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今日から魔法使い! 3

 朝。

 いつもと同じ朝って訳じゃない。正直、ちょっと寝不足気味の朝だ。


 昨日、魔導書を収穫したわたしとマール。

 収穫した魔導書を自分の物とする最後の仕上げとして、自分の魔力を流さなくちゃならないんだけど、事故が起きた。……マールにだけ。


 どうも、マールは特異魔法と呼ばれるチート魔法の使い手で、そのチート魔法は魔導書を収穫した段階ですでに魔法陣が描かれているらしい。

 そこにマールの魔力が流れ込んじゃったもんだから、魔法が暴発してしまったのだろうという事だった。


 幸いな事に、マールの特異魔法は攻撃魔法じゃなかったので、誰かが怪我したりとか、何かを壊しちゃったりとかは無かった。

 どんな魔法だったかと言えば、猫になる魔法だ。


 マールはもともとは猫で、元の世界で一度は死んじゃったんだけど、この世界に来た時にわたしが作ったぬいぐるみに憑依するような形で生き返った。

 猫と小人とぬいぐるみを足して3で割ったような擬人化猫の姿で。


 その擬人化猫だったはずのマールが、魔法の暴発によって元の世界に居た頃と同じ、いわゆる普通の動物である猫の姿になってしまったのだ。

 擬人化猫の姿から普通の猫の姿へ。

 それがマールの特異魔法の効果らしい。


 それ自体は問題ない。特異魔法っていうのは、ホントに珍しいけど、この世界の人でも使い手は居るらしいから。

 問題なのは、今の段階で特異魔法の使い手である事が周囲に知られる事だ。

 わたしたちは現在、迷い人と呼ばれる異世界からの来訪者という事は秘密にしてある。何故なら、この世界では異世界人の知識は計り知れない価値があるとされているからだ。


 わたしにそれほど大それた知識があるとは思えないけど、周りもそう考えてくれるとは限らないんだよね。

 もし、そんなわたし達の知識を自分たちの利益のために吸い上げようとする悪い人たちに捕まって、身柄を拘束されちゃったりしたら、無事に元の世界に帰るっていうわたしの目標は断たれてしまうかもしれない。

 そうならない為にも、何のチカラも無い今は、出来るだけ目立ちたくないのだ。


 それなのに、特異魔法なんていう歴史的にも数少ない希少な魔法の使い手なんて、頭の上にアドバルーンを上げてるようなものじゃない?


 そういうわけで、マールには何とか元の姿に戻って貰わなくちゃならないんだけど……。


 スタンリー様とレンヴィーゴ様の二人からは、時間が過ぎるか、魔法陣に注いだ魔力が尽きれば元に戻るんじゃないかって話をされた。だけど、どちらの場合でもどのくらいの時間が必要なのかは分からないっぽい。

 丸一日とかだったら何とか誤魔化しきれるかもしれないけど、もし一週間とか掛かっちゃったりしたら流石に無理だと思うんだよね。マールの姿が見えなければ、シャルロット様とエルミーユ様の追及から逃れられないと思うし。


 そういうわけで、目を覚ましたマールと元の姿に戻るために色々試してみる事になった。

 結果から言えば、マールは無事に元の姿に戻ることは出来たよ。

 具体的に何をどうしたら元に戻ったかというと、実は一番最初に試した『もう一度、同じ魔法を使ってみる』という実験によってだ。


 家電製品の電源スイッチみたいに、一度押したら電源が入って、もう一度押したら電源が切れるって感じにできるんじゃないかっていう予想のもとに行った実験がビンゴだったんだよね。


 まさか、最初に試した実験で結果が出ちゃうとは思わなかった。こういうのって、長い時間をかけて、あれこれ試行錯誤を繰り返して、ようやく結果が出るものって思ってたんだけどね~。

 あっさり過ぎて、逆に拍子抜けしちゃったよ。


 そのあとも何回か実験を繰り返して分かったのは、擬人化猫の姿の時に特異魔法を使えば普通の猫の姿へ。普通の猫の姿の時に同じように特異魔法を使えば、擬人化猫の姿へ変わるって事だ。

 わたし達みたいなメディロイド、いわゆる地球人みたいな姿とかにはなれないし、変身できる猫の姿も、元の世界でのマールそのままの姿でしかない。

 つまりは二つの姿を切り替える魔法って感じかな。

 そんな感じで、マールの魔法については結構早い時間で解決した。


 じゃぁ何で寝不足なのかと言えば、魔導書で遊んでいたからだ。

 正確には、夕飯後の寝る前の時間につい、以前、レンヴィーゴ様が見せてくれた魔導書を体の中に取り込んだり取り出したりという手品のような技に挑戦し始めてしまった。


 これが、なかなか難しかった。

 レンヴィーゴ様は、やっている事は魔石に魔力を注いだり、引き出したりしている事と変わらないって言ってたんだけどね。

 まずは体の中に取り込むっていうのが出来ない。

 魔導書はほぼほぼ魔力で出来ているって話だったけど、実際に手に取る事が出来るし、重さもある。ほかの人の魔導書だって触る事が出来るのだ。


 野菜はほとんど水分で出来ているなんて話があるけど、水分で出来ているのだから噛まずに飲み込めるかってのと同じだ。


 結構遅い時間まで頑張って、ようやく、ゆっくりとなら出し入れできるようになった時には、マールと二人でガッツポーズしちゃってたよ。

 まぁ、そのおかげで今、寝不足なんだけどね。


 そんなわけで寝不足気味のわたしたちは、今日もレンヴィーゴ様の部屋でテーブルについている。テーブルの上には小瓶とペンが用意されてて、なぜか、小さなナイフも用意されている。


「さて、それでは魔法を使えるように魔導書に魔法陣を書き込んでいきましょう、と言いたい所ですが、実はその前にやらなければならない事があります」


 レンヴィーゴ様が小瓶の栓を開けて、その中にペン先を突っ込む。どうするのかと見ていると、いつものように自分の魔導書を体の中から取り出して広げた。

 一番最後の真っ白で何も書かれていないページだ。

 レンヴィーゴ様は、その真っ白なページにペンで試し書きをするようにグルグルと幾つもの「の」の字を書いた。


「このように魔導書に何かを書き込んでも、この線は消えてしまいます」


 そう言いながら魔導書を閉じて、一度体の中に戻したレンヴィーゴ様は、すぐにもう一度取り出して、わたし達の前に広げて見せた。

 そのページは、たしかにレンヴィーゴ様が「の」の字を書き込んだはずのページ。なのに、何の痕跡も残っていない。


「ほら、消えてしまったでしょう? これは僕だからというわけでは無く、何の処理もしていなければ誰でもこうなってしまいます」

「えっと、それじゃどうやって魔法陣を書き込むんですか? せっかく書いても消えちゃうんですよね?」

「ここにナイフがあるので、なんとなく想像はついていると思いますが……」


 そう言いながら、苦笑を浮かべるレンヴィーゴ様。

 うん。実は用意されたナイフを見た時からうすうす気づいてた。

 レンヴィーゴ様から魔法やら魔力やらの説明をされた時に、ヒトの体の中でも血に含まれる魔力は多いって言ってたし、魔力の詳細を調べるのには血が有効だって聞いてたから。

 もしかしたら、血が必要なんじゃないかなーって。


「こちらのインクにお二人の血を少し垂らしていただいて、よくかき混ぜれば魔導書を体に取り込んでも、このインクで書かれた物が消える事はなくなります」


 予想通りの答えだった。

 数あるフィクションでも、身体に流れる血が魔法とか魔力とかに関係してるって話は多いもんね。あとは涙とかかな?


 とりあえず、せっかく魔導書を手に入れても、魔法陣が描けないままだと宝の持ち腐れという事は分かった。

 スゴク嫌だけど、ナイフにそっと手を伸ばす。日本で言えば果物ナイフみたいな感じの小ぶりでシンプルなナイフだ。


「血の量は多い方が良いとかありますか?」

「あー特にはありませんね。ほんの少しで大丈夫です。その代わり、よくかき混ぜるようにしてください」


 レンヴィーゴ様の言葉にちょっとだけ安心して、右手でナイフ握り、左手の人差し指を見つめる。

 これ、こわい。

 わたしだって、包丁で指を切っちゃった事とか、裁縫針で指先を指しちゃった事はあるけど、それはあくまでも事故だ。わざと自分の体を傷つけようとしたわけじゃない。

 あって思ったときには、もう血が出てたって感じだった。


 だけど、自分で自分を傷つけるのって、すごい度胸がいる。

 小さなナイフだから、それで指先に傷をつけたくらいで死ぬはずなんてないし、痛みだって二、三日もすれば忘れちゃうくらいのはず。

 この世界に来てしまったあの日、森の中でコボルトに襲われてボロボロの剣で切り付けられた時に比べれば、怪我とも呼べない小さな傷にしかならないのは分かっている。


 だけど、こわい。


 踏ん切りがつかないまま固まっているわたし。

 そんなわたしから、ちょっと呆れたような顔をしたマールがナイフを奪い取った。


「ルミしゃま、ビビる事ないにゃー。この世界にはポーションがあるにゃ。こんなちっこいナイフで少しくらい怪我しても、ポーション飲めばすぐに治るにゃ」


 マールはそう言いながら、右手一本でナイフをジャグリングするように放り投げると、落ちてきたナイフを掴み左手の指先を切り裂いて見せた。


 ヒッとわたしが息をのんで見守る中、マールは指先から滴り落ちる真っ赤な血をインク瓶の中にポトリポトリと注ぎ落とす。


「このくらいで大丈夫にゃ? 大丈夫ならポーションちょーだいにゃ」

「あー。申し訳ないですが、ポーションは貴重なので差し上げられません」

「にゃ?」

「ですから、ポーションは貴重なのでお渡しできません。もっと大きな怪我をしてしまった者が出た時のために残して置かなければならないのです」


 レンヴィーゴ様の言葉をゆっくり把握したマールは涙目になり、絶望したような表情をうかべた。


「にゃー! 痛いにゃ! 死ぬ! 死んじゃうにゃ! ルミしゃま助けてくれにゃー!」


 右手で止血するように左手を抑えて大騒ぎのマール。

 そんなに元気に騒げてるんだから死ぬなんて事は無いと思うよ?


 騒ぐマールを見ていたら、ほんの少し指先を切るだけの事にビビっていたのがなんだか馬鹿らしくなってきた。


 レンヴィーゴ様の用意してくれたもう一本のナイフを手に取ると、指先を切りつける。生活するのに一番影響が少なそうな左手の薬指だ。

 やっぱりちょっと痛いけど、我慢できない痛みじゃない。熱いような痛さ。

 最後の最後でやっぱりちょっと怖気づいたみたいで、傷はものすごく小さかったけど、しっかり血が出てきた。


 その滲み出てきた血をインク瓶に一滴二滴と落とす。


「これで良いですか?」

「はい、その程度で十分です。お二人ともお疲れさまでした。瓶に蓋をして良く振っておいてくださいね」


 指示された通りにインク瓶に蓋をしてクルクルと振り回していると、その間にレンヴィーゴ様は次の準備を進めていた。


「さて。それでは早速、魔法陣を描いていきましょう」


 そういってニッコリと笑顔を浮かべたレンヴィーゴ様。

 これ、絶対詰め込みスパルタ授業になるパターンだよ……。

やらかしてしまいました……。

何をやらかしたかって、一度書き上げた話を間違って消しちゃいましたorz

あんまりパソコンの事は詳しくないので、復旧も出来ず。

泣く泣く書き直したのですが、もしかしたら、おかしな箇所があるかもしれません。


若い人ならこういう時、「ぴえん」とか言うんでしょうか……。

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