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7話 彼は彼女に近づきたい







「……い、今なんて言った……!?」




 驚愕の表情を浮かべながら、春道が俺に聞き返してくる。


 大槻さんの俺の監視が始まって、いくらか時間の経ったある日。いつものように、昼休みに昼食を食べているその最中。


 俺のある一言を聞いた瞬間、春道は驚きの表情を浮かべると、突然立ち上がって俺の肩を握りしめ、詰め寄って問いかけてきたのだ。


 明らかに無駄に困惑している目の前の級友に少々めんどくささを感じながら、もう一度、同じ言葉を口にした。




「……女の子と仲良くなる方法が知りたいんだが」




 俺が再びそういった途端に、春道は糸が切れた人形のごとく自分の椅子に崩れ落ちた。




「ゆ、勇志が……恋愛の話を……!?」


「してない」




 ……やはり、この遊び人は勘違いしているらしい。




「してるだろ! 高校生が女の子と仲良くなりたいって言ったら恋愛以外ないだろ!?」


「ないことはないだろ。あとちょっと静かにしたほうがいいぞ」




 視線でやんわりとクラス中から変な目で見られていることを知らせる。周囲の視線に気づいた春道は、いったん落ち着いて椅子にきちんと座りなおした。


 それを見届けながら、ちらとクラスを見渡す。大槻さんの姿はない。教室の外に出ていったのを見てから話し始めたので、当然といえば当然なのだが。


 姿勢を一度整えた春道が改めて(今度は小さな声で)問い詰めてくる。




「じゃあどういう意味なんだよ! 女の子と仲良くなりたいって!」


「そうだそうだー」


「だからそれはだな……って、なにしてんだ青山」




 気が付くと、青山が俺の後ろに立ってやんややんやとヤジを飛ばしていた。振り返って問いかけると、いたずらっ子のような笑顔を浮かべる。




「いやあ、なんか勇志らしくない話が聞こえたから気になっちゃってさ」


「そんなに面白いものでもないぞ」


「まあまあ、アタシのことは気にしないで、ささっ、桜井君続けてどうぞ~」


「ということで勇志殿、続きをどうぞどうぞ」




 青山は春道の方によって、その辺の椅子を一つ取り座り込む。これは、最後まで聞くつもりだろう。




「……多分、お前らが期待しているより何段階か前の話だぞ」




 期待と興奮とあと何か他の感情の詰まっているであろう視線を受けながら、俺は相談内容をできるだけ簡潔に話した。







***







「……つまり、初対面から警戒されてる女の子の警戒を解きたい、ってこと?」


「大体あってる」




 俺の説明を、青山が簡潔にまとめてくれた。


 ちなみに、ここでの警戒されてる女の子というのはもちろん大槻さんのことだ。さすがに名前を出してしまうと細かな経緯にも触れざるを得ないので、ぼかしながら状況を2人に説明した。


 図書館で三度話してから何日か経ったが、特に状況は変わっていない。相変わらず大槻さんは俺のことを監視している。俺はそれに気づきながら、気にしないように過ごしている。


 が、このままこんな日々を続けても彼女がこちらを信頼してくれるかはわからない。どうにか信頼を勝ち取るためには、何か行動しなくてはならないと思ったのだ。


 ただ、俺はそういう対人関係に関しては不器用だと自覚している。そこで、経験の豊富そうな春道にアドバイスを求めたというわけだ。




「……思ったより真面目な話だったな……」




 当の本人は不服そうであるが。




「悪かったな」


「まあ、勇志らしくて安心したよ。……ちなみにその子が好きだったりは……」


「しない」




 どうしてもそっち方面につなげたいらしい。


 が、正直色恋沙汰に関しては昔の経験的にこりごりなところもあるので、おそらくそういう話をすることはない。


 と、何気なく青山の方を見ると、何やら晴れやかな笑顔で何かつぶやいている。




「……った」


「青山、何か言ったか?」


「ん、別にー? それより、勇志の話でしょ?」




 どうにもはぐらかされたような気もするが……ともかく、本筋に戻ろうと春道の方に向き直る。


 春道はといえば、腕を組んで難しそうな顔をしていた。




「うーん……つってもなあ、警戒されているなら無理に距離を詰めようとするのもなあ……」


「やっぱり難しいか」


「まあ簡単じゃあないよね~」




 急に距離感を変えようとするのが悪手であろうことは、俺も何となくは理解している。




「そこまで強硬策じゃなくてもいい。少しずつでも、関係性を変えていく方法が知りたいんだ」


「んー、そうだなあ……」




 春道はしばし悩んであと、昼飯のパンを一口つまんでから再び喋りだす。




「とりあえず、警戒されてるっていうなら、まず勇志自身の印象を変えないといけないよな」


「それはそうだね~」


「けど、勇志が自発的になんかしても逆効果だろうから、ほかの人を介して『勇志は悪い奴じゃないですよー』って伝えてもらうのが一番いいんじゃないか」


「ほかの人を介してか……」




 一理ある意見だった。大槻さんと直接コンタクトを取るのではなく、第3者を通して俺のことを知ってもらうことで、警戒されないようにこっちの信頼を得ることができるかもしれない。


 問題があるとすれば……




「共通の友達とかいないか?」


「……残念ながら」


「……マジかー……」




 俺の返答に、春道はたまらずに頭を抱える。


 大槻さんはあまり教室で社交的なほうではない。クラスでも何人かの女子とたまに話すのを見かける程度だ。さらに言えば俺自身もそこまで広く人間関係を持つ方でもない。


 残念ながら、あまりに頼りになる方法ではなさそうだ。


再び悩みだしてしまった春道を横目に、今度は青山に聞いてみた。




「青山は、何かいいアイデアはないか?」


「アタシ? ん~そうだね~」




 少し間の抜けた声を出しながら少し考え込んだかと思うと、ふっとほほ笑んでこう言った。




「当たって砕けろでいいんじゃない?」


「え?」


「勇志は、あれこれ考えるより、素直に行っちゃうほうが早いんじゃないかなって」




 朗らかな笑顔でそういう。


 横で聞いていた春道は、青山の言葉にうなずき、同意を示す。




「ま、確かに。勇志はその辺不器用そうだしな」


「悪かったな……」


「褒めてんだよ」




 そういって、春道もまたけらけら笑う。


 二人してこちらを見て笑うものだから、妙に居心地が悪い。


 二人の視線から逃れるように教室の後ろの方を見ると、大槻さんがちょうど教室に戻ってくるところだった。そうなると、この話はここまでだ。


 再び、目の前の2人に向き直る。




「……とりあえず、参考になった。ありがとう2人とも」


「ん? もういいのか?」


「昼休みもあと少しだしな。とりあえず飯だけは食おう」


「おっと、確かにもう時間がねえな」




 なんだかんだ話し込んでいるうちに昼休みも残り10分を切っていた。けれど、俺も春道もまだ昼食の途中だった。


 春道は慌ててパンを口の中に放り込みだす。その姿を横でぽけーっと眺めている青山に声をかけた。




「青山はもう食べたのか?」


「うん。まあでも、そろそろ次の授業の準備しとかないとだし、私は戻るね」




 そういって、自分の席に戻ろうと俺の横を通り過ぎようしたその時、急に身をかがめると、俺の耳元に顔を近づけてきた。


 そして、周りの人に聞こえないような小さな声で、こういった。




「頑張ってね」




 それだけ言って、右手を小さく振りながら自分の席に戻っていった。


 素直な彼女の励ましは、俺自身にとってもうれしい言葉だった。ああいうことを屈託なく言える彼女が、時々羨ましい。


 楽しそうにも土井いてく青山を見送った後、再び春道の方を向くと、何故かにやにやした目つきでこちらを見つめている。




「どうした?」


「春だなあって思ってね」


「今は9月だぞ」


「そうじゃねえって」


「じゃあなんだよ」


「別に?」




 そうやって、何でもないようなふりをしながらもこちらを見て意地悪く笑う春道を少々鬱陶しく思いながら俺は、大槻さんとどんなふうに関係を築いていこうかを、ぼんやりを考え始めていた。








次回、3日夜

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