ポーション作りのお手伝い 8
「一か月……ですか」
「場合によっては、もっと長くなるかもしれませんよ。未知の魔物の危険度が高いと判断されれば、より詳しい調査を行って、可能ならば生息域の特定だけではなく捕獲や討伐をするために王宮から大規模な戦力を投入する事になるかもしれませんから」
王宮から調査隊が入るとすれば一か月。そんな話を聞いて、わたしは考える。
それって、絶対無理。マールを隠し通せる気がしない。
普通に考えると、調査隊が滞在している間、ずっとお屋敷の中で隠れさせていれば良いって思うかもしれないけど、それは無理なのだ。
なぜなら、ここは開拓村であるギーンゲンだから。
調査隊のメンバーっていうのは、国のトップ周辺の地位に居るわけじゃ無いけど、逆に平民でもない。身分的にはそれほど高くはないけど、一応は貴族家や貴族家に連なる家の出身者だったりする。
そんな人たちを宿泊させられるような高級宿が無いって意味じゃない。宿泊施設そのものが、ここ、ギーンゲンには存在しないのだ。
そもそも、この世界には一般人が観光旅行するっていう事が無いっぽいんだよね。大半の人は自分が生まれた町や村から出る事は無くて、もし出るとしても日が暮れる前に往復できるような所と交流をするためとか。
あとは、村に住んでる人が町に用事があるときなんだって。
そんな感じなので、普段、遠く離れた町と町の間を行き来するのは行商人か巡礼者か修行か勉強の為って感じ。そんな人は勿論少数なので、そんな少数の人の為にわざわざ宿を造ったりしないんだそうな。利益が出ないからね。
そんな環境であるギーンゲンに、ごくたまーに来る旅人がどこに宿泊するかといえば、身分によって変わる。
ある程度以上の身分のある人なら、領主邸に。そこそこお金がある人なら、村唯一の酒場に。巡礼者なら神殿にって感じで。
ちなみにこの世界には、ラノベやゲームでお馴染みの『冒険者』というのは存在しない。
傭兵は存在するけど、そういう人たちは村や集落で雇われる事になっても基本的には村の敷地内にテントを張ってそこで寝泊まりする事になるらしい。
そして、問題の調査隊が来た場合はどうなるかといえば、もちろん領主邸にて持て成すことになる。
つまりはマールの隠れるべき場所で寝泊まりをするという事だ。
そんなのその日の内にバレるに決まってるじゃん!
「マールは、どうしたら良いんでしょう?」
「どうしたら良いんでしょうね?」
レンヴィーゴ様に困ったような笑顔で返された。
誰か信用のおける領民の家で匿ってもらうのが現実的な対処法なのかもしれないけど、マールってば基本敵に人見知りだからなぁ~。
領主邸でお世話になってるのもわたしが一緒だから落ち着いてるけど、もしマール一人だったら、どうなっていた事やら……。
「マール君の事もそうですが、ルミさんの存在も王宮の連中に気取られたくないんですよね」
「え……?」
「ルミさんも、異世界からの迷い人ですからね。ルミさんから得られる情報がどれだけの価値を産みだすのかを考えれば、調査隊の連中はなんとか囲い込みたいと思うはずです」
……そうだった。
未知の魔物やマールに対して価値を見出すって事は、未知の情報を持っているはずのわたしにも価値を見出すはずだ。
そうなると、当然引き抜きのような事が行われるかもしれない。
だけど、わたしはまだスペンサー領に対して、何の恩返しも出来てないんだよ。
引き抜きのような事をされても困るだけだし、それでスタンリー様やレンヴィーゴ様、領民の皆さんに迷惑が掛かるのも嫌だ。
「わたしも一緒にどこかに隠れてた方が良いですか?」
「この狭い村の中で、どこに隠れるかって問題も有りますからね」
「あー。たしかに……」
ギーンゲンはムッチャ狭い。
魔の森と呼ばれる魔物が棲息する場所のすぐ近くに作られた村なだけあって、なかなか開拓が進んで無いかららしい。
逆に、元が傭兵団である領民たちだからこそ、こんな場所でも平気な顔で開拓なんかできてるのかもしれない。
そんなギーンゲンの敷地内で一か月も隠れていられるような場所があるかと聞かれれば、候補にあがるのは、領主邸か神殿のどちらかしか無いんだよね。
あとの家は独身なら日本で言う1LDK、家族住まいなら2LDKみたいな家ばっかりなのだ。
いくらカウチポテトなわたしでも、テレビもネットも漫画もラノベも無い世界でひと月以上も家から出ない生活なんて耐えられる気がしない。
「ルミさんは兎も角、マール君は調査団に見つかったら誤魔化しようがありません。なので、いざとなったら付き合いのある、信用できる領地に行ってもらう事も考えなければなりませんね」
レンヴィーゴ様はそう言うけど、実際にマールを他の領地で匿って貰うとなればわたしも一緒に行かなくちゃならないと思う。
でも、わたし達がこの世界に来てひと月にも満たないなか、ようやく慣れてきたスペンサー家を出て、他の領地にお世話になるっていうのは、正直、気が滅入るよ。
レンヴィーゴ様が信用してる領地というのなら、悪い扱いを受けるような事は無いんだろうけどさ。
「他に方法はありませんか?」
「そうですね……。初めて会った日に言っていた通り、ルミさんやマール君自身が抗うチカラを身に付ける事が出来れば、ですかね」
「魔法とか、ですか?」
わたしもマールも魔法の勉強はあれから全く進んで無いんだよね。
『魔力矢』と『魔力盾』の二つの魔法は使えるようになったけど、その後に新しい魔法を習得しようとさえしなかった。
したくなかったわけじゃ無いよ?
ただ、他の事に時間を取られてたから、魔法の勉強にまで手が回って無かっただけだ。
まぁ他の事に時間を取られてたのは、主にわたしやマールじゃなくて教師役のレンヴィーゴ様の方だけど。
「魔法もそうですが、魔法以外でも良いんですよ?」
「お金とかでしたっけ?」
「そうです。他者の理不尽な要求を跳ね除けるだけのチカラであれば、それが経済力だろうとコネだろうと構いません」
コネは、ちょっと無理かなぁ。
わたしもマールもこっちの世界に知り合いとか居るわけじゃ無いし。
今からでも頑張って誰かスゴイ偉い人とのコネを築くとか作れれば良いんだろうけど、コネなんてどうやって築けばいいのか分かんないよ。
そうなるとやっぱり、魔法とかお金か。
魔法については、レンヴィーゴ様次第な所があるんだよね。わたしにとって魔法の先生はレンヴィーゴ様だから。レンヴィーゴ様が魔法の授業をしてくれないと、わたし達だけで新しい魔法を習得できるようなレベルには達して無い。
そんなの足し算引き算くらいしかできない小学生に、教科書を渡しただけで連立方程式を覚えなさいっていうようなもので出来るはずが無い。
今のわたし達には、まだまだ魔法の先生が必要なのだ。
だけど、わたし達がレンヴィーゴ様の時間を独占できるわけじゃ無いんだよね。レンヴィーゴ様は次期領主候補ってだけじゃなくて、今現在も領地経営に深く関わっているような人だもん。
「魔力だけは無駄にあるんですけど、ね。魔力が売りに出せれば、お金はすぐに貯まりそうな気がするんですけどね」
自嘲気味に笑う。
「ルミしゃま? 魔石に魔力を込められるんだから、それを売れば良いんじゃないにゃ?」
さっきまで静かにわたしの腕に抱かれていたマールが不思議そうに首を傾げる。
わたし達の会話を聞いて無いようでいて、ちゃんと聞いてたんだね。普段は聞いて無い事の方が多いのに。
マールが言うように魔石に魔力を込めて売る事は不可能じゃない。以前にもそういう話はした事があった。
魔力は魔石と言われる不思議な石に込めることが出来て、魔力が込められた魔石は充電式の乾電池みたいな使い方も出来たりする。
魔石は魔道具と呼ばれる便利アイテムに使われたり、魔法陣に使用する事で魔法を発動させることが出来たりするので、需要は高い。
だけど、普通の魔法使いの人は、他の人に売りに出せるほど多くの魔力を持っていないらしい。
魔石に魔力を込めることはあっても自分の為に使う事が多くて、もし余裕があったとしても友人知人などの周囲の人に融通する事が多い。
もちろん魔石を売るような人だって居るけど、それは何日もかけて魔力を注いで、数日に一回だけ売りに出してるだけで、わたしみたいに一日に何個も魔石を満たせるわけじゃない。
つまり、わたしがお金を稼ごうとして、何十個も魔石を売りに出せば、膨大な魔力の持ち主として、お金が貯まる前に国の有力者に目を付けられる事になっちゃうのだ。
それって本末転倒だよね。
「じゃぁ、ポーションの葉っぱを売れば良いにゃ。魔力で育てたやつをどっかで採集してきた事にすれば良いにゃ!」
マールの言葉に一瞬思考が止まる。
その手があったか!
サッカー見てたら遅くなってしまいました。
おまけにろくに推敲できてないので、変なミスがあるかも (*>ω<)=3




