるみを見せてもらった限り、この世界のぬいぐるみのレベルは低い。

 わたしが作るぬいぐるみなら、この世界の人にだって受け入れてもらえると思う。だからと言って、それでお金を稼げるのかというとかなり怪しい。


 お貴族様とか、平民でも富豪の人とかも居るから、そうゆう人になら売れるかもしれない。だけど幾つか売れた段階で、たぶんコピー品が出回ると思うんだよね。この世界には、著作権とか意匠権なんていう知的財産を保護する制度が無いから。

 どこかのお貴族様がぬいぐるみを一つ手に入れて、そのぬいぐるみを基に自分の所で囲っている職人達に同じものを作らせれれば、個人事業であるわたしには勝てるはずが無いのだ。


 そう考えると、ぬいぐるみ作りでお金を稼げるのは、最初だけって事になってしまう。おそらく、わたしが新しい物を発表する度に、それもまたコピーされるっていう事の繰り返しだ。

 そうこうしている内に、この世界の職人たちも、それまでのぬいぐるみを参考にして独自の物を作り始めてしまうと思う。そうなったらわたしには勝ち目なんて残ってるはずが無いんだよね。


 つまり、ぬいぐるみ作りとは別の何かでお金を稼ぐ方法を考えなくちゃならない。

 できれば単価が良くて、製作に時間を取られることが無く、それでいて他の人が同じ仕事に参入しづらいか、参入してきたとしても問題にならない物……。

 そんな都合の良いものあるのかなぁ~?


 わたしがそんなことを悩んでいると、レンヴィーゴ様が毅然とした表情で宣言してくれた。


「スペンサー家としては、ルミさん達がここを出ていきたいと自発的に考えるようになるまではお二人の生活や身辺の安全に関して援助するつもりです。もちろん見返りがあっての事で、お二人の持つ異世界の知識や技術を提供していただく事にはなりますが」


 レンヴィーゴ様がこの場に居る全員に向けて、そう宣言してくれた事が凄く有難い。

 次期領主であるレンヴィーゴ様の言葉は、それがレンヴィーゴ様自身か、現領主であるスタンリー様に否定されない限り領地全体の考えという事になるからだ。

 つまり、スタンリー様とレンヴィーゴ様以外の誰かが不満を持ったとしても、覆す事は出来ないという事だ。


「父様とレンは、ルミとマール君がドロシー・オズボーンの再来になると考えてるって事で良いのかしら?」

「それは分かりませんね。僕はドロシー・オズボーンの事を書物の中でしか知らないですから。ですが今のスペンサー領には必要な人材であるとは考えています」


 エルミーユ様の質問にレンヴィーゴ様はにこやかに答える。


 うぅ……。相変わらずレンヴィーゴ様から期待が重いです……。

ゴールデンウィーク中に中の人が誕生日を迎えました。

今年もウエストだけは成長しました (*‘ω‘ *)

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