ぬいぐるみ作り 7
「これからは、ノエル君のお世話をするだけじゃなくて、一緒に遊んだりしてあげれば良いんじゃないかな? あとはエルミーユ様にお礼の品を渡すとか?」
わたしがそう提案すると、キョトンとした顔で首をかしげるポリーちゃん。
「ポリーちゃんは、エルミーユ様からノエル君を頂いたわけでしょ? だから今度はポリーちゃんがエルミーユ様に何かを差し上げれば良いんじゃないかなって思ったんだけど……」
もしかして、わたし変な事を言ってしまったのだろうか? ポリーちゃんは不思議な物を見るような目でわたしを見ている。
「あの……、平民の私が貴族のご令嬢であるエルミーユ様に差し上げる事が出来るような物なんて、何も無いんですけど……」
「あー、別にそんな特別な物じゃなくても良いんだよ。例えば、どこかで摘んできた綺麗な花だったり、お礼の手紙だったり、美味しいお菓子だったりでも。こういうのは気持ちの問題だからね」
そう言ってみたけど、実はわたしには考えがあった。
ぬいぐるみを作ってエルミーユ様にプレゼントするという計画だ。もちろん作るのはポリーちゃん。わたしもサポートはするけど、メインはポリーちゃんに作ってもらいたいのだ。
これによって、エルミーユ様から言われた”わたしが可愛いと思うぬいぐるみ”を作れて、ポリーちゃんはエルミーユ様にお礼のプレゼントが出来る。
おまけに、わたしがぬいぐるみを作ったらまた動き出すんじゃないかという懸案事項も先送りできる。
もし、わたしが作ったぬいぐるみの全てに命が宿ってしまうとしたら、それは色々問題が発生すると思う。具体的にどんな問題になるかは分からないけど、とにかく騒ぎにはなるんじゃないかな?
そして騒ぎになるという事は目立ってしまうという事。だけど、少なくとも今はまだ目立つのはマズイと思うんだよね。
わたしは元の世界に戻る方法を探したいのだから、下手に目立って他の貴族や王族に目を付けられて、拉致されたり監禁されたりなんてのは何としてでも回避しなくちゃならない。
命を狙われたり、身柄を拘束されたりするのを避けるためにも、以前にレンヴィーゴ様達が言われたように、抗えるだけのチカラを得るまでは下手に目立つような事はしたくないのだ。
それがどのくらい時間が掛かるのかは分からないけど。
「ポリーちゃんが良かったらだけど……、一緒にエルミーユ様に差し上げるぬいぐるみを作るっていうのはどうかな? わたしが形を考えて、ポリーちゃんが縫い上げるの。それをエルミーユ様へのお礼の品として献上するっていうのはどう?」
どうせだったら、自分で全部作りたいけどね!
「お話は有り難いんですけど、私、ぬいぐるみなんて作った事がありません……」
「それは、わたしが教えるから大丈夫。それにポリーちゃんもお裁縫は出来てたから。あれだけできるなら、ぬいぐるみだって簡単だよ」
マールの服作りの時に手伝ってくれたのを見た限りだけど、ポリーちゃんも上手にお裁縫が出来てた。もちろん、わたしの同級生とかと比べて上手って事だよ。エルミーユ様が比較対象じゃないよ。
わたしの説得にポリーちゃんも少しずつ気持ちが傾きかけてきたように見える。もう一押しかな?
「わたしが作り方を教えてポリーちゃんが一人ででも作れるようになれば、次からは自分の好きな形のぬいぐるみだって作れるようになって、ノエル君が遊ぶ為のぬいぐるみだって作れちゃうよ?」
ウサギは知らないけど、犬とか猫とかにはぬいぐるみで遊ぶ子って結構いるんだよね。ネット上では、ぬいぐるみを抱きしめてお昼寝している犬や猫とかの写真を見かける事もあったし、マールもわたしが作ってあげたぬいぐるみと一緒にお昼寝してたりもした。
ノエル君は人の言葉が分かるくらい頭が良いみたいだし、きっとぬいぐるみで遊んだりもできると思うんだよね。
「ノエル君もポリーちゃんが居ない時には、ぬいぐるみで遊べたら退屈しないで済むかもしれないよ?」
わたしがそう言いながらノエル君の方に視線を送ると、ノエル君は何かを期待するような目でわたしとポリーちゃんを見ていた。
ポリーちゃんもノエル君のキラキラと輝く瞳に気付いて、小さく「ヴッ……」なんて声を漏らす。
あのキラキラと期待している瞳は裏切れないよね……。
「……わかりました。ぬいぐるみ作り、教えていただけますか?」
「もちろん! そうと決まれば、早速始めようか!」
ポリーちゃんの気持ちが変わらない内に始めちゃおう。
ごめんよ、卑怯なお姉さんで。
* * *
「さて、まずはどんなぬいぐるみを作るかを決めなくちゃならないんだけど……、今回はもう決まっています」
ぬいぐるみ作りの為に自分の部屋に戻ったわたしとマール、ポリーちゃん。そして退屈していたノエル君も一緒だ。
ホントだったら、ポリーちゃんは自室に控えてる時間なんだけど、私が連れてきちゃったからね。そんで、ポリーちゃんと一緒にノエル君も付いてきたって形だ。
「どんなぬいぐるみを作るんですか?」
「今回は、エルミーユ様からの『わたしが可愛いと思うぬいぐるみ』という注文だから、比較がしやすいように、今エルミーユ様がもっているぬいぐるみと同じような『女の子の姿を模したぬいぐるみ』って事になるね」
エルミーユ様が持っていた、ぬいぐるみとは言えないようなぬいぐるみ。赤いワンピースに赤毛の女の子の姿だったけど、モデルになった人物とか居るのかな?
もしモデルが居るとなると、モデルとなった人物に寄せて行かないとだよね。
「ねぇ、ポリーちゃん。あのエルミーユ様が持っていたぬいぐるみは、元になった人物とかいるの?」
「あのぬいぐるみの元になった人物ですか? 多分ですけど童話の『火種売りの少女』を模したぬいぐるみだと思います」
「火種売りの少女……?」
なんだそれは。
この世界出身じゃないわたしは、そんな童話なんて知らない。けど、タイトル的には『マッチ売りの少女』が思い浮かぶ。
「えっと、ご存知ありませんか? 火種売りをしていた孤児の女の子が立身出世して、やがては国一番の大魔法使いになるっていうお話なんですけど……」
うん。わたしの知ってるマッチ売りの少女とは全く違う話みたいだ。どちらかと言えば、投稿小説サイトの異世界転生モノって呼ばれるジャンルの方が近いかも。
しかし、モデルとなったキャラクターが居るっていうのは、ちょっと困った。
いや、助かるけど困る。
ぬいぐるみに限らず似顔絵なんかもそうなんだけど、モデルが居るという事はそのモデルに寄せていくのは割と楽だったりする。
そのモデルの特徴的な部分を前面に出してあげれば、それを見た人が勝手に補完してくれるからだ。
でも、問題もある。
わたしの知ってる『マッチ売りの少女』がモデルだったら、貧しく薄幸そうなヨーロッパの方に住む年端も行かない女の子って感じに作らなければならないのだ。
南国育ちの明るく健康的な女の子のぬいぐるみを作ったとして、だれが『マッチ売りの少女』と認識してくれるのかという話になる。
もしわたしが『マッチ売りの少女』をぬいぐるみとして作るとしたら、ある程度の防寒が出来るような、それでいてお金持ちには見えない近世欧州風の服を着せるし、物悲しそうな表情を心がけるかもしれない。
もちろんそんな事はお構いなしに、年相応のただただ可愛い女の子に仕立てて『マッチ売りの少女』ですって人もいるけど、それは分かってて敢えてそうしている場合がほとんどの筈だ。
今回問題となるのは、わたしが『火種売りの少女』について全く知らないという事。
強気な性格なのか、謙虚な性格なのか、弱虫な性格なのか。
出身が孤児ってポリーちゃんが言っていたけど、そこからどんな活躍をして立身出世をしていったとされているのか。
そういった事でも顔立ちや、衣装、体つきとか色々考えなくちゃならない。
そもそも『火種売りの少女』という童話が、実在した人物をモデルにした童話なのか、それとも完全なフィクションなのかも分からないんだよね。
「あの……、ルミフィーナ様?」
悩んでいたら、ポリーちゃんが心配そうに覗き込んでいた。
「あ、うん、大丈夫。……えっと、そうだ。今日はもう遅いからこれで御終いにして、また明日どんなぬいぐるみにするか考えましょ」
こういう時は全力で誤魔化してとりあえず先送り。わたしはその場から逃げだす事を選ぶ。
たすけてレン先生!
私は小説を書く時にはパソコンで書いているのですが、今回、執筆ソフトに不具合があって、あんまり書けませんでした。なので短いです。
文章を書いてて変換する時に変換候補のボックスが出て、そこから変換先を選んで確定すると、カーソルが消えちゃう不具合でしたorz
どうも、IMF?とやらが勝手に更新されたのが悪かったみたいです。




