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魔導書の作り方 5

 朝食の時間を挟んで、再びレンヴィーゴ様の部屋にお邪魔しているわたしとマール。


 魔導書の革表紙に自分だけの意匠を施すため、食べている間にも頭の中で色々考えていたんだけど、どうにも考えがまとまらないままで、結局何も決まらないままだった。


 真っ白な紙を本の表紙部分に重ねて透かして確認してみると、思っていたよりは書き込めるスペースが大きい気がする。

 だけど、スペースがあるからと言って、空白を全て埋めるような図案はチョット遠慮したい。わたしは、個人的にはシンプルな意匠が好きなのだ。


 スマホケースとかペンケースなんかをデコシールとかでてんこ盛りにしてた友達もいたけど、わたしのは至ってシンプルだった。

 それで友達からは「JKらしくない」なんて言われてた。多分、父の影響かもしれない。


「そういえば、さっき見せていただいた魔導書の絵は、スペンサー家の紋章か何かですか?」


 ふと気になったことを聞いてみる。

 もしかしたら、暗黙の了解的な物があって、階級によって入れちゃまずい図柄とかあるかも知れない。


「ええ。僕個人の紋章ですね。父が叙爵した時に嫡男である僕は準爵となったので、紋章絵師に依頼して作らせた物です。これは魔導書に限らず、僕しか使ってはいけない図柄ですね」

「他の家族の方も使えないんですか?」

「使えませんね。もし勝手に使ったのが発覚したら、最低でも終身奴隷、普通は極刑です。」


 詳しく聞いてみると、レンヴィーゴ様以外のご家族、つまりシャルロット様とエルミーユ様は、当主であるスタンリー様の紋章である長い角をもった野牛の紋章に家族であるという印の入った眷族紋っていうのを使うらしい。

 眷族紋っていうのは、簡略化された物とか違うデザインの物ってわけじゃなく、もともとある紋章に印を付ける感じで、特定の植物の葉っぱを入れるのが習わしだとか。

 仮に、眷族紋を持つ人物が何らかの事情で継承者になった場合は、更に花か果実の図柄を追加するそうな。


「それじゃ、わたしも紋章っぽいのを入れたほうが良いんですか?」


 もちろん紋章なんて決めてないし、持ってない。日本でなら家紋はあるかもしれないけど、残念ながらわたしは知らないんだよね。


「いえ魔導書にどんな図案を使うべきかなんて決まっていないですよ。僕のような貴族家の嫡男は紋章を入れる事が多いと言うだけです。実際には、名前やモットーを入れるだけの人も多いですし、逆に宝石や金箔やらで飾り付ける人も居ますね」


 宝石とか金箔とかは、他の人におまかせしよう。わたしには似合わない。

 だからといって、名前だけっていうのも何だか味気ないよね。それならという事で、パッと思いつくのは、やっぱり猫だよね。


 チラリと隣を見てみれば、お世辞にも上手とは言えない文字で「まーる」と書いているマールの姿があった。しかも、何故か日本語で。自分でも納得がいってないのか、眉をへの字にした様な表情で首を傾げている。


 そんなマールを横目に見ながら、日本に居た頃のマールをモデルにして、二本足で立ち上がっている姿を描いてみる。もちろんリアルな猫じゃなくデフォルメした猫。


「んー……」


 悪くはない。我ながら可愛く描けていると思う。だけど、何だか子供っぽいような気もする。一生使う物に書き込むのはチョット躊躇するね。正直、これが許されるのは十代までかな。


 頭を振って小さく溜め息。


 もうちょっと大人向けのデザインを考えよう。

 描いたばかりのデフォルメ猫にバッテンをして、空いている部分に少しリアル寄りの猫を描いてみる。

 正面からとか、横からとか。歩いてるところだったり、寝ているところだったり、シルエットにしてみたりと、色々変えて何種類か描いてみたところで、ふと、視線に気がついて顔を上げてみると、レンヴィーゴ様が興味深そうにわたしの手元を覗き込んでいた。


「やっぱり、お上手ですね」


 わたしが気が付いた事に気がついたレンヴィーゴ様が、感心したように声をかけてくる。


「いえいえ、わたしなんて……。友達にはもっと上手な子も居ましたし」


 主に、同人誌とか描いてた友達とかね。授業中に教科書の端っこに描いた落書きでさえもわたしより上手だったよ。

 彼女が本気で描くのは、イケメン男子の肌色成分が多い時だけらしいけど。


「ルミさんのお友達という事は、同じ年頃という事ですか?」

「え、はい。幼馴染の一人です」


 わたしがそう答えると、何だか難しそうな表情で考え込んでしまうレンヴィーゴ様。


「あの……、それが何か?」

「いえ、ルミさんの居た世界は、魔法も魔力も無いというお話でしたよね? ですが、こちらの世界より文明や文化が進んでいるような気がします」


 そう言いながら、わたしがペンを走らせていた紙を手に取り、マジマジと見つめる。


「ルミさんが描いたこの絵もそうですが、先日描いたマール君の衣装の絵もこれまでに見た事が無いほどお上手でした」


 それは流石に大げさじゃ……。


「もしやルミさんは、高名な絵師の方に師事されていたのですか?」

「いえいえ、いえいえいえ! わたしは必要だから独学で練習しただけで! あ、たしかに上手な人が描いた絵を真似てみたりとかはした事がありますけど、それだけです! わざわざ勉強とかした訳じゃないですよ!」


 自分でも、下手な方ではないと思うけど、とてもじゃないけど絵描きとしてお金を稼げるレベルじゃないし。


「それでこれだけの絵が描けるというのが、やはり世界として文明や文化が進んでいるという事なんでしょう」

「……? どういうことですか?」

「この世界では……、少なくともこの国では、これだけの絵が描ける人はそれ程多くありません。そもそも、本格的に絵を描こうとする人が少ないからです。平民にはそれだけの余裕がありませんし、ある程度の地位がある人は、絵画は専門の絵師に描かせるものと思っていますから。裾野が狭い山は、頂上も低くなるのが道理です」


 んー。そう言われると、そうなのかもしれないけど……。

 それでも、わたしの居た世界でそうだったように、絵を描くことに人生を捧げちゃうような人の一人や二人は居ると思うんだよね。


 そう考えて、ふと、思いついてしまう。

 この世界には魔物が居て、魔力や魔法がある。それは、魔力を持つ人と持たない人の間には越えられない壁があるという事じゃないだろうか。


 元の世界でも昔は、血筋や経済力、権力とかコネとかが大事だったはずだ。だけどこの世界では、更に魔力の有無まで関わってくる。

 いや、逆かな?

 魔力を持つ人が、経済力や権力を手にすることが出来る世界なのかも。

 魔力が無いばかりに権力も経済力も持てず、新しいアイディアを思いついても、実行することが出来ず埋もれていった人は多いのかもしれない。


 そしてもう一つ。

 仮にこの世界で天才画家が現れたとしても、その人の描く絵が広く一般の人にまで広がる事は無いのかもしれない。

 現代日本だったら、ネットとか雑誌、テレビなんかのメディアで見ることが出来るし、わざわざ絵を見るために飛行機に乗って海外にまで出かける人もいる。

 だけど、この世界だと平民が町の外に出るなんて殆どないはずだし、元の世界だったら万人に認められるような天才画家の描いた絵でも、一部の権力者以外の目に触れる事はないんじゃないかな。

 そして画家同士でも、他の人が描いた絵を見る機会なんてそれほど無いから、影響を受け合うなんて事もなくて、発展が遅れるなんてことにも繋がりそうだ。


 そう考えると、わたし程度の画力でもレンヴィーゴ様が褒めちぎるのも、なんとなく納得できてしまう気がする。

 それにしても褒め過ぎだとは思うけど、ね。


「ルミさんが居た世界で、ルミさんの身の回りにあったものを再現できれば、この世界の文明や文化、技術なんかも飛躍的に発展するかも知れませんね。ドロシー・オズボーンのときと同じ様に」

「それは……、そういう事もあるかもしれないですけど、あんまり期待しないでください。わたしは普通の女の子でしかないですから」

「迷い人の時点で、既に普通の女の子ではない気がしますけどね」


 レンヴィーゴ様の返しの言葉に、わたしは「うぐぅ」としか答えられなかった。

この世界では、爵位とか紋章とかガバガバな感じにしてあります。

侯爵とか公爵とか伯爵とか男爵とか……あとなんだっけ? そういうの覚えるのめんどくさいので

もう、大中小で良いじゃん、と。

上中下とか一二三とか甲乙丙とか松竹梅とかも候補には上がったんですけどね。


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