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スペンサー家の人々 7

 わたしが抱っこしたマールを、ポリーちゃんがおっかなびっくりに撫でて、マールが喉をゴロゴロと鳴らす。

 実に可愛い。マールも可愛いけど、ポリーちゃんも可愛い。頬をうっすらと桃色に染めて、グレーの瞳をキラキラさせている。

 そんな様子を眺めているだけで、知らず知らずの内に顔が蕩けてくる。


 ポリーちゃんはマールに夢中になってるようなので、とりあえずマールと遊んでもらってる間に、軽く観察してみる。


 ポリーちゃんは肌が白くて、ボリュームのある黒く長い髪を背中で一つにまとめた女の子。多分一〇歳くらい。手足がほっそりとしてて、大人しそうだけど整った顔立ちにグレーの瞳、長い|睫毛≪まつげ≫。

 手先がちょっと荒れてるみたいだけど、それは、この世界で生きる人、特に水仕事をする人なら誰でもなる事なのかもしれない。この世界にハンドクリームとかは無いのかな。あったとしても、お貴族様にしか出回ってないかもしれないけど。


 着ている服とかはお仕着せのメイド服っぽい服。こういっては何だけど、あんまり中世っぽくない。っていうか、これってエプロンドレスに近い気がする。

 ポリーちゃんが着ている服だけじゃなく、スタンリー様やご家族の着ていた服も中世とか近世って感じが薄い気がするんだよね。


 これはレンヴィーゴ様やスタンリー様の言っていたドロシー・オズボーンの影響によるものなのか、それとも、この世界ではシンプルで動きやすいデザインが求められたからなのか。


 どっちも、あり得る気がする。


 少なくとも、この世界は魔物・モンスターが実在する世界だ。それは、わたしが知ってる中世から近世のヨーロッパとは違って当たり前。

 この世界の人が考えなければならないのは、同じ人類の敵対勢力ではなく、姿形どころか考え方や生態まで何もかも違う魔物と呼ばれる存在のはずだ。


 同じ人類が相手なら、豪華絢爛な衣服を着ている事で、財力や権力などを見せつけることに意味があるかもしれない。

 だけど、魔物を相手にした時、それが通じるかと言われれば、かなり疑わしいよね。


 相手がドラゴンとかだったら、「服が歯の間に挟まって食べるのが面倒」くらいには思うのかな?


 わたしがそんな事を考えていたゆっくりとした時間も、唐突に終わる。


 誰かが扉をノックしてきたからだ。

 わたしとポリーちゃんは顔を見合わせて首をかしげる。


 こんな時間に誰だろうね。


 ポリーちゃんはわたしの方を見てから、静かに扉の方へと近寄る。


「どなた様でしょうか?」


 扉の向こうへの問いかけに、小さな声で返事があった。


「ポリー? 私よ、エルミーユよ」


 扉の向こうにいるのは、エルミーユ様らしい。

 ポリーちゃんはちょっと困ったような顔をこちらに向けた。


「えっと、ルミフィーナ様、マール様。お入りになってもらっても大丈夫でしょうか?」

「あ、そうだね。んっと、入ってもらってください」


 エルミーユ様は領主様であるスタンリー様のご令嬢なので、出迎える為に立ち上がっておく。


 ポリーちゃんが静かに扉を開けると、硬い表情のエルミーユ様が入ってきた。


「改めまして、こんばんは。さっきぶりね」


「こんばんは、エルミーユ様」

「こんばんにゃー」


 すでにちょっと眠そうなマールの眠そうな挨拶にも、ほっと安心したような表情を浮かべたエルミーユ様。


「こんな時間にゴメンね。私、ルミとマール君に謝りに来たの。さっきは急に抱き付いて驚かせちゃったから……」


 エルミーユ様がそう謝罪の言葉を口にして、頭を下げた。

 さっきっていうのは、食堂で興奮したエルミーユ様がマールを抱き上げちゃった時の事だよね。


 お貴族様の家族であるエルミーユ様に頭を下げられたら、庶民のわたしはどうすればいいのか分からないよ!


「えっと、頭を上げてください。さっきはマールもビックリしちゃっただけだと思うので、あまり気になさらないでください」

「……ん。それでも、ちゃんと謝っておきたかったの。ホント、ごめんなさい」


 申し訳なさそうな顔を見せるエルミーユ様。こんな表情でも美少女はやっぱり美少女。


「ホントに気になさらないで下さい。……ただ、マールはわたし以外の人だと抱っこされるのが好きじゃないので、次からはやさしく撫でるくらいにしてあげて下さい。撫でるくらいなら、それほど嫌がりませんから」


 わたしがそう言うと、わたしの言葉を肯定するようにマールが「にゃー」と鳴く。


 抱っこしたままのマールの手を二人羽織のように操ってエルミーユ様に向けて差し出すと、エルミーユ様はちょっと戸惑ったような表情を見せてから、握手をするようにマールの小さな手を握る。


「小っちゃくて可愛い……、それにあたたかい」


 マールの手を握って、ちょっと頬を染めるエルミーユ様。

 イヤイヤ、確かにマールは可愛いけど、あなたも可愛いですよ!


 領主婦人のシャルロット様も美人さんだったし、ポリーちゃんも可愛いし、もう一人のメイドさんであるレジーナさんも整った顔立ちをしていた。


 この世界の女性はみんなレベルが高いよ!


「よかった。やっぱり夢とか魔法じゃなかったのね」


 夢? 魔法? どういう事だろう?


 詳しく聞いてみると、エルミーユ様はマールの事を夢の中で見た存在だったのでは無いかと不安になってしまっていたらしい。

 マールの手を握った事で現実だって事が再認識できたっぽい。


 日本から転移してきたわたし達だけじゃなく、迎え入れる側のエルミーユ様も、夢の中の出来事じゃないかって思ちゃったんだね。それはそれで興味深い。当事者にはなりたくなかったけど。


 そんな事を考えていると、ふと、ポリーちゃんの姿が目に入った。

 ポリーちゃんは、エルミーユ様が入室したことで、本来のメイドとしての自覚を取り戻したのか、壁際にまで下がってじっと佇んでいた。


 さっきまで、楽しそうにマールを撫でていたのに。


 これは、エルミーユ様が悪いわけじゃなくて、この世界の身分制度から来る物なんだろうけど、わたしより幼い感じのするポリーちゃんが脇に追いやられているのを見ると、やっぱり忍びない。


 わたしの視線に気が付いたエルミーユ様が、私が見ている先に目をやる。


「ポリー、そんな所に立ってないでこっちにいらっしゃい。あなただって、マール君と遊びたいんでしょ? 私の事なんて気にしなくていいから」


 うぇい!?


 もしかして、身分を気にしているのはポリーちゃんだけなのかな?

 まぁ、領主様の客人として扱われているわたしやマール、それに領主令嬢のエルミーユ様の輪の中に入るっていうのは、庶民には難しいのかもしれない。

 ……けど。

 わたし的にはポリーちゃんも是非一緒に遊びたい。わたし、ポリーちゃんみたいな可愛い妹が欲しかったんだよね、実は。


 なので、近所の小さい女の子に習作として作った小さなぬいぐるみをあげたりしてたんだよ。おかげで、懐いてくれる子も居たんだけど、残念ながら妹にはなってくれなかったんだよね。当たり前か。

 

 あ、エルミーユ様みたいな姉はどうなんだって? いやー、日本に帰れば既に完璧超人な姉が一人いるので、もう、お腹いっぱいです、ハイ。



今日、7月7日はSF作家のロバート・A・ハインラインの誕生日です。

私、猫SFとして知られる「夏への扉」が好きなので、マールも最初は「ピート」という名前にしようと考えてました。

途中で「創作キャラから名前を拝借するのはダメだろう……」と思い直して、グダグダ悩んでマールという名前に。

せめて毛色くらいはキジトラにしようかと悩んだのですが、なんだかんだで「あずにゃん2号」に引っ張られて白黒ハチワレに……。

キャラクターの設定を考えるのって、楽しいけどめんどくさいです。

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