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11.5話 私はアイツを信じない

今回はなんと、大槻さん目線!






 朝は弱い方だった。


 本を読んだり、ネットサーフィンをしたり、アニメを一気に見たり……そんな風に夜を過ごしていたら寝るのが深夜になることが多くなって、結果として朝寝坊してしまう。そんなことを毎日のように繰り返していた。おかげさまで登校するのはいつも始業ギリギリ。


 けれど、それが一転して、むしろ朝一番に登校するようになったのは、つい最近のこと。


 原因は……まあ、明確で……。


 そんなことを考えながら、自分の机で何もするわけでもなくぽけーっとしていると、教室のドアが開いた。反射的にそちらに目線を寄せる。それが、目当ての人かどうかを瞬時に見極めて……




(あっ、来たわね)




「おはよう勇志」


「お、おっす勇志。なあ、ちょっと相談があるんだが……」




 登校してきたその生徒に気付いたクラスの男子数名が挨拶する。そして、何やら下手にでて頼み込もうとするクラスメイトの姿勢に思うところがあるのか、私の目的の――監視対象の男子生徒、古道 勇志は、少し嫌そうな顔をしながら応えた。




「……おはよう。で、春道。頼みってなんだ?」


「ああ、これは真面目なお話なんだが……今日の提出の課題を」


「自分でやれ」


「早いなっ!?」


「お前の言いたいことは大体察しが付く。反省の気配もなさそうだし」


「いや待て待て待て情状酌量の余地をだな……」




 アイツは、特に仲のいい男子(名前は忘れた)が課題を見せてもらおうとしているのを厳しく諫めている。アイツのことを監視するようになってから、定期的に見る光景だ。


 課題を写してすませようとする男子を良しとしないアイツは、いつも言い訳をぴしりと遮って、しっかり叱る。その姿はクラスメイトというか、ちょっとした先生。




「ったく、よくやるわねアイツも……」




 ここ最近、アイツのことをよく見るようになって気づいたことがいくつがある。


 とにかく、バカが付くほど真面目だということとか。突然、聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなことを突然真顔で言うことだとか。変なところで不器用そうなところとか。


 ちょっと堅物そうな割に、意外と優しいところ、とか。




「……」




 クラスの男子と何やら談笑しているアイツを見つめる。感情の起伏は同年代の男子と比べるとずいぶん少ないけど、落ち着いたその表情は穏やかそうでもあって。


 最初にあったころは、語調が強いし、なんか表情が険しいこともあったからちょっと怖い奴なのかとも思ってた。でも今考えてみると、あの表情はよくわからないことをわめく私への困惑とか、そういうのだったのだろう。


 多分、本当にいい奴なんだろう。そして、裏表とかも、あんまりないタイプ。最近よく放課後に話すから、わかってきた。


 私はちょっと突き放すようなことを言っても、呆れたりはしても嫌悪感を向けたりはしないし、私は小説のことでしゃべりすぎたって思った時でも、すごく楽しそうに頷いている。


 最初に読んだという学園ラブコメの方も、その次に読んだSFの方も、「面白かった」って笑って言って、図書館の隅で2人でずっと作品について話した。


 あんまり、そういう経験がなかったから。


 楽しかった。




「……!」




 ぼんやりと考えているうちに、思考がよくないほうへ行っているのに気づいて、私は反射的に椅子から立ち上がった。


 ガタリと音が鳴り、それを聞いた周囲のクラスメイトが何人か不思議そうに私の方に視線を向けている。


 その視線を振り払うように、私は小走りで教室を飛び出した。いったん教室から離れたくて、とりあえず階段の方まで向かう。




「……飲み物でも買おうかな」




 特に用があったわけじゃないけど、このまますぐに教室に戻るのも変だろうと思って、別にすぐに飲みたいわけでもない飲み物を買うために自販機を目指す。


 とぼとぼ歩きながら、頭の中ではまたアイツのことが思い浮かぶ。




『大槻さんの話が面白いからな。早く読んでみたくなったよ』




 なんとなく、わかる。


 多分、アイツはひどい奴じゃない。


 私のことを晒しあげたり、馬鹿にしたりするようなタイプじゃない。


 心が広くて、ちゃんと人と向き合える、やさしい奴。そうじゃなきゃ、私みたいな変な奴にあんなに良くしちゃくれない。信じていい奴、そう、思い始めている。




 それでも、こんな風に監視を続けているのは……多分、期待しちゃっているから。




 アイツは今、渡した3冊目の本――異世界転生物で、私が特に好きなやつを、読んでいるらしい。


 ほかの2冊がアイツの好みを聞いて渡したのに対して、あの1冊だけは、私の趣味で貸すことにした本だった。




「……やっぱ、渡さなきゃよかったかな」




 けど、貸してからずっとそんなことばかり思ってしまう。


 だって、あれを貸したのは、ただの私のわがままだから。




 色々考えているうちに自販機についたので、何を買おうかぼんやり考えているうちにふと気づく。


 財布、持ってきてない。




「……アホか、私は」




 思わずため息を吐いた。何をしにここに来たのか。こんなことなら辺に周りの目を気にせず、さっさと戻ればよかったかもしれない。


 仕方ない、戻ろう。踵を返し、階段を上がって1年の教室があるフロアに戻る。




「おはよう、大槻さん」




 瞬間、突然声をかけられドキリとした。


 それは、今さっきまで頭の中に浮かべていた顔がいきなり現れたという驚きでもあった。




「……突然声掛けんじゃないわよ、怖いじゃないの」


「……それは俺が悪いのか?」




 私の反応に、呆れ顔を浮かべる。けど、笑ってもいて、なんだか「しょうがない奴だ」とでもいいたけだ。


 そんな顔されては、こっちが意地を張るのもばからしくなる。




「……おはよう。で、何か用?」


「ああ、まあ大したことじゃないが、さっき急に教室の外に出ていったから」


「なに、見てたの」


「目に入っただけだ。大丈夫だったのか?」


「……別に、何ともないわよ」




 アホらしい顛末を話すのも気が引けるので、適当にはぐらかす。コイツもそこまで深く追求するつもりはないようだ。




「ん、そうか。それならいい」


「じゃ、私は行くわよ」


「あ、その前に一個だけ」




 そそくさとこの場を去ろうとした私を引き留め、アイツは楽しそうにこう言った。




「3冊目、まだ途中だが結構面白い。かなり楽しめてるよ」


「……!」




 ――コイツは、本当に――




「ふん、当たり前でしょ。あれは……私の、お気に入りの本なんだから」




 照れ隠しなのか、それとも、知ってほしいことがあってか、私は、そんなことを口にする。




「そうなのか。それは、最後まで楽しめそうだ」


「読み終わったら感謝しなさいよね。……それじゃね」


「ああ」




 にこやかにしているアイツがこれ以上言う前に離れたくて、私は顔を伏せながら教室に戻った。


 いつの間にか登校していたクラスメイトの女子に挨拶されたので適当に返しながら、自分の席に戻り、思わず突っ伏した。




「……ほんと、アイツは……」




 なんで、あんなことを言うのか。


 あんな、期待させるようなことを言うのか。




『大槻さんてさぁ、変だよねぇ』




 いやな記憶を思い出す。


 私は、変な奴。


 いろんなことが下手くそで、弱虫で、臆病者。


 夢ばっか見て、何にもできない変な奴。痛い奴。


 それでいいやって、いつか叶うかもしれない夢だけ見て、隅っこで一人のまま静かにしてようって、そう思ってるのに。




『3冊目、まだ途中だが結構面白い。かなり楽しめてるよ』




 アイツが、そんなこと言うから。


 期待しちゃうんだ。


 アイツなら、私の想いを、ほんの少しだけでも理解してくれるんじゃないかって。




「そんなわけ、ないのに」




 私は、アイツを信じない。


 信じたら、きっとわがままを言ってしまうから。


 私の気持ち、わかってよって、そう、言ってしまうから。


 だから、私はアイツを信じない。








次回、ちょっと未定になります!

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