今日から魔法使い! 2
恐る恐る薄目を開けてみると、目の前に苦笑を浮かべたスタンリー様と何かを思い悩んでいるような顔のレンヴィーゴ様がいた。
「僕の記憶では魔導書に初めて魔力を流すときでも、普通の人ならばあれほど派手に光りはしないはずなのですが……。これはルミさんも特異魔法を有していると考えるべきでしょうか?」
「可能性は高いだろうな。女王陛下も最初は眩しいくらいに光ったらしいぞ」
「ルミさんの特異魔法は、どんな魔法なんでしょう?」
「さぁな。特異魔法というのは、本人の特徴やら性格やら資質やらが関わって発現するなんて話はあるが、はっきりした事は分かってないからな。ルミフィーナが実際に使ってみるまでは分からんな」
「ぜひ、すぐにでも使って見せて頂きたいところですが……。マール君のような姿を変える魔法なら兎も角、フラーマ様やドロシー・オズボーンの様な攻撃性の高い魔法だったとしたら、家の中で使うのは少々不味いですね」
スタンリー様とレンヴィーゴ様が、わたしを置いてけぼりにして会話を続けている。
これまでの数日間で、レンヴィーゴ様から色々教えてもらっていたから、多少は分かる部分もあるんだけど……。
たとえば、フラーマ様はこの国の初代王妃で、ドロシー・オズボーンという人はフラーマ様が活躍していたのと同じくらいの時期に、この世界に渡ってきたとされている、わたしと同じ世界の人の事だ。
だけど、知っているだけで二人の会話に割り込める程じゃないんだよね。
仕方なく黙って聞いてるんだけど、歴史に名前を残すような二人と同レベル扱いをされるのは勘弁して欲しい。
もしわたしが攻撃性の高い特異魔法とやらを使えたとしても、それほど大それた威力がある魔法とは思えないよ!
そんな感じの事をぼんやりと考えながら、二人が会話を続ける様子を眺める。
「ルミさんを屋外に連れ出して、どんな特異魔法を有しているのか試して頂きたいところですが、もし攻撃性の無い魔法だった場合は、身を守る術が無いって事になってしまい、それはちょっと怖いですね」
「そうだな。とりあえず、ある程度の魔法を使えるようになってからにすべきだな。レンの使える魔法の中からいくつか見繕って教えてやるのが良いだろうな」
「はい。どちらにしろ迷い人であるルミさんやマール君に、僕が教える魔法をきちんと発動させる事が出来るのか確認する必要もありますし、攻撃性の高い魔法を使うための練習も必要でしょうから」
ふたりの中でどんどん話が決まっていく。
その後もしばらく呆然としながら聞いてたんだけど、それによると、どうやらわたしとマールは明日から戦闘手段としての魔法を教えてもらえるらしい。
正直、戦闘とかしたくないんだけど……。
でも、もし元の世界に帰るために危険な場所に赴かなくちゃならないって事になったら、わたし個人にも多少の戦闘能力は必要になるはずだ。
それに元の世界に帰ることが出来ず、こっちの世界で生きていくしか無いって事になったとしたら、その後に起こる全てのトラブルをなんでも話し合いで解決できるとは限らないのだ。
もちろん話し合いで解決できるなら有難いんだけど、こちらに戦闘能力が無いことで、無茶な要求とかされちゃうかもしれない。
戦うチカラを身に付けないと、搾取されるだけの弱者になってしまうかもしれないし、そもそも言葉が通じない相手だって居るかもしれない。
そんな相手に絡まれてしまったときに、色んな物を投げ捨てて逃げる事しかできないなんて、そんなのはゴメンだ。
そう考えると、戦う術としての魔法を教えてもらうのを拒否するなんてありえない。
なので、覚悟を決める。
これまで殴り合いどころか、口喧嘩さえもほとんどした事ないけど、それらが必要になるかもしれない世界に来てしまったのだ。今まで喧嘩もしたことが無いからとか、戦いなんて嫌だなんて言っていられない。
戦う方法を手に入れなければ、ゆっくりぬいぐるみ作りも出来ないよ!
わたしがそんな覚悟を決めている間に、いつのまにか話を振られていた。
「ルミさんは、どの属性にも適正がある事が分かってますが、ルミさん自身はどういった魔法が良いとかの希望はありますか?」
「えっ? あ、えーとそうですね……。できれば、あんまりグロ……じゃなかった、えっとあんまり血を見なくて済むようなのが良いですね」
「相手の血が流れないように、ですか」
「はい。流血なんて見ても、あんまり気持ちのいいものじゃありませんし」
これは正直な気持ちだ。
必要なら戦うっていう決意をしては見たものの、やっぱり、ブシャーって血が噴き出したり、内臓がグチャーなんて出てくるのは見たくない。
出来る事なら相手を傷つける事なく無力化するのが理想ではある。もちろん、それにこだわるあまり、わたし自身やわたしが大事に思う人を危険に晒すなんて事は絶対回避したいけど。
優先順位を間違えるつもりはないよ、わたし。
わたしが自分の考えを述べると、レンヴィーゴ様はいつものように、指先で顎を擦る仕草を見せた。
「なるほど。では明日までに幾つか考えておきますね」
「……はい。よろしくお願いします」
どうしよう?
レンヴィーゴ様のニヤリとした表情は、結局、全部の魔法を叩き込むつもりのように見える。しかも、かなりのスパルタで。
お手柔らかにお願いしたいんだけどな。
「マール君も同じ魔法って事で問題ありませんか?」
「あー、どうなんでしょう? マールが魔法使いになりたいのか、それとも剣士になりたいのか分からないんですよね。言う事がコロコロ変わるので」
「それなら、両方やらせてみれば良いじゃないか」
スタンリー様がそう言ってニヤリと笑う。
この顔は、面白がってるのかな?
「どっちもやりたくて、どっちも出来るのなら、どっちもやらせてやれば良い。やってる内に剣と魔法のどちらが自分に向いてるのか判断して専念しても良いし、両方を続けて手札を増やすのだって良い。どうするのが正しくて、どうするのは絶対に間違いなんて事は無いんだからな」
「父上の言う通りですね。僕も両方やってますよ。両方できれば便利ですからね」
レンヴィーゴ様は自慢するような素振りなど一切見せずにスタンリー様の後を引き継いで言ってるけど、実際、両方とも実用レベルで使えるように訓練するってどうなんだろう?
子供のころから両方を学んでいるであろうレンヴィーゴ様なら兎も角、マールだと大変なんじゃない?
マール本人は何にも知らずに、のんきな顔で眠っているけど明日から地獄を見る事になるんじゃなかろうか。
「うにゃぁ……もう食べられないにゃ……」
マールの突然の寝言。美味しいものでも食べる夢でも見てるのかな。
わたし達は、顔を見合わせて苦笑しあう。
「まぁ、それも含めて、明日にでもマール本人が決めれば良いさ。こういうのは本人のやる気次第だからな。本人が嫌々やってたらどれだけ才能があっても伸びる訳が無い。もちろんルミフィーナもな」
スタンリー様がさっきに比べて少し声を落としてそう言った。
ごもっとも。
わたしも幼いころ、両親に習い事とか勧められてその内の幾つかには実際に通った事もあったけど、結局ピアノとかスイミングとか余り上達しなかったもの。
ピアノもスイミングも嫌々だったわけじゃないけど、やっぱりぬいぐるみ作りの方がより楽しかったんだからしょうがないよね。
マールがどれだけ剣や魔法の訓練にやる気を出すかは分からないけど、わたしは魔法に限ればやる気はあるよ。
元の世界に戻る為っていうのはもちろんだけど、やっぱり魔法使いって憧れるからね!
そんな話し合いのあった次の日の朝。
わたしとマールは眠気と闘いながら、またもレンヴィーゴ様の座学の授業を受ける事になった。
気が付けば、2月23日。
去年の2月22日に投降を始めたので、まるまる一年になりました。
こんな、のんびり更新のんびり展開の『ねこじゃらし・ぐるーみんぐ』を読んでくださった全ての読者様
本当にありがとうございした! ヽ(*‘ω‘ *)ノ
これに懲りずに、引き続きお付き合いくださいますようお願いいたします。(*- -)(*_ _)ペコリ




