ポーション作りのお手伝い 19
わたしの目の前に用意されているのは、二種類の種。
一つは見おぼえがあるリンゴこと導魔樹の種だ。レンヴィーゴ様が将来、貴重な歴史的資料になるとして保管しておいてくれたものだそうだ。
んー。異世界から来た迷い人が残した物としてなら、100年くらいすれば確かに歴史的な資料になるのかもしれないけど……。
こんなわたしの遺した物にそんな価値が生まれるのかなって思っちゃうけど。
導魔樹の種と並んでおいてあるのが、ニンジンの種、らしい。
ニンジンの種なんて初めて見た気がするよ。なんか一つ一つは小さいけど、チョット発育の悪い海外産の米とか麦の仲間って言われたら信じちゃいそうな形をしている。
種と一緒に用意されているのは、プランターや植木鉢のような容器が二つ。中にはすでに土が敷き詰められていて、すぐに種を植えることが出来る状態だ。
わたしの隣には同じように2種類の種が用意されたマールがちょっと困ったような表情をしてて、テーブルを挟んだ正面には興味津々な顔のレンヴィーゴ様とアリシアさん。
「ルミしゃま……? なんでマールの分が用意してあるにゃ?」
「わたしが作るだけだと、わたしが美味しく飲めないかもしれないじゃない?」
「にゃ~……」
わたしの魔力で育った導魔の果実は、わたし自身が食べても全く味がしなかったのだ。
そのかわり、マールはわたしが育てた導魔の果実を美味しい美味しいと言って食べていた。わたしもマールが育てた導魔の果実は美味しかった。
前回は、フェデリーニお爺ちゃんから生えた果実で、今回はその果実から取れた種から育てた果実という違いはあるけれど、結果はどうなるかは分かんない。
なので、せっかく作ってもわたしが美味しく味わえるかどうかも分かんない。
せっかくニンジンとリンゴを混ぜたのに、ニンジンの味しかしないなんて結果にもなりかねないのだ。
それを回避するには、わたしにとって美味しいリンゴを育てることが出来るマールにも導魔の果実を育ててもらう必要がある。
「それじゃ、とりあえずやってみようか?」
マールにそう言うと、わたしはプランターの中央に人差し指を突き刺して穴を掘る。
その様子を見て、マールも諦めた様にプランターに小さな指を突っ込んだ。
「実は、導魔の果実から導魔樹を育てて、それで魔導書を作らなかった場合、それで果実がなるのかどうかは僕も知らないんです」
わたし達の様子を見ていたレンヴィーゴ様が、いつもの様にメモを取りながら言う。
「そうなんですか?」
「ええ。知ってる人なんて居ないんじゃないですかね? 仮に果実がなったとしても自分では美味しく食べられるとは思えませんし、美味しく食べてくれる人が近くに居ない場合がほとんどですから。自分の為でも周りの人の為にでも、育ててみようとは思わないんじゃないでしょうか?」
それは最初の頃に聞いた気がする。
わたしとマールみたいに魔力が似ていると美味しく感じるけど、魔力が似ている人に出会えること自体が稀だって話だった。
「それに、普通の人にとっては育てるのにはそれなり以上の時間と魔力と管理が必要になりますからね。成功したからと言ってそれで大きく儲ける事が出来る見込みが少ないとなれば、貴重な魔力や時間を使って実験しようという人も少ないはずです」
わたし、無駄に魔力が有るからね。マールだって、わたし程じゃないけど魔力は多いっていう話だ。
他の人にとっては無駄に魔力を消費するだけみたいな実験でも、割と気軽に試すことが出来るって部分はあるのは確かだ。
更に。
今のわたし達は魔力を使って何かをするって事が無い。
もちろん、魔法の練習とかはしたけど、魔法を使ってお金を稼ぐなんて事はしていない。
スペンサー家にお世話になる事で魔力を使ってお金稼ぎをしなくても生活できている状態で、それは逆に言えば、普通の人だったら魔力を使ってお金を稼いで自分達で暮らしを立てなくちゃならないって事だ。
普通の人は、こんな実験に貴重な魔力と時間を浪費する事なんて出来ないって事だよね、きっと。
「なんか……話を聞いてる内に、こんな事に魔力を使ってて良いのかなって気分になってきました」
「ルミさんとマール君の様に、魔力の質が似ていて、おまけにお互いに相当の魔力量があるというのはめったにある事じゃありません。僕としては、是非この機会に色々試してほしいですけどね」
「言われてみればそうですけど……。何かを試してみたとして、それがこの世界の人たちも同じ結果になるのかどうかって疑問は常に付きまとうと思うんですよね。結局は、目安にはなっても実験とか検証には不向きな気がします、わたし達は」
そんな事を話しながら、わたしは種を優しく穴の底において、軽く上から土をかぶせる。
「迷い人であるルミさんやマール君が、こちらの世界のメディロイドと比べてどうかっていうのも、また一つの実験になりますよ」
レンヴィーゴ様に言われて首を傾げる。
そんな実験が何の役に立つんだろう? まぁ、レンヴィーゴ様の場合、役に立つか立たないかはあんまり重要じゃ無いのかもしれない。
違いがあるかどうか、もし違うならどこが違うのかっていうのを知る事が大事っぽいし。
なんていうか、知ること自体が大事って感じ。
「そんな事より、早速魔力を流してみましょう。まずは導魔樹の方からお願いね」
そう言ったのは、こちらも知的好奇心の旺盛さでは負けて無さそうなアリシアさん。
わたしはコクリと頷いて、植木鉢に右手をかざした。
導魔樹を育てるのはもう二回目という事で、魔力を流す作業も慣れたもの。
念のため、一気に流れない様に注意しながら、それでもドバドバと魔力を注いでいく。
無駄に魔力の多いわたしが、それなりに気合を入れて魔力を注ぐんだから、当然、成長は早い。
プランターもどきな植木鉢の真ん中辺の土が少し盛り上がったかと思うと、すぐに小さな芽が出て、芽が出た勢いそのままにニョキニョキと伸びていく。
「さっきもスゴイと思ったけど……改めて見ても感心すればいいのか、呆れれば良いのか分からないわね」
アリシアさんはそう言うけど、わたしとしては他の人がどの位の魔力量なのか知らないんだよね。
自分たち以外だと、レンヴィーゴ様が魔法の訓練の時にお手本として魔力矢を撃ったところしか見た事ないから。
わたしの隣では、椅子の上に立って身体を一杯に伸ばして魔力を流しているマール。でも、さすがに育ちが悪いかも。
「にゃ~もう無理にゃ~~」
しばらく二人で魔力を流していたけど、10センチくらいにまで育ったところでマールが魔力を流すのを止めて机に突っ伏した。
「魔力じゃルミしゃまには勝てないにゃ~~」
そう悔しそうに言うマール。
たしかに魔力に関する事はわたしの方が上かもしれないけど、飼い主としてはペットに勝ってる部分が無いと威厳が保てないからね。
魔力量くらいは勝ちを譲って欲しいところだ。
運動神経とか反射神経的な部分では絶対に勝ててないんだから……。
なんだか胸が痛いよ……しくしく。
6月は辛いです・・・
土日以外の休みが無いのが辛い・・・ (´;ω;`)ウゥゥ




