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ぬいぐるみ作り 8

 翌日の朝食の後。

 わたしとマールは、いつもの様にレンヴィーゴ様のお部屋で魔導樹の成長具合をチェック。

 一番太い枝にたった一つだけ芽吹いていた蕾がどんどん大きくなってきている。成長度合いは、わたしのとマールので、そんなに変わらないかな。

 レンヴィーゴ様によれば、もういつ花が開いてもおかしくないのだとか。どんな花が咲くのか楽しみだね。


「それでは、昨日は王国の大まかな地理と歴史をやったので、今日はスペンサー領の周辺の地理を詳しくやっていきましょうか」


 導魔樹のチェックが終わると、レンヴィーゴ様によるお勉強の時間へと移る。

 この日までに、レンヴィーゴ様からは色々な事を教えて貰っている。たとえば、地理とか文化、日常生活を行う上で必要になりそうな物の相場とか、法律とか通貨とか習慣とか。あと、魔法や魔物についてなんてのも教わったよ。

 でも、専門的な勉強って感じじゃなくて、「平民でも常識として知っているのが当たり前」っていう部分を広く扱った内容だったかな。

 なので、例えば通貨だったら単位は『ペント』で、大体の相場とかを教わった。……だけど流石はレンヴィーゴ様というべきか。

 油断すると、流通している硬貨に描かれた人物の名前とか来歴とか、使われだした年代とかまで説明しようとするんだよね。

 そんな事、庶民は知らないから! 覚える必要のない知識だから!


「えっと、その前に質問があるんですけど良いですか?」

「はい、何でしょう?」

「えっと、『火種売りの少女』っていうお話についてなんですけど……」


 『火種売りの少女』という童話が、日本でいう桃太郎とか浦島太郎みたいに一般的に知られているようなお話なら、そちらを先に把握しておかなくちゃならない。この後すぐに必要になる知識だ。


「『火種売りの少女』ですか。そういえば、そういう誰でも知ってるような物語というのはまだ話をしていませんでしたね。でも、どうして急に『火種売りの少女』の事を?」

「えっと、エルミーユ様の持っていらしたぬいぐるみが、もともと『火種売りの少女』を模したものなんじゃ無いかという話を聞いたんです」

「あぁ、なるほど。確かに姉上の持っているぬいぐるみは『火種売りの少女』が元になっていたはずですね」


 レンヴィーゴ様によると『火種売りの少女』はこの国では定番の物語で、誰でも子供の頃に親や祖父母などから昔話のように聞かされるらしい。


 物語の主役はフラーマという女の子で、実在した人物なのだそうな。しかも、まだ100年くらい前のお話で、なんとこの国の初代王妃様の事なんだとか。


 説明によると、両親の顔も知らない孤児で火種にしかならないような火の魔法しか使えなかった主人公の女の子フラーマが、魔物に襲われた事をきっかけに炎の特異魔法に目覚め、その後、自らのチカラを自覚した彼女は傭兵稼業をする事になり、その活動の中でとある青年と出会い、一緒に傭兵団を立ち上げる。

 そして、青年と恋仲となり、その後、結婚。

 フラーマと青年を含めた他の団員たちの活躍により、青年は国を興すまでとなり、その伴侶であるフラーマはそのまま王妃となったという立身出世の物語らしい。


 この物語に出てくる青年とは、後に建国王と呼ばれるラトウィッジ・アルテジーナの事だ。

 ラトウィッジ王は以前にレンヴィーゴ様から聞いた話で、わたしと同じ迷い人であるドロシー・オズボーンとの関係も取り沙汰されてたはず。

 むむぅ。両手に花か。ハーレム主人公か。きっと父さんが聞いたら血涙流しながらブチ切れる案件だ。あんな美人な母さんをお嫁に貰っておいて、おまいうだとは思うんだけど。


「エルミーユ様が持っていたぬいぐるみは、そのフラーマという人の姿を模した物なんですね」

「ええ、そういう事になります。『火種売りの少女』で主軸になるのはフラーマ王妃が傭兵になる前、おそらくは十代半ば頃までの話なので、ぬいぐるみも、まだ髪が短かった頃の姿になってますしね」


 十代半ばといえば、今のわたしと同じ位って事かな。それって後のラトウィッジ王と出会った以降に髪を伸ばし始めたって事?

 好きな男性に少しでも綺麗な自分を見て貰いたいから、髪を伸ばし始めたって事なのかな。歴史上の人物にも青春があって、乙女心があったりしたのかもしれないなんて考えると、なんだか微笑ましい気持ちになってしまう。


 わたしも今はショートボブにしているけど、綺麗な自分を見て貰いたい相手ってのが現れたら、伸ばすことになるのかな。

 でも、あんまり長い髪だとお手入れとか大変なんだよね。お風呂のあと、なかなか乾かなかったりするし。


 ……こんな事を考えている内は、素敵な男性が現れる事なんて無いのかもしれない。


「それで、フラーマ王妃という人は、どういう人だったんでしょう? 顔立ちとか体つきとかの事ですけど」

「僕も本人を直接見た事がある訳では無いのですが、王妃時代に描かれた肖像画などではお美しい方でしたね。体つきはほっそりとしていて小柄ではあるんですが、メリハリがあると言いますか、女性らしいと言いますか……」


 ふむふむ。レンヴィーゴ様は何かに気を使っているような言い方だけれども、どうやらわがままボディの持主らしい。

 何に気を使ったんだろうね? まさか、わたしが貧相な体形を気にしているとでも勘違いしちゃったのかな?


 ええ! 気にしてますよっ! わたしだってもっと色んな場所が成長してても良いはずなのに!


 わたしが心の中でプンスカしていると、レンヴィーゴ様は思い出したように硬貨を一枚取り出してわたしたちに見えるようにテーブルに置いた。


「えーと、以前に勉強してもらった硬貨についてなんですが、こちらの銀貨に描かれている女性が、初代王妃であるフラーマ様になりますね」


 なんとっ。以前、お金について習った時に、既に一度フラーマ王妃の事を教わっていたとは。

 覚える必要のない知識だなんて、わたしごときが決めて良い物じゃなかったね。反省しなければ。


 反省しつつも、テーブルの上に置かれた銀貨を見てみると、確かに綺麗な顔立ちの女性の横顔が描かれている。

 パッと見た印象としては、意志が強そうな切れ長の目とキリっとした眉、厚めな唇が特徴的。この辺を意識すると雰囲気は似ていくかな。

 もちろん銀貨に描かれた横顔は王妃となった後の姿だろうから、『火種売りの少女』のぬいぐるみを作ろうと思ったら、もっと幼さを残した感じにしなくちゃ駄目だと思うけどね。


 頭の中でぬいぐるみのイメージを固めていると、レンヴィーゴ様が苦笑していることに気が付いた。


「えっと、何かありましたか?」

「いえ、ルミさんが随分と真剣な顔をしていらしたので」


 なんとも失礼な。わたしだって真面目な顔をする事くらいあるというに。


「……姉上から話のあった『ルミさんが可愛いと思うぬいぐるみ』を作るのですよね?」

「はい。比較するためには同じ題材を選んだ方が良いと思ったんですけど……。何も問題は無いですよね?」


 具体的には肖像権とかパブリシティ権とか。

 わたしも詳しい事は分からないけど、詳しく無いからこそ版権ものとか実在の有名人をモデルにするとかは面倒な気がして手を出さないようにしてた。悪質でなければ、訴えられるなんて事は無いなんて話も聞くけど、背負う必要の無いリスクなら背負いたくないよ。


「特に問題は無いと思いますよ。姉上の持っていたぬいぐるみを作った職人も、王宮に正式な許可を取っているとは思えませんし。何か付け届け位は贈っているのかもしれませんが」


 まぁ、この世界の文明文化レベルだと、そもそも基本的人権なんてものも怪しいからね。

 

 レンヴィーゴ様の言葉通りなら、逆に、わたしが何かを作って発表して、それを真似して作る人が居たとしても、差し止める事も罰する事も出来ないという事だ。

 著作権とか知的財産権とか、そのへんは全く期待できそうにない。


「そうなると、外に出すのはちょっと怖いですね、真似されそうで」

「ええ、そうですね。真似のできない技術ならギーンゲンの外に出しても問題は無いと思いますが……。先日のドレスなども一度社交の場で話題になれば、次の年には似たような物が出回るかもしれません」


 いくら日本での知識があるからといって、わたしだって無限にデザインアイディアを出せるわけじゃない。

 ぬいぐるみ作りの為に、現実のドレスとか、アニメや漫画、ラノベの挿絵とかまで参考にネタとして頭の中にストックしてあるけど、それだっていつかは尽きる。その全てが真似されてしまったら、わたしの価値は激減し、必要のない人物という事になってしまう。


 そんな事にならないように何かしら対策を考えないと。


2020年最後の投稿です。

こんな、更新も展開も遅く、内容も薄く、山も谷も無いような作品を読んでくださった『頭のおかしい奴ら』(某江○2:50さん風)の皆様、ありがとうございました。

来年も、更新が遅くなることはあっても早くなることは絶対にありません!

気長にお待ちくださいますよう、よろしくお願いいたしますm(__)m

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