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異世界人との遭遇 7

 ──この世界で生き抜いて、いつか必ず元の世界に帰る。

 そう、覚悟を決めた。


 ここが夢か現実か分からないけど、夢だったとしても、いつ目が覚めるか分かんないし、もし現実だったとしたら、動くのは早い方が良いに決まってる。


 わたしはこの世界で生きていく為に、レンヴィーゴ様へ協力をお願いすることにした。

 もしかしたら、他に適任の人がいるかもしれないし、レンヴィーゴ様が実は悪人だったという可能性だってある。

 だけど、まだまだ高校生のわたしは、人生経験なんて殆ど無くて、当然、人を見る目なんてものも無い。

 それなら、最初の一人が最適の人物だったという幸運に期待したって良いと考えたのだ。二人目、三人目に出会った相手が善人ではない事だって有り得るのだから。


 そんで、森の中を歩きながら、レンヴィーゴ様から色々と教わる事になった。

 レンヴィーゴ様から聞き出した情報によると、この国の名前はアルテジーナ王国というらしい。周辺の国に比べて水源に恵まれ、豊かな土壌を持つ。あと魔法の研究が盛んだそうな。


 わたしが目を覚ましたのは、そのアルテジーナ王国の北部にあるスペンサー領という領地にある森の中。

 スペンサー領自体は、人口が五百人くらいの領地で、主な産業は小麦と豆類と綿花、酪農。そして森に棲む魔物を討伐する狩猟業と、他領からの魔物討伐の依頼を受けて行う傭兵業なども行われているらしい。


 山とか森とか川とか湖は近くにあるけど、残念ながら海はかなり遠いとのこと。

 海がないということは、新鮮な海の魚はほぼ絶望ということか。現代日本で育った私には、少しキツイかもしれない。

 ラノベとかだと、世界の東の方に、日本をモデルにしたような国があって、お米とか醤油とか味噌とかが手に入ったりするんだけど、この世界だとどうだろう?

 レンヴィーゴ様は知らないって話だったけど、余裕ができたら調べてみたい。切実に。

 何と言っても、豊かな食は生活に彩りを与えてくれるからね! わたしが食いしん坊だからってわけじゃないよ!


 元の世界の日本や諸外国に関する知識と、レンヴィーゴ様から聞いた情報のすり合わせをしながら、わたしは「むぅー」と考える。


 やっぱりここは、ラノベとかアニメとか漫画でおなじみの中世・近世ヨーロッパ風ファンタジー的な世界みたいだ。

 王様がいて、貴族がいて、騎士とか魔法使いとかもいる。エルフとかドワーフとかも居るらしい。……都会に行けば。

 逆に、この辺だと人間よりも魔物と呼ばれる存在の方が多いらしい。


 あと、人間というのが私の感覚とは違うらしい。

 わたしの感覚でいう人間っていうのは、メディロイドという種族らしくて、この世界で人間とかヒトといえば、そのメディロイドを含めたエルフやドワーフなんかの知性のある人型の種族全般を指すらしい。


 あと、気になったところと言えば、ラノベでお馴染みの冒険者という存在は居ないとのこと。

 どういうことかと言えば、ラノベに出てくる冒険者のお仕事というのは、この世界では、他の職業に分割されて置き換えられているらしいのだ。

 動物や魔獣を狩って、お肉とか皮とか角とか爪とかを得て、それを町で換金するような人は、普通に猟師と呼ばれるらしい。

 猟師ごとに狙う獲物によって、多少の分類はあるらしいけど、いずれも冒険者とは呼ばれないということだ。


 お馴染み和製ファンタジーでは、冒険者の仕事は、モンスターを狩ることだけじゃなくて、ダンジョンに潜ったり、商隊の護衛をしたり、届け物をしたりなんてのもあった。

 だけど、ダンジョンなんて大勢の人が生活できるほどのお宝が眠ってるはずがないし、最初の成功者が根こそぎお宝を持って帰っちゃえば、それ以降は、ただの洞窟と変わらなくなっちゃう。それに、そもそもダンジョンなんてそう幾つもあるわけじゃないという事だ。

 そして、護衛や届け物なら、それぞれ専門の人が居るらしい。


 元の世界の日本でもそうだったけど、猟師と護衛と届け物をする配達人なんて、それぞれ違う職業で、求められるスキルも違うはずだ。

 猟師だったら、山や森の中を駆け巡り、動物や魔獣の生態なんかを把握して、より確実に獲物を仕留める技術が必要だし、護衛だったら攻めるよりも守る事に重点を置いた動きをしなくちゃならないはず。

 配達人なんて、無事に目的地にたどり着く事が一番大事なんじゃないかな?

 もちろん、必要とされるスキルが被ってる事もあるだろうし、副業的に他の仕事にまで手を出す事はあるんだろうけど。

 そういうわけで、いわゆる冒険者という職業の人は存在しないとか。


 でも、そうなると、この世界には冒険者ギルドが無いって事になる。

 冒険者ギルドで、ガラの悪い冒険者に絡まれたところを、チート能力で返り討ち! っていう、テンプレ展開が出来ないじゃないか!

 いや、元々チート能力とか貰えなかったけども。


 いざとなったら、冒険者になって諸国漫遊の旅でも良いかなぁ、なんて気軽に考えてる部分もあったんだけど、なんだか雲行きが怪しい感じ。

 冒険者が無理となれば、他の仕事でお金を稼がないといけないわけで。だけど、わたし自身には、他人様に誇れるような技術なんて殆ど無いといっていい。せいぜい、ぬいぐるみ作りくらいだけど、それもこの世界でどの程度通用するのかは未知数だ。


 わたしの眉間に皺が寄っていることに気がついたのか、レンヴィーゴ様は不安そうに声を掛けてくる。


「ルミさん? まだ何か分からない事とかありますか?」

「いえ……、そういう訳では無いんですが。これからどうしようかと……」


 とりあえず、何はなくともお金だ。世知辛いのは現代日本だけじゃない。お金がなければ、食べる物にだって苦労するのは万国共通のはず。

 だけど、そのお金を手に入れる手段が思いつかない。そもそも、この世界にはどんな仕事があるのかも、良く分からない。


 中世から近世にかけてのヨーロッパなら、平民といえば農業を中心とした第一次産業に従事する人が多い気がする。

 さっきの話からすれば、この辺りでは小麦・豆類・綿花なんかで生計を立ててる人が多いのかな? あとは、山や森が近いなら鉱業や林業をしている人も居るかも。

 綿花の生産が盛んなら、織物なんかに携わってる人も多いはずだ。

 どれも体力勝負、若しくは長時間労働で、儲けはそれ程でもないっていうパターン?

 しかも農業や酪農は、まずは土地があってこそ出来るもの。この世界の人間じゃないわたしが、この世界に土地なんて持ってるはずがない。無理。

 土地を持たないわたしには、何かを仕入れて、加工して、売りさばくというのが一番なんだろうけど、残念ながら、原材料を仕入れるためのお金もない。


 第一、わたしは元の世界に戻りたいのだ。

 それは、元の世界に戻る手段を見つけるまでの間、この世界で不自由しないだけのお金が得られれば十分って考えることが出来る。

 逆に言えば、「一日中働いて、元の世界に戻る手段を探す暇がない」なんてのは、本末転倒って事になってしまう。


 もちろん、そう簡単に帰る手段が見つかるなんて思ってるわけじゃない。

 最低でも一年、二年。長ければ十年、二十年。最悪、死ぬまで見つからないという可能性も十分に考えられる。

 だけど、どんなに時間が掛かっても、やっぱりわたしは元の世界に戻りたい。

 父さんや母さん、お姉ちゃんにおばあちゃんも大好きだし、仲の良い友達だって居た。心配してくれてるだろう皆に、元気な顔を見せたい。

 漫画やドラマの続きだって気になるし、無料小説投稿サイトのお気に入り作品の今後の展開だって、興味は尽きなかった。

 そして、小さな頃からの、ぬいぐるみ作家になるっていう夢を実現させたい。


 だけど、帰る手段が見つかるまでは、この世界で生きていくしか無い。


「わたし、出来ることなら元の世界に戻りたいんです。だけど、帰る方法を見つけるまでは、この世界で生きて行かなくちゃならないわけで……、ですけど、いつまでもお世話になりっぱなしってわけには、行かないと思うんです。それでですね。とりあえず、この世界に限らず、どんな場所でもお金って必要だと思うんですけど……、わたしがこの世界で出来る仕事って何があるでしょう?」

「……そうですね。この領地も国も、永遠に続くとは限らないわけだし、自分でお金を稼ぐ方法はあって困らないですね。……僕たちも出来るだけの援助は、させてもらうつもりですけど」


 レンヴィーゴ様は少し困ったような表情を浮かべながら言った。

 わたしは、腕の中で寝ているマールが落ちないように静かに抱え直すと、レンヴィーゴ様の言った言葉の意味を考える。


 レンヴィーゴ様は援助をしてくれるような事を言ってくれてるけど、ホントのところは、きっと投資だ。

 本人は貴族ではないにしろ、貴族家に属する立場で、いずれは貴族の一員となるレンヴィーゴ様からすれば、迷い人のわたしを囲い込んで、利益を上げ、領の発展に繋げたいと考えてるんだろう。

 もう一人の迷い人、ドロシー・オズボーンがこの世界に対して多大な功績を残したから、わたしにも何かしら期待しているのだと思う。


 できれば、そういった話は無しにしていただきたい……。

 

 もちろん援助して貰えるのは有り難い。だけど、何か見返りを期待されてると思うと、正直、プレッシャーで押しつぶされそう。

 ドロシー・オズボーンという人が、どういう人だったのかは分からないけど、わたしはただの女子高生だ。


 同じことを期待されても困るよ!

主人公が冒険者になって、冒険者ギルドで素行の悪い先輩冒険者に絡まれて……

だけど、主人公はヨユーで返り討ち! 周りで見てた他の冒険者とかギルドの美人受付嬢が

感心したりビックリしたりって展開、実は大好きです。

特に、主人公が女の子だったりしたら、それだけでご飯三杯くらい食べられちゃうくらい大好物。


それなのに、なんでこの世界に冒険者というのが存在しないのかというと、

私自身がそういう作品を好きすぎて、どうしても話の流れが寄って行っちゃいそうだから。

自分で縛りを入れたって感じです。つまりメタ的な理由。

作中でアレコレ書いてるのは、後付けの言い訳です。


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