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ポーション作りのお手伝い 5

 小さな鋏で生い茂った葉っぱを剪断していくアリシアさん。

 あ、四つの鉢の中で、一つは人参っぽい根菜だったよ。


 ”収穫”した葉っぱや人参っぽい根菜に付いた泥を水洗いしている姿は、まるで食堂の女将さんだ。作業用のエプロンがそれっぽさを増大させている。


「これなら、すぐにでもポーションが出来ちゃうわね~」


 アリシアさんからすれば、今日中に収穫可能なレベルまで薬草が育つとは思ってなかったんだろうね。

 鋏だけじゃなくて、乳鉢とか乳棒とかお鍋とか全然用意してなかったもん。


「えっと、他に何かお手伝いできる事はありますか?」


 わたし達はといえば、鉢植に魔力を流してから何もお手伝いできていない。

 これからどんな道具が必要で、それがどこに置かれているのかなんて全く分からないのでアリシアさんが準備を進めるのをボケっと見ている事しか出来なかったんだよ。


「そうねぇ~、特にない……かも?」


 アリシアさんにそう苦笑されて、ガックリと肩を落とすわたし。


 まぁ、それはそうだよね。何の知識もない初心者に一から教えながら作るくらいなら、自分で全部やっちゃった方が早いだろうし。

 今後、わたしが本格的にポーション作りを勉強する事になるとしても、それは改めてゆっくり教えれば良いだけだ。


 怪我人が来るかもしれない、今すぐにでもポーションを用意して置かなくちゃならない状況で、初心者に教育なんてするはずが無い。


 なので、わたしとマールは見てるだけ。


 アリシアさんは集めた葉っぱ達を種類ごとに天秤ばかりで重さを量って、全部が同じ重さになるように調整。

 その重さを揃えた葉っぱや根の部分を包丁で細かく刻んで、もう一回重さを確かめて量を調整。


 細かく刻んだ素材を乳鉢に移して乳棒でゴリゴリゴリゴリ。それを四つの乳鉢で四種類。


 葉っぱと根っこの準備をしながら、お鍋を|竃≪かまど≫にかけて、これまたきっちりと量った水を投入。

 そのまま、すぐに二種類の素材を投入して|レードル≪おたま≫でグルグルと撹拌すると透明だった水が緑一色に染まる。すり潰してあるから溶けるのも早いね。


 そのまま沸騰する直前まで煮立てた所で残り二種類の素材も投入。根菜っぽい素材は泥を落としたら人参っぽい色だった。

 緑色の葉っぱと混ぜてもその主張が強いみたいで、お鍋の中が柿色に変わる。


 わたしがポーションを飲んだ時には陶器製の小さな瓶に入ってて中身は良く見えなかったんだけど、こんな色をしてたんだね。

 

 でも、気になる事がある。

 ポーションを飲んだ時に感じた、あの嫌な臭い。人が飲んで良い物とは思えないような、まるで毒物でもあるかのような臭いがしない。

 むしろ野菜を煮込んでいるだけの様な、美味しそうな匂いにさえ感じる。


 コレってどういう事!?

 もしかして、これから最後の仕上げとして何か致命的な臭いの素をぶち込むって事なんだろうか。


 不思議に思いながら見ていると、アリシアさんの表情の変化に気が付く。

 お鍋の中身をかき回すアリシアさんは、なぜか眉間にしわを寄せて、顔を背けるようにしている。


 あの顔には覚えがある。

 わたしやポリーちゃんがポーションを飲む前にしていた顔だ。

 でも、お鍋から漂ってくる匂いって、あのポーションの嫌な臭いじゃない。


 もっとお鍋に近寄れば、あの毒々しい臭気を感じるのかと思い半歩だけ近寄って鼻をクンクンさせてみるけど、やっぱりお野菜を煮込んでいる様にしか感じないね。


 そんなわたしの行動に、アリシアさんが気が付いた。


「ルミさんは、ポーションを飲んだ事があるのよね?」

「え、はい」

「美味しくなかったでしょう?」

「ええっと、はい。まぁ……美味しくは無かったですね」


 思わず苦笑してしまう。

 おそらくわたしが飲んだポーションは、アリシアさんが作った物だ。その作った本人の前で「美味しくなかった」って言うのは、ちょっと気が引けるんだよ。


「まぁ、ルミさんってば正直なのね。……でも、ポーションを美味しく感じなかったのは仕方がない事なのよ」


 それって、良薬口に苦し的な?

 小首を傾げると、チラリとこちらを見ながら解説してくれる。


「んー。ルミさん達にも手伝って貰ったから、もう分ってると思うけど、ポーションを作るには魔力が必要なの。だけど、作った人の……正確には、素材となる薬草とかを育てた人の魔力なんだけど、その魔力が飲む人の魔力と反発するから美味しく無いのよ」

「それってつまり、今、作っているポーションの素材は、ほぼほぼわたしとマールの魔力で育てたモノだから、わたし達にとってはそれ程でも無くて、アリシアさんにとっては激マズになるって事ですか?」


 わたしが聞き返すと、アリシアさんは「そういう事ね」と答えながら苦笑する。


「普段、私が一人で作ったポーションは私にとっては美味しいのよ。まぁ、美味しいと言っても私は私の魔力の味を感じる事は無いから、素材を煮込んだだけの調味料も入ってない野菜スープみたいな味なのだけれど。……でも、今回は私とルミさんとマール君の三人で拵えたから、誰にとっても美味しくはならない筈よ」

「ん?」


 誰にとっても美味しくは無い?

 それって変じゃない? だって、わたしが感じるこの匂いは以前に飲ませてもらったポーションに比べて随分とマイルドだ。

 とても同じ作り方をしたモノとは思えない位に。


 調味料とかが入って無いから美味しく無いのは間違いないんだろうけど、口にするのを拒否したくなる程とも思えない。


「お鍋からそれほど嫌な臭いは感じないんだけど、マールはどう? あのポーションみたいな嫌な臭いは感じる?」

「みゃ?」


 わたしがそう質問すると、マールは恐る恐ると言った感じで鼻をひくひくさせてから、不思議そうに首を傾げる。


「チョットだけ嫌な臭いがするけど、それ程でも無いにゃ」

「あら? それはおかしいわね」


 わたし達の会話を聞いていたアリシアさんも不思議そう。


「普通、何人もで魔力を注いだら、一番魔力を多く注いだ人が少しだけマシな味に感じるようになって、他の人は全員が不味く感じるようになる物なんだけど……」

「それって、わたしとマールとアリシアさんの三人の魔力がそれぞれに反発しあうからって事ですよね?」

「ええ、そうね。今回の場合は、一番魔力を注いだルミさんは比較的飲める味になって、マール君と私は飲むのを躊躇するような味になっちゃうはずなのよね」


 アリシアさんはレードルをグルグル回しながら何か考え込んでいるみたいだけど、わたしには思い当たる事があった。


 それは以前聞かされた、わたしとマールの魔力がソックリという話だ。

 魔導書を作るときに育てた導魔樹。その導魔樹も自分の魔力で育てなくちゃならないんだけど、最初は人面樹ことフェデリーニお爺ちゃんに林檎みたいな果実を貰う事から始まる。

 フェデリーニお爺ちゃんの枝に芽吹いた蕾に魔力を注ぐと林檎みたいな果実がなるんだけど、マールが魔力を注いだ果実はわたしからすると普通に美味しかったんだよね。


 自分自身の果実は甘さも酸味も無くて、全く味がしなかったのに。


 レンヴィーゴ様は、わたしとマールの魔力の質が似ていた事でそういう現象が起こると言っていた。


 それと同じ事がポーション素材である薬草やら人参やらにも起こっているんじゃないだろうか。


 わたしはマールの魔力が込められた素材の味が美味しいと感じるし、マールはわたしの魔力が込められた素材の味が美味しいと感じる。

 ほんのちょっとだけ混ざっているアリシアさんの魔力による影響で、導魔樹の林檎のような美味しさは無理なのかもしれないけど、それでも三分の二以上がわたしとマールの魔力だから、ほんのり苦みを感じるくらいで済んでしまうのではないか。


 わたしがそんな事を考えている間にもアリシアさんの作業は進む。

 フツフツとわいてきた|灰汁≪アク≫をレードルで掬って用意されていた小さな容器へ移すという作業を何度も繰り返す。

 灰汁が出なくなったら火から降ろし、次の工程に移る前に粗熱を取る。まぁ、放置するだけみたいだけど。


「これで、ある程度冷めたらカスを濾して、小瓶に移し替えたら完成ね」

「お疲れ様でした」

「ありがとう。それじゃ粗熱を取る間、ちょっと休憩してましょうか」


 そう言ってアリシアさんがエプロンを外そうとした所で、部屋の外が賑やかになったのが聞こえてきた。

 悲鳴のような声じゃなく、歓声が上がっているような感じ。


 多分、魔の森へ向かった人たちが無事に帰ってきたんだね。


「……無事に帰ってきたみたいね」

「そうみたいですね」


 思わず顔を見合わせ苦笑する。


 ポーション作りはギリギリ間に合った。

 だけど、今すぐ必要って事にはならなかったみたいだ。まぁ、ポーションは無駄になるわけじゃ無いからね。


 それより、誰も大きな怪我をしなかったみたいで良かったよ、うん。

ポーションという名の野菜ジュース。ポーションじゃなくても健康に良さそうです。

私も、コーヒーばかりじゃなく、こういうのを飲めばいいのに・・・(*'ω'*)

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