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魔導書の作り方 4

 わたしたちは椅子に座ったまま、部屋を出ていくレンヴィーゴ様の背中を見送る。次の工程の準備をしてくるらしい。

 わたしもお手伝いをしようと席を立ちかけたんだけど、貴重品を保管している倉庫のような場所へ行くらしく、秘密の場所なので同行しては駄目らしい。

 なので、レンヴィーゴ様が戻ってくるまで大人しく待つしか無い。


 次の工程って何だろうね? チョット思いつかないんだけど。

 導魔樹から魔導書を作るらしいけど、導魔樹はまだまだ背が低くて、太さとかもわたしの二の腕くらいしか無い。

 種を植えてからまだ一時間も経っていないことを考えれば十分に大きいと言えるかもしれないけど、レンヴィーゴ様が持っていたようなサイズの魔導書を作るのには絶対的に足りないと思う。


 そうなると、次の工程って表紙を作るためのレザー素材の加工とか? それとも、今のうちからインクを用意するのかな?


 そんな事を考えている内に、両手に何冊も本を抱えたレンヴィーゴ様が戻ってくる。


「すいません。遅くなりました」


 レンヴィーゴ様はそう言いながら、テーブルの上に十冊の本を並べていく。

 表紙が黒かったり、茶色だったり、白だったりで、それぞれ文庫本くらいから漫画雑誌くらいまで、いろんなサイズの本だ。

 見た感じ、どれも魔導書っぽいんだけど、見本にでもするのかな?


「まずはこちらを見て下さい。こちらに用意した本が魔導書の素になります」


 テーブルの上に並べた十冊の本を指し示す。


 ごめんなさい。何を言ってるのか意味がわからないよ。


 魔導書の素って何? 調味料かな?


「魔導書の素、ですか?」

「はい。これらの本を養分にして、魔導書を作ります。導魔樹の植えられている鉢に引き出しがありますよね?」

「この、底にある部分ですか?」


 素焼きのプランターのような鉢の底には、平べったい引き出しがついている。

 こんな所に引き出しが付いていたら、水やりの時に底から流れ出した水とかの被害にあっちゃうんじゃないだろうか。


「魔力の供給をやめた状態で、その引き出しに魔力を注いだ本を入れることで、導魔樹は本に蓄えられた魔力を吸い上げようとします。その際、魔力と一緒に本自体も吸い上げます。そして、吸い取った本と同じ形の本を実らせるんです」


 説明を聞いても何を言ってるのか分からないよ!

 林檎とか梨とかみたいに、枝先に本がなるってこと?

 昔、『金のなる木』って5円玉がなってるように見える観葉植物とかあったけど、もしかして、あんな感じに本が枝先に生えてくるの?


「まずは、こちらに用意した本の中から、お好きな物を選んで下さい」

「……えっと、選ぶ時に重要な基準とかはありますか?」

「特には無いですね。あえて言うなら、大きさによって魔法陣を書き込む際の手間が変わる事でしょうか。大きいと持ち運びが不便になると思われるかも知れませんが、結局は体の中に取り込んでおくので、それほど邪魔にはなりません。……あぁ、そうそう。あまり大きな魔導書ですと、狩りや討伐の際に、視界が遮られる事はあるかも知れません。ですが、これも魔法を使うときに魔導書を出さない様になれば問題はありませんね」


 ページ数に関しては、気にする必要はないという。

 どういう原理なのかは分からないけど、全てのページを使い切ったとしても、新しい真っ白なページが増えていくんだそうな。しかも、本自体の厚さは何故か変化することもないらしい。

 実際には、最初からあるページで足らなくなるほど魔法を書き込む人は、それ程居ないらしいけど。


「それじゃ、見た目の好みだけで決めて良いって事ですか?」

「そうですね。あとは大きすぎると魔法陣を書き込む際のインク量も馬鹿にならないって位です。もちろんページの大きさに対して、魔法陣を小さく描くのは問題がありませんが、余白が多いとチョットかっこ悪いですね。それに、小さく描いたからと言って1ページに複数の魔法陣を書き込むことは出来ませんし」


 ふむふむ。

 たしかに、ページの真ん中にチョコンって感じで小さな魔法陣が描いてあるだけっていうのはカッコ悪いね。

 だけど逆に言えば、カッコだけの話で致命的な問題って訳じゃないっぽいね。

 それなら、見た目の好みだけで選ぼうかな。


 だけど、ちょっと待って?

 同じ性能であるならば、持ち運びとかを考えると小さい方が良いに決まっている。それなのに、なんで大きい魔導書があるんだろう?


 ケータイ電話端末だって、昔はショルダーバッグみたいな大きさだったのが、手のひらに乗るくらいにまで小さくなったって父が言ってた。

 ショルダーバッグサイズと手のひらサイズで性能が同じなら、私なら間違いなく手のひらサイズを選ぶ。もちろん、ボタン操作もできないほど小さいっていうんだったら論外ではあるけど。

 多分、ほとんどの人が同じように考えるんじゃないかな?


 それと同じように、魔導書だって小さくても同じ事が出来るのなら、小さい物だけが残って大きい魔導書は淘汰されていくんじゃないだろうか?

 それなのに、大きい魔導書にも需要があるという事は、大きい魔導書には小さな魔導書には無いメリットがあるはず?


 その辺の事をレンヴィーゴ様に聞いてみると、少し驚いたような顔をしながらも丁寧に教えてくれた。


 曰く。『大きければ大きい程、自分の魔力や権力、財力等を誇示できる』という事らしい。

 でも、大きければ大きい程、作るのは大変だし、魔法陣を書き込む為のインク等も多く必要になる。そして、身体から取り出す時にはより多くの魔力を必要とするらしい。


 ……ん。

 わたしは見栄を張るために不便な思いをするような趣味は無い。これは、一般的なサイズの本で決定だね。

 それに、あんまり大きな魔導書を持ってると、それだけで悪目立ちしちゃいそうだし。


 テーブルの上に並べられた本は、全部で10冊。レンヴィーゴ様によれば、ごくごく一般的なサイズとデザインの物ばかりだということだった。


 ここにある本は、全て領地でサンプル用として準備してあった物で、本来であれば、このサンプルから好きな本を選んで注文をするのだという。


 なんでも魔法使いというのは貴重な存在の為、魔導書作りに必要な物は全て国や領地が負担してくれるそうだ。

 わたし達が魔力を注いでいる導魔樹の植木鉢とかも、国と領地が半分ずつお金を出してくれるらしいんだけど、今回の場合、わたしやマールの事を他の領地や王族なんかに知られる訳にはいかないので、国には報告しないで、全額をスペンサー領で負担してくれるらしい。

 逆に言えば、そうまでしてでも囲い込みたいのが魔法使いという存在なんだろうね。


 わたしは端っこから一冊ずつ手にとって見比べていく。


「女性には、こちらやこちらが人気のようですね」


 そう言ってレンヴィーゴ様が指し示したのは、植物の蔓や葉っぱがデザインとして施された物だ。


「えっと、もう一つ質問良いですか?」

「はい、何でしょう?」

「この魔導書って、一生モノ……ですか?」


 もし、一年とか二年とかの短いスパンで変えていくのが当たり前なら、気軽に選べる。


「基本的には、一生使う人が多いです。なので、諸先輩方の中には、年を取ってからも人前で使って恥ずかしくない無難なものを選べなんて言う人も居ますね」


 そう言う大事な事は先に言ってよ!


 用意されている本自体、シンプルな物が多いとはいえ、中にはゴテゴテに装飾されたものや、いかにも女の子ウケが良さそうな可愛らしいデザインのものも有る。

 もし、元の世界に戻ることが出来ず、一生をこの世界で生きていかなければならないとしたら、おばあちゃんになっても使い続ける事になる。

 それって大げさに言えば、幼い頃に買って貰ったアニメのキャラクターサイフを一生使い続ける様なものじゃないかな!? 例え使い勝手に問題がなかったとしても、さすがに遠慮したいよ!


「マールはコレにするにゃ!」


 わたしが一冊ずつ吟味していると、マールは早くも決めたらしい。その手には、文庫本くらいの薄茶色の本がある。用意されている中で一番小さなサイズのやつだ。体の小さなマールには、それでもちょっと大きく見えるけど。


 わたしはもう一度、残った本を見渡してみる。

 外観はどれも色違いの革製で、留め金が付いている物と付いていない物が半々くらい。

 そこでふと、レンヴィーゴ様の持っていたのと似た茶色い革の本に目が留まる。


 似ているだけだと思ったけど、これ、実際同じ本みたいだ。でも、レンヴィーゴ様の魔導書とは違い、表紙に何も描かれていないね。

 レンヴィーゴ様の魔導書には、紋章のような物が書かれていたはず。


「あの、これってレンヴィーゴ様の本と同じものですよね? でも、レンヴィーゴ様の本は表紙に何か書かれていたと思うんですけど……」

「ええ、そうです。ルミさん、よく見てますね」


 そう言いながら、魔導書を出して隣へ並べてくれる。最初に見た時にはチラリとしか見えなかったので確認出来なかったけど、やっぱり紋章のような物が描かれていた。

 これは、剣を持ったカラス? モンスター的なカラスじゃなく、地球でも見れるような普通のカラスが|嘴≪くちばし≫で剣を咥えてて、周りをリボンやら蔓やら葉っぱやらに囲まれている図柄だ。

 中世ヨーロッパの貴族たちが使っていた紋章よりも、どちらかといえばサッカーチームとか野球チームとかのシンボルマークっぽいかも。


「この絵はあとから加工したものですか?」

「いえ、これは魔導書にする前の状態で加工したものですね」

「魔導書にしてからは、加工できないんですか?」

「無理ではありませんが、一般的には魔導書にする前に加工するものです。普通、短い時間とはいえ魔導書を手放す魔法使いは居ませんから」

「あ、加工は誰かに頼むってことですか?」

「ええ。やり方は簡単なんですが、絵心などない人も多いので。お二人にも導魔樹が成長しきる前に選んでもらおうかと。もちろん、そのまま何も加工しなくても問題はないんですけどね。お二人も何か描いてみませんか?」


 ぬいぐるみとはいえ物作りを趣味としてきて、レザー素材にもほんのチョットだけど手を出した事があるわたしとしては、やってみたい気持ちはある。

 だけど、レンヴィーゴ様は簡単にできるって言ってたけど、「簡単」の基準がわたしと同じとは限らないんだよね。


「図案だけ考えるので、職人さんに依頼してください……」


 悩んだ末、結局、加工は職人さんにお願いすることにした。

 デザインを自分で考えるだけでも「自分だけの」って事になるし、レザー関係は専門外だし、しょうがないよね。


 そうと決まれば、今度は表紙に入れる図案を考えながら、改めて一冊一冊吟味することにする。

 

 最終的にわたしが選んだのは、レンヴィーゴ様の魔導書よりも一回りくらい小さいクリーム色の本。表紙部分にシンプルな囲い装飾があるだけで、中央に大きくスペースがある。このスペースにわたしなりの装飾を入れられるはずだ。


 さて、どんなデザインにしようかな。


世の中には、内容の書かれていない白紙の本(罫線なども無い)というのがあって、それが普通に売られているらしいです。

どんな人が、どんな目的で買うんでしょうか。見当もつきません……。


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