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牛頭の巨人 1

「し、知っていると言って良いのかどうか……」


 子供の様に目を輝かせたレンヴィーゴ様に詰め寄られて、ちょっと引き気味のわたし。チョットしどろもどろな返事になってしまった。

 レンヴィーゴ様って、派手さは無いんだけど整った顔立ちのイケメンなんだよ。あんまり距離を詰められると心臓に悪いんだよ!


 小さな頃からぬいぐるみが好きなせいでインドア気質なところがあって、おまけに高校は女子校だった事なもんだから、男の子に対する免疫が低い自覚はあるけど!


 絶対それだけじゃ無いから!


 日本の地方都市とも言えないような小さな町ではお目にかかれないってだけじゃなく、テレビでも見る事ができないようなイケメンなんだよ。

 しかも、白人的なカッコよさと日本人的なカッコよさをうまい具合に融合させた感じ。


 もし同じ学校にレンヴィーゴ様が在籍してたら、間違いなくファンクラブとか作られてたレベルだ。


 この世界で初めて出会ってから3週間くらい経ってて、多少は慣れてきた部分もあるけど、それでもやっぱり不意打ち的に距離を詰められたりするとドキドキしちゃう。


 まぁ、わたしレベルの顔面偏差値だと釣り合わないのは分かってるし、身分的にも対象外だろうから、異性として見られていないのは分かってるんだけどね。


「ミノタウロスとおっしゃっていましたが、それはどういう存在なのでしょう?」


 わたしのドキドキに気づくような素振りも無いレンヴィーゴ様は、相変わらず紙と筆記用具を手に質問してくる。


「ミノタウロスっていうのは、わたしの世界に伝わる神話に出てくる空想の怪物の名前で、魔の森に現れたという魔物と共通点が多かったので、なんとなく口を突いて出てしまったんです」

「共通点というと?」

「人間より大きな体をしてて、頭が牛で、二足歩行な所とかですね」


 実はわたし、魔の森で討伐された魔物の姿はまだ見てない。レンヴィーゴ様とかスタンリー様が話しているのを聞いただけだ。

 なので、実際に討伐された魔物の姿が、日本のサブカル界隈で知られるミノタウロスとは全く違う可能性もある。

 まぁ、日本のサブカル界隈、特にフィギュアとかイラスト系だと製作者さんの解釈で様々な姿形を見ることが出来るので、そのうちのどれかがソックリ同じって可能性も無いとは言い切れないけど。


「それは確かに共通点といえそうですね」

「あ、でも……」

「でも? でも、なんですか?」

「はい。えっと、以前にエルミーユ様がお作りになったぬいぐるみのドラゴンがありますよね? あれも、わたしの居た世界の神話や伝承に出てくるドラゴンとソックリだったんです」


 ぬいぐるみ作りをしていた時には全く思いつかなかったんだけど、今になって振り返って考えてみると、ちょっと不思議な気もするんだよね。


 だって、この世界に居るドラゴンと、わたしの世界の空想上の幻獣であるドラゴンの姿が酷似しているっておかしくない?


 わたしの世界の人間と、この世界のメディロイドがソックリなのも不思議だけど、ある種の|収斂進化≪しゅうれんしんか≫の結果って考えれば、まだギリギリ納得できる。

 あ、収斂進化っていうのは、全く別の生き物でも、同じ目的の機能を持つ場合は似たような形に進化をするっていうヤツね。

 有名なのは、モグラとケラの前肢の形が似ているっていうのがあるかな。

 どちらも土中での生活の為に土を掘るのに適した形に進化した結果なんだけど、モグラとケラは生物学的にはムチャクチャ遠い。それなのに、手の形は酷似している。

 似たような環境で生きる為に、その手の形が適しているから、結果として同じような形の手に進化したって事だ。


 そう考えると、わたしの居た世界の人間とこの世界のメディロイドも、モグラとケラと同じように世界で適応する為に進化した結果、同じ様な姿になったと言えるかもしれない。


 でも、これがドラゴンになると話が変わってくる。

 何故なら、こちらの世界にはドラゴンって実在するらしいけど、わたしが居た世界ではドラゴンはあくまで架空の生き物とされてきたからだ。


 架空の生き物であるドラゴンは、当然の事ながら進化なんてしていない。

 だって、誰かの頭の中で考え出されただけの存在で、その世界の環境の中で他の生物や同じドラゴン同士での競争や淘汰があったわけじゃ無いから。


 昔の絵画と現代のイラストとかを比べるとドラゴンの姿も変わっていたりして、それって一見進化しているように見えるけど、それって実際には人間側の頭の中とか描写の技術が変わっただけって事なんだよね。


 それなのに、この世界のドラゴンとそっくりな姿をしているっていうのは、収斂進化説では説明しきれないという事になる。


 そしてそれは、ミノタウロスにも当てはまるはずだ。


 思いついた事をレンヴィーゴ様たちに向かって一通り説明する。


「それは難しい問題ですね。仮に何らかの仮説を立てても、それを立証することが出来ない、という意味でですが」

「確かにそうね。神々が産みだしたはずの全ての種族が、なぜルミさんの世界の空想上の生物に類似しているのか……」


 レンヴィーゴ様とアリシアさんも不思議そうな表情を浮かべている。


「とりあえず思いつく仮説としては……ルミさんの世界で空想上の生き物とされてきたドラゴンなどの生物が、実は実在した生物だったというのはどうでしょう?」

「えっと、それだとかつて生きていた痕跡の様なものが残っていないのはおかしいって事になりませんか?」

「神話や伝承に残っているんですよね? 実際に誰かが目撃して、それが何らかの形で後世に伝わって、伝わっていく内に実在していたはずのものが架空の存在という事になってしまったと考えれば、辻褄が合うかもしれません」

「でもKASEKIくらいは残っていてもおかしく無い様な気がするんですけど?」

「KASEKI、ですか? KASEKIというのは何でしょう?」


 あ。この世界って化石って発見されて無いのかな? 化石って部分だけ、なんかこの世界の言葉にならなかった気がするよ。


「KASEKIというのは、遠い昔の生物の死骸が古い地層の中に残って石の様になった状態……で良いのかな? なんか、そんな感じのモノです」


 学校で勉強したのと、恐竜のぬいぐるみを作った時に軽く調べたくらいの知識しかないから詳しく説明できないけど。


「古い地層……? 地層に新しいや古いなんてものがあるんですか?」


 首を傾げるレンヴィーゴ様の様子を見て、わたしも思わず首を傾げてしまう。


「地層って下に行けば行くほど古いものですよね?」

「神々が陸地を作った際に、下の方に敷き詰めた土と上の方に敷き詰めた土が変わったことで地層が出来るのでは?」


 えーー。

 神様が世界を作った時に下の方の土と上の方の土が違う種類だったから地層が出来たって事になってる~?


 あーでも、神様が世界を作ったとされてて、土が層になっているのを発見した場合、なんで土の層が出来ているのかってこの世界の人たちなりに考えた結果、そういう解釈になってもおかしく無いのかなぁ~?


「わたしの居た世界だと、地層って途轍もなく長い時間をかけて堆積した物ってされてました。人の一生の何百倍も長い時間が掛かってて、その堆積している途中で動物とかが死んだときに、条件が揃っているとその死骸が保存されるような状態になって、それがKASEKIになると言われてたはずです」


 正直、細かい所は自信ない。多分こんな感じなんだろうなぁって感じだ。学者先生とかが聞いたら怒り出しちゃうくらい致命的な間違いとかあったりするかも。


「ルミさんの世界は、神々が作り出した世界ではない、という事ですか?」

「そういう神話はありました。創造神話とか創世神話とかって呼ばれてたと思います」


 そういう神話は世界中で語られていたはず。日本だってイザナギとイザナミだっけ? そんな感じの名前の神様が日本列島を作ったって神話があったはずだ。


「でも、ルミさんの世界では神々は実在しないものとされていた……ですよね?」

「まぁ、そうですね。もしかしたら、本当は神様は居るけど人間には認識できないだけかもしれないですけど」


 残念ながら、わたしは神様って信じてなかったけどね。

 もし神様がいるのなら、アフリカとかで飢餓に苦しむ子供達を放っておく理由を教えて欲しい。


「わたしが居た国では、世界がどうやって作られたかっていう研究もされていて、それによると神様は関係なかったっぽいです」

「非常に興味深いですね……。あとでじっくり教えていただけますか?」

「あの、わたしはあんまり興味が無かったので、人に説明できるほどの知識があるわけじゃ無いんですが……」

「それで結構ですよ。おそらくですが、僕の方に基礎的な部分が足りていないと思うので、どれだけ説明を受けても概要くらいしか分からないでしょうし。……ですが、今は魔の森で討伐した魔物の死骸を確認しに行きましょう」


 やばい。レンヴィーゴ様はわたし達も連れて行くつもりだ。

 生き物の死体とか、あんまり見たいものじゃないんですけど。


 でも、レンヴィーゴ様からすれば、正体不明の魔物がわたしの言うミノタウロスと同じ生き物なのかを確認しておきたいんだと思う。

 似た姿をしているからと言って、同じ種族とは言えないんだろうけど、何かの参考にはなるかもしれないからね。

 領地を預かる立場の人としては、魔物の正体を探る手掛かりになりそうな情報ならどんな些細な物でも欲しいんだと思う。

 それは分かるんだけど……。


 やっぱり余計なこと言っちゃったなぁと、自然と肩が落ちる。

 居候の立場としては、拒否る事なんて出来ないよ。本気で嫌がれば、レンヴィーゴ様なら許してくれるかもしれないけどさ。


 そんなわけで、魔物の死骸が運び込まれた村の中央広場へと足を運ぶ。

 そこには何十人もの人だかりが出来ており、近くの人同士でああでもないこうでもないと議論めいたものが繰り広げられていた。


 領民の皆さんが囲んでいる真ん中には荷車が置かれてて、その荷台の上には明らかに人間とは違う人型の何かが横たえられているのが見える。


 レンヴィーゴ様を先頭に人垣をかき分けるように進むと、魔物の全体像が見える。

 牛の様な頭、筋骨隆々って感じの人間の上半身、腰から下は剛毛に覆われた獣脚。足の先には巨大な蹄。

 身体中に剣とか槍とかで付けられた傷があり、黒みがかった血が滴っている。


 それは、わたしの記憶にあるミノタウロスそのものだった。

ミノタウロスって、『なろう』だとどういう扱いが多いんですかね?

オークの場合、作品によっては食べると美味しいって扱いだったりしますけど。

ランプとかモモなら食べちゃうんでしょうか ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル

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