表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/135

ポーション作りのお手伝い 15

 挑むすべての者にとって公平にして神聖なる勝負、ジャンケンの結果によって三人目の被験者となってしまったわたし。

 ここで駄々をこねても三人目になるか四人目になるかの違いしかないので、覚悟を決めてナイフを受け取る。


 果物ナイフよりは大きくて、三徳包丁よりは小さいくらいの扱いやすいサイズ感のそのナイフをジッと見つめる。


 ポーションを飲めばすぐに傷口は塞がって、痛みも消える。もちろん、一瞬で絶命しちゃうような傷を付ける必要は無いんだから、問題なんてあるわけが無い。


 そう頭では分かっているんだけど、だからといって自分で自分の身体を切り裂くのは、やっぱり抵抗がある。


 もしかしたら、今回のポーションがわたしが携わった事で特殊な物になっていて、わたし自身には効果が現れないモノになってしまっていたら?

 そんな事を考えちゃう。

 わたしは遊園地とかのジェットコースターに乗る時に「もしわたしが乗る順番に万が一の事故が発生したら?」とか考えちゃうタイプなのだ。 


 でも、もし本当にわたしが携わった事でわたし自身に効果が無い特殊なポーションになってしまっている可能性があるのなら、それは今の段階で知っておく必要があるのも事実だ。

 アリシアさんは自分が作ったポーションでも問題なく効果があるらしい。でもわたしとアリシアさんは違う。

 アリシアさんはこの世界に生まれた人で、わたしは別の世界で生まれた人間なのだ。

 別の世界で生まれたわたしの作ったポーションが、作成者本人であるわたし自身に対しても間違いなく効果を発揮するとは誰も断言できないのだ。


 魔物に襲われたり事故に遭うなどして、いざポーションが必要になった時に自分で作ったポーションでは効果がありませんでしたなんて事になったら困るのはわたし自身だ。


 そんな事を頭の中で捏ねくるように考えて、自分の為だと自分自身に言い聞かせる。


「……いきます」


 ナイフをギュッと握り締めて、ついでに両目をギュッと瞑って、右手のナイフを左前腕の真ん中へんに押し当てる。


 ゆっくりやさしく慎重に、ソフトタッチでソーーーっと。

 左腕に金属特有の冷たい感触。

 そーっと片目を開けてみると、いくら切れ味鋭いナイフでも、ちょっと触れさせたくらいじゃ薄皮一枚切り裂くことも出来なかったようで、血も滲んでいなかった。


「ルミしゃま……、いくら何でもそれじゃ斬れないにゃ」


 マールの呆れたような声。


「いや、だって痛いのは嫌じゃん!?」

「じゃぁ、マールが代わりに斬ってあげるにゃ! ノコギリみたいにギコギコすればきっと斬れるにゃ」

「ひぃっ! やめてぇ~~~! わかったから! 次はちゃんとやるから!」


 ナイフをノコギリみたいにギコギコするのを想像しちゃって、ちょっと涙目のわたし。

 そんなの普通に斬るより絶対痛いじゃん!


 嫌な汗を浮かべながら、目を瞑ってエイヤッとナイフを走らせる。冷たい筈のナイフなのに、熱いものを感じる。

 分かっていた事だけど、ナイフが切り裂いた部分からは真っ赤な鮮血が溢れ出した。ムッチャ痛い。

 

「ッ……!、は、はやく! ポーションはやく!」


 困った様な呆れたような顔をしたレンヴィーゴ様がポーションの蓋を外して差し出してくれるのを奪うように受け取って一気に煽る。

 ゴクゴクと喉を鳴らしながら、小瓶の中のポーションを飲み干すと以前に飲んだ時と同じようにお腹のあたりに熱を持った塊のようなものが生まれ、その塊が小さく分裂して体の隅々まで駆け巡っていく感覚を覚える。


 そうして気が付けば、ナイフで切り裂いたはずの左腕の傷は綺麗サッパリ消え去っていた。残っているのは流れ出た血の跡だけだ。


「ルミさん自身にもちゃんと効果がありましたね。まぁ、今まで作った本人には効果が無かったなんて事はありませんでしたが」


 レンヴィーゴ様がそんな事を言っていたけど、正直、あんまり頭に入ってこなかった。

 なぜなら、このポーションと似た味をどこかで口にした事がある様な気がして、それを必死で思い出そうとしていたから。


 もちろん、これまで飲んだポーションの味じゃ無いよ。

 ポーションは今まで何回か飲んだ事があるけど、無茶苦茶マズイはずなんだよね。

 何が由来の不味さなのかは分からないんだけど、とにかく苦くて不味い。しばらくすると口の中に残る苦みの様な不味さも消えちゃうんだけど、飲んでしばらくは悶絶するほど不味い。不味いったら不味い。


 だけど、今回飲んだポーションはちょっとは苦みを感じるんだけど、飲めない程の不味さじゃなく、どこか懐かしい感じのする味だったのだ。


「どうしましたか?」

「あ、いえ……。ポーションの味が……」


 不思議そうに顔を覗き込んでくるレンヴィーゴ様にそう答える。


「不味くて飲めないって事は無い筈ですが?」


 それは事前に聞いていた。

 ポーションを作るときは普通は一人で作る。

 その時にポーションの原料となる薬草は、魔力を栄養にして育つんだけど、その魔力を供給した人には、ポーションが不味く無いらしいのだ。


 今回は緊急で作らなくちゃならなかった為、わたしだけじゃなくて、アリシアさんとマールの二人の魔力も混ざってるので、そのせいで、ちょっと苦みを感じるんだと思う。


 でも、独特な甘みもあった様な……。


 そこまで考えて思い出した。

 これ、小さい頃に飲んだミックスジュースの味だっ!


 わたしが小さい頃に、おばあちゃんが作ってくれた手作りジュースの味によく似ている気がする。

 わたしが日本で飲んでたのは、基本的にはリンゴとニンジンのミックスジュースだったんだけど、お替りをしたらリンゴが足りなくなって、ほぼほぼニンジンだけのジュースになってしまった時の味がソックリだった気がする。


 なつかしい……。

 リンゴの季節になるとわたしのためにわざわざニンジンを買ってきて作ってくれてたんだよね。おばあちゃんはニンジンが嫌いだったから、作っても絶対飲まなかったけど。


 思い出したら飲みたくなってきちゃったよ。おばあちゃんのミックスジュース。


 だけど、今はリンゴの季節じゃ無いよね……。


「あっ……」


 リンゴという単語で思い出した。わたしはつい最近、リンゴを食べている。しかも実りたてホヤホヤのリンゴだ。酸味少なめ蜜たっぷりでシャクシャクとした食感がいかにもリンゴらしいリンゴで美味しかった。残念ながら、見た目は虹色だったけども。


「どうしましたか?」

「えっと……。ちょっとお尋ねしたい事があるんですが……」

「なんでしょう? 何か気になる事がありましたか?」

「気になる事というか……魔導書を作るときのリンゴって、手に入りませんか?」


 もしあのリンゴが使えれば、懐かしのミックスジュースが再現できるかも!

最後の方に出てきたミックスジュースは、中の人自身の思い出の味だったりします。

まぁ、私の場合は、祖母ではなく母でしたが。でも、ニンジン嫌いなのは同じだったりします。

なので、我が家のカレーはニンジンを見つけることが出来ませんでした (*‘ω‘ *) 入ってはいたよ。他の具材に比べてムチャクチャ小さくて溶けちゃってただけで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ