ポーション作りのお手伝い 14
レンヴィーゴ様の左腕から滴り落ちる鮮血が床を染める。
わたしがお手伝いしたポーションの効果を試すために、レンヴィーゴ様が自らの腕を切り裂いたのだ。
いくらポーションの効果の確認の為とはいえ、躊躇する事なくバッサリいったよ!
なんで最初にレンヴィーゴ様がやっちゃうのかなぁ~?
ここに居るのは4人で、レンヴィーゴ様、アリシアさん、マール、そしてわたしだ。
この場合、レンヴィーゴ様は一番身分が高いんだから、試すにしても最後じゃない?
そんな事を考えながらも、恐る恐る様子を見ていると、レンヴィーゴ様は痛がるようなそぶりも見せずにポーションの瓶を一つ抜き取り、片手で器用にコルク栓を飛ばして口元に運ぶ。
ポーションって、そんな大した量じゃないから一息で飲み切ったレンヴィーゴ様。小瓶をテーブルに戻すと、すぐに左腕の傷をわたし達にも見えるように掲げた。
「味は、まぁやっぱり不味いですね」
そう苦笑しながら言いつつも、目線は傷口から外れることが無い。興味津々って感じだ。
「その、具合が悪くなったりは……?」
ポーションは向こうの世界の薬と比べると、ものすごい早さで効果が現れる。だけど、問題点もある。
作成者と服用者の相性で、具合が悪くなる場合があるらしいのだ。
具合が悪くなったからと言って、傷の治りが悪くなるって訳じゃない。だけど、酷い場合は何日も寝込むことになる場合もあるらしい。
昼間にポーションを飲んだポリーちゃんは、作成者であるアリシアさんとの相性が悪いらしくて、別室で休んでいる状態だ。
逆にいえば、レンヴィーゴ様がアリシアさんの作ったポーションでは何ともなかったとしても、わたしの魔力で作られたポーションだと具合が悪くなる可能性もあるって事だ。
「特に変わりませんね。僕とルミさんは相性が良いのかもしれません」
レンヴィーゴ様の解説によると、アリシアさんのポーションと相性が良いからといって、他の人のポーションとは相性が悪いっていうものでは無いらしい。
逆にアリシアさんと相性が悪いポリーちゃんが、わたしとの相性が良いとも限らないし、誰が作ったポーションだろうと、全く具合が悪くならない人も居れば、同じ様に誰が作ったポーションだろうと具合が悪くなる人も居るらしい。
そしてレンヴィーゴ様は、誰が作ったポーションを飲んでも、これまで具合が悪くなった事が無いらしい。
そんな話をしている間にも、レンヴィーゴ様の腕の傷は見る見るうちに塞がっていき、やがては流れた血の跡だけを残して、綺麗サッパリ消えてしまった。
レンヴィーゴ様は、痛みが残っていないか、キチンと動くかを確認するように手を振り回してみたり、拳を握ったりして、何もないことを確認すると満足そうに頷いた。
「アリシア師匠だけで作ったポーションと比べても遜色がありませんね」
「それじゃ、次は私がやってみるわね」
なんだか楽しそうなアリシアさん。
ポーションを飲めばすぐに治る見込みが高いとはいえ、自分で自分を切り裂く事に躊躇が無い事が恐ろしい。
この世界の人ってみんなこうなの!?
わたしなんか、順番が回ってくる前に逃げ出せないか、頭を必死に回転させてるくらいなのに!
アリシアさんは、わたしの考えている事など気が付いた様子もなくレンヴィーゴ様からナイフを借り受けると、それをテーブルの上に用意されていたビーカーのような容器に入れられた液体に沈めた。
消毒でもしてるのかな?
そして左手の袖をめくり上げると、大きく深呼吸をしてからナイフを振りかぶるようにして一気に走らせる。
そしてレンヴィーゴ様と同じように、一息でポーションを飲んだ。
アリシアさんもナイフで付けた傷は綺麗サッパリ消えていった。
「アリシア師匠、どうですか?」
レンヴィーゴ様がそう尋ねると、アリシアさんはテーブルに手をついて身体を支えるようにしながら答える。
「ん……、やっぱり自分で作ったポーションじゃないから少し来るわね。でも、立ってられないほどじゃないわ」
「それってわたしとアリシアさんが相性が悪いって事ですか?」
「まぁ、そうだけど……、このくらいなら普通にある事ね。問題になる様な事は無いわ」
レンヴィーゴ様と同じように手を振ってみたり、グーパーしたりして問題が無い事を確認したアリシアさんは次の被験者にナイフを差し出してくる。
次の被験者はわたし、もしくはマール。
「さぁ、どちらが先にやる?」
「マールで」
「ルミしゃまで」
ほぼほぼ同時に答えるわたしとマール。
「マール、お先にどうぞ」
「いやいや、ルミしゃまこそお先にどうぞですにゃ」
「……」
「……」
正直、分かっている。分かっているんだよ。先でも後でも結局はやらなくちゃいけないって事は。
でも、やっぱり怖いじゃん! ほんのちょっとでも先延ばしできるならしたいじゃん!
でも、それはマールも同じ。おそらく話し合いでは決着しない。
「……ジャンケンで」
「のぞむところにゃ……」
まるで西部劇に出てくるガンマンのような真剣な表情で向かい合うわたしとマール。
中世ヨーロッパ風なこの世界は、ぶっちゃけ娯楽が圧倒的に足りてない。
一部の人は領内唯一の酒場に集まってお酒を飲んで騒いだりしているらしいんだけど、ほとんどの人は、陽が昇るのと同時に起き出して、陽が沈んでしばらくすると布団に入るような生活をしている。
そんな世界だけど、基本宵っ張りなわたしは周りが寝静まったあともレンヴィーゴ様から借りた本とかで勉強したりもしてるんだけど、マールはあんまり勉強が好きじゃないので、わたしの近くでゴロゴロして過ごしている事が多いんだよね。
だけど、やっぱりゴロゴロしているだけだと飽きてきちゃうみたいで、ジャンケン勝負とか挑んでくる事もある。アッチ向いてホイとか。
ほんと、そのくらいしかできないんだよ。寝てる人も居るから、あんまり騒ぐわけにはいかないし。
そんなわけで、マールとは頻繁にジャンケン勝負はしてるんだけど、実は対マール戦に限っては必勝法がある。
ジャンケン勝負の最初の一回。マールは必ず『グー』を出すんだよね。
二回戦目、三回戦目となれば、グー以外の手も出してくるんだけど、何故か一回戦目の最初は必ず『グー』。なので、最初は『パー』を出せば100%の確率で勝てちゃうのだ。
多分、気合が入りすぎて、拳をギュって握っちゃうから自然と『グー』になっちゃうだけだと思う。
まぁ、わたしは大人だから、気が付いててもあえて指摘なんてしない。
普段は『あいこ』になるように『グー』を出したり、マールに華を持たせる為に『チョキ』を出して負けてあげたりしてた。
だけど、今、ここで出すべきなのは、当然『パー』でしょう!
絶対に負けられない戦いって、今この時だと思うし!
こういう場面で負けずに済むように、あえて指摘して無かったんだし。
……わたしって悪い子だなぁ。
口元が緩むのを必死に堪え、右手を構える。
対面のマールの表情は真剣そのもの。まるで格闘技の選手かの様な気合の入った表情だ。そのままチカラいっぱい握り締めた『グー』を出して敗者になっておくれ。
「じゃーんけん……」
「にゃん!」
掛け声とともにわたしの出した手は、勝利を約束されたはずの『パー』。
だけど、マールの小さな手は二本の指がニョキっと突き出された『チョキ』。
なんでー??
一回戦目の最初の手は、いつだって『グー』だったじゃん!
「ニャハハ。マールが『グー』じゃないのが不思議って顔してるニャ」
「だ、だって! 最初はいっつも『グー』だったじゃん!」
「こういう時の為に、エサを撒いてたニャン。見事に引っかかってくれたニャン」
そういってドヤ顔を決めるマール。
それってつまり……。
一回戦目は気合が入りすぎて『グー』を出しちゃってる振りをしてただけって事?
そんで、マールが最初に出す手がいつも『グー』だって事に気が付いたわたしが、負けられない勝負の時に『パー』を出すように仕向けてたって事??
こうして、マールの遠大な戦略に気が付くことなく、わたしは間抜けにも『パー』を出して……負けた。
ジャンケンそのものに負けた事よりも悔しい。
クソー……! マールのくせに~~!
うへへ。
お仕事関連で忙しくて時間が無かったので、ジャンケン勝負で尺を稼いで誤魔化しちゃいました (テヘペロ




