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今日から魔法使い! 6

 マールの付きだした小さな手を見て、正直、この指に指輪は似合わないと思ってしまう。

 いや、似合う似合わないの問題もあるけど、もっと大事な問題に気が付いてしまった。


「そういえば、マールって魔法を使うと猫になるじゃない? 猫になったときは、指輪ってどうなるのかな?」


 今のマールの手は、猫みたいな被毛があるヒトの赤ちゃんの手っぽい。実は指の先端と手のひらの指の付け根あたりには肉球がある。

 この形なら、似合うかどうかは別問題として指輪くらいは付けられると思う。

 でも、魔法で猫の姿になったら指輪はどうなってしまうんだろう?


 マールが魔法で猫に変身したときには、身体のサイズ自体もちょっと小さくなって、元の世界に居た頃の猫のマールそのものって感じの姿だった。

 そのため、今の体のサイズに合わせて作ってある服とか下着とかは全部脱げちゃってたんだよね。

 指輪も同じように、外れちゃうのかな?


「マール君が普通の猫の姿になった時には、服が脱げたというより、身体が縮んだせいで服の中に埋もれてしまったという感じでしたよね? 指輪も同じように外れてしまう可能性が高いと思いますよ」

「ですよねー」

「にゃ~……どうすれば良いにゃ? マールは魔法が使えないって事にゃ?」


 不安顔のマールが可愛い。キュンキュンしちゃう。


 レンヴィーゴ様に詳しく聞いてみたところによると、魔導装具は魔導書と対になるものって感じらしい。

 簡単に外れてどこかに無くしちゃうようだと、大事な場面で魔法が使えなくて大ピンチなんて事にもなりかねないとか。


「魔導装具を肌身離さず持っていればマール君にも普通に魔法が使えるので安心してください。とりあえずは、どちらの姿になっても身体から外れないものという条件で考えた方が良いかもしれませんね。せっかくの特異魔法ですから、いつでも使えるようにしておいた方が良いと思いますし。……猫の姿になれる事が何の役に立つのかは僕にも分かりませんけど」


 レンヴィーゴ様、最後、小声でなんか言った……。

 まぁ、わたしも猫の姿になれる魔法なんて言われても、正直使い道が思いつかない。何かから逃げる時とかなら使えるかな? 四本足の方が走るの速そうだし。


「それで魔導装具ですけど、具体的にはどんなものが良いでしょうか?」

「そうですね……。とりあえず思いつくのは、杖の様な物は猫の手では持てないのでダメじゃないでしょうか?」

「あー、確かに。それに身に付けた時に揺れたりするのもダメで……、あとは体の向きを変えずに魔法陣を出す方向を変えられるものが望ましいんですよね?」

「そうですね。やはり指輪や腕輪、ガントレットの様な物が良いのかもしれませんが、猫の姿になった時に外れてしまう様では意味が無いですから……難しいですね」


 問題は、今の姿と猫の姿で、体のサイズが変わっちゃう事なんだよね。

 今のマールの姿に合わせれば、猫の姿になった時に緩々で外れちゃうし、逆に猫の姿に合わせれば、擬人化した姿の時に締め付けすぎちゃう。

 伸び縮みするゴムのような素材があれば、それを使って何か作れるかもしれないけど、この世界にはそういう素材は発見されていないっぽいんだよね。


 いわゆるゴムの原料はゴムの木の樹液である事はわたしも知ってるけど、その木がこの世界にあるのかは不明だし、仮にあったとしても、わたし自身がどんな木なのか分からないので、探しようもない。

 万が一、ゴムの木を見つけ出す事が出来たとしても、樹液がそのまま使えるものなのかどうかも分からない。


 わたしが悩んでいると、レンヴィーゴ様がどこか期待したような目でわたしを見ているのに気が付いた。


「えっと、なにか?」

「いえ、迷い人がどんな発想や知識で問題を解決するのか興味がありまして……」


 うわぁ……。何度も言うけど、わたしにそんなに期待されても困る。

 わたしはただのぬいぐるみ好きの女子高生であって、他の人に比べて特別何かに優れてるって訳じゃないよ?

 ドロシー・オズボーンみたいなこの世界に多大な影響を与えたような人と同じような期待をかけるのは、勘弁してほしい。


 そう心で思っても、口に出すことは出来ない。

 何故なら、ここで役立たずだと思われて放り出される訳には行かないのだ。今は言葉は通じるし、魔法の習得も何とか目途が立っては来たけど、この世界で頼れる身内も居なければお金を稼ぐ方法も無いっていう状況自体は変わっていないのだから。


「……はい。頑張って何か考えてみます」


 わたしは、そう答えるしかなかった。


*      *      *


 魔導装具の絶対に守らなくてはならない縛りは一つ。

 魔導書を作るときに育てた魔導樹、その木片を使用する事。その一点だけだ。


 自分が育てた魔導樹の木片なら、どんなに小さくても大丈夫らしい。実際、レンヴィーゴ様が付けている指輪はほとんどが銀で出来てて、その内側の部分に小さな爪の先ほどの木片が付けられてるだけらしい。

 指輪とは言ってるけど、実際には切り込みがあって輪っか状じゃないんだとか。

 だからサイズが分からなくても明日までに用意できるなんて言えたんだね。


 他に、杖とかを魔導装具にする人も、杖そのものを魔導樹から作る必要はなくて、他の木材を使った杖に魔導樹の木片を埋め込むだけでOKなんだとか。


 どんなに細くても魔力の通り道が出来れば良いって事だ。


 魔導樹の木片も、実は魔導装具自体も、直接身体に振れている必要さえも無くて、要は、魔力を流せさえすれば、服の上でも杖の先でも問題はない。


 それで、マールの魔導装具を作るにあたって問題となるのはやっぱりマールの体の大きさが変化してしまう事と、猫の姿になった時には手に持つタイプは使いづらいという二点だ。


 ゴムのような素材を使ってリストバンドみたいなのを作れば解決なんだけど、残念ながらこの世界ではゴムが無い。あるかもしれないけど実用化されてない。


 ならどうする? ゴムがダメならゴム編みにすれば良いじゃない。


 ゴム編みっていうのは、編み物の編み方の一つだ。別名、リブ編み又は|畦≪あぜ≫編み。他の編み方に比べて引っ張ると伸びる編み方。実は靴下なんかにも使われている編み方だったりする。


 わたし、ぬいぐるみだけじゃなくて、あみぐるみにも手を出してたから、一通り縫い方は覚えたんだよ。

 いつか何かの役に立つかもしれないと思って。


 それがまさか、こんな異世界で魔法の役に立つなんて。人生って不思議だ。


「ねえマール? こんな感じでリストバンドみたいにしようと思うんだけど、色は何色が良い?」

「選べるならレッドが良いにゃ! あ、だけどクールなブルーも捨てがたいにゃ……それにニヒルな感じでブラックも良いかもしれないにゃ……」


 とりあえずのアイディアとして、毛糸をゴム編みでリストバンド状に仕立てるつもりで、紙に描いたデザイン案をマールに見せてみると、こんな返事が返ってきた。


 なぜかマールは偏った知識を持っているような気がする。

 わたしが休みの日にデザインの参考にしようと思って見ていた特撮戦隊モノ番組。わたしは内容自体にはそれほど興味が無くて、登場する戦隊ヒーローとかマスコットとか敵役キャラとかのデザインばかり見ていたんだけど、となりで一緒に見ていたマールも覚えてるのかな。


 わたしは戦隊モノ番組の前後に放送されていた魔法少女モノのアニメも同じように見てたんだけど、そっちはあんまり興味を持って無かったような気もする。

 やっぱりマールは男の子だから、男の子向けの番組の方が好きだったのかもしれないね。


「僕にも見せてもらえますか?」

「あ、はい。こんな感じにしようかと思うんですけど、問題ありそうですか?」


 わたしから紙を受け取ったレンヴィーゴ様はじっとデザイン案を見つめて、不思議そうに首を傾げた。

 そういう何気ない仕草もカッコいい。


「これは、腕輪の様な物ですか?」

「はい、そうです。毛糸をゴム編みっていう編み方で円筒形にして、手に巻かせれば良いかなって思ったんですけど……」

「ゴム編みというものを聞いた事が無いのですが……」


 まぁ、そうだよね。元の世界ではそれほど珍しい編み方って訳じゃないので、多分この世界でも普通にある技術ではあると思う。

 だけど、男の人で編み物に興味や関心がある人なんてほぼ居ないから、知的好奇心旺盛なレンヴィーゴ様でも、知らなくても無理はない。


 それでも一応、簡単な概略図を描いて説明してみた。


「……なるほど、編み方を工夫する事で伸縮するようにして、猫の手でも今の姿の手にも合う寸法の物を作ろうという考えなのですね。なんとなくですが理解しました」


 流石のレンヴィーゴ様とはいえ編み方自体を理解できたとは思えないけど、わたしがやろうとしている事自体は理解してくれたっぽい。


「問題ありそうですか?」

「問題は……素材ですかね?」

「えっ……?」

「いや、これはこれで良いとは思うんですが……。マール君はこれから好むと好まざるかに関わらず戦いの場に身を置くことになると思います。そうなると、どうしても怪我は付き物になってしまいます。そして腕から先というのは、意外に思われるかもしれませんが怪我が多い場所でもあります。そう考えると、果たして毛糸で良いのかと……。この毛糸の魔導装具の上に更に防具を重ねるのでは嵩張ってしまいますし」


 言われてみれば、その通りかもしれない。普通の毛糸を編んだだけのリストバンドもどきだと、何も付けていないよりはマシって程度の防御力しか期待できないはずだ。


「なら、こんな感じではどうでしょう?」


 思いついたアイディアを、紙に描き込んでいく。アイディアの元になったのは手甲や腕時計、|鉢金≪はちがね≫だ。 本体にあたる部分には防御力のある素材を使い、バンドにあたる部分の一部、または全部をゴム編みで作るというアイディアだ。

 もちろん本体となる部分はちょっと大きめにして、手首周辺をガードできるくらいのサイズにしてある。戦闘時だけじゃなく、日常的に身に付けておかなくてはならない為、邪魔にならない程度だけどね。


 わたしがペンを走らせていると、興味津々といった感じのレンヴィーゴ様とマールが覗き込んでいた。


「これカッコいいにゃ! マール、これが良いにゃ!」

「これは面白いですね。性能的に不安が無い訳ではありませんが、先ほどの毛糸だけの物よりは防御力は高そうです。着脱も簡単そうなのも良いですね」


 思った以上に評判は良さそう。


 デザイン的にはマールが大興奮してぴょんぴょん飛び跳ねるほど気に入ったみたいなので、さっそく試作品を作り始める事になった。


 マールがこの手甲型魔導装具を付けたとき、左腕を抑えながら「鎮まれ……俺の左腕っ!」とか言い出さないことを祈りたい……。


最初は、マールの魔導装具も指輪の予定でした……っていうか、

何も考えておらず、同じで良いよね?的な感じで指輪になっちゃう所でした。

でも、ネットでいつものように猫画像に癒されているときに気が付いてしまったんです。

「猫の手って、指輪、ムリじゃね?」

なので前回の最後から今回にかけての部分は、慌てて無理矢理捻り出してぶち込んだお話だったりします。

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