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異世界の森 1

 気がつけば、そこは見知らぬ場所だった。


 森の中、ポッカリとくり抜かれたように開けた場所だ。

 辺りを見渡してみると見たこともないほどの巨木が生い茂っているのに、そこだけが直径10メートルくらいの円状に開けている。

 視線を頭上に移してみれば、周囲の木々の広げた枝葉が太陽の光を遮っていた。

 視線を下げてみれば木漏れ日に照らされた地面は苔むしていて所々に下草が生えてる。そして、目の届く範囲には人の手で作られたようなものは、何一つ見ることが出来ない。

 時折、木々の葉っぱがざわめく音とか、鳥の鳴き声のようなものが聞こえてくる。こういう森を原生林っていうのかな。


「……夢?」

 

 まだ寝ぼけてるのかしら? そんな事を考えながら半身を起こして、ほっぺを抓ってみる。こんな事したの初めてだけど、ヤバイ。ちゃんと痛い。

 そもそも、夢の中でほっぺを抓っても、痛みを感じないっていうのはホントなのかな?

 ほっぺを抓る夢なんて見たことがないから自信ないけど、数々の漫画やドラマで試されてるんだから、きっと、ホントなんだと思う。


 あれ? という事は今、目の前にある光景は夢じゃないって事?


 もう一度、周囲を見回して、次に自分に視線を落とす。

 ぬいぐるみ作りの時に、いつも身に付けている作業用エプロンと、その下はスウェットシャツとパンツのセット。厚手の靴下に、もこもこルームシューズ。

 記憶にある通りの格好だ。春休みだから、油断した格好。出かけるつもりなんて無かったしね。

 当然、お財布も携帯端末も無い。

 あるのは、意識を失う直前に抱きかかえていた擬人化猫のぬいぐるみ、”マール”だけだ。意識がない間に、ぬいぐるみが汚れたり縫い目が解れたりしてないか、あわてて、あちこち確認しておく。

 幸いぬいぐるみは綺麗なままで、何の問題もない。意識を失う前と同じ可愛い姿のままだ。


 マールのぬいぐるみが無事だったことが確認できると、次は自分がどうなってしまったのかが気になってくる。普通は順番が逆だよね?


「確か……、突然、窓が割れて、真っ暗になって……」


 そこから先の記憶がない。

 気がついたら、どこともしれない森の中。


「それ、なんて”異世界モノ”?」


 自分で言って、乾いた笑いが出た。


 幼馴染の一人が小説投稿サイトにアップしている作品が、異世界モノの話だった。

 わたしも愛読させてもらってたけど、身内贔屓分を差し引いても面白かったと思う。出版社から書籍化の打診が来てたのも、納得だった。


 だけど……、だけどね?

 異世界なんて、フィクションだから面白いんだよっ!

 言葉も習慣も違って、ネットも漫画も小説も、美味しい食べ物もない。家族にも友達にも会えない。

 そんな右も左も分かんないような場所に放り出されて、「さぁ、これから冒険のはじまりだ!」なんて、いきなりポジティブになれるハズがないよ!


 いやいや、ちょっと待って。

 まだここが、異世界だと決まったわけじゃない。


 異世界トリップではないパターンとしては、誰かに拉致、誘拐されて、人目に付かないこの場所へ放置されたなんて可能性もあるはず。

 たとえ、今まで見たことがないような植物が視界に入ってきたとしても、わたしは植物博士とかじゃない。知らない植物なんて、一杯あって当たり前だ。


 あと、どんなパターンがあるかな……。

 異世界と思わせておいて、実は、タイムスリップでした説はどうだろう?

 タイムスリップの場合、ここは、遠い未来か遠い過去の日本ということになる。


 わたしが住んでいたのは、北関東にある人口七万人ほどの小さな市だ。

 つまりは、それなりの人数が住んでて、工場や家があって、舗装された道路があって、学校があって、駅があって……。

 未来だったら、そういったモノが遺跡として残ってそうだし、過去だったらアスファルトやコンクリートは無理でも、人が生きている集落とか建物とか道とかあっても良さそうな気がする。

 そういった諸々が一つも見当たらないほど遠い未来か過去というのは、一体どれだけの時間の開きがあるのか。


 それって、異世界とほぼほぼ同じじゃない!?


 そもそも”人間”がいるのかな?

 過去の世界ならナントカ原人とかになりそうだし、未来の世界なら……、なんだろう? 全身タイツを着た頭でっかちのグレイっぽいのに進化してそうだ。……退化かな?

 どっちにしても、わたしの”日本語”が通じるとは思えないんだけど。


 わたしはそこまで考えて、小さく頭を振った。


「アホなこと考え過ぎ……。とりあえず、人が居る所を探して、助けを求めないと……」


 ゆっくり立ち上がり、身体を軽く動かしてみる。

 怪我とかはないみたいで、どこも痛いところはない。手首とかにも、ロープで拘束されたような跡は残ってなかった。

 拘束の跡がないってことは、誰かがわたしをここまで連れてきたって線は薄いと考えるべきで、誘拐とか拉致とかの可能性はぐっと低くなった。


 仮に、誘拐拉致事件だったとして、わたしの部屋から、どうやってここまで連れてきたのかって疑問があるんだよね。

 薬物で眠らされたとか!?

 そんな事をしてまでわたしを誘拐する理由なんて、あるとは思えないんだけど。


*      *      *


 何処とも知れない森の中を、何のヒントも無しに動くのは危険と考えたわたしは、とりあえず高いところを目指すことにした。

 この森が、日本の何処かだろうと、外国の何処かだろうと、異世界だろうとタイムスリップした先の日本だろうと、見知らぬ場所である事には変わりがない。

 森の端が見えないほどの深い森なら、たとえ現代日本の何処かだったとしても、野生動物に遭遇する可能性はある気がする。


 具体的には、クマとか。


 ぬいぐるみでは可愛くて、無害で、ポピュラーな存在のクマだけど、現実のクマはやっぱり怖い。

 チート持ち主人公のライトノベルなんかだと、クマなんて”普通の動物”というカテゴリで、下手すると主人公に素手で倒されちゃったりするけど、実際には無理っぽい。

 少なくとも、わたしには無理。

 わたしの場合、クマどころか、生まれたばかりの子犬とか子猫にしか勝てない気がする。

 まぁ、生まれたばかりの子犬や子猫には、別の意味で勝てないけど。

 わたしもいつか、あの可愛さをぬいぐるみで表現してみたいな。あの可愛さは反則。アレこそ正にチート、ナチュラルボーンチート。


 そんな、たわい無い事を考えながら、時折、枝葉の隙間から見える太陽の位置を確認しつつ歩みを進める。

 今、目指してるのは、とりあえず太陽の見えている方向。

 今の時刻は良く分からないけど、多分、正午前後だと思う。太陽は高い位置にあって、空気が温まりきってる感じがするからだ。

 もちろん、わたしの感覚でしか無いけど、他に当てになるようなものもないので、それに頼るしかない。

 そして、ここが地球の北半球なら、太陽の位置的に南へと向かってるって感じ。なぜ南かというと、なんとなくとしか言えない。

 だって、周囲全部が森なんだもん!

 どっちに行けば安全かとか、人が居るかとか、食べられるような物があるかなんて分かんないよ!


 強いて理由をあげるなら、わたしが北関東在住で、南に向かえば、東京があるはずだから?


「まぁ、ホントに南に向かえてるのかも怪しいけど……」


 そう呟いてみる。

 見たこともない森の中を一人で歩くのは、正直、心細い。

 もしかしたら、進んだ先にクマとかの巣穴があるかもしれないのだ。


 独り言でも呟いて空元気をフル回転させないとね。


やっと更新。見切り発車って怖いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小中学生でも楽しめる [気になる点] どっかで読んだような、オリジナリティの欠如
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