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魔導書の作り方 2

 七色に染まった林檎をゲットしたわたし達は、フェデリーニお爺ちゃんに挨拶をして、すぐに部屋へ戻ることになった。

 道すがらに聞いた話によると、本来、『導魔の儀』は秋口に行われるものらしい。今は春先なので、真逆の季節だね。

 それなのに、わたし達のために無理を言って起こしてしまった状態らしい。


 なので、今度こそフェデリーニお爺ちゃんがゆっくり眠れるように、早々にお(いとま)するという事だった。

 レンヴィーゴ様によれば、他の人に見られると面倒な事になるってのもあるらしいけど。


 レンヴィーゴ様の部屋に戻ると、早起きの人ならベッドから抜け出して朝食の準備が始めるような時間帯。

 台所にいけば、レジーナさんとポリーちゃんのメイド母娘がメニューを考えてる頃かも。

 中庭に居た事を他の人に知られちゃ不味いから、むちゃくちゃ早起きしたんだよね。おかげで、まだちょっと眠いよ。

 だけど、ベッドに潜り込んで二度寝って訳にはいかない。何故なら、これから魔導書作りを始めるからだそうな。


 そこは昨日、魔法の講義を受けたのと同じレンヴィーゴ様の部屋なんだけど、今日はテーブルの上に二つの大きな植木鉢が用意されていた。

 家庭菜園とかで使うプランターのような大きな素焼きの鉢で、すでに土が入れられており、何故か鉢の底面近くに引き出しがついている。


「それで、この林檎をどうするんですか?」

「林檎ではなく『導魔の果実』と……、いえ、もう林檎でもいいです。まず、お二人にやっていただくのは、その『導魔の果実』の……林檎の中の種を育てることです」


 気が遠くなるような話が来た。

 今から種を植えて、芽が出てくるまで何日かかるだろう?


「お二人なら、それほど時間は掛からないはずです。……ちょっと大変かもしれませんが」


 レンヴィーゴ様の説明によると、この『導魔の果実』という林檎っぽい果実の種は、取り出して植木鉢に植えたあとに、魔力を注ぐことで成長するらしい。

 逆にいえば、魔力を注がないといつまで経っても芽がでずに、そのうち駄目になってしまうそうだ。


 本来なら秋口に、その年十歳になった子供の中から魔力を持つ子だけを対象に行われる『導魔の儀』というイベントがあって、そのイベントで人面樹のフェデリーニお爺ちゃんの所へ向かい、林檎こと『導魔の果実』を貰うらしい。

 そして林檎を貰った子供は、その林檎の種に毎日チョットずつ魔力を注ぎ、育てるのだそうな。


 種から芽が出て、幼木になって、成木になってと、成長する毎に注ぐ魔力の量が多く必要になるけど、その分、時間を掛けられるので普通は大きな問題にはならないという話だ。

 そんで、木が成長して果実が収穫できるようになるまで、だいたいまるまる一年、長いと二年くらいかかるっぽい。

 それを、わたし達は人並み外れた魔力量で一気に成長させなきゃならないらしい。


「あの、もしわたし達の魔力量が人並だったら、どうするつもりだったんですか?」

「それはもちろん、他の子供達のようにしてもらうしかありませんね。当然、一年近くも隠し通す事なんて出来ないでしょうから、早々に『迷い人』である事を公表する事になったと思います。隠し事をしていたのがバレて混乱が起こるよりは、騒ぎも小さくて済むでしょうから」

「魔石に魔力を込めて、譲ってもらうという方法は駄目なんですか?」

「この件に関しては、駄目ですね。これは、純粋に自分の魔力で育てる必要がありますから。他の、例えば僕の魔力を融通して育てるとなると、こういう事ができなくなります」


 レンヴィーゴ様は、そう言いながら、何処からともなく魔導書を取り出した。

 それってずっと不思議だったんだけど、手品じゃないんだよね?


 わたしが不思議そうな顔をしているのを見たレンヴィーゴ様は苦笑を浮かべる。


「そういえば、説明していませんでした。この魔導書はこの実の種を育てることで得ることが出来るのですが、普通の書物とは違い、ほぼほぼ魔力でできています」


 ん? どういう事だろう? よく意味がわからない。

 わたしが首を傾げると、レンヴィーゴ様は丁寧に教えてくれる。


「この林檎の種は、ルミさんやマール君の魔力を栄養にして育つというのは分かりますか?」

「それは、なんとなく」

「発芽してから、実をつけるような大きさに成長するまでも魔力が必要なんですが、実をつけるのにも、やっぱり魔力が必要なんです」


 実をつけるのも、植物の成長の延長線上にあるものだから、それも何となく分かるような気がする。


「つまりは、この種から育った木がつけた実は、ほぼほぼ魔力で出来ているということになります」


 レンヴィーゴ様の言葉を、自分の頭の中でイメージしてみる。


 植物の種が発芽するのに必要なのは、たしか水と空気? あと適切な温度だっけ? そこから大きく育つためには、光と養分だったかな?

 チョット自信ないけど、たしかそんな感じだったはず。

 

 その、光とか養分の部分が魔力に置き換わるという事? そんで枝も葉っぱも花も実も、ほぼほぼ魔力ということなのかな?


「魔力で出来ているということは、昨日お話した通り、自分の中に取り込めるということです」


 レンヴィーゴ様はそう言いながら、分かりやすいようにゆっくりと、魔導書を身体の中に入れたり出したりして見せてくれる。

 手のひらから、黒革の本が生えてるみたいで、ちょっと現実感がない光景だ。


 だけど、これでレンヴィーゴ様の手品の謎が解けたよ。

 レンヴィーゴ様は、普段は魔導書を自分の身体の中に取り込んでおいて、必要に応じて取り出してたって事だったんだね。


「他人の魔力が自分の中に取り込めないのと同じ様に、魔導書を自分の体から出し入れする為には、他の人の魔力が混ざらないようにする必要があります。なので、ルミさんもマール君も、間違ってお互いの鉢に魔力を流さないようにして下さいね」


 わたしは「はい」と返事をして、マールは眠そうな声で「にゃー」と答えた。

 マール、ホントに大丈夫? ちゃんと分かってるよね?


「それでは、早速、種を取り出しましょう」


 レンウィーゴ様はそう言って小さなナイフを用意してくれる。このナイフも魔力を通さない素材で作られた物で、この林檎から種を取り出す時にしか使わない専用ナイフだそうだ。


「えっと、普通に半分に切って、種を取り出せば良いんですか? あ、種の形はどうなってるんですか? 見たままの林檎みたいな種ですか?」

「はい、林檎の様な種です。中に複数個入っていて一つや二つなら傷がついても大丈夫なので、半分に割ってしまってください。そうすれば簡単に取り出せますから。……あ、お二人はナイフは使えますか?」


 あれ? もしかして、わたしってナイフが使えない子って思われてる?

 こう見えても料理くらいはするんだけどな。半分に切って種を掘り出すだけなら、それほど難易度が高いとは思えないし。

 だけど、マールはどうだろう? 少なくとも、向こうの世界にいる時にはナイフなんて使った事がないはず。

 まぁ、向こうの世界にいた時には、正真正銘の猫だったから、手の形的にナイフなんて握れなかったからね。なので、マールがナイフを使えなくてもしょうが無い。


 代わりにわたしが種をとって上げる方法とか無いのかな? なんて考えていると、マールは受け取ったナイフを右手で握り、簡単に林檎を半分に切ってしまう。

 そして、切った林檎の片方だけを持ち、ナイフで種をほじくり始める。

 どうやら、ナイフの扱いに関しては、要らない心配だったみたいだ。


 わたしもマールに負けないように、林檎を半分に切って、ナイフの先で種を穿り始める。

 皮は七色だけど、果肉の部分は普通の黄色がかった白だ。皮さえ剥いてしまえば、普通に美味しそうに見える。


「レンしゃま。この種をとった後の林檎はどうするにゃ?」

「あー、種を取った後なら食べてみても良いですよ。食べないなら、普通に捨てるだけですから」


 わたしより先に種を取り出すことができたマールは、じっと脇に寄せた林檎の方を見つめている。食べたいのかな?

 猫だった頃のマールに、林檎なんて食べさせた事があったかな~? 毒になるような物は入ってないはずだけど。


 わたしが記憶を探っていると、マールはクンクンと林檎の匂いを確認して、ナイフを使って果肉の部分を小さく切り、ナイフをフォーク代わりにして口に運ぶ。

 シャクシャクと美味しそうな咀嚼音をさせながら何度も噛みしめるマール。

 だけど、不思議そうに首を傾げている。あんまり美味しくないのかな?


「……味がしないにゃ……」

「味がしない?」


 見た目は林檎なのに、味がしないというのが想像できない。

 甘くないとか、酸っぱいとかじゃなく?


 もしかして、特殊な林檎と特殊なマールの組み合わせだから、味を感じないだけなんじゃ? ほら、マールって猫でもあるけど、ぬいぐるみでもあるわけだし。


 そう考えたわたしは、自分でもカットした林檎を食べてみる。

 うん。味がしない。甘くないとか、酸味がないとかの話じゃなくて、無味無臭。ただ、シャクシャクとした林檎らしい食感だけを感じる。


「ほぼほぼ魔力の塊ですから。自分の実を食べても味はしないですね。仮に他人の林檎なら味がするはずです。甘かったり、酸っぱかったり、苦かったりで、味は色々らしいですが」


 レンヴィーゴ様は苦笑しながら答える。

 他の人の林檎なら味を感じるのか。それならばと、もう一度、林檎をカットしてマールの方に差し出してみる。


「ほら、マール。わたしの林檎食べてみて」

「にゃぁ?」


 ちょっと疑いの目を向けながら、それでも食べてくれるマール。さっきと同じように何度も咀嚼してからゴクンと飲み込む。


「甘いくて美味しいにゃ! ルミしゃま! もっとちょーだいにゃ!」


 おぉ。わたしの林檎は甘いらしい。これは、わたしの林檎は誰が食べても甘く感じるのか、それとも、わたしの林檎をマールが食べたから甘く感じるのか。

 それを確かめるためにも、わたしもマールの林檎を食べてみなければ。

 わたしが食いしん坊だからとか、お腹が減って力が出ないからなんて理由じゃないよ!


 結論からいうと、マールの林檎も美味しかった。酸味が少なめ蜜がたっぷり、いかにも林檎って感じのシャクシャクとした食感。おまけにジューシー。

 普通の林檎とは違って七色なのに、普通の林檎よりも甘く感じたくらいだ。これは量産できたら、かなりの高値で売買される予感がするよ!


リンゴの入ったポテトサラダとか大好きです。リンゴばっかり食べて怒られちゃうくらい。

リンゴ単体よりも美味しいのが不思議です。

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