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ポーション作りのお手伝い 3

 大怪我をしているかもしれないレンヴィーゴ様やスタンリー様、領民の人たちの為にポーション作りを手伝う事に立候補したわたし。


 薬師であるアリシアさんは、チョット困惑気味で助けを求めるようにシャルロット様の方を見る。

 その視線に気が付いて苦笑を浮かべるシャルロット様。


「ポーションを作るに際して、どの工程で時間や手間がかかるのか私は知らないし、ルミちゃんが役に立てるのかどうかは分からないけれど……手伝わせてみたらどうかしら? 本人にやる気があるみたいだし」

「時間も手間もかかるのは間違いないんですが、一番は魔力が必要なので……」


 申し訳なさそうに、此方を|窺≪うかが≫うように視線を向けてくるアリシアさん。

 アリシアさんからすれば、せっかく手伝いを申し出てくれたけれど、魔力を持たなければ役に立たないとは言いづらいのかもしれない。

 傷つけないように配慮してくれたんだろうね。


 この世界では、実用レベルの魔力を持つメディロイドは少ないらしいからね。実際に魔法を使えるレベルの魔力を持つのは百人に一人、魔法使いと名乗れるレベルの人は、その中の百人に一人くらいでしかないらしい。


 ポーション作りにどの程度の魔力が必要なのかは分からないけど、作れる人が少ないという事はそれなりの魔力量が必要なはずだ。

 

 だけど、無駄に魔力が多いわたしには得意なはずの分野だ。今までほとんど活用できてないけど!


「魔力だったらあります!」


 思わず声を上げてしまう。


「あらまぁ。本当に? どのくらいの魔力量があるのかは分かる?」

「あー、えっと具体的には分からないですけど……」


 以前、レンヴィーゴ様にわたしの魔力量はかなり多いって言われた事がある。具体的には、宮廷魔術師にもなれるくらいのレベルなんだそうな。

 でも、ゲームみたいに数字で定量的に分かってるわけじゃ無いんだよね。魔力の測定方法が水晶玉の光り方とか、試液の色の変わり具合で判断するとかだったし。


「んん~……、それじゃちょっとお手伝いしてもらいましょうか」


 アリシアさん。あんまり期待してないみたいな感じ。ちょっと困ったような笑顔だ。


「それじゃアリシア。早速、ポーション作りに取り掛かってもらえる?」

「はい、シャルロット様。それじゃ行きましょうか……えっと、ルミさんだったわよね?」

「はい。あの、マール……この子も連れてって良いですか?」

「大人しくしていてくれるなら大丈夫だけど……」

「大丈夫です。マールは良い子ですから」


 わたしはにっこり笑って答える。


 アリシアさんから見ると、マールがどういう子なのかは分からないから心配なんだろうと思う。

 薬師ってくらいだから、もしかしたらヒトや動物にとって危険な薬品とかもあるかもしれない。心配になるのは当然だ。


 でも、それについては大丈夫。

 マールって、初めての場所とか知らない人の前だと、まさに『借りてきた猫』状態だからね。

 スペンサー家のお屋敷でなら、もうずいぶん慣れてヤンチャぶりを発揮してるけど、初めての場所であるアリシアさんの仕事場ならば大人しくしているはずだ。


 それよりも、マールを独りで残していく方がわたしには心配だったりする。マール自身がイタズラとかをするとは思えないけど、子供達とかに囲まれてパニックになっちゃうかもしれないからだ。


 マールにはわたし以外の人とも安心して付き合って欲しいとは思うけど、その為に今みたいな緊急事態が発生している時に無理をさせるつもりも無い。


 そんなのは平穏な時にゆっくり慣れて行ってくれれば良いのだ。


「そう? それなら行きましょうか。興奮して暴れたりしない様にきちんと抱っこしててね?」


 そんなわけで、シャルロット様に軽く頭を下げてから、アリシアさんに連れられて場所を移動する。

 マールは抱っこされたまま、わたしの胸に顔をうずめて大人しくしている感じだ。


 移動した先は、神殿の中。ポリーちゃんが休んでいる小部屋よりも、さらに奥にある部屋だった。

 着ている服とかは、他の領民の皆さんとそう変わらない感じだけど、やっぱりアリシアさんって神殿の関係者なんだね。


 装飾は無いけど頑丈そうな扉。アリシアさんがカチャリカチャリと鍵を開ける。

 そこは、どこかレンヴィーゴ様の部屋に似た印象のある部屋だった。

 全ての壁面に収納棚が置かれてて、その棚の中には植物の種子の様なものや、動物の内臓の様なもの、骨や角の様なもの、カラフルな色彩の液体が入った瓶に、何十冊もの本やら巻物、大小さまざまな調合器具らしき物などなどが所狭しと並べられている。

 でも、決して乱雑って感じじゃなく、きちんと整理整頓されてる感じだ。


 そういえば、レンヴィーゴ様はアリシアさんの事を師匠って呼んでたよね。

 アリシアさんの影響を受けたから、部屋の様子も似てるのかな。


 わたしがぼんやりそんな事を考えながら部屋の中を見回している内に、アリシアさんは部屋の片隅に置かれていたプランターのような鉢植えをいくつかテーブルに並べていった。

 鉢の数は四つ。それぞれの鉢には、それぞれ違う植物が植えられているみたいでどれも形が違う。


「ルミさんはポーション作りの経験は……無いのよね?」

「はい。基礎的な知識も全くありません。それでもお手伝いできることはありますか?」

「それはルミさん次第ね。具体的には、ルミさんの魔力量次第。とりあえず、難しい事は私がやるわね。今は教えたり説明したりとかは無しで、とにかくポーションを作ることを優先しないとですものね」


 それに対しては同意だ。

 わたしに対して説明やら教育やらをしている暇があるなら、一分一秒でも早くポーションを作るべきだ。

 スタンリー様はわたしがポーション作りをするようになる事を望んでいるみたいだけど、その時はその時で、改めて教えてもらえば良い。


「それじゃ、まずはこの植物を育てる所から始めるわね。えっとルミさんは導魔樹ってご存じ?」

「魔導書を得るために育てる木の事ですよね? わたしもマールも育てた事があります」


 わたしがそう答えると、アリシアさんはちょっと驚いたような表情をしたけれど、そぐに優しそうな笑顔に戻る。


「そう、ふたりとも魔法使いなのね。それじゃ魔力の流し方は分かるわね?」

「はい、任せてください」


 導魔樹っていうのは、魔法使いには必須ともいえる魔導書を手に入れる為に育てなければならない不思議植物だ。

 スペンサー邸の中庭に生えている人面樹ことフェデリーニお爺ちゃんから貰った果実の種子から成長した木の事で、その導魔樹から取れる果実が魔導書になる。


 枝の先に革表紙の本がなっているという、なんともファンタジーな光景を見ることが出来るんだよね。


「じゃぁ、この鉢の草に魔力を注いでみるから、最初は私のやってる所をよく見ててね」


 そう言いながら、鉢植えに魔力を注ぎ始めるアリシアさん。

 アリシアさんが魔力を流すと、鉢の中のほうれん草のような植物が見る見るうちにその背を伸ばし、葉っぱを広げていく。

 最初は5センチくらいだったのに、ほんの数十秒で7センチくらいにまで伸びたよ!


 おひたしとか胡麻和えにしたら美味しいかも。食べたら怒られちゃいそうだけど。


 アリシアさんのやり方を見た限り、どうやら導魔樹に魔力を注いだ時と同じ感じで良いみたいだ。


 アリシアさんは、ちょっと顔いろが悪くなっちゃった?

 もしかしたら、緊急事態って事で出来るだけ多く魔力を流そうとしたのかも。


「ルミさんはこっちの鉢に魔力を注いでみてくれるかしら? あ、でもあんまり無理しなくても大丈夫よ? 魔力の注ぎ過ぎで枯渇して倒れちゃったら大変だもの」


 アリシアさんは、おそらく枯渇ギリギリの所まで魔力を使って辛い筈なのに、それでも笑顔を浮かべる。

 今は少しでも魔力を注いで、出来るだけ早くポーションを作らなくちゃいけない状況だ。

 それでも、わたしの魔力枯渇まで心配してくれるんだから、優しい人なんだろうね。


 はじめて会った時に子供達に囲まれてたけど、子供達にもアリシアさんが優しい人だって分かっているから懐いてたんだろう、きっと。


 わたしは抱っこしていたマールを地面に下ろして、自分の前に置かれた鉢に向き直る。

 鉢の中にはアリシアさんの鉢にあるのとは見た目が違う植物。

 数本の茎が5センチくらいにまで伸びてて、大根とかカブとかの葉っぱみたいにも見えるけど……正体不明。

 少なくとも、わたしは食べた事がないはずだ。そもそも食用出来るものなのかどうかさえも分からないけど。


「それじゃ、いきます」

「ちょっとだけでも大丈夫だからね? 無理はしないでね?」


 心配そうに声を掛けてくるアリシアさんに、一度にっこりと笑みを向けてから、鉢の中の葉っぱの上に手をかざした。


 軽く目を閉じて、身体の中の魔力を意識。身体中から集めた魔力をお腹のあたりに集めてからゆっくりと右手へ。右手の手のひらから、そのまま葉っぱの方へと流す。


 時間にして、1分くらいかな?


「ルミさん! もう十分よ!」


 アリシアさんの慌てたような声で、わたしは魔力を止め、ゆっくりと目を見開く。


 魔力を注ぐ前には5センチほどしかなかった鉢の中の植物は、15センチほどにまで背を伸ばし、小さな葉っぱを一杯に広げていた。

2020年2月22日にこの作品を投稿しはじめてから丸二年が経ちました。

せっかくなので、22時22分に投稿しておきます ヽ(*'ω'*)ノ


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