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神殿での生活 5

「とりあえず、アリシア師匠はルミさんとマール君の行動を必要以上に束縛しないように配慮をお願いします」

「……わかってるわよ」


 しぶしぶといった感じでそう答えるアリシアさん。視線はマールに釘付けのまま。……不安だ。


「それで、マール君は猫の姿から元の姿には戻れるのかしら?」

「もどれるにゃ」


 マールはちょっと腰が引けた感じでそう答えると、再度の変身魔法。光に包まれていつもの姿に戻った。

 

 その様子を見ていたアリシアさんは、今度は興奮する事も無く、ブツブツと何やらつぶやきながら考え込んでしまう。


 あんまりはっきりとは聞こえないけど、魔法陣とか異世界なんていう単語が聞こえてくる。


 アリシアさんって、考えてる事が口から出ちゃうタイプなのかな。なんか思考の海に沈んで帰ってこないんだけど。

 わたし達が居る事を忘れてしまったかのように考えこんでいるので、わたしは人型に戻ったマールに服を着させてあげながら待つ事にした。

 ゆっくり時間を掛ければ、マール一人でも服を着る事は出来るんだけど、手持無沙汰だったからね。


 マールに服を着させ終わっても、まだアリシアさんが帰ってこないので、助けを求めてレンヴィーゴ様に視線を送ると、レンヴィーゴ様も困ったように苦笑を返してきた。


「アリシア師匠はこうなると長いですから、アリシア師匠の考えが纏まるまで、他の件について話し合っておきましょうか」


 細々とした事を詰めていく事になった。


 調査団が到着するまでの間に覚えておかなければならない事を決めたり、調査団が帰った後の事を決めたり。

 調査団が帰った後の事っていうのは、わたしとマールがどこでどの様に暮らすのかとかの事だ。


 話し合いっていうよりも、レンヴィーゴ様が考えてレンヴィーゴ様が決めた事をわたしに連絡するっていう感じ。


 自分達の事なので、自分でも色々考えた方が良いとは思うんだけど、何しろ情報が足りない。

 この世界の常識とか考え方とか、領地の内外についてとか、まだまだ分からない事だらけだからね。


 わたしがアレコレ考えるよりも、スペンサー家内ですっかり『ルミ・マール係』になったレンヴィーゴ様の判断に任せた方が安心だ。


 いずれは自分で決められるようにならないと、なんだけどね。


 それでも話し合いの中で、一つだけわたしの方から我が儘を言わせてもらう事にした。


「あの……、わたしの意見を言っても良いですか?」

「なんでしょう? 余程の事でなければ、融通は利かせられると思いますが」

「はい。わたし、お仕事をしたいんです。調査団の件が終わった後もポーション作りを継続させてもらえるようには出来ますか?」


 わたしとしては、正直、領主様のお屋敷にお世話になりっぱなしっていうのは気が引けるんだよね。

 ほとんど何もしてない状態だから。


 レンヴィーゴ様としては、わたしとマール君は目の届くところに居て欲しいらしいんだけど、現状では、タダ飯食らいなわけで。


 日本に居た頃のわたしの身分は学生だったからそれでも良かったんだけど……。この世界だと、わたしより幼い子供がちゃんと働いてるんだよね。ポリーちゃんとかさ。


 わたしより幼い子たちが働いているのに、わたしやマールは仕事もしないで、たまにレンヴィーゴ様に勉強や魔法を教えてもらっているだけっていう状態。


 これって精神的にキツイんだよ。わたし、そんなに図太く無いんだよ!

 他の人が働いてるんだから、わたしだって何か仕事をしなくちゃって考えちゃうんだよ!


 それで、神殿でポーション作りのお手伝いをさせて貰えないかと頼んだのだ。


「ポーションですか。たしかにポーションを作っていただけるのも領としては有難いのですが……。それよりも、異界の知識で新しいものを生み出すというのは?」


 最初は、そういう話だったよね。

 でも、いくら現代日本の知識があったからって、そう簡単に新しいものを生み出す事なんて出来ない。


 たとえば自動車。

 わたしは自動車がどういうモノなのかは知ってるけど、作り方なんて分からない。

 自動車がダメなら、難易度を下げて自転車を作ってみるという話になっても同じだ。

 タイヤの材料であるゴム一つを取ってみても、どうやって手に入れるのか、手に入れたゴムをどうやって加工すれば良いのかなんて分からないんだよ。


 料理だって同じだ。

 たとえばカレーライスを作ろうって考えても、スパイスなんてどこに生えているか分からないし、どんな植物なのかも分からない。『カレースパイスの樹』みたいなのがあれば作れるだろうけど、そんなものがあったら、すでにこの世界の人がカレーを作り出してるはずだ。


 そもそもの話として、スペンサー領に限らず、この世界には余裕が無い。

 魔法があるとはいえ、同時に魔物も存在している世界。ヒトはヒトの生活圏を守って、その狭い生活圏の中だけでギリギリの暮らしをしているような状況なのだ。


 もちろん、そういった各地域同士での交流なんてごくごく一部。

 現代日本だったら海なし県在住でも簡単に海産物を口にすることが出来たけど、この世界では海なんて一度も見たことが無いという人が大勢いる。


 スペンサー領の領民は、もともと傭兵団で国中を飛び回るような生活をしていたらしいので、ある程度以上の年齢の領民は海に行ったこともあるらしいけど、これは特殊な例になるんだろうね。


 そんで、何を言いたいのかというと、何かアイディアをひらめいたからと言って、それが実現可能かどうかは別問題。主に、素材と技術の問題でという事だ。


 魔法があれば何でもできるって訳じゃ無いんだよっ!


 何か思いついても実現できなければ、それって何もしてないのと同じだ。

 そして、何もしていないのと同じなのだから、なんにも手に入らないし、周囲に貢献する事も出来ない。


 そんな事が続けば、当然の様に焦ってくる。

 斬新で革新的で実現可能な、それでいて、他の人には簡単には真似のできない何か。そんな、あるかどうかも分からない物を求めて、頭の中がグルグルしちゃう。


 そこで、知識チートで何かを作り出せるようになるまでの繋ぎとして、わたしも何か役に立ちたいし、もちろん定期的に収入も欲しい。

 

 そう。わたしはわたし個人のお小遣いが欲しいのだ。

 この世界に来てもうそろそろ一か月近くになるけど、わたしはまだお金を手に入れていない。


 スタンリー様やレンヴィーゴ様に言えば、欲しいものがあれば用意してくれるので、これまで現金は必要無かった。

 だけど、やっぱり現金が無いのって落ち着かないんだよ。


 日本に居た頃には、半人前ぬいぐるみ作家として、ぬいぐるみを作ってはネット上で売ったりしていた。半人前だけれど高校生のお小遣いとしては十分すぎる程に売り上げがあったので、友達との買い食いとかショッピングとかで困る事は無いくらいだった。


 でも、今はそういうお金は全く無いのだ。

 この領地に居る限り、現金を使える場所は限られてるらしいんだけど、それでもいざという時の為にも、ある程度のお金は確保しておきたいって気持ちもあったりする。

 なんだかんだ言って、お金は大事だし、お金で解決できる事はそこそこ多い。あれば安心するのだ。


 そんな気持ちが上手く言葉に出来たかは分からない。

 話が前後したり、繋がりがおかしかったりした部分もあったように思う。


 レンヴィーゴ様は、わたしが神殿でポーション作りをするという事に、あまり好意的には思っていないっぽくて、すごく悩んでいる様子だった。


 調査団が帰った後まで、神殿で生活する必要は無いって考えているみたい。レンヴィーゴ様自身の目の届かない場所で生活するというのが駄目らしい。


 わたしとしては、神殿に住みたいわけじゃ無い。

 ポーション作りをお手伝いして、そのお手伝いした分のお金を貰えればそれで良いのだ。

 おまけにわたしがお手伝いしたポーションが領地や領民の皆さんのお役に立つのなら、わたしは、今現在のちょっと後ろめたい様な気持ちを振り払う事が出来る様な気がする。


 まぁ、知識チートでサクッと大金を稼げて、時間に余裕が出来て、帰るための手段を探す時間が確保できるなら、それが一番良いのは間違いないんだけどね。


「屋敷に住む事に不満があって、それで神殿に住みたいというわけでは無いんですね?」

「不満なんてありません。皆さん良くしてくださいますし……」

「では、調査団が帰った後には、再び屋敷にて生活する様にお願いします。そしてポーション作成の仕事をなさるのなら、神殿には通いでお願いします。もちろん、屋敷から神殿まで通うにあたって送り迎えに人員を用意します」


 ええ~~?

 お屋敷から神殿まで、送り迎えが必要なほど離れてないよ?


「送り迎えは必要ないと思うんですけど……そんなに離れてないですし」

「いえ。村の中とは言え、ギーンゲンは壁に囲まれている訳ではありません。どこから魔物が入り込むかも分からないので、護衛として送り迎えは必要です」


 そう言われて、思わず木窓の外を見てしまう。今、この瞬間にも窓の向こうから魔物が「こんにちは」してきてもおかしくないと思い至ってしまったからだ。


 そう。ここは町や村の中なら安全が保障されているゲームの世界じゃない。


 魔力矢と魔力盾という魔法を使えるとはいえ、正直、わたしには魔物との戦闘は無理。逃げる事さえ難しいかもしれない。

 村の中心部近くなら、魔物と遭遇する可能性は低いのかもしれないけど、低いだけでゼロでもない筈だ。


 そんな所をマールと二人で歩けるのかと聞かれたら、正直怖い。

 転移してきた日のように、またコボルトみたいな魔物に追い掛け回されるんじゃないかと不安になるよ。


「実際に村の中に魔物が侵入してきて、それが誰にも見つから無い内にルミさんやマール君に遭遇するなんて事は、万に一つも無いでしょう。だからと言って警戒を怠って、もし万が一が起こってしまったら大変ですからね」


 顔色が悪くなってしまったわたしに、心配は要らないよと言わんばかりにレンヴィーゴ様は苦笑した。


 ……そういう発言ってフラグっぽくて、スゴイ嫌なんですけど。

ルミはポーションを作るお手伝いでお金を稼ぎたいと思っているようです。

でも、お金稼ぐのって大変ですよね (´・ω・`) 拙者、働きたくないでござる

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