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今日から魔法使い! 1

「マール!?」


 光が落ち着いた部屋の中で、突然姿を消したマール。

 マールがいたはずの場所には、さっきまでマールが着ていた服だけが残されていた。


「レンヴィーゴ様! どういう事なんですか!? こんなの聞いていません! マールはどこに行ったんですか!?」


 つい、レンヴィーゴ様に詰め寄ってしまう。

 涙があふれてくるのを抑えることが出来ない。今にも零れ落ちちゃいそう。


「いや、落ち着いてくださいルミさん。僕にも何が何やら……」


 困惑した表情を浮かべるレンヴィーゴ様。


「やっぱり何か起こったか……」


 そう、小さな声でつぶやいたのは、これまでほとんど喋らずにわたしたちの様子を眺めていたスタンリー様だった。


「やっぱりってどういう事ですか? こうなる事が分かっていたんですか! マールはどこに行っちゃったんですか!?」

「落ち着くんだ。……俺だって、こうなるって分かってた訳じゃない。ただ、な……」

「ただ?」


 スタンリー様は、指先で顎を摩る様な仕草をしながら眉を寄せている。


「その前に問題だ、レン。特異魔法の使い手として知られている者は現在までに何人いる?」

「突然ですね。国が管理する公式な記録に残っているのは18人です。記録にはあるものの真偽が怪しいものを含めるなら、その倍ほどの人数になりますね。何らかの理由で記録に残っていない者がどのくらい居るのかは分かりませんが、それでも三桁には行かないでしょうね」

「よく勉強しているな。それでは、次の問題だ。記録に残っている18人の共通点は?」

「共通点ですか? 難しいですね。男女の偏りなどはありませんし、出生地や出身地、身分さえも様々ですから」

「ふむ。まぁ正解って事にしとくか。これまで特異魔法を持つものに有意な共通点は見つかっていない。つまりは……マールが特異魔法の使い手でも、何の不思議もないって事だ」


 スタンリー様は、そう言いながらマールが残した服をちょいと指先でつまみ上げた。

 その下には、気を失ったような状態で倒れているマールがいた。ただ、いつものマールではなく、かつての、小さな猫だったころのマールの姿だ。


「マール!?」


 わたしは気を失っているマールをやさしく抱きあげる。

 猫らしい少し高めの体温。胸もわずかに動いている。どうやら命に別状はないみたいだ。ほっと安心のため息。


「これは……マール君が猫に?」

「おそらくだが、マールの特異魔法だろう。己の姿を変える魔法という所か。まだ断定は出来んが、魔導書に魔力を通したことで発動してしまったのかもしれん」


 私の頭の上で会話が始まる。

 スタンリー様の説明によると、これまでにも魔導書に初めて魔力を流した際に魔法が暴発してしまった特異魔法の使い手が居るらしい。


「そんな記録があるのですか?」

「いや、記録には残ってないだろうな」

「それじゃ父上は何故ご存じなのですか?」

「直接、本人に聞いたからな」

「……フラーマ様ですか?」


 フラーマ様といえば、今わたしが手掛けているぬいぐるみ『火種売りの少女』のモデルである初代王妃様の事だ。

 100年位前に20歳前後だったとして、スタンリー様が40代くらいだから、長寿な方なら時代は重なるのかななんて考えてみたけど、スタンリー様からすぐに否定の声が上がった。


「いや、さすがの俺も初代王妃殿下とは会ったことが無いぞ。別の人物だ」

「では……」

「公にはされていない特異魔法の使い手、現女王陛下であるビアトリクス様だ」


 スタンリー様がそう言うと、レンヴィーゴ様は驚きの表情を見せる。


 ビアトリクス様っていうのは、レンヴィーゴ様から教えて貰った事がある、この国の女王様だ。


「……ビアトリクス女王陛下が王位に就けたのは、特異魔法のおかげ……という事ですか?」

「もちろんそれだけじゃないがな。女傑といえば聞こえは良いが、実際には男勝りのじゃじゃ馬だ。特異魔法なんざ無くても何とかしたんじゃないか?」


 なんか、誰にも聞かれる心配が無いからって、不敬な事を口走ってるような気が……。


「たしかにいくつも武勇伝があるようですね、女王陛下には。いや、今はそれよりもマール君の方ですね。特異魔法というのは間違いないのですか?」

「特異魔法を使える者の魔導書には、最初から魔法陣が描かれているらしい。マールが目を覚ましたら、確認してみると良いだろう」


 スタンリー様の言葉を聞いて、レンヴィーゴ様の瞳がキラキラ輝いているように見える。

特異魔法っていうのはホントに珍しいって事なんだろうね。


 だけど、そんな珍しい特異魔法なんてものをマールが持ってるなんて信じられない。

 いや、そもそもマールって日本に居るころから、周りに珍しいって言われ続けてたんだから、マールならおかしくないのかな?


 猫なのに、やけに頭が良かったり、何年も飼ってたのに全然大きくならなかったりで、周りの人も含めて、すごい珍しがられたんだよね。


「えっと、それよりも……」


 わたしは腕の中で気を失ったままのマールを見る。あいかわらず、小さな猫の姿のままだ。


「マールは元の姿に戻れるんでしょうか?」


 マールの姿を見た時から疑問に思っていたことを恐る恐る質問してみる。

 猫の姿と擬人化されたぬいぐるみの姿、もはやどっちが本来の姿なのか、わたしも混乱してるけど。


「断定は出来ませんが、特異魔法の暴発であるならば、おそらく戻れると思います。時間の経過で戻るのか、注がれた魔力が尽きた時に戻るのか……その辺は、調べてみないと分かりませんが」


 レンヴィーゴ様やスタンリー様からすれば、マールが姿を変えたのは魔法の力って認識でしかなくて、ちょっと楽観的な感じがする。

 でも、わたしから見るとちょっと違うんだよね。

 わたしの視点だと、マールは『姿を変えた』だけではなく、『元の姿に戻った』にも見えるのだ。もしかしたら、姿を変える魔法ではなくて、もっと別の魔法の可能性だって捨てきれない。そして、もし別の効果を持つ魔法だったら、ずっと普通の猫の姿のままって事になっちゃうかもしれないのだ。

 

 そんな事を考えているうちに、ふと気が付いてしまった。


 マールは自分の姿をどう思っているんだろう?

 元の世界に居た時の猫の姿の方が良いのか、それとも猫と人とぬいぐるみを足したような姿の方が良いのか。

 どっちなんだろう?


 そして、わたしはどっちのマールを望んでいるのだろう?

 幼いころから一緒に過ごしてきた猫の姿のマールか、それとも、こちらの世界で出会ったマールの姿なのか。

 正直、どちらのマールもマールである事は変わりないし、どちらの姿も可愛い。そして思い入れも愛着もある。

 どちらか一方を選ばなければならないとなると、むちゃくちゃ悩んでしまいそうだ。

 

 わたしがむむむーと眉間にしわを寄せて悩んでいると、レンヴィーゴ様が心配そうにのぞき込んできた。


「大丈夫ですか?」

「はい。ちょっと考え事をしちゃってました。大丈夫です」

「大丈夫なら良かったです。では、ルミさんも魔導書の収穫をしてしまいましょう」


 レンヴィーゴ様に促されて思い出す。


 そうだ、わたしも魔導書を収穫しなくちゃ!

 マールの事は心配だけど、わたしに何か出来るってわけじゃない。マールが目を覚ますまでは何も確認できないし。

 だからといって、ただ何もせずに待ってるくらいなら、わたしはわたしの出来る事をやっておいた方が良いはずだもんね。


「それでは、マール君は僕が……抱いていたら目を覚ました時に嫌がるかもしれませんね。そちらのベッドの上に寝かせてあげてください。……ルミさんは踏み台は必要ですか?」


 そういたずらっ子のようにクスクス笑うレンヴィーゴ様。

 失礼な! わたし、そこまで小さくないよ!


 内心でプンスカしながらマールをベッドに寝かせてから、導魔樹に向き直る。


 改めて見た導魔樹は、マールが育てたものよりも一回り大きいような気がする。魔力測定した結果ではわたしの方が魔力量とかが多いという話だったから、それが影響しているのかな。

 幹の途中から分かれた一番大きい枝にはリンゴとかミカンの様な果実ではなく、一冊の本が生っている。わたしが選んだ薄いクリーム色をしたシンプルな本だ。


 わたしは自分でも分かるくらいにビクビクしながら、そのクリーム色の本に手を伸ばした。

 両手で本を掴み、ほんの少し引っ張っただけで枝から離れてしまう。今まで自重で落ちなかったのが不思議なくらいに簡単に取れてしまった。


「ふわぁ~」


 思わず口から声が漏れる。なんだか無性に嬉しい。

 農家の人たちが果実を育てるのに比べれば、手間も時間も比べ物にならないくらいに少ないはずなのにね。


「ルミさんも、魔力を流してしまってください。でもマール君のように一気に魔力を流しすぎると万が一があるかもしれないので、ゆっくり少しずつでお願いしますね」


 レンヴィーゴ様の言葉に頷いて、両手で持ったままの魔導書に、慎重に、ゆっくりと魔力を流し始める。

 魔力を流し込むにつれて、マールの時と同じように魔導書はほのかに光りはじめ、少しずつ明るさを増していった。


 そして、やっぱりというか何というか。

 ──光が爆発した。


あやうくルミに「生きてるって感じ~」って言わせちゃうところでした。

良く踏みとどまった! 自分をほめてあげたい!(*>ω<)=3

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