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今日から魔法使い! 9

 馬の背中で揺られること数分。

 家や畑の間を縫ってたどり着いた先は、やけに広いグラウンドのような場所だった。フェンスとかは無いけど、隅の方には土手の様に土が盛られた部分があって、その土手の手前に杭の様な物が何本も立っているのが見える。


 そこは訓練場と呼ばれる場所で、定期的に領民たちが集まっては戦闘訓練を行うんだそうな。

 もともとスペンサー家の成り立ちが、武力とか軍事力って呼ばれるチカラによるものだから、それを維持するためにも必要な場所なんだろうね。


「ついたにゃ~?」


 相変わらず寝てばかりのマールが、寝ぼけ眼で周囲を見回す。


「ええ。お二人には、ここで魔法の試し撃ちをしてもらいます。ここなら何かあっても、他の人に被害が出る事は有りませんので。まぁ、どちらかというと、魔法が発動するかどうかを試すというよりは、魔力矢を目標に向かって撃つ練習って意味合いの方が強いですが」


 魔導書を使っての魔法発動自体には成功しているので、そのこと自体には不安はない。

 だけど、攻撃魔法である魔力矢を放つというのは、ちょっと……、いやかなり不安だ。

何故なら、わたし、縁日の射的とかで景品を落とした事が無いから。正直、当たる気がしない。


「とりあえず、見本として僕がやって見せますね」


 レンヴィーゴ様は訓練場の端に立って、土手の手前に打ち込まれている杭に向かって握った左手を杭の方に向けた。

 その瞬間、レンヴィーゴ様の指輪が小さく光り、その数センチ先の空間に小さな魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣は中心から外延部に向かって光が強くなっていく。

 その輝きが魔法陣全体に及ぶと同時に、中心部から500㎜のペットボトルくらいの大きさをした涙滴型の何かが発射された。

 涙滴型の何かは、ものすごい速度で杭に向かって飛んでいって命中。結構な太さがあった杭は、見事に爆発四散した。


「うわぁ……」

「にゃー……」


 わたしとマール、二人同時に声が出てしまう。……呆れたって感じの。

 これはヤバいヤツだ。生身の人間がこの魔法をその身に受けたら、絶対に無事じゃ済まないって事くらいは、わたしでも分かる。

 拳銃とか比べ物にならない程に高威力な物のように感じるよ。いや、実際の拳銃がどのくらい威力があるのか知らないけど。


「これが魔力矢の魔法ですが……どうかされましたか?」

「あー、えーっと……、これって威力が高すぎませんか?」

「威力ですか? 普通の人が何の対策もしてない状態で魔力矢を受けたら無事では済まないですが、逆に言えば、対策さえちゃんとしてれば防げてしまう程度の威力でしかありませんよ?」


 その後の説明によると、もっと高威力の魔法とかも存在するらしい。異世界怖いよ!


「それでは、とりあえず説明しますね。魔力矢の魔法は魔力盾の魔法とは違って、指輪を向けた任意の方向へ放出する事が出来ます。なので誤射の可能性があるので十分に注意して下さい」


 レンヴィーゴ様の身振り手振りを交えた丁寧な説明に、うんうんと頷く。

 確かに魔力盾の魔法は、身体の正面に盾が展開されてた。身体を左右に振ると、それに合わせて盾も動いちゃう感じ。

 魔力矢の魔法は指輪の向いている方向へ飛ぶというのは、攻撃と防御という目的の違いによるものなんだろうね。

 

「魔力矢の魔法は、誰が使っても同じだけの威力を持つ魔法なので、もし誰かから狙われていると感じたら、それがどんな相手でも……、仮に幼い子供だったとしても十分に注意して下さいね。子供だろうと致命的な威力であることは変わりがないって事ですから」


 わたしはコクリと頷いてみせながらも、ふと疑問が頭に浮かぶ。


「あのー、誰が使っても威力が変わらないって事は、使える魔法の種類が同じ魔法使いの実力ってみんな均一ってことですか?」

「いえ、そんな事はありませんよ。誰でも簡単に分かる違いは、そもそも魔法を使える回数が違ったり、魔法の発動するまでにかかる時間が違ったりですかね?」


 レンヴィーゴ様の言葉によると、一番簡単な違いはその二つなんだそうな。

 魔法を使える回数っていうのは、そもそもの魔力量の違いで、ゲームで言う所の保有MP的な話。もちろん多い方が良い。

 もう一つの魔法陣に魔力が充填されるまでの時間っていうのは、魔法を使おうとしてから実際に発動するまでのタイムラグ的な話だそうな。

 魔法陣に魔力がいっぱいになると同時に発射される仕組みらしいんだけど、その魔力を込める時間というのは、魔法使いの実力を測る要素の一つである魔力放出量というのに大きく関わっているらしい。


 魔力放出量っていうのは、最初に魔法を使えるかどうか調べて貰った時に測った中の一つで、たしか、水晶玉みたいなやつを触ったら真っ白に光ったヤツだったかな?

 つまり、一気に大量に魔力を充填できるから、魔力の充填が早くなって、結果として魔法の発動も早くなるって事?


「そういう事になりますけど、魔法によっては、純粋に魔力そのものや魔力放出量の大きさで威力や範囲が大きくなる物もありますよ」


 ふむー。なんだかややこしいね。

 まぁ、見たり聞いたりしてるだけじゃ結局は良く分からない事もありそうなので、実際にやってみようという事になった。


「それでは、ルミさんとマール君のどちらが先にやりますか?」

「にゃ。マールが先にやるにゃ。ルミしゃま良いかにゃ?」

「うん。わたしは後からで良いよ。気を付けてね」

「ありがとにゃー」


 マールはわたしの腕の中からヒラリと飛び降りると、テテテテッと移動して距離を取った。

 そして、足を肩幅に開いて、左手をまっすぐに杭に向かって突き出す。


「いくにゃー」


 マールがちょっとお間抜けな声で言うと、左手のちょっと先の空間にレンヴィーゴ様の時と同じような小さな魔法陣が浮かび上がった。

 最初は淡い光だった魔法陣が中心から光を強くしていき、全体が強い光を放つようになった瞬間、涙滴型の何かが発射された。

 涙滴型のソレは、杭に向かって真っすぐに飛んで行って、見事命中。レンヴィーゴ様の時と同じように杭を木っ端みじんに吹き飛ばす。


 レンヴィーゴ様の言ってた通り、威力自体はマールの魔法も同じみたい。だけど魔法が発動するまでの時間は、レンヴィーゴ様の方が早かったかも。

 マールも魔力を調べた時にはそこそこ優秀って話だったような気がするんだけど、レンヴィーゴ様ってそれよりも優秀って事なのかな?


 わたしが不思議に思っていると、そんな事には全く気が付いていない様子のマールは嬉しそうにピョンピョン跳ねるようにしてわたしの所に戻ってきた。


「ルミしゃま、見ててくれたにゃ? マールもちゃんと杭に命中させられたにゃー。次はルミしゃまの番にゃ」


 うぐっ。マールめ~。スペシャルスマイルでわたしにプレッシャーを掛けてきおる……。


 わたしは笑顔が引きつっているのを感じながら、マールが魔法を発射した位置に移動して、遠くに立つ杭を見つめる。


 と、遠い……。


 正確な距離とかは分かんないけど、10メートル位は確実にあるよ。もしかしたら15メートル位あるかも。

 レンヴィーゴ様は兎も角、マールは良くこれだけ離れた距離にある杭に一発で命中させたよね。


 わたしは、左手の指輪を右手で触ってから、口の中で小さくお祈り。


 ……どうか当たりますように!


 同じ指輪型の魔法装具であるレンヴィーゴ様を参考にして、左手を前方に突き出して狙いを定める。

 小さく息を吐いてから、体の中にある魔導書の魔力矢のページに魔力を注ぐと、二人と同じように魔導装具のちょっと先に小さな魔法陣が浮かび上がった。

 更に魔力を注ぎ込むと、魔法陣はほぼほぼ一瞬で全体が強い光を放ち、すぐに魔力矢が射出された。


 射出された涙滴型の魔力矢は、ギュオーンって感じで飛んで行って……、狙いを付けていた杭には当たらず、土手にぶち当たった。


 やっぱり当たらなかった……。覚悟はしてたけど、やっぱり凹む……。だけど凹んでるだけじゃダメだっ!


「えっと、もう一回! もう一回挑戦しても良いですか!?」

「はい、えっと、ルミさんなら魔力量的には問題はないでしょうから、何度か練習してみてください。いや、きっと次は当たりますよ。なんなら少し近づいても良いかもしれません」


 レンヴィーゴ様の許可が貰えたので、もう一度挑戦することに。

 さっきより3歩くらい進んだ位置に立つ。


 今度はもっと慎重に……。


 さっきと同じように手を伸ばして、狙いを定めて、魔力を注いで。

 二発目の魔力矢は、さっきよりは杭に近い所を通ったけど、やっぱり杭には当たることなく土手にぶち当たる。


 なんでー!?


 右方向に外れたから、ちょっと左に調整して、今度は左に外れたから右に調整しなおしてって感じで何度か挑戦してみたけど、魔力矢は杭に当たることなく、全弾が土手にぶち当たった。


 やっぱりわたしには射的みたいな遠くの的を狙い撃つみたいなやつは致命的に合わないのかも……。


「上下方向にはズレていないみたいですね」


 わたしが魔法を放つ様子を斜め後ろから観察していたレンヴィーゴ様がつぶやく様に言った。

 言われてみれば、左右方向がダメダメなだけで、上下方向は狙った高さ近くに行ってる様な気がする。


「もしかしたらですが……。手を伸ばして、両手の人差し指と親指を使って三角形を作って、その三角形の穴から杭を覗いてみてください」


 レンヴィーゴ様の言う通りに指で三角形を作って、そこから遠くの杭を見てみる。


「そのまま手を動かさずに右目だけを閉じてみてください」


 言われた通りに右目だけを閉じてみると、全く動いていないはずなのに、三角形の中から杭が消えちゃったよ!

 なんで!?


「今度は、左目を閉じて右目だけで杭を見てください。手は動かしちゃだめですよ?」


 わたしは身体が動かない様に、頷くこともしないで左目を閉じて右目で三角形の中を見る。


 三角形の中心に、ちゃんと杭があった。……どういうことなの?


「キチンと狙いをつけたつもりでも、実は、利き腕と同じように、利き目というのがありまして……」


 レンヴィーゴ様の話によると、利き目が右で利き腕も右、もしくは利き目が左で利き腕も左というなら問題ないのだそうな。

 だけど、利き目と利き腕が違ってしまうと、自分が狙っている場所と、実際に魔力矢が着弾する場所に差が出ちゃうんだとか。


 わたしの場合は、利き目も利き腕も右だったんだけど、左手に魔導装具である指輪を付けてて、だけど右目で狙いを付けてるから左右方向が定まらないのではないかという事だった。


「試しに、魔導装具を右の指に付けてみましょうか」


 レンヴィーゴ様の提案にコクリと頷く。

 魔導装具の指輪を右手の人差し指に嵌めなおして、先ほどまでと同じように、だけど左手ではなく右手を突き出す。


 一度大きく深呼吸。大きく吸って、小さく細く吐いて~~。

 気合を入れたところで魔力を込める。


 ──結果。

 無事、狙い通りの杭にぶち当てる事が出来ました!

中の人は右目が利き目で、利き腕も右なんですが・・・

子供の頃は左利きの人にずっと憧れてて、左でお箸使う練習とかしてました (*‘ω‘ *)


大人になって、同僚に左利きの人が居たんですが、初めてそれを知った時に思わず「あの顔で!?」と・・・。

利き腕と顔は関係ないのは分かってるはずなのに。

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