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異世界生活のはじまり 5

「正直に言わせてもらうなら……、魔法は覚えたいです。それが自分たちを護る事にも繋がりますから。でも、新しい魔法を考えるとかは、期待に応えられるかどうか……」


 わたしは、うつむき加減の上目遣いでレンヴィーゴ様の反応を見ながら答える。

 

 この世界にどんなモンスターが居るのかは知らないけど、少なくともコボルトのような

敵対的なモンスターは他にも居ると考えておくべきだと思う。

 そんな世界で生きて行くなら、自分の身を守る手段くらい必要になるだろう。

 わたしは身体が大きいわけじゃないし、運動も得意なわけじゃない。生まれてこの方、喧嘩なんかもしたことが無い。

 そんなわたしでも、もし魔法が使えるなら身を護る事くらいは出来るようになるかもしれない。


 なので、魔法を学ぶ機会があるなら可能な限り勉強して、身を護る術を得ておきたい。


 もちろん理由は、それだけじゃない。

 ただ純粋に魔法を使ってみたいっていうのもある。


 漫画やアニメやゲームなんかで何度も目にしてきた魔法使い達。

 変身したり、攻撃魔法でモンスターを倒したり、怪我した人を癒やしたり。


 この世界の魔法で、どんな事が出来るのかはまだ分からない。だけど、小さな頃からフィクションの中でしか見たことがなかった”魔法”というものには憧れがある。

 特にわたしくらいの年代だと、物心ついた頃には世界的に有名なファンタジー映画とかあった。


 更に言えば、仲の良い友人の一人に小説投稿サイトで執筆しているオタク作家もいた。

 どのくらいのオタクかといえば、趣味で書き始めたWeb小説が書籍化のオファーを受けちゃうくらいのオタク。そんな友人を持つわたしだから、当然、そっち方面の知識もある。

 特に、その友人が執筆している中世ヨーロッパ風和製ファンタジーというジャンルは、そこそこ知識があるつもりだ。


 だけど、それはあくまでフィクション、作り話。


 SF小説を読んだからと言って、ロボットやタイムマシンが作れるようになるわけじゃないってのと同じように、ラノベやファンタジーアニメを見ていたからといって、この世界の魔法に関する知識が付くわけじゃない。

 そんな魔法知識ゼロ状態のわたしに新しい魔法を考えさせるなんて、無茶振りもいいとこだと思う。

 

「そうですね。ルミさんやマール君は、身を護る術を早急に持ったほうが良いと思います。そのためにも、魔力の使い方を学ぶっていうのは良い選択だとも思います。新しい魔法うんぬんは、一通り魔法の使い方を覚えてから、ゆっくり取り組んでいけば良いと思いますよ」


 新しい魔法は諦めてないのね……。


「それじゃ、まずは魔法というものが、どういう物なのかって所から説明しますね」


 レンヴィーゴ様は、一つ咳払いをしてから説明を始める。

 わたしとマールは背筋を伸ばして拝聴する。


「まず、魔法というのは、身体の中にある魔力を使って、様々な事象・現象を引き起こす技術の事です」


 ふむふむ。難しい言い回しをしているけど、つまりはMPを消費して、火の玉を作り出すって事で良いんだよね?


「この魔力というのは、魔法学では『マナ』と呼ばれています」

「魔力と『マナ』は違うものなんですか?」

「基本的には同じものです。一般的には魔力って呼ばれてる物が、魔法学の分野では『マナ』って呼ばれてるだけですね。魔法学に携わる研究者の一部には頑なに『マナ』という呼称しか使わない人も居ますが」


 うひゃぁ……、めんどくさい。

 でも、日本語だってそういう物は多いのかな。パッと思いつくのだと、ぺんぺん草とか猫じゃらしとかは俗称のはずだし。

 

「それで、この魔力なんですが、実はこの世界に居る全ての生き物が持っているものです。ただ、実用可能なほどの魔力容量を有しているかどうかって違いでしかありません。なので一般的に、魔力があるか無いかという話になった場合は、もっとも魔力消費が少ない火種の魔法などを発動出来るかどうかが、魔力の有無の基準になりますね。そして、魔法を使う事が出来るだけの魔力を有しているのが十人に一人か二人程度。更に”魔法使い”として身を立てられるのは、魔力がある人の中で十人に一人くらいしか居ないというのは、さっき説明したとおりです」


 んっと、つまりは全メディロイドの中で、魔法使いは百人に一人位って事だよね。

 うん、きっちり覚えてるよ。


「魔力がある人の中にも、色んな人が居ます。例えば、”水売り”とかがそうですね。あとは火種として使う人とか、夜中にお手洗いに行く時に灯りとして使う人とかも居ますね。もちろん戦闘の手段として使う人もいて、そういう人は猟師になったり、傭兵になるなどして、結構な金額を稼いでるみたいです。ちなみに領主である父は、傭兵となり、傭兵団を立ち上げ、活躍が認められて叙爵(じょしゃく)された貴族家の初代となります」


 そっか。魔法が使えるなら日常生活に役立ててる人とか、それを使って利益を得ようって人もいるよね。

 戦闘シーンしか頭に無かったよ。アニメとかラノベとかゲームとかの先入観が強すぎたかな。


 それにしても、スタンリー様って親から爵位を引き継いだんじゃなくて、自身の活躍で貴族になったすごい人なんだね。

 でもこれって、魔法が使えれば貴族になる事も不可能じゃない世界ということで、それだけ魔力が重要な要素を占めているって事でもあるよね。


「父の話がでたので、ついでに説明してしまいますが、魔力の使い方は、二つに分けることが出来ます。体内魔法と体外魔法の二つです。これは魔力を身体の中で使うか、身体の外で使うかなんですが……わかりますか?」


 ちょっと言ってる意味が良く分からないです。

 わたしが首を傾げたのを見て、レンヴィーゴ様は説明を始める。


「えっと、ざっくりと簡単に言えば、魔力によって身体能力を向上させるのが体内魔法、呪文や魔法陣によって水を出したり、光を灯したりするのが体外魔法という分類ですね。父は体内魔法の使い手なんです」


 レンヴィーゴ様の説明によると、体内魔法と体外魔法というのは、生まれながらに持っている魔力の性質によって決まってしまうものらしい。

 体内魔法に向いた魔力を持っている人、体外魔法に向いた魔力を持っている人、どちらの魔法も使える人って感じみたい。


「これは、魔力の質によってある程度決まってしまうので、例えば、極端に体内魔法向きな魔力の人は体外魔法を使えないなんて事もあります」


 わたしのイメージしてた魔法は、どちらかといえば体外魔法の方かな。

 体内魔法って、魔法っていってもゲームでいうところの近接職っぽい戦い方とかメインみたいだし。実際には、戦いを生業にする人だけじゃなく、鉱夫とか樵とかの体力勝負な職業の人にも重宝されるらしいけど。


 わたしには魔力があるらしいけど、体外魔法と体内魔法のどっち向きの魔力なんだろうね。

 話を聞いた限りだと、体内魔法よりも体外魔法の方が向いてて欲しい気が……。いや、貧弱な体力を補うって意味では体内魔法の方が良いのかな? 自分で好きな方を選ぶなんて出来ないっぽいけど。


「ルミさんとマール君がどちらの魔法に向いてるかは、この、魔響叉という道具を使って調べます」


 そう言いながらレンヴィーゴ様が用意したのは、音叉のような形をした金属製の器具と打楽器に使われるバチのような器具だ。

 

「これを片手で持って、もう片方の手でスティックを使って軽く叩いてみてください」


 レンヴィーゴ様の言葉に従って、右手にスティック、左手に音叉状の器具を持って、叩いてみる。

 キーンと濁りのない綺麗な音が響いた。


「次はマールにゃ!」


 私の手から奪い取るようにして、音叉のような器具とスティックを構えるマール。

 神妙な顔で、スティックを振りかぶり、勢いよく魔響叉を叩く。でも、スティックは確かに魔響叉の側面に当たってキィンッていう金属が当たる音がしたのに、わたしの時の様な共鳴するような音がしない。

 なんで?

 マールも不思議そうな顔で首を傾げて、確かめるように何度もスティックで魔響叉を叩いてるけど、やっぱりキィンキィンという短い音がするだけだ。


「ルミしゃまみたいに、音が響かないにゃ……。ルミしゃま壊したにゃん?」

「え!? わたしの時は響いたんだから、壊したのはマールじゃない!?」

「にゃー! マールはルミしゃまと同じように叩いただけにゃ!」


 わたし達が言い合っていると、レンヴィーゴ様が苦笑しながら仲裁に入る。


「ふたりとも落ち着いてください。魔響叉は壊れてませんよ。その証拠に、もう一度ルミさんが叩いてみてください。音が響きますから」


 レンヴィーゴ様に言われて、半信半疑でわたしがもう一度叩いてみると、さっきと同じように綺麗に澄んだ音が響き渡る。


「ちゃんと音が響きましたね。ルミさんは体外魔法が使えるみたいです」

「にゃ!? それじゃ、音が響かなかったマールには魔法が使えないって事なのにゃ!?」


 ん? たしかにレンヴィーゴ様の言い方からすると、体内魔法向きの人は音が響かないってこと? こんなの誰が叩いても音が響くんじゃないの? 見た目は音叉そのものだし。


「逆に、マール君は体内魔法の方が向いているようですね。体内魔法が使えるようになれば、今より速く走れるようになったりしますよ」


 今現在でも十分に速いマールが、これ以上速くなっちゃうの?


「まぁマール君も、少しですが音は出ていたので、全く体外魔法が使えないってわけじゃないですよ。体外魔法が全く使えない人は、音自体が全くしませんから。滅多に居ませんけどね、そこまで極端な人は」


 レンヴィーゴ様によると、この魔響叉という道具はその人の体から外側に発せられる魔力が反応して音を鳴らすということで、逆に言えば体の外に出る魔力が少なければ、比例して音が響かないらしい。


「最初に言っておきますが、体内魔法と体外魔法で、どちらかが優れているとか劣っているとかはありません。要は使い方です」


 体内魔法っていうのは自分の体に作用する魔法なので、単純に筋力を上げるだけじゃなくて、視力や聴力、嗅覚なんかを上げたりできるし、暗視みたいな効果をもたせることも出来るそうだ。

 視力と筋力を同時に上げることで、敵に気づかれる前に遠くから弓で一方的に攻撃を仕掛けるなんてことも可能らしい。もちろん、弓自体が離れた距離を射抜くだけの力に耐えられる強度が有る事とかが前提だけど。それと、一方的に攻撃ができるだけで、当たるかどうかは別の問題とも言っていた。

 このポイントとなるのが、体内魔法は複数の効果を同時に得られるという部分らしい。

 どういうことかと言えば、体外魔法は通常一つの魔法しか発動出来ないのに対して、体内魔法は複数の魔法を同時に発動できるという事。

 視力を上げつつ筋力も上げたり、動体視力を上げたり、暗視が出来るようになったりと、魔法に慣れれば、あとは自分の努力と魔力容量次第で何種類でも能力をあげられるのだとか。


「マール君がどこまで出来るようになるのかは分かりませんが、体内魔法が使えるようになれば、今より遠くを見たり、早く動けるようになったり、皮膚や体毛などを固くして防御力を上げたりなんてのが同時に出来るようになります。もちろん魔力の続く限りですけどね」


 レンヴィーゴ様の説明に、ちょっと難しそうな顔をしたマールが小首を傾げる。


「それって、剣とかを持って戦うのに有利って事にゃん?」

「まぁ、一般的にはそうなりますね。実際、父は武器を持って魔物と戦い、それで貴族になったわけですし、体内魔法が体外魔法に比べて劣っているわけではないという良い証拠になると思います」


 レンヴィーゴ様の言葉に、フムフムと頷いたマールは何やら考え始めてしまう。


 わたしからすれば魔物と戦うのはご遠慮したいので、体外魔法の方が使い勝手が良さそうに思えてしまうけど、マールはどうやら武器を使って戦うことを前提に考えているみたいだ。

 まぁ、日本と違って命を懸けた戦いというのが日常に近いところにあるこの世界では、まずはどんな形でも戦うチカラを手に入れたいと考えるのは間違ってないのかもしれない。


 結局、マールは体内魔法による身体能力強化というものに何か納得したようで、一人でウンウンと頷き始めた。

 なにかやる気になったみたいで、それ自体は良いことなんだろうけど……。


 とりあえず、すぐに思いつく問題は、わたしが身体能力強化の方法を覚えたマールを捕まえる事が出来るかどうか、かな?

他作品では身体強化系の魔法って良く見かけますが

この作品では適正的に使える人と使えない人が居るという事にしました。

私の中で、主人公の瑠美が怪力で大きな岩を持ち上げたり、誰よりも速く走ったり、超絶反射神経で相手の攻撃を見切ったりなんて姿を想像できなかったからです。

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