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スペンサー家の人々 6

「ルミフィーナ様とマール様の専属としてお世話をさせて頂くことになりましたポリーです。何なりとお申し付けくださいませ」


 食後のお茶の時間も終わり、質問され続けグッタリとなったわたしとマールは、頃合いを見計らって客間へと案内された。

 

 その部屋は領主邸の客間の一つらしい。

 部屋に入ると、ポリーちゃんがサイドテーブルの上に置かれているランプのような物を手で操作した。それだけでランプが淡い光を放ち、部屋の中をぼんやりと照らし出す。

 これって電気じゃないよね? 魔法の力で部屋を明るくしてるのかな?


 そこは日本で言えば四畳半くらいで、部屋の中央には木製のテーブルと椅子が二脚。小さめのベッドとサイドテーブルがあるだけの小さな部屋だ。


 わたしとマールの正面に立っているのは、長いボリュームある黒髪を背中で一つにまとめた女の子、ポリーちゃんだ。

 年齢はいくつくらいかな? わたしより10センチくらい身長が低いから、多分、十歳前後?

 顔の造りとかは大人しそうな印象で、教室で静かに読書をしてるのとかが似合いそう。そして、シャルロット様やエルミーユ様とはタイプが違うけど、間違いなく美少女に分類される。

 わたしじゃなくて、『チート能力持ちの大きなお友達』がこの世界に転移してたら、間違いなくハーレム要員の一人になってただろうね。


「こちらの部屋へ案内するように言われたのですが、問題が有るようならおっしゃって下さい。すぐにスタンリー様へお取次させていただきます。浴室は廊下をまっすぐ行った先、トイレはその隣になります。それと、ベッドに入る際には、こちらの寝間着をお使い下さい」

「はい。ありがとうございます」

「ありがとうですにゃ」


 わたし達がお礼を言いながら頭を下げると、ポリーちゃんは少し慌てた表情に変わる。


「使用人に対して、頭などお下げにならないで下さいませ。ルミフィーナ様とマール様は、領主であるスタンリー様の大事なお客様なのですから」

「マールはそんな偉いもんじゃないにゃ」

「わたしにも、そんな気を使わなくていいよ。これから色々と迷惑をかける事になると思うし。呼び方もルミとかマールで良いからね。様なんて要らないよ」


 設定上のわたしの身分は、ハムステッド領にある田舎町出身の行商人の娘でしかない。

 このあたりの国では、行商人っていうのは領民として扱って貰えないような身分らしいので、スペンサー領の領民であるポリーちゃんよりも公的な立場は低くなる。


 そんなわたしが『お客様』扱いされると、なんだか申し訳ない気持ちになるし、居心地が悪いんだよね。

 まぁ、仮に貴族令嬢っていう設定だったとしても、中の人は庶民でしかないから居心地の悪い思いはしたと思うんだけど。


「そういうわけには……。私はただの使用人ですから」


 ポリーちゃんは、そういって扉の脇にまで下がってしまう。

 これはわたしが用事を言いつけるか、退室の許可を出すまで、その場で待機してるって事?


 なんというか、部屋の隅でじっと待っていてもらうのは、こっちの居心地が悪いね。だからと言って、特に頼みたい事とかも無い。

 知りたい事は色々あるけど、変な事を聞いてボロが出ちゃったら不味いので、迂闊な事は聞けないし。


 お互いに無言のまま、気まずい空気になる。あれ? 気まずいのはわたしだけ?


 チラリと視線を巡らせると、マールはベッドのマットレスや掛け布団の手触りなんかを確認していた。

 うん、ベッドは一日で一番長い間お世話になるものだからね。手触りを含めた寝心地って大事だから確認が必要だよね。

 だけど、今はわたしを助けると思って、この空気を変えてくれないかな?


 さて。どうしよう。

 このままポリーちゃんを下がらせても問題無いんだろうけど、それだとポリーちゃんを邪魔にしてると思われちゃいそうで何だか心苦しい。

 わたしが、こんな可愛い子を邪魔だなんて思うはずがないのに!


 わたしがグダグダと悩んでいると、ポリーちゃんがわずかに動いた事に気が付いた。

 ポリーちゃん、どうやらマールの動きをチラチラと見てたっぽい。その表情は、さっきのシャルロット様やエルミーユ様と同じ。

 そして、日本に居た頃、近所に住む小さな女の子にぬいぐるみをあげる時によく見た表情だ。


 やっぱり、この世界でも可愛いは正義!


 わたしは枕をポフポフと叩いているマールを抱え上げて、自分の膝の上に座らせると、腕を掴んでバンザイをさせた。


「にゃ?」


 首を捻ってわたしの顔を不思議そうに見上げるマールの両手を、手旗信号の様に上げたり下ろしたりしてポリーちゃんにアピール。

 わたしが何をしたいのか察してくれたのか、それとも単純にわたしとじゃれるのが嬉しいのか、手の動きに合わせて「にゃっ、にゃっ」と楽しそうに声をあげる。


 ポリーちゃんは自制心が高いのか、それとも、やっぱり遠慮があるのか、凄い興味津々って感じなのに、近寄ってきてはくれない。

 まさか、わたしやマールが怖いって訳じゃないよね?


「ポリーちゃ~ん? あそびましょー?」


 マールの手を使って、ポリーちゃんを手招きしてみる。

 この世界のジェスチャーはどうなのか分からないので、一応、手の平を上に向ける欧米式(?)にしてみた。

 

 ポリーちゃん、オドオドしながらも、ウズウズしてる。かわいい。


「マールもポリーちゃんと遊びたいよね~?」

「にゃにゃ?」


 日本に居た頃のマールは、あんまり人懐っこいってタイプじゃなかった。わたし以外の家族には抱っこをさせなかったし、わたしの友達が家に遊びに来た時にも、愛想を振りまくって事は無かったんだよね。

 でも、こっちの世界に来て、新しい姿になってからはどうだろう?

 さっき、エルミーユ様に抱っこされそうになった時には嫌がってたけど……。


 そんな事を考えている間に、ポリーちゃんがちょっとだけわたし達の方に近寄ってきていた。


「えっと、それじゃ……、ちょっとだけ触らせて頂いてもよろしいですか?」

「うん。抱っこはマールが嫌がるから、優しく撫でてあげて。いいよね、マール?」

「撫でるだけなら大丈夫にゃ~」


 マールは気にした様子もなく答える。

 これが不思議。以前も、抱っこさえしなければ撫でたりするのは嫌がらなかったんだよね。もちろん、他の猫と同じように尻尾とか足の先とかを執拗に攻めると嫌がったけどさ。


 わたしとマールから許しが出た事で、ポリーちゃんは嬉しそうに、だけど、どこかおっかなびっくりって感じでゆっくりとマールの頭に手を伸ばす。

 マールは嫌がる素振りも無くその手を受け入れて、喉をゴロゴロならしている。


「あったかい……、それにふわふわでサラサラで気持ちいいです」


 うむ。そうでしょうそうでしょう! 日本に居た頃は、定期的に猫用シャンプーでお手入れしてたし、専用ブラシで毛並みのケアも欠かさなかったからね!


「マール様、可愛いですね。私が飼ってるジャッカロープと同じくらい可愛いです」


 む? なんだか知らない単語が出てきちゃったよ?

 ジャッカロープってなんだろ? 飼ってるって言うからには、この世界のペットなのかな?


「あ、あージャッカロープ飼ってるんだ? ジャッカロープも可愛いよね~」


 適当に話を合わせてみるけど、このまま話を広げられちゃったら困る。


「ルミしゃま? ジャッカロープってなんにゃ?」

「え!? ……えっと、あれだよ、あれっ」


 ぎゃふん! 後ろから撃たれた! ここはテキトーに誤魔化しておくところでしょ!


「マール様、ジャッカロープっていうのは角の生えたウサギの事ですよ」


 私がしどろもどろになっ内心で冷や汗をかいていると、ポリーちゃんが小さな子供に説明するみたいな感じでマールに向かって説明してくれた。


 でも、角の生えたウサギか。そういえばゲームとかラノベとかで序盤のモンスターとして角の生えたウサギが出ててたのを見た事ある。あれなら確かに可愛いかもしれない。


 マール程じゃないけどね!


この世界のジャッカロープは、普通のウサギと同じように食卓に上がるという設定ですが……

残念ながら、私自身がウサギのお肉という物を食べた事が無いので、どういう味なのかとか描写される事はありません……一度くらいは食べてみたいです。

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