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今日から魔法使い! 5

 レンヴィーゴ様の指導を受けながらも、ようやく一つ目の魔法『魔力矢』の魔法陣を写し終えたのは、もうすぐお昼になろうかという時間だった。

 何度も間違ったり、失敗したりしてたから余計に時間が掛かっちゃったんだよね。

 特にマールが。


 魔導書にはペンとインクを使って魔法陣を描き込んでいくんだけど、不思議な事に失敗しちゃった部分は消せちゃうんだよ。

 インクには自分の血、つまりは魔力が混ざっているんだけど、失敗した部分から魔力を抜いて、その状態で魔導書を丸ごと体の中に取り込んじゃえば、その部分だけが最初から何も描かれていなかったかの様に消えてしまうのだ。


 まぁ、実際には魔力を抜いていない状態でも、何度も体の中に取り込んでれば消えちゃうらしいんだけど。

 なにしろ、魔導書もインクも結局は魔力に変換して体に取り込んでるようなイメージなので、何度も出し入れする内に魔導書とインクが同質化してしまうせいだっていう説明を受けた。


 せっかく描いた魔法陣が消えちゃわないようにする為に、定着液というのを使うらしい。

 魔法陣に間違いが無いこと、インクが乾いたことを確認したら、そのページ全体をコーティングするように定着液というのを塗布するんだって。

 この定着液っていうのは、人面樹ことフェデリーニおじいちゃんの樹液から作られるらしい。

 実は同種であれば、フェデリーニおじいちゃんじゃなくても良いらしいけど、普通、人面樹はその領地で管理しているものなので、勝手に採取は出来ないし、縁も所縁もない人に融通してくれる事もほぼ無いっぽい。


 そんなわけで、魔法陣を書き終わったわたしとマールは、レンヴィーゴ様にきちんと描けているか確認してもらってから、フェデリーニおじいちゃんの体液……じゃない、樹液から作った定着液を塗布。

 レンヴィーゴ様によると、わたしの魔法陣は綺麗に描けてるらしい。マールの方は、まぁ一応できてるって感じの微妙な評価だったけど。

 マールの場合、筆記用具自体に慣れていないからしょうがないよね。


 ちなみに、魔法陣が綺麗に描けていると、実際に魔法を発動させる時にも有利なんだそうな。

 あ、あと、これまで散々他人の魔力が影響されない様にって言われてたけど、この魔法陣を描く作業については、他の人の手による代筆は出来ちゃうらしい。

 なぜかと言えば、もし代筆者の魔力が混入したとしても、故意に流し込もうとしたのでなければ微々たるものでしかなく、影響する程じゃないからなんだそうな。

 もちろん、インクとかは代筆者の物じゃなくて、魔導書の持ち主、つまり実際に魔法を使う人の物を使わないとダメらしいけどね。


 こうして魔法使いっぽい魔法の魔法陣を描き終えたわたし達は、午後からは早速試し打ち……とはならなかった。

 レンヴィーゴ様から、午後からは身を守るための防御魔法の魔法陣を描くように言われちゃったよ。


 午後から描くことになった防御魔法っていうのは、魔力矢の魔法と対をなすような魔法で、魔力の盾を作り出す魔法。

 こちらは、名前は『魔力盾』といい、用途によって、いくつか種類があるらしい。

 今回は最もオーソドックスなもので、体の半分くらいが隠せるくらいの大きさの半透明な盾を展開する魔法との事。


 いつもの説明大好きなレンヴィーゴ様によると、小さいものから大きいもの。体の特定部位だけを守るもの、自分以外の誰かを守るための物、透明な物、半透明な物、不透明な物と用途によって色々あるらしい。

 しかも、相手の攻撃手段や魔法の属性に特化対応した物まであって、それぞれサイズやら透明度やら特化対応やらの組み合わせによって種類が変わるというのだから、その組み合わせは……えっと、一杯だ。


 わたし個人としては、魔力矢の魔法よりも自分や友人・知人を守ったりする魔法の方が気持ち的には楽かな。

 もちろん、魔力矢の魔法が必要ないとは言わないし、使わなければならない時には躊躇せずに使うつもり。そのための練習だって怠るつもりは無いよ。

 ぶっつけ本番で使いこなせるとは思えないからね。


 だけど、やっぱり争いごとは避けたいっていうのが本音ではある。


「にゃー。レンしゃまー?」

「はい、何でしょう?」

「魔法ってどのくらいあって、その中で何種類くらい覚えれば良いにゃ?」

「難しい質問ですね。今も新しい魔法を作り出そうと研究を続けている人は居ますので、少しずつでも増えている筈です。……例えば、いま書き写してもらっている魔力盾の魔法ですが、大きさやら形やらの違いだけで別の魔法と解釈するなら、魔力盾だけでも百は超えるでしょうね。すべての魔法を数えることが出来れば数千種類って事になるんじゃないかと思います」

「にゃ!? そんなにあるのにゃ!?」

「王都などに住む魔法使いたちにとっては、戦場で手柄を立てる機械などそうそう有りませんからね。自分がいかに優れているかを証明するために、新しい魔法を発明したぞと周囲に触れ回らないとならないので、ほんのちょっとでも違えば別の魔法という扱いらしいですよ」


 魔法陣を描き写しながら、二人の会話に耳を傾けていたけど、なかなか面白い話だ。


 例えば、今わたしが使っている筆記用具。これは一般的には『つけペン』に分類される物だ。

 筆記用具には他にどんな種類があるのかと聞かれれば、わたしが元居た世界だったら鉛筆とか毛筆、筆ペン、ボールペン、マーカーペンにシャープペンシルと色々ある。わたしが馴染みがあるモノだとチャコペンなんていうのも筆記用具に分類されてもいいはずだ。

 

 そして、わたしが学校で使っていたペンケースには二本のシャープペンシルが入っていた。この二本はそれぞれ芯の太さが違って、普段の授業で使う0.5ミリ用のものと、ぬいぐるみ作りの為のデザイン案を考えたり、設計図を描くのに使う0.3ミリ用とで使い分けていた。

 見た目は全く同じで、違うのは使える芯の太さだけ。いつもと違うシャーペンを使ってることで授業を真面目に受けていない事がバレない様にするために、同じメーカーの同じデザイン、違いは芯径だけというのを選んだのだ。

 これは一種類と見るべきか、それとも二種類と見るべきなのか。


 わたし個人は、この場合一種類だと思うんだよね。なぜなら、0.3ミリの芯で授業のノートをとる事だって出来るし、0.5ミリの芯を使ってぬいぐるみのデザイン案を考えることだって可能だからだ。


 きっと魔法だって同じだと思う。

 魔法で大きな盾を作って、それで体の一部位を狙った攻撃を防ぐ事だって出来るはずだし、小さな盾で体全体を包むような攻撃の致命傷になる箇所だけを防ぐことだって出来るはず。……頑張れば。


 なので王都に居るという魔法使いの皆さんには申し訳ないけど、既存の魔法をちょっと変えただけで新しい魔法を発明したって主張は認めたくないかな。もちろん小分類としては違う魔法って事にしても良いと思うんだけどね。


 まぁ、わたしが認めようが認めなかろうが、王都の魔法使いさんたちには関係ないだろうけどさ。


「まぁ、大きな分類で数えるのなら数百という所でしょうね」

「それでも多いにゃ……」


 マールの意見に同意しちゃう。魔法陣を一つ描くのに半日近く掛かってるって考えると、気が遠くなってくる。


「わたし達が優先的に覚えた方が良い魔法とかはあるんですか?」

「僕としては、一通りすべての魔法を覚えてほしい所なんですが……。とりあえず、自分の身を守るための魔法は優先的に覚えた方が良いと思います。迷い人であるお二人の存在は、いずれは周囲に知られてしまうでしょうし、知られてしまえば誰がどの様に接触してくるか分かりませんから」


 そのあとのレンヴィーゴ様の話によれば、それも踏まえて魔力矢と魔力盾の魔法陣から始めたとの事だ。

 まずは抗うチカラ、という事らしい。そんなチカラは使わずに済めば良いんだけど……。覚悟はしておいた方が良いんだろうね。


 そんなことを頭の片隅で考えていると、レンヴィーゴ様は思い出したように質問してきた。


「そういえば、お二人は魔導装具はどうなさいますか?」

「にゃーん?」

「魔導装具……ですか?」

「あー、いえ、失礼しました。そういえば何の説明もしていませんでしたね。魔導装具とはこの指輪のようなものです」


 そういって、わたし達に見えやすいように左手を突き出してくれるレンヴィーゴ様。その手の中指にはシンプルなデザインの指輪が嵌められている。

 あんまり気にした事なかったけど、そういえばいつも指輪をしていた気がするね。


「魔法を扱う時に、魔導書にある魔法陣に魔力を通すわけですが、体の中に取り込んだままの魔導書に魔力を流すのは難しいですよね?」


 言われて考えてみる。

 魔導書は体の中にある間は、なんだか形のはっきりしないナニかってくらいにしか感じることが出来ない。

 体の中に魔導書が有る事は分かるんだけど、それが体の動きを阻害するようなことは無いし、異物感があるわけでもない。体の中にあると感じるだけという、言葉では説明できない不思議な感覚だ。

 その体の中の魔導書に魔力を流せるかって聞かれると、確かに自信ない。


「そこで、魔導書と繋がっているモノを体の外に身に付けておいて、それに魔力を通すことで間接的に魔法陣に魔力を流せるようにします。それが、僕の場合はこの指輪です。この指輪に魔力を流すと、指輪につながった魔導書にも魔力が流れるって事ですね」


 ほほぅ。いまいちピンとこないけど、なんだか便利そう。いや、多分レンヴィーゴ様の口ぶりから魔法使いには必須のアイテムなんじゃ?


「えっと、魔法使いの人は皆その指輪を持ってるって事ですよね? それは何となく分かったんですが……、どうなさいますかっていうのはどういう意味ですか?」

「いえ、魔導装具は指輪とは限りません。確かに指輪にする人は多いですが、ブレスレットや杖だったりする人も多いですね。基本的にいつも身に付けているモノなら何でも良いんです。なので、どうしますか、と。」


 その後も続いたレンヴィーゴ様の説明によると、可能か不可能かでいえばイヤリングやネックレスとかでも可能ではあるらしい。だけど、魔法の仕様の問題で手に付けたり持ったりできるものの方が使い勝手が良いそうだ。

 なぜなら、魔法を発動するために魔導書に魔力を流すんだけど、魔法が発動する位置や方向の基準になるのは魔導書に描かれた魔法陣にするという魔法も存在するから。

 魔導書は体の中で常に同じ方向を向いてるわけでは無いので、当然、基準になる魔法陣の向きもあっちこっちに変わってしまう事になる。

 それが、魔導装具がある事で、魔導装具を基準に魔法が発動されるようになるんだそうな。逆に言えば、自分の体の正面に魔法を発動させたければ、魔導装具を正面に向ければ良いし、右側とか左側、頭の上に発動させたければ、魔導装具をそちらに向ければ良い。

 それは指輪とか手に持った杖とかなら簡単にできるけど、ネックレスだと体全体の向きを変えなくちゃならないし、ネックレスは耳の下で揺れたりしちゃうので基準も揺れちゃうなんて事になるんだそうな。


「指輪とかじゃなくて、杖を持ってる人も居るんですよね? 常に持ち歩かなくちゃならないのに杖を選ぶ理由って何かあるんですか?」


 お年を召してる人が、歩行の助けになるように持つのなら分かるけど。もしかして杖を持ってるのはお年寄りばっかりだったりするのかな?


「杖を選ぶ理由としては、杖に魔石を埋め込んでおいて、そこから魔法回路を組むことで自分の苦手な属性の魔法も使えるようにしているっていう人が多いですね」


 レンヴィーゴ様の説明に、つい首を傾げてしまう。


 先生! それ、まだ習ってない所だと思います!


「ルミさんやマール君は全ての属性に適正があるので教えるのは後回しにしていましたが、属性に適正が無い場合、酷いと魔法陣に魔力が流れないなんて事があります。たとえば炎の属性が無いために炎を撃ち出す魔法が全く使えないとなったら、それだけで戦い方の幅が狭まってしまいますよね?」

「それは何となく分かります」

「この属性が無いせいで魔法が使えないというのは、魔法陣に魔力が流れない事によって起こります」


 無理矢理、魔力を流す事も可能だけど、その場合には時間と気合が必要で、いざ魔法が発動しても本来の威力にならないらしい。


「ですが、属性が無いから使えない魔法があるというのでは不便ですよね?」

「不便……ですね」

「そこで、杖に魔石を埋め込んで、そこに魔力をためて、その魔力をそれぞれに属性に変換する術式回路を組み込み魔法を使うときにはその魔石から魔法陣に魔力が流れるようにする、というのが杖を持つ理由ですね」


 なるほど。杖は変換アダプター、なのかな?

 わたしの理解が合ってるのかどうかは分からないけど、とりあえず属性全てに適正があるわたし達には関係のない話みたいだ。


「じゃぁ、指輪で」


 説明を聞いて、わたしは迷うことなく決めた。


 正直、わたしってあんまりアクセサリーにこだわりとか無いんだよね。友達とどこかに出かけるときなんかも、アクセサリーの類を付けた事なんて無かったし。

 わたし自身が身に付けた回数よりも、ぬいぐるみにアクセントとしてアクセサリーを付ける事の方が多かったくらいだ。


 そんなわけなので、指輪が便利というのなら指輪で良いじゃんってなってしまう。

 魔法の杖みたいなのは、幼いころにはちょっと憧れたし、実際、変身ステッキみたいなやつなら買ってもらった事はあるんだけど、常に持ち歩かなくちゃならないとなると、多少なりとも煩わしいような気がしちゃうんだよね。


「わかりました。ルミさんは指輪という事で、明日までに用意しておきますね。マール君も指輪で良いですか?」


 レンヴィーゴ様がそうマールに質問すると、マールは自分の両手をレンヴィーゴ様に向かって突き出した。


「マールの指でも指輪で大丈夫にゃ?」


 マールの小さな手。


 赤ちゃんの手と猫の前足を足して2で割ったようなその手の指に、指輪は似合いそうにないかも。

魔法まわりの設定を考えるのが楽しすぎてヤバイです。

あとあと設定に矛盾が無いように気を付けなきゃ……。

もし矛盾を見つけちゃったら内緒で修正しちゃうつもりですが(*>ω<)=3

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