ポーション作りのお手伝い 1
「あの! エルミーユ様!」
「なにかしら?」
ポーションの最後の一本が既に使われてしまっている。
その事を思い出したわたしは、慌ててシャルロット様に報告する。
エルミーユ様の話によれば、ポーションを作るのにはそれなりの時間が必要だって話だった。
スペンサー領で唯一の薬師であるアリシアさんがひと月に作れるポーションの量はかなり少なくて、五本作れれば良い方って言っていたはずだ。
そして、できたポーションを領主様の所に届けて、管理しているという話だった。
その届けられたポーションはすでに使い切ってしまっている。
「その、森に向かった人たちが、もし魔物との戦闘になったとして怪我をしてしまった場合……、ポーションが残っていないかもしれません」
「あら? もう使い切っちゃったの? アリシアの……あ、アリシアって分かる? 薬師の人なんだけど。そのアリシアの方で少しは在庫を持ってないかしら?」
「えっと……ポーションって一本一本作っていくものなんですか?」
モノづくりって、大きくふたつの作成方法があるよね。
たとえば月産五本だとして、一本が完成したら二本目、二本目が終わったら三本目を作るっていうやり方。これには一本目の二工程目と二本目の一工程目を平行して進めていくパターンもこれに含まれるかな。
このやり方は、設備の都合とかで選ばれる事がある。
もう一つは、工程ごとに五本全部を一気に進めていくパターン。こちらの場合は5本分の材料を一気に加工する事になるので、出来上がるのも同時って事になる。
前者だった場合は、まだ納品されていないだけですでに何本か完成しているポーションがあるかもしれない。
だけど後者だった場合は、途中の工程の物はあるけど完成品は一つもないって事になっちゃうんだよね。
「私もポーション作りは詳しくは知らないけど……。聞いてみましょうか。もしアリシアの所に何本かでもあるなら用意しておいてもらいましょう」
シャルロット様はそう言って、辺りをキョロキョロと見回す。アリシアさんを探しているみたいだ。
「アリシアさんなら、さっきまでポリーちゃんの所に居たんですけど……」
「あら。アリシアの事は知ってるのね。それで、ポリーはどこに?」
「ポリーちゃんは、ポーションを飲んでグッタリしちゃったので神殿の中で休ませてます。エルミーユ様も一緒です」
「神殿の中って事は、巡礼者用の小部屋かしら。まだそこに居るかもしれないから行ってみましょ」
そう言って神殿の玄関に向かうシャルロット様は、いつもよりも早足の様な気がする。普段はお上品な感じでゆったりと歩いている印象なんだけど。
そんなシャルロット様をわたしも慌てて追いかける。今度はマールの事を放置する事が無いようにしっかり抱っこしてるよ。
「レンとスタンが一緒だから、怪我をするような事は無いとは思うのだけどね」
シャルロット様は歩きながら振り返りもせずに言う。
わたしに話しかけているようで、自分自身に言い聞かせているみたいだ。
レンヴィーゴ様もスタンリー様も戦闘能力はムチャクチャ高いっていう話は聞いてるけど、それでもやっぱり心配なんだろうね。
もちろん、わたしだって心配だ。
まだ出会ってひと月も経っていないけど、レンヴィーゴ様もスタンリー様もわたしみたいな得体の知れない小娘に対して良くしてくれてる。
衣食住を提供してくれるだけじゃなく、この世界の事を教えてくれたり、魔法を教えてくれたり。
一時的にとはいえ、家族に嘘までついて私を保護してくれようとしてくれた二人だ。
もちろん、最初の時に話し合ったように、わたしの現代日本の知識が目当てではあると思うんだけど、それを催促してくるような事も無い。
本当だったら、すぐにでも知識の提供を求められても不思議じゃないし、その権利もあるはずなのに。
だけど、わたしはまだ何の知識も提供できてない。恩返しが出来ていない状態だ。
これからたとえ僅かでも恩返しをしていけるように、まずは無事に帰って来てもらいたい。
だけど、正体不明の相手と戦闘なんて事になれば、何が起こるか分からない。
それでもし怪我とかしちゃったら。
薬師のアリシアさんの所に一本でもポーションが有りますように──
そう祈りながらシャルロット様の後ろをついて歩いていくと、すぐにポリーちゃん達が居る小部屋に辿り着いた。
相変わらず、ぐったりした様子のポリーちゃん。そのポリーちゃんの小さな手を心配そうに握るエルミーユ様。
その横にポリーちゃんのじっとりと浮かんだ汗を濡れ布で拭っているアリシアさんが居た。
「アリシア、ここに居たのね」
「あら? シャルロット様、どういたしましたか?」
「とりあえず、ポリーは大丈夫なの?」
心配そうにポリーちゃんの様子を覗き込むシャルロット様。レンヴィーゴ様やスタンリー様の事も心配だけど、目の前のポリーちゃんの事も気になっちゃうよね。
ポーションの副反応で調子が悪くなる人が居るって話は聞いてるし、その副反応で後遺症が残る様な事は無いらしいけど、これだけ具合が悪そうにしていると、やっぱり不安になってくる。
「ええ、ええ。大丈夫ですよ。今は辛いでしょうけど、明日の朝になればすっかり元通りになりますよ」
アリシアさんは、流石に薬師なだけあってこういう人の事も多く見てるんだろうね。あんまり心配して無さそうだ。
「そう、それなら良かったわ。それじゃもう一つ聞かせて欲しいんだけど……。今、アリシアの所にはポーションが幾つあるかしら?」
「ポーションですか?」
「ええ。この騒ぎは訓練場のあたりの森で、正体不明の魔物が出たかららしいのよ。それで、今はウチのレンとスタンが何人か連れて対応してるみたいなんだけど、万が一の為にポーションを用意しておかなきゃならないでしょ? だけど、お屋敷にはもうポーションが残って無いのよね」
シャルロット様の説明を聞いて、大きく目を見開いたアリシアさん。
「あんれまぁ~、シャルロット様っ! まだ、ポーション作成は途中の段階なんで一本も出来上がって無いですよっ」
アリシアさんの言葉は、予想していた悪い方の答えだった。
ギリギリセーフ!
腰痛に効くポーションが欲しい今日この頃 (´;ω;`)ウゥゥ




