異世界人との遭遇 5
「この世界の人間ではない……? えっと、それはつまり、『迷い人』って事ですか?」
呆然としたような表情で、そう問い掛けてくるレンヴィーゴ様。
さすがに、「この世界の人間じゃない」なんてカミングアウトされたら、驚くよね。
もしわたしが日本にいる時に、そんな事を言われたら「厨二病は早めに治療しようね」って生温かい目で見ちゃいそうだ。
「『迷い人』っていうのが何なのか分かりません。ですけど、少なくともわたしの住んでた世界では、さっき見せていただいたような魔法なんて有りませんでしたし、傷が数秒で治るような薬なんてのも有りませんでした」
普通に考えれば、やっぱり『魔法』と『ポーション』だよねぇ。
どんどんファンタジー色が強くなっていく気がするよ。やっぱり、ゴブリンとかエルフとかドワーフとかドラゴンとかも居るのかな。
「あれは『言の葉の蛇』の魔法ですね」
「『言の葉の蛇』ですか……?」
「はい。今まで言葉の通じない相手というものに会った事が無かったので、使ったのは初めてでしたが、きちんと通じるようになって良かったです」
受験生に大人気になりそうな魔法だね。魔法で言葉が覚えられるなら、英語の勉強とか簡単になるもん。
「聞いていた話だと、魔法の力を使っても言葉を覚えるのはとても難しいはずなんですけど、そこまで淀みなく言葉が出て来るって事は、ルミさんは魔法との親和性が高いのかもしれないですね」
ふむふむ。やっぱり言葉を覚えるってのは、魔法の力があっても簡単じゃないらしい。あの魔法の力で英語とかフランス語とかイタリア語とか色々な言語が喋れるようになれば、将来、仕事に困る事は無かったかもしれないのに。
まぁ、わたしの夢はぬいぐるみ作家で、通訳さんとかじゃないけど。
いや、それよりも気になる単語があったよ?
魔法との親和性が高いとかナントカ。それって、わたしにも魔法が使えるってことなのかな?
魔法で変身とかできるかな? 身長伸びたり、ナイスバディになったり、髪色変わったり、肉弾戦でバトル出来る様になったりとかとか!
まぁ、まだわたしが魔法を使えるのかさえ分からないんだけどね。
魔法を使うのには、魔法の勉強とかしないとダメなのかなぁ?
「ルミさんの国だと、『言の葉の蛇』の魔法は無かったのですか? たしかにこの辺りの国でも、『言の葉の蛇』を呼び出せる魔法使いは少ないとは思いますが……」
「わたしが住んでいたのは、日本という国で、先程の『言の葉の蛇』というのに限らず、魔法というものが全く存在してませんでした」
今の時点では、嘘は言ってないはず。
「魔法が全く存在しない? それでは、剣とか弓とかだけで魔物と戦うのですか? そんなの命がいくつあっても足りないのでは?」
「魔法というのは、おとぎ話とか作り話の中にあるだけです」
びっくりした顔のレンヴィーゴ様に対して、わたしは「やっぱり魔物とか居るんだ……」なんて思ってしまう。
この世界、魔法はあるけど魔物は居ませんとは、ならないよね。
たぶん、わたしに襲いかかってきた犬頭のコボルトみたいなやつも、魔物なんだろうな。
「魔物っていうのが、どういうものなのかハッキリとは分からないですけど、クマとかイノシシとかは罠とかで捕まえる事が多いみたいです」
「クマもイノシシも魔物じゃなくて、動物ですよ……」
「あ……、やっぱり動物と魔物は違うんだ……」
レンヴィーゴ様の反応を見る限り、やっぱりここは異世界である可能性が高いように思う。もしかしたら、同じ世界の違う銀河系とかかもしれないけど、そこまでいったら、異世界と何が違うの? って話だ。
わたしは、「ん~~」と考える。
わたしの頭の中では、ここは、わたしが住んでた世界とは異なる世界、いわゆる”異世界”という考えに決まりつつある。
見たこともない植物、聞いたこともない言語、犬頭の亜人に、突然言葉が理解できるようになった魔法や数秒で刀傷が癒えた飲み薬。これだけでも、ここがわたしが居た世界じゃないと分かる。
そうなると、次に出てくる問題は、無事に元の世界に戻れるのかというものだ。
戻る方法があるのか分かんないし、方法があったとして、わたしに可能かどうかもわかんない。
そして、戻る事が可能か否かはさておき、当分の間は、この世界で生きて、生活していくしか無い。
──そのためには、やるべき事がある。
ここが、異世界の何処かだったとして、わたしには何の知識も無い。
お陰様で、コボルトに斬られた傷は治ったし、言葉は理解出来るようになったけど、このあたりの習慣も知らないし、常識も分からない。
そして、わたしは元の世界に戻りたい。
だけど、元の世界に戻る方法を探すにしても、まずは、この世界の事を知らなくちゃ無理だと思う。
その辺の村や町をブラブラ歩いてるだけで見つかるようなものではないと思うし、探している間だって、お腹は減る。寝る場所だって必要。他人と会うためにも、それなりの服とかも必要だろうし、身を守る術も無ければ困るだろう。
わたしがこの世界でやるべき事。それは、この世界のことを知ることだ。
そしてその為には、この世界で生きていける地盤が必要で、その地盤づくりのためには、わたしが”この世界の人間じゃないという事情”を理解してくれる協力者が必要になる。
それも、数は少ない方が良い。
なぜなら、わたしが異世界人であることが周囲に知れ渡ると、どんな災厄がもたらされるか分からないから。
レンヴィーゴ様の服装や、カバン・小物なんかを見る限り、ここはそれ程、科学が発展しているとは思えない。
実際にはどの程度か分からないし、わたしが知ってる地球の歴史的な発展具合なんてのも、詳細はわからない。
ライトノベルとか投稿サイトにあるような中世ヨーロッパ風なのかな? とは思うけど、ラノベや投稿作品とかが史実とも言えないし。
そもそも、魔物が居て、更に魔法なんてものがある世界で、地球と同じように科学が発展するはずもない。特に、医学薬学の分野なんて、ポーションで解決できるなら誰も研究しないんじゃないのかな?
……っと、考えがそれた。
とりあえず、ここが中世から近世くらいの文化レベルだったとした場合、異世界の人間なんて異質な存在に、どんな迫害をしてくるか分かったもんじゃない。
地球の中世ヨーロッパで有名な魔女狩りなんてのは、未知への恐怖からくる集団ヒステリーみたいなものだったという説を読んだ記憶がある。
ここが同程度の文化レベルだとしたら、わたしやマールという異世界の存在は、”魔女狩り”の対象になっちゃうんじゃないかな?
そう考えれば、この世界に馴染むまでの協力者は必要だけど、あまり多くの人に知れ渡ってしまうのも怖いという事になる。
そんで、少数の誰かに頼らなければならないとするならば、誰にするかという問題になるわけだけど……。
目の前に座るレンヴィーゴ様は、何かを探るようにわたし達の方を見つめ、何かを考え込むような表情を見せている。
「……ルミさんが本当に『迷い人』なのかどうか、僕には判断出来ません。ですが、もし本当に『迷い人』であるなら、いえ、仮に『迷い人』でなくとも、スペンサー領を訪れた以上、客人として持て成させていただきたいと思います」
レンヴィーゴ様は何やら決意したような表情で、そう宣言してくれた。
残念ながら、魔法がある世界でも変身してプ〇キュアとかにはなれません。
ちなみに私、アラモード以降しか知らないです。
そんで、一番好きなのはエールだったりします。




