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ぬいぐるみ作り 10

 ポリーちゃんと一緒に『火種売りの少女』ことフラーマ様を模したぬいぐるみデザイン案を描き上げていく。


 まずはまっすぐに縦線を描いて、頭の中のイメージにある頭身に合わせて円を描く。

 可愛いぬいぐるみを作るという命題をクリアするだけなら、頭身は低い方が可愛く見える。だけど、エルミーユ様の持っていたぬいぐるみは、5から6頭身くらいあった。

 近い条件で比べるなら、1頭身とか2頭身じゃない方が良いような気がする。それにあまりにも見慣れていない頭身だと、忌避感を持ってしまう可能性だってある。なので、4頭身で描くことに。


 当然、頭が大きめ。そんで身体は小さめで、手足は細く長く。

 カントリードールと呼ばれる物に近いかな。カントリードールっていうのはアメリカの西部開拓時代に作られ始めた、端切れや古着などを使った人形の事だ。


 わたしも、何人かの友達に部活動の必勝祈願として作ってあげた事があるんだよね。柔道部とか剣道部とか女子野球とか女子サッカーとか、あとは女子相撲部の友達にも作ってあげたんだけど、部活動らしさを出すためにユニフォームとか小物とかで特徴を出したかったから、身体の部分もそれなりの大きさに作れるという意味では作りやすかった覚えがある。


 何故か、わたしがカントリードールを贈った友人たちが大会とかで良い成績を残したという噂が広まって、『必勝祈願人形』として面識の無かった先輩とかからも依頼を貰った事もあった。ただの偶然だとは思うけど、喜んでもらえたのは、やっぱり嬉しかったな。


 ある程度のあたりを付けたら、細かい部分を描きこんでいく。

 イラストを描いてる訳じゃ無いので、ポーズとか構図なんてものは考えない。

 そういう絵が描けない訳じゃ無いよ。わたしの場合、オリジナルのぬいぐるみを作る時にはイメージイラストとかコンセプトアートなんて呼ばれる絵を描く事で、よりぬいぐるみとその周辺の方向性とか細かい世界観とかを具体的なイメージにしたりするから、そういうイラストも色々描いてきたし。


 今は描かないけどね。この世界の常識に合わない事を描いてしまってポリーちゃんに不審がられると困るので。

 なので当たり障りのない、既に分かってる事だけを描いていく。


 例えば、この地方は四季があるけど、日本ほどはっきりと分かれてるわけじゃないという話を聞いている。もちろん夏は暑くて冬は寒いんだけど、真夏と真冬の気温差が日本ほど大きくないって感じかな。

 もちろん夏には日差しがきつくて暑くて寝苦しい夜になるし、冬には水たまりや池の水なんかが氷ったり、うっすらと雪が降り積もる事もあるらしい。


 そういうのが、ぬいぐるみ作りにも関わってくる。

 日本より暑くなく寒くもない、一年を通してブレ幅が少ない温暖な気候であるなら、たとえばカナダとかに住んでるイヌイット族みたいな格好をさせたら、それは着こみすぎって事になる。

 逆に南の島に住む人たちみたいな露出度の高い服も合わない。

 日本でいえば、春とか秋服くらいのイメージに合うだろうね。


 そういうちょっとした部分でも些細な違和感が出てくると、それを目にした人、手に取った人の頭にハテナマークが浮かんじゃう。

 もちろん、それに何らかの理由があって狙ってやってるのなら良いんだけど、今回はそんなのは狙ってない。


 わたしは頭の中で色んなことをグルグル考えながらペンを動かしていく。


 顔は、この国の硬貨に描かれた|浮き彫り≪レリーフ≫を参考にしつつ、ちょっと幼い感じを狙って、目の高さとかを下げて頭が大きく見える様に。

 鼻とか口は、あまり目立たない様に。首は細く肩幅を狭く……。


「ルミフィーナ様って、絵だけでもスゴイですよね」


 ずっと一緒に動いていたからか、ここ数日で少しずつ馴染んできてくれたポリーちゃんが、わたしの描く絵を覗き込んでくる。


「ぬいぐるみ作りの為に、一生懸命練習したからね」

「こういう絵が描けないと、ぬいぐるみ作りは難しいんですか?」

「いやいや、そんな事無いよ。ぬいぐるみの作り方に正解なんて無いから。私のやり方がこうだってだけだよ」


 実際、市販されている型紙を流用する人とかも居る。この世界だと型紙なんて売って無いだろうけどさ。


「それじゃ、あんまり絵を描いた事が無い私でも作れますか?」

「最初は失敗しちゃうかもしれないけど、考えながら練習すれば、作れるようになるよ。わたしもお手伝いするし」


 わたしがそう言うと、ポリーちゃんは嬉しそうに「がんばります」って気合を入れてからペンを握る。


 わたし達が最初に描くのは、どういうぬいぐるみにしたいかっていうイメージ図だ。

 大きいのが良いのか、小さいのが良いのか。頭身や擬人化具合、リアル寄りなのかポップな作風なのかなんていう事まで考えながらペンを走らせる。


 ちらっと覗き見たところ、ポリーちゃんはどうやら角の生えたウサギ、ジャッカロープを描いているらしい。

 ノエル君に比べて角が小さいから、女の子型って事なのかな?

 彼女かな? お嫁さんかな?


 それからしばらくは、二人で脳内のイメージをアウトプットする作業に没頭する。

 この世界だと、まだ鉛筆とかシャープとかが無いから、失敗しちゃったら消しゴムで消して描き直しっていうのが出来ない。

 そのせいなのか、ポリーちゃんはすごい集中して丁寧に描いてる。まだまだ練習段階なので、多少の失敗は気にせず描いて良いと思うんだけどね。

 

 わたしはたまにポリーちゃんにアドバイスを挟みながら、自分の分はサササッと描いてしまう。

 アドバイスは、あんまり細かくは言わないよ。わたしが細かく言う事でわたしの影響を受けすぎて、ポリーちゃんの作る物までわたしのコピーみたいになったらもったいないもん。

 そんな事になるくらいなら、たとえ少しくらい下手になっちゃったとしても、ポリーちゃんらしい絵だったりぬいぐるみになった方が価値があると思う。


「うぅ~。やっぱりルミフィーナ様みたいに上手に描けません……」


 ポリーちゃんの前にある紙には、ちょっと小さめだけどヒトのように二本足で立ったジャッカロープを斜めから見た姿が描かれている。ほんのり擬人化って感じかな。

 思うように描けなくてちょっと凹んでるみたいだけど、なんとかなったみたいだ。


 ポリーちゃんの描いたジャッカロープはやっぱり女の子って事で、より女の子らしくなるように、首輪の代わりにリボンタイ付き。これはわたしのアドバイス。

 本物のジャッカロープだったらリボンタイなんて付けてるわけじゃないけど、そこはぬいぐるみ。全てを常識で考える必要は無いし、実物に忠実である必要は無いのだ。

 可愛いは正義だからね!


 わたしの方は全くの新規ってわけじゃなく、記憶にあるぬいぐるみデザインを流用しているのでそこそこの絵は描けたかな。

 ペンで描くのはちょっと難しかったけど、絵画やイラストとしての完成度なんて求めてないので問題なし。わたし達が描いていたのは、ぬいぐるみを作るための設計図の元になるような物だからね。


 次は、三面図の作成だ。

 三面図っていうのは、正面からだけじゃなく他の二方向からの視点も加えた図面の事。

一般的には正面図の他には、上方向からの視線である平面図、横方向からの視線の側面図の三つになるらしいんだけど、ぬいぐるみの場合は上からの視線っていうのはあんまり必要無い。

 何故なら一般的なぬいぐるみは、丸とか楕円形の頭を上から見た図にしかならないから。それよりも重要なのは背面図だったりするのだ。

 背中側のデザインがどうなっているのか。例えば、天使や悪魔を模ったキャラクターを作りたいとして、頭の形よりも背中に生えてる羽がどうなっているのかなんて言う方が重要になる。

 羽が生えていないようなキャラクターだったとしても、例えば、籠を背負ってる農家のおじさんとか、尻尾が生えてるとか、ユニフォーム姿で背番号を背負ってるとかでも、背面のデザインを決めておかなければならない場合は、意外と多い。

 なので、わたしの場合は左右対称に作るのであれば、正面図、背面図、側面図の三つを用意する事にしている。


 まぁ、中には正面、側面、背面だけじゃなく、平面図や反対側の側面、下面図まで用意する人も居るらしいけど……、わたしはそこまでは手を掛けないかな。面倒だし。


 三面図を描く時の注意点は幾つかあるけど一番大事なのは、整合性が取れている事。

 どういう事かというと、正面から見た図と側面や背面から見た図で矛盾が無いように描くという事だ。

 たまにあるんだよね、正面から、または側面からだけ見ればちゃんと描けてるように見えるのに、両方を見比べてみると、体つきが違って見えたり、目や腕の高さが違ってたりとか。


 なので等高線を引いて、矛盾が出ないようにしながら描いていくんだけど、これが意外と難しい。

 例えば、野球のボールだったら正面から見ても横から見ても球形だから、そんなに悩むことは無いんだけど、人の頭とかは球形じゃない。

 人の頭が横を向いたらどうゆう風に見えるのかを想像しながら描かないといけないのだ。

 これが出来ないと、頭だけ薄っぺらだったり、またはやけに前後に幅のある頭になってしまい、それはそれはカッコ悪くなってしまう。


 そうはいっても人の頭の場合は、まだ何とかなる。極端に言えば、それこそ球形で誤魔化す事もできるから。

 問題は、|口吻≪マズル≫のある動物を作る場合だ。

 動物の場合、うまくマズルを表現できないと、可愛くなくなっちゃうのだ。


 わたしが見てた限りでは、ここまで何とか出来てたポリーちゃんでも難しいみたいなので、この部分に関しては手を出すことにした。

 元絵がポリーちゃんの絵なのだから、わたしの影響は最小限に抑えられるはずだし、最初から出来る人なんて居ない。

 今回はわたしがやる様子を見て覚えてもらって、次回から自分で頑張ってもらった方が良いという判断だ。


「ルミフィーナ様がやっているのを見ると、簡単な事をやってるように見えるんですけど、自分でやるとなると……」


 今までお絵かきの経験がそれほど無いにしては、ポリーちゃんの描いたイメージイラストは十分上手だと思うけどね。よく特徴を捉えてるし。それだけジャッカロープの事を良く見ていた、観察していたって事なんだろうね。


「わたしはこういうの何枚も描いてて慣れてるから」


 主に授業中とかに描いたものだけど。

 実際にぬいぐるみ作成にまで至っていないイメージイラストやら三面図やらは、たぶん4桁に届いているかも。気に入ったものは、家で清書して保存してある。その保存した物だけでも100枚くらいはあったはずだ。


 ぬいぐるみ二つ分、『火種売りの少女』と『ノエル君の彼女ちゃん』の三面図を描き終えたところで、一つ、大きく息をつく。


「よし、三面図は完成したから……、別の事しようか?」

「別の事、ですか?」

「うん、別の事。今日はこれでおしまいにするの」

「でも、まだお昼までには時間がありますけど……」

「わたしはまだまだ続けたいけど、ここではあえて時間を取らなくちゃならないんだよ」

「何か理由があるんですか?」

「理由は……、明日になるとこの絵が下手になってるかもしれないの」


 これはお絵かきする人にとっては「あるある」だと思う。

 描き上げた直後には満足できる出来栄えだったのに、次の日に見たら違和感を感じるという現象。

 描き上げた直後って、自分で描いた絵を客観的に見れなくて、どこかズレてたり、間違ってたりしても気が付かなかったりする。

 なので客観視できるように時間を空けるっていうのは大事な事なのだ。


 そういうわけで、次の工程の為の準備を始めたいと思う。明日になっても、絵が下手になってませんようにって祈りながらね。

今日、1月12日は『長靴をはいた猫』でお馴染みのシャルル・ペローの誕生日だそうです。

もちろんこの作品も影響を受けまくってます。


でも、今回の更新では擬人化猫のマールは名前さえも出てこないという……。だめだこりゃ(*>ω<)=3

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